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第69話 美味い物には匂いアリ

伊藤先生による朝のホームルームが幕を下ろした。と、同時に俺は萌に突っかかる。ご存じかと思われますが私が頂いた人生初のラブレターが今、大魔王の手によって危機に瀕しているのです。


教室に入ってから何度も返してくださいとお願いしても『ヤダ』しか言わない彼女に困った俺は、ラリアットでも喰らわせて怯んだスキに手紙を奪い返そうとか模索したけど、そんなことは考えるまでもなく無理。もう頼んで頼んで頼み込むしか方法はない!


「マジで頼むって!その手紙を書いてくれた子が可哀想じゃんか!」


「可哀想?」


「そうだよ!きっとその子は夜も眠らずに頑張って書いたわけよ。それをどうよ、俺じゃなくて萌が先に見たと知ったら悲しくて『もう恋なんてしないわ!』とかってなったらどうする!お前はその子の純情な気持ちを踏みにじれるか!?」


決まったよ俺!返事どうのは別としても、せっかく勇気を振り絞って書いてくれたのにこれじゃ申し訳ねぇだろ。


「…」


おっ、何か考え込んでるよ。ってか考えるヒマがあるなら返してくれないかねぇ。

頼むから返してぇと念を送る俺にやられたか、萌は鞄からヒョイとラブレターを取り出した。と思ったら返してくれない、ジッと『一条 太郎様』と書かれている字を見つめている。俺の名前に惚れるな、怖いから。


「これ、どう見ても女の字じゃない」


「え?」


いやいや、なかなか達筆じゃないですか。筆で書くなんて気合いの入り方が違うよ。


「殴り書きだし」


「ち、違うって。早くこの気持ちを伝えたくて焦ってただけだっつーに」


彼女の性格とか、名前すら知らないからはっきりとは断言できないけど、きっとそうに違いない。うん、そうだそうだ。


「不幸の手紙に500円」


「うるさいよ一郎さん!」


どうなっても不幸の手紙にしたいようですなキミは。ってかまたカーテンに巻かれてるよアイツ。何か悲しいことがあると巻かれるね。


「中見てみれば?」


おまっ高瀬いつの間に?!ってか話聞いてたのね。


「別に興味ないから。恭子、行こう」


「え?気にならないの?」


「うん」


ちょっとコラァ!気にならないなら何で手紙を強奪したのよ。矛盾もいいところじゃねぇかよ。


興味深い顔で手の中にある手紙を見ていた高瀬を急かすように立たせた萌は、彼女の手を引いて教室を出て行った。あれ、今日の一時限目ってどっかに行くんだっけ?


手紙を大事に大事に鞄へ入れようとした瞬間、魔法を目の当たりにした。手紙が消えたんだよ!


「あんたさぁ、あたしが言ったこと全くわかってないみたいだね」


魔法を唱えたのはあかねだった。救世主に不可能はないといったところでしょうか。ってか素早く奪い去っただけなんだけどね。


「あかねの言うことは全てわかっていますとも。それより昨日は本当にありがとう、お陰で無事に家に帰ることが出来ました。お礼としてあなたを抱き締めたぶぁっ!」


最後まで言わせまいと拳が俺の左頬を捉える。真剣な話をしてるってのに、無言の正拳突きはないんじゃないの?


「萌が言ってること、あながち間違ってないかもしれないなぁ」


「あがが。も、萌が何か言ったのん?」


アゴが痛くてうまく口が開かないよ。


「バカってことだよ」


「ちょっあかねまでそういうこと言う?」


キミだけは俺の味方だと信じてたのに。真面目な顔で言われると余計にヘコむわ。


「ラブレターだか何だか知らないけどさ、萌の前でそういうの見たりしちゃダメだろ」


あかねは俺と萌が付き合ってる説を信じて疑わないのはなぜなんだろうか。あの悪魔のような女と手を繋いで歩いたり腕組んで歩いたりとかはしてないんですが。


「何度も言わせて頂きますが、僕と秋月さんは決してそのような深い関係にあらずですよ!ってか見てわかるでしょ?何をどう勘違いしたら萌と俺が付き合わなきゃいけないのよ」


「何をどう勘違いしたらそんなアホな言葉が出るんだよ」


「えぇぇ?!」


俺、今アホな言葉を発した?正論でしょうよ。


「あかね信じてくれ!俺と萌はマジで何でもないんだよ!」


「いや、別に宣言しなくてもいいって。恭子の言う通り恥ずかしいだけなんでしょ?」


まったく、と言った彼女はラブレターを無造作に俺へ投げて来る。大切に扱ってくれ!


「恥ずかしいとかそういう問題じゃないって!言ったことありますか?僕は萌が好きなんですって言ったことありませんよね?」


何やら顔を赤らめて俺と目を合わせようとしない彼女の両肩をガッシリと掴み、ガンガン揺さぶった。なんで?そこまでして俺と目を合わせようとしないのはどうして?俺を見ても腐らないよ?


「ちょ、ぐ、具合悪くなるって!」


「あっ、ごめんごめぇん」


本気で揺さぶりをかけてしまった。青ざめたあかねは目が虚ろになってしまっている。そういやあなたって乗り物酔いとかする方だったね。でもカワイイ笑顔で謝ったから許してくれるよね?


「うわ、気持ち悪っ」


「ちょっとあかねぇぇぇ!それはヒドイって!」


「頭が揺れてるんだって!」


あっそっちね。それは仕方がない、僕が背中をさすってあげるよ。きっと5秒で治るさ。


「がぁ!」


あかねの背中に手が触れようとした瞬間、後頭部に衝撃が走った。目玉が飛び出そうになったよ!バチコンよりも痛かった!


「きょ、教科書で殴ったらダメだろがい!」


分厚い教科書で勢いよく俺の後頭部を強打したのは言うまでもなく萌だった。ってかマジで痛かったよ、鼻血が出てもおかしくないって。


「セクハラバカ」


「イヤな単語同士をくっつけるな!」


(ナイスなネーミングじゃないか)


るっせ悪魔!


「ってかセクハラじゃねぇよ!俺はあかねの事を想って背中を・・・」

「「セクハラバカ」」


え、ちょっ何で?何で女子全員が白けた目をしているの?どうして僕を見ているの?しかもうまい具合に一斉にハモったし。

調子が悪くなったあかねを介抱しようとしただけでそんな目で見られなきゃいけないの?グレちゃうよ?


「太郎!俺はお前を尊敬する!」


「い、いちれぃ!」


あまりの感激に一郎の名前をうまく呼べなかった。でもありがとう!


「太郎みたいな優しさ溢れる男性なんて見たことない!」


いや、それはいくらなんでも恥ずかしいよ。ってか口から出任せもいいとこじゃんか!


「ってか萌、いつの間に帰って来たんだよ」


「お前にいちいち報告する義務はない」


ひでっ。まだ昨日の傷が癒えてないのに心のキズも広がったよ。あっそういや顔の腫れ、驚くほど早く引いたな。ピザがよかったのかしら。体の節々はまだ痛いけど我慢できないほどじゃないし。


「う〜気持ち悪ぅ」


「ちょっマジで大丈夫か?水とか飲む?あっこれ良かったら朝買ったんだけど、お茶飲んで」


背中をさすろうとしたら女子の凍りついた視線の餌食になるからお茶を勧めるくらいしかできない。弱い俺を許して!


「あ、ありがと」


うえっぷと言いそうな彼女に素早くお茶をプレゼントし、これまた急いで彼女から離れた。


「うえっぷ」


言っちゃったよ!キレイな顔した子がそんな言葉吐いたらダメだって!


「太郎、教室から消えろ」


「えっ?な、なぜ?」


甲斐甲斐しくあかねの背中をさすっていた萌が小さく呟いた。ってか消えろって、ヒドくない?


「お前がいたら治るものも悪化する」


「ちょ、それはいくらなんでも…」

「消えろ」


「…」


もうここまですっきり言える人も珍しいよね。まったく僕の気持ちを考えていない証拠だよこれ。俺はお前など心配していないのだ、津田 あかねを心配してんだよ!


「た、太郎…別にあたし何ともないから」


あかね…キミはやはり優しい。間違えて惚れてしまうところだ。でも彼女にそんなことを言ったら具合を悪化させてしまうでしょう。


「あいや、俺ちょっとミエリンんトコ行って酔い覚ましの薬かなんかもらって来るわね。だからそれまで我慢しててちょうだい!私のあかね!」


「セクハ…」


萌の言葉を聞く前にダッシュで教室を出た。


っぶなかったよ。ってか俺ってホントに勉強しないね、あかねにああいうことは絶対に言うなと釘を刺されてたってのに。ってへ!





保健室へ行くために階段を下りていると、直秀君と再会した。しかし彼に俺を見る元気はない。ってかスルー。何なのこの対応は。教室にいたら「消えろ」だし、廊下を歩けばスルー。俺ってどれだけ悲しい人生を送ればいいの?


「直秀ぇ。お前、お兄様が目の前にいるってのにスルーすんな」


「えあ?あ、あぁ兄ちゃんか」


あぁとか言うな!寂しいでしょうが!


「杉なんとか、やっぱり学校に来てねぇの?」


「うん。庭田先生に聞いたらまた無断欠席らしいって」


野郎!庭田先生にご迷惑を掛けるんじゃねぇよ!伊藤先生がブチ切れても知らねぇぞ!


「電話は?」


「電源切ってる」


「へぇ」


「…それだけ?」


「何が?」


「いや…」


何だよ直秀、お前らしくないよ。いつもなら「それだけかよ!」ってツッコミを入れてくれてもおかしくないのに。そこまでヘコむなよ!ここは兄として何か言ってやらなければいけないのか?


「たろぉぉぉ!ラブレター誰からだった?」


バカ一郎!この局面でその発言、俺が浮かれてるのバレたらどうすんですか!ってか階段2段飛ばしで下りてくんな!…ほら転んだ。ってか転げ落ちてくんな!


「ちょっ、がぁ!」


ゴロゴロ転がってきた一郎を助けようと直秀と力を合わせたけど無理だった。体勢が整わないうちに勢いつけて落ちて来るな!助けられるわけないでしょうが!

顔面を打ちつけながら落ちる彼を止められるハズはなく、巻き込まれた。


「ごわっ!」


一郎のヒジが俺の顔面にめり込んだ。マジで痛い!階段に頭はぶつけるわ、足はヒネるわ、最悪だわ!


「いってぇ…」


三人仲良く一階に落ちた俺達は…って直秀いねぇし!


「だだ…」


お前だけがどうして途中で止まってんだよ!


「ちょ、一郎重ぇって!」


一郎の下敷きになってしまった俺は乱暴に彼の体を吹っ飛ばす。思ったよりコイツ、重ぇ!しょうパン食いすぎだ!


「保健室、保健室へ連れて行ってくれぇ!」


「それは俺のセリフ!」


大袈裟に痛がる一郎を横目に立ち上がった俺は首に違和感を感じた。まさか、折れた?…いや、まさかでしょう。首が折れたら生きてねぇよ。


「直秀ぇ。大丈夫か?」


ちょうど階段の真ん中で腕をさすり続けている直秀に声を掛ける。けど、黙って頷いただけにとどまった。お、俺のせいじゃないのに。


「たろぉぉ!直秀よりも俺の心配を頼む!」


「お前が元凶だろが!」


とかなんとか言いつつ、涙を浮かべる彼を放っておけず助けてやった。ったく、疲れる親友を持ってしまったよ。よいしょと腕を肩に回し、イヤミに溜め息を吐いてやった。


「スマン太郎!一度ならず二度までも!」


「何がよ?あぁもうお前しゃべんな!ってかニンニク食ったろ?くせぇんだよ!」


「ニンニクじゃねぇよ!行者ニンニクだ!」


「わけわかんねぇ!どっちでもいいわ!」


「よくねぇよ!お前、行者ニンニク食ったことねぇだろ?!」


「ねぇよ!」


「食えよ!」


「何でだよ!」


行者ニンニクでこれだけ会話が続く俺達って、なに?


「に、兄ちゃん!」


「あぁ?!お前まさか食いたいの?」


「違うって!」


イテテと腕、肩、腰をさすりながら階段を下りた直秀は、一郎には聞こえないよう小声で耳打ちをしてくる。


「高瀬さんに杉原を見かけたら連絡くださいって頼んだんだけど」


「あぁ、後で聞いておく」


「た、頼むね」


「え?直秀、今高瀬の名前言った?」


この男は高瀬の名前を出しただけで…。地獄耳第2号の資格を与える!言っておきますが、第一号は俺ね。萌はミス地獄耳だから。


「い、言ってねぇって!ほら、保健室行くわよ!」


「じゃ、じゃあ頼むね兄ちゃん!」


ちょ、頼むとか今は言わなくていいよ直君!ほらほら一郎が疑惑の眼差しを向けてるってば!ってか俺を見るな!匂いがキツイ!





「そ、そういや太郎。お前、見た?」


保健室に到着した俺達は、2人仲良くミエリンに湿布を貼ってもらった。と、他の生徒が右手小指を折ったと入って来たため、ミエリンはその生徒に掛かりっきり。俺と一郎はボーッとイスに座っていた。

ってか帰れとか言われない。


「見たって、何を?」


「ラブレターの中身だよ。見た?」


「あっ忘れてた」


そうだそうだ、たしかポケットの中に…転げ落ちたからクシャクシャになっちゃってるよ!人生初のラブレターがぁ!


「お前、俺のラブレターをよくも…!」


「わ、悪かった!」


う、素直に謝られたら怒れない。ちっくしょう、この怒りどうしてくれよう。


「見てみれば?」


「お、おぉ…」


この際俺よりドキドキしている一郎は無視して、開けてみましょうか。もしも『朝のホームルームが終わったら校舎裏まで来てください』なんて書いてあったら速攻で行かないと!


二人で興奮しながらクシャクシャになってしまったピンクの封筒を恐る恐る開けた。














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