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第67話 傷ついた心にナゲットを

スカートの下にスエットを履いた萌は現在ハニワになっています。しかもまだ部屋で片付けに精を出している(俺が)。ノブ君はまだ帰って来てくれない。もう一時間近く経つってのに。


「うわっ。何コレ」


ゴキブリが出ないことを心から祈りながらシャーペンその他を片付けていると、萌がおもむろにベッドの下を覗いた。そしてあからさまに不機嫌な顔を見せる。ってちょっとぉぉ!


「下を見るな!覗かないで!」


俺の慌てぶりは相当なものだったと断言してもいい。だって萌の顔が思い切り引きつったからねぇ。でもね、僕だって高校二年生なんですよ?お年頃なんですよ?


「あんた、何歳?」


ブツを手に取ると俺の前に差し出してくる萌。前にも年齢を聞かれた気がするんですけども。


「あなたと同じピチピチの16歳ですぅ!ってか返して!」


隠してもムダなので説明させてください。


萌が手に持っているDVDの題名は『鉄の犬』。ファンタジー大好きな俺イチオシの感動巨編。

鉄になる(でもなぜか動ける)という意味不明な魔法をかけられた犬のマッフルが、さらわれたご主人様(男35歳)を助ける為に旅に出るという話で、全30話からなる。


一話が40分くらいあるから全制覇するのに休み休みだけど3日くらいかかったのを今でも覚えている。ちなみにDVDにすると全部で10巻。でも1巻が1500円とお得だったから難なく買えた、とはいっても全部揃えるのに一年近くかかったよ。1ヶ月に一巻のペースで買ったから。


ってか、このDVDに15000円も費やしてるじゃんか俺。


「まったく、年頃の男の子をなんだと思ってんのよ。ベッドの下というのは神聖な場所としてあがめられてんのに」


「大層な言うな」


そう言いながらも萌は俺が奪い取ったDVDに興味を持ったのかチラチラと見てくる。


「もしかしてあなた、見たいの?この感動傑作が見たいわけぇ?」


「べ、別に」


素直じゃないね。見たいならそう言えばいいのに。


「はい、見たいなら貸して差し上げるよ。俺は何回も見て内容とか全部覚えてるから」


気になるけれど太郎なんかに頭を下げてまで見たくない!みたいな顔してるからここは私が折れてあげましょう。


「…いい」


いいだけ溜めてお断り?


「俺のことなら気にしなくていいよ?」


「断る」


断固として断る萌はもはやDVDを見ようとすらしない。天の邪鬼とはこういう人のことを言うんだろうねぇ。


そうですかそうですか、勧めてすいませんねぇと俺はDVDをベッドの下へ戻そうと腰を落とした。と、萌のハニワルックがやたらと目につく。どうせならスカート脱げばいいのに・・・・そうしたら上は制服、下はスエット。うん、おかしな人になるね。


「見てんな」


「え?あっすいません」


腰が低いね俺。当たり前のように謝っちゃった。


片付けをしながらノブ君の帰りを心待ちにしていると、ケータイが鳴り響いた。音量最大にしてるから大音量。ってか萌のケータイさっきから鳴りっぱなしで羨ましい!俺なんて誰からも来ない!


「もしもし?あっ」


電話に出た萌は何かに気付き、俺の背中を一発殴ると(後はお前が一人でやれ)と言わんばかりの視線を向けた。そしてそのまま部屋を後に、ってかお前が暴れたから片付けしてんでしょうが!少しは手伝え!やったことと言ったらDVDに興味を持っただけじゃねぇか!


「ったく何なんだよあの小娘ぇ。絶対に結婚なんて出来ないよあれじゃ!その点、俺がもしも女性だったら家庭的過ぎて世の男共は黙ってねぇ」


一人で勝手に納得しながら片付けを進める。えっと、たしかこのマンガはここで、このマンガはそこで…マンガしかねぇ!






「おっしゃ、片付け完了!」


誰にという訳でもなく、俺は壁に向かって敬礼をした。萌は部屋を出て行ったきり戻ってこないし、ノブ君に至ってはもう道に迷ってるとしか思えないほど遅い。迎えに行こうにもノブ君が乗っている車の車種がわからないから無謀に近い。


「萌ぇ?片付け終わったよい」


居間の長イスに座ってまだ誰かと電話している萌の肩を叩こうとして思いとどまった。そして長イスを叩く。っぶねぇ、萌の肩に触れたら裏拳が飛んでくること間違いなかった。


「…うん、うん」


あれ、萌のヤツ俺の声が聞こえてないのか?電話に夢中で俺なんて無視?くっそ、なんか意地でもこっちを振り向かせたくなってきた。


「萌ぇ、萌ぇ…もぉぉえぶっ!」


やはり裏拳が飛んできたか!避けることができなかったよちくしょうが!俺の動体視力なら軽いものだと思ったのに、萌の裏拳は想像を遙かに超えた速さで飛んできた。


「うん、わかった。それじゃ」


裏拳を喰らわせておいて無視なの?殴られ損?あっ顔に貼ってあったバンソーコーがはがれちゃったよ。

取れかけたバンソーコーを一気にはがし涙目になっていると、萌が電話を終えたのか無言で立ち上がった。素敵、そのハニワ。


「桃太郎」


「…」


「金太郎」


「…」


「ば…」

「はいはい何でしょうかお嬢様ぁ!」


太郎だって何回言えばいいんだよ!わざわざ太郎の前にいらんモノをつけなくていいんだって!


「明日、学校に行く前に杉原の家に行く」


「え…あ、はい。じゃあ朝は迎えに行かない方が懸命ですね」


「バカ太郎、お前も行くんだよ」


「なぜ?」


朝っぱらから杉なんとかの顔なんて見たくねっつーに。しかも学校でバッタリ会っちゃうならまだしも家に行くだぁ?何が悲しくてそんなことしなきゃいけないんだよ。


「今の電話、もしかして高瀬から?」


「直秀」


「えぇ?アイツ今どこで何してんの?」


「同級生と杉原を捜してんだって」


「捜すって、学校休んで家でゲームでもしてんじゃないの?捜すまでもないじゃんか」


「お前じゃないんだよ」


ひっどぉ!失恋の痛みはゲームで癒せるんだよ?俺が言うんだから間違いない。しかもやるのは決まって格ゲー。そしてゲームが苦手な直秀を無理やり誘ってボコボコにして気を紛らわす。これが一番なのよ!

僕の淡い初恋が失恋へ変わったときに実行して実際気が紛れたんだから間違いないよ。


そう、あれは中学2年生になってすぐのことだった。




「秋月さんと一条君て、お似合いだよね」


同じクラスになった早希さきちゃんにそう言われた。


彼女を一言で表すと『可愛い』、この言葉に尽きる。一郎も、というか誰もが早希ちゃんに一目惚れするほど。もうマジで可愛い、ここは敢えて過去形を使いません。

大きくてつぶらな瞳、肩に掛かるか掛からないくらいのフワフワ(触ったことはないけど絶対にフワフワ)な黒髪。なんと言っても笑顔がサイコー!


クラスの男子のほとんどが早希ちゃん派か萌…ちゃん派に分かれるほどだった。まぁ萌も一応、一応人気があったみたいだけど、目が違う。

アイツは言うなれば少し切れ長だし、猫目。何より睨まれたら石になるほどの威力を持っていたし。ホントあの頃の男子って、顔が良ければ見境ナシみたいなとこあったのね。


そこいくと早希ちゃんの瞳は全てを包み込むような、もうサイコーだった。そしてなんで萌が早希ちゃんと人気を二分にぶんするのかわからなかった。

どこからどう見ても沙希ちゃんと萌は美女と野獣なのに。何であんな暴力娘が好みなんだよ、男子の目は節穴か?


そういや、あかねも人気者だったな。でもどっちかというと友達感覚な人気者だったと思うけど。男女の分け隔てなく接してくれたし。あの頃からあかね姉ちゃん大爆発だったのね。



そんなある日、なんでだったかもう忘れたけど早希ちゃんと一緒に帰った時があった。

肩を並べて歩けるなんてぇ!って有頂天になっていた俺は彼女の一言に固まってしまった。


「お、お似合い?」


「うん」


引きつり笑いを隠す余裕もない俺は、彼女の言葉をリピートすることしかできない。

答えに詰まっていると、早希ちゃんは満面の笑みを俺に見せてくる。もう、サイコー。


「秋月さんを好きな男子って多いけど、一条君がいるからなぁってみんな言ってるし。私から見てもホントにお似合いだって思うもん。ニクいねこのぉ」


そう言った早希ちゃんはいつかの高瀬のようにヒジでグリグリと俺の腕に痛みを蓄積させていった。

って違う!違うよ!出来ることなら僕は早希ちゃんのような清楚で可愛いという言葉がピッタリなキミに近付きたいの!


「ちが、ちがっ」


言えないよぉ!面と向かってあなたとお近づきになりたいんだよなんて言えないって!とんだ誤解が生まれちゃった!何か行動する前に失恋しちゃったわ!


「早希〜」


「あっ、ユウ君!それじゃ一条君またね!」


「え、あっバイバイ…」


俺は早希ちゃんと最初で最後の2人で下校GOGO!の後、直秀をタップリとゲームで懲らしめた。


結局、誤解されたままで中学を卒業してしまった。しかも卒業までずっと早希ちゃんの隣りにはあの時彼女を呼び捨てにしやがった男がいたし。






ほらね?失恋の痛手はゲームで晴らすのがイチバンなんですよ。萌はゲームをしないからわかんないんだよ。


「悪いけど、行きたくないよ俺」


「なんで」


「アイツ男らしくないじゃんか。高瀬はアイツにフラれた時もちゃんと学校に来たってのに」


高瀬がフラれたとあかねに聞いたときはどうでもいいとか考えたけど、やっぱ彼女のことを思うと杉なんとかには今でも腹が立つ。きっと会ったら「女々しいことしてんじゃねぇ!」とか言ってまた殴りかかりそうだし。


萌は俺の言葉をジッと聞いていた。何か口を挟むこともなく、ただジッと俺の目を見ていた。


「休んで高瀬の気を引こうって魂胆バレバレだっつーに。マジで男らしくねぇよあの野郎」


「女言葉を使うお前に言われたくない」


「えぇ?!」


ずっと黙って聞いてくれていると思っていたらソレ?こっちは真面目に自分の気持ちを言葉に表したってのに、最終的には俺が悪者?


「私だってあんな男に会いたくない」


「じゃあ行くことないじゃんか!放っておきゃいいんだよあんなヤツ」


「そういうわけにもいかないだろ」


「なんで?ってか何で直秀が萌に電話したわけ?何で俺じゃなく萌?」


「お前じゃ頼りにならないから」


おぃぃぃぃ!そりゃないぜぇぇぇ!

ってか俺が頼りにならないなら勝手に1人で杉なんとかを捜せばいいだろよ!俺を巻き込まないで!


「萌には悪いけど俺は絶対に行かないから!高瀬に申し訳が立たないし!」


悪いなんて思ってないけど申し訳なさそうな顔しとかないと萌は納得してくれないだろう。だからここは涙を飲んで目を細めるんだ!


「…気が多い」


「はいぃぃぃ!?」


そんなに俺って気を放出してますか?禍々しいオーラを放ってます?


「大した顔してないクセに」


「ちょっとぉぉぉ!今はそんな話してないでしょうよ!顔が大したことないなんて生まれたそばから分かってんだよ!」


いい加減にしないといくら温厚な僕でも怒りますよ?お願いだからその口をつぐんで!


「直秀だってアイツのこと心配して捜してんのに、弟を見捨てんの?」


「直秀ぇ?それとこれは別…」

「同じだろ」


くっそ、ああ言えばこう言いやがる。マジで勘弁してよ。


「…」


無言という名のプレッシャーを与えないで!もうその目は反則を通り越して犯罪に近いわ!目線だけで恐怖を感じる!


「わかったわかりました!朝一番で杉なんとかの家に行かせていただきます!」


あんな野郎に振り回されんのなんてイヤだけどやってやるわ!ヤケクソじゃ!


「ってかノブ君マジで遅いって!一時間過ぎたよもう!腹が空き過ぎて死にそう!」


「死ねば」


「サラッと言わないで!深く傷付いたよ!」


「傷付けば」


「おぃぃぃぃ!」


めっちゃ傷付いた!ピッツァ食っても癒えないくらいに傷付いたよ!ナゲットとかもつけてくれないと癒えないよこりゃ!




更新が遅れてしまい、申し訳ございませんでした。それと諸事情でまた更新が遅れるかもしれません。本当に申し訳ありません。

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