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第63話 救世主が待ち遠しい

「萌ぇ!待ってってぇ!」


一郎とサヨナラをした俺は萌の後ろ姿を目がけて走りました。でも彼女は俺の言葉なんて聞こえてないのかズンズンと我が道を歩んでいる。


「ちょ、ちょっとぉ!」


「うるっさい!近所迷惑だ!」


お前の方がデケェよ!ってか聞こえてるなら振り向くとかしてくれ…その前に早く立ち止まって欲しかった。走り疲れたわ。

やっと立ち止まってくれた萌に感謝しながらもふと街灯が目に入った。


…暗ぇ!ここって電球切れてんじゃんか!


がささ。


「うわっ!」


なんだ今の不気味な音は!風の仕業…そうであってほしい!うん、気のせい気のせい……って!


「…きゃあぁ!」


おわかりかと思いますが、叫んだのは僕です。萌が叫んだとしたら「ぎゃぁ!」ですから。

なぜ叫んでしまったかといいますと、萌が僕の腕をがっしりと掴んだから。そして思い切り力を込めてるからです、痛いんです。


「う、うるさい!」


「いっ!」


ぞうきん絞りはやめてくれ!引きちぎられるような痛みが走るから!

ってあんた、まさか怖いの?暗い夜道が怖いの?なんて思っていると、萌が俺の背後に回ったと思ったらグイと背中を押してきた。


「ちょ、あんた先歩いて」


「な、なんで?」


コイツ、何か起きたら俺を盾にするつもりだね。ってか後ろから来たらどうすんだよ。……何が来るってんだ!


「もしかしてぇ、幽霊とか怖いのぉ?」


自分のことを棚に上げてそう聞いた俺はチラリと振り返った。やっぱり顔面蒼白だね。俺がここで一発、「おぎゃぁ!」とか叫んだら泣き出しちゃうかもしれないねぇ、ケケケ。


「何笑ってんだ」


「え?べ、別にぃ?」


やばいやばい。ここで萌を怖がらせたりなんてしたら後が怖いからね。怖がらせたいけどやめておこう。


がささ。


「「うわっ!」」


なんだよ!誰かいるなら隠れてないで出て来いってんだよ!…って。


「も、萌!痛い!」


萌は俺の腕をこれでもかというほどギュッと両手で掴んでいた。それが痛い痛い!怖さの余り、力を入れすぎ。


「あ、ごめ、ゴメン…」


「うぇ!」


「なに!?」


「あい、いや…」


萌が謝るなんてぇ!と叫びたかったんだけどね。そんなこと言ったら「私だって謝るときくらいあるんだよ!」って俺の腕は悲鳴を上げる。


とは言っても、暗い。しかも昨日までは街灯が切れてた場所は一カ所だったはずなのに、増えてる。なんでだよ。


「ってか…」


それよりも萌さん、くっつきすぎなんですけどぉ!腕を掴まれるのはこの際我慢してあげるとして、くっつきすぎ。ノブ君に見られたら言い訳に困るって。


俺はなんとか萌に離れてもらおうと試行錯誤してみた。ちょっと速く歩いてみたり、ちょっと遅く歩いてみたり。でもまったく離れてくれる様子がない。


う、やべぇ。なんか…やべぇ。


「おぉ…」


「だから何なの!?」


「な、何でもないです!」


なに俺、もしかしてもしかすると今、微妙に顔が赤くなってません?暗いから萌には見えてないみたいのがせめてもの救いだ。


「…」


なんか話そうにも萌のことが気になってしまって何も思い浮かばないよぉ!助けて堕天使!


(いつもの調子で話しかければいいんじゃないかしら?)


そ、そうだよね。何も考える必要なんてないよね。普通に話しかければいいんだよ。


(そして殴られておしまい!)


ボケェ!なんで話しかけただけで殴られなきゃいけねぇんだよ!ってか(殴られるがいいさ!)じゃないの?なんで口調を変えた?


(頭突き&正拳&ローリングソバット&…)


めんどくせぇよその言い回し!どうせ最後は(〜ておしまい!)で終わるんだろ。聞かなくてもわかるわ。俺が呼んだんだけど消えてちょうだい、あなたに頼んだ私がバカだった。


「太郎」


「うぇ?うん?」


天使とケンカしていた俺は萌の突然の言葉にドキリとした。なんでって上目遣いされたから。って、まさか!


「あんた、なんで心臓バクバクしてんの?」


なんて言うつもりか?ってかこんなにくっついてるからでしょうよ!…まだ何も言ってないよね。俺ってば早とちり。

何を言われてもいいよう、俺は言葉を考えた。でも、予想もしてないようなこと言われたらどうしよう。


「ちょっとお願いがあるんだけど」


「お願い?」


「そう、一生のお願い」


「…それ、軽いイヤミ?」


俺がガビョウ攻撃を喰らって萌に肩を借りた時、「一生のお願い」って言ったことに対してのイヤミだよね絶対に。ってか萌が俺に?命令じゃなくてお願いってところが微妙に怖いんだけど。


「実は…」


「な、なに?」


くっつかれながらも俺はなんとか冷静に対処しようと、できるだけ萌を見ないようあっち向いてホイをした。…でもいくら待っても声が聞こえてこない。


「え、何なの?」


なんでそこで黙る。…もももももしかして、「実は私、太郎が…」って言うつもりなのか?ちょ、ちょっと待って!まだ心の準備というものができてない!

ゴクリと生唾を飲んだ俺の心臓はもはや爆発寸前。うわわ!マジで俺どうかしてるよ!萌がそんなことを言うはずがないってわかってるのにぃ!


「…今日、泊めてほしいんだけど」


「え、泊める?」


「だから、あんたの家に泊めて」


「なぜ?」


「…きっとノブ君、家にいると思うから」


「…?」


泊める泊めないは後にして、なんでノブ君を避ける?お前らは付き合ってるんでしょ?別によくないですか?


「ねぇ萌、なんでそこまで頑なにノブ君を避けるのん?」


「え?べ、別に避けてるわけじゃ…」


俺と同じくウソが下手な萌。何年お前と一緒にいると思っておりますか?あなたのウソなんてすぐにわかりますよ。


「ただ…」


「ただ?」


「…好きだった人ってだけで、別に」


別にじゃねぇぇ!好きだったのに別にってなんだ?…その前に『好きだった』って、なんで過去形なの?今は違うってことか?でもそれじゃなんでお前はノブ君を前にすると顔を赤く変色させるんだ?現在形でしょ。


「好きな人、なんじゃないの?」


「だった、だよ」


わからん。はっきり言ってわからない。『今でも好きだから会うのも緊張しちゃってぇ、だから太郎様の家に泊めてぇ』ってのならわかる。

でももうお前は何とも思ってないんでしょ?それなら堂々とノブ君に会えばいいんじゃないの?なんでそんなに身構えてるんだ。


女心というのは本当にわからないねぇ、なんて考えていると、突然晃の顔が頭によぎった。なんで今、あんなヤツの顔が…。


「…あ!」


晃からの命令を受けていたんだ!そうだ、すっかり忘れてたけど萌のふぁ…の相手ってまさか!


「ね、ねぇ萌。お前のふぁ…の相手ってもしかして」


「ふぁ?ふぁって?」


言えないのぉ!僕は純情乙女だからその先が言えないのよぉ!…乙女じゃないけど!


「ふぁって言ったらふぁだよ!」


「だからふぁってなんだ!」


「ファーストキッスだよ!……あ」


言っちゃったぁぁぁぁ!しかもキッスて、なんでちっちゃい『つ』が入るんだよ!普通に言えないのか俺は!


「は?あんた、何言ってんの?」


もうこうなりゃヤケじゃい!言って言って言いまくってやるわ!


「お前のファーストキッスの相手だよ!ノブ君でしょ?!ファーストキッスの…いぢぃ!」


言い過ぎて足を踏まれた。近所迷惑ですね、ハイ。


「違う」


「えぇ!?違うの?」


じゃあなんで俺、でっけぇ声まで張り上げて…。


「…」


そこで無言はやめてくれ!なんかとっても恥ずかしい。

何も言わず萌は少しずつ腕を掴む力を強めてくる。怖いし痛い。でも、勇樹でもないなら他にはノブ君しか考えられないんですけど。ウソついてないかい?


「ちょっと、歩いてよ」


「へ…」


思わず立ち止まっていることすら自分でも気がついていなかった俺は、電気の点いていない街灯の下で立ち尽くしていた。



ノブ君は萌の初恋の人…かどうかは知らんけど好きだった人なんだよね?でもノブ君でもなけりゃ、勇樹でもねぇ。いちろ…有り得ない。真さんでしたぁなんてオチはいらないし。それじゃ高瀬はどうして勇樹だったなんてウソ(本人は真実だと思ってるけど)を言ったのよ。俺を混乱させて面白がってただけ?


歩けと言われても立ち止まって考え中だった俺の背中をチョイと押した萌はなぜか、なぜかワタクシの顔を覗き込むように見てきた。ちか、近いっての!


「泊めてくれるんでしょ」


「え?あ、あぁ俺は別にいいけど、ノブ君が悲しむんじゃないの?せめて太郎様の家に泊まるから〜くらい報告してきたら?」


「誰が太郎様だ」


ツッコミ所はそこじゃない気するんですけどね。なんでノブ君が悲しむんだよ、ってところをツッコんでほしかったです。

…ってあれ、いつの間にかふぁ…の相手についての話が終わっちゃってるよ。萌って話を逸らすのが上手みたいですな。


相変わらず萌の方に顔を向けることができずにいた俺は、あっちこっちに視線をずらしながら歩き始めた。うぅ、なんで俺がこんな目に。もう怖いの終わったんだから解放してくれ。


「いてぇ!」


キョロキョロしながら歩いていたのがいけなかったのか、俺は正面から歩いてきた男とぶつかってしまった。ってか尻もちつくほど思い切りぶつかってないよね?コケたヤツの友人と思われる男が俺に睨みを効かせながらヤクザばりにこう言ってきた。


「てめぇ!どこ見て歩いてんだよ!」


お前だってどこ見て歩いてんだよ。その言葉、そっくりそのまま返してやるわ!…萌がいるし、彼女に危害が及んだら俺は真さんに殺されるね。だから謝ってやるわ!


「あ、すいませぇん」


おわ、謝りたくない気持ち満開で言ったから微妙に腹の立つ言い方になっちゃった。絶対に許してくれそうにない。


「ふざけてんのか?」


やっぱりそうきたか。ってどっちにしろあなたは突っかかってくるつもりだったんでしょうけどね。きっと次は、


「女とイチャついて歩いてんじゃねぇよ!」


フフフ、俺ってすげぇ。お前の心が読める!


「笑ってんじゃねぇ!」


俺の言動全てに腹を立てた男(二人いるからコイツはAってことで)は立ち上がるとこちらへ厳つい顔を見せながら近付いてくる。Bはというと、Aの後ろでニヤニヤしながら萌を見ていた。


…気持ち悪い顔で萌を見てんじゃねぇよ。


「なんだてめぇ?どこ見てんだよ!」


自分を無視してBを見ていたのが気に入らなかったのか、Aはそれはもうものすごい真っ赤な顔で突進してきた。

でも今の俺は、というかいつもだけどケンカなんてしたくないんですけど。萌がいるし、俺って弱いし。


ふざけんじゃねぇ!とAは俺を殴ろうと振りかぶる。でも萌に腕を掴まれているから素早い動きなんてできるわけもなく。


「っぶぉ!」


っぶねぇなこのヤクザに成りきれないAがぁ!

Aは自分の腕が長いと勘違いをしてくれていたお陰で俺は殴られずに済んだ。でも危なかったことに変わりはない。


この野郎!と前に進もうとすると萌が俺の腕をギュッと掴んで動きを止めてきた。ちょ、このままだと俺は殴られるんだよ!一発かまして油断させたスキに走って逃げるが勝ちでしょ!


「だ、ダメだって」


「なにが?」


そう言った萌は一層腕を掴む手に力を込める。ここで俺達があーだこーだ言ってても仕方ないって。なんとか切り抜けなきゃならないの、わかってちょうだい!


「へぇ、キミ可愛いねぇ」


予想通りというかなんというか、Bはニヤニヤ笑いを継続させて萌に近付いて来た。

言っておくが萌は可愛いんじゃねぇ、可愛いなんてとうの昔に置いてきたんだよ!ハイ意味不明です!


「どうよ?こんな弱そうな兄ちゃんなんか放っておいて、俺達と遊ばないかい?ご飯でも奢るよ?」


「結構です」


さすが萌!怖がる様子もなく言っちゃったね!でも、腕が痛い。

しかしBはそれを「イヤよイヤよも好きのうち」と勘違いし、より一層気味悪いニヤけ面で近付いてくる。


「そんなこと言わないでさぁ」


「おい、今はそんなこと言ってる場合じゃねぇだろ!」


なぜかAがBを止めた。Aは硬派なんでしょうか、どう思いますか萌さん。


「…」


アイコンタクトが通じねぇ。二人とも危機的状況に陥っているのに通じないとは…萌が俺の方を見てないだけか。


「おいてめぇ、俺は半端なヤツが大嫌いなんだよ。謝るならちゃんと誠意を見せろってんだ!」


「誠意を込めて謝りましたけど」


「なんだと?」


俺のバカ!土下座でも何でもしてやり過ごせばいいのに何でそういうこと言うかなぁ。ほら見てみな、Aはもう怒り心頭どころじゃないよ。


「マジでふざけんじゃねぇぞ。そんなに殴られたいか?」


「殴られたくありません」


「え…」


男ならば、ここは「やってみろ!」と息巻いていることでしょうが、僕はそうはいきませんよ。殴られたくないんだよ、そして殴りたくもない。

Aは俺の言葉にどうしていいかわからず、助けて光線をBへ送った。けどBは見ていない。まだジッと萌を見ている。いい加減諦めろ。


「いやぁ、やっぱ可愛いよキミ。何でも欲しい物買ってあげるからさぁ、一緒にどっか行こうよ」


その熱意は認めてあげるが、あなたは一つ間違いを犯した。萌は金持ちなんだから欲しい物があるなら自分のポケットマネーで買うって。お前よりずっと金持ちだよ彼女は。


「結構です」


萌の断固たる拒否にも食い下がるBはニヤニヤ&フラフラと近付いてくる。


「う〜ん、その困った顔もいいねぇ。でも出来れば笑顔を見せてほしいんだけどなぁ」


ジリジリと何とか萌との距離を縮めようと頑張るB、Aは「そうじゃねぇだろ!」と怒りをぶつける。俺は腕の痛みにもがき苦しむ。


「ちょっ、触らないでください」


行こうよ〜と不気味な声を上げたBは萌の肩に触れた。それを思い切り払った萌は掴んでいた腕を放し俺の背後に隠れる。


「なんで?そんなにこんなバカっぽい男がいいの?」


てめっ、てめぇにバカっぽいなんて言われたらお終いだよ。ってか今初めて会ったのに俺がバカっぽいってわかるの?

と、俺は背中に隠れ続ける萌をチラリと見た。…やっぱり女性だね。


「萌に触るな」


「あ?」


萌ははっきりとした口調でBのお誘いを断り続けてるから、あまり怖がってないのかななんて思ってたけど違った。こういうときは男の俺がしっかりしないとダメだよな。ハナから逃げることしか頭になかった俺を許してくれ。


触るなと言ったのがマズったか、Bはニヤニヤ顔からイライラ顔に変貌を遂げた。


「てめぇ、彼氏気取りか?」


「気取りじゃねぇ、彼氏だ」


「てめぇみてぇなモテなさそうな男がこんな可愛い子の彼氏なわけねぇだろ。強がり言ってんじゃねぇ」


「そうなんだから仕方ねぇじゃんか。悔しいからってヒガんでんじゃねぇよ」


「…ハラ立つこと言うなぁお前」


「消えろ、今すぐ俺達の前から消えろ」


俺の話を最後までちゃんと聞いた後、Bの拳が飛んできた。けっ、あかねの正拳突きに比べたら遅いったらありゃしねぇ。


「ぐっ!」


見えたけど避けられない!動体視力は人並み以上かもしれないけど、身体能力が追いついてなかった。これは想定外。


「っこの!」


ガチッと歯を食いしばり踏ん張った俺はBの顔面めがけてストレートを繰り出す。俺の本気の拳を受けてみろ!


「がっ!」


うまい具合に拳がBの顔面を捉えた。でもこの野郎、殴られる寸前に口を開けたから歯に拳がぶつかった。血が出たらどうしてくれる!


先程のA同様、尻もちをついたBは歯が抜けた。口を開けるからだよ、このボケ…ボケのB?


「た、たろっ!」


「え?」


Bとのケンカに夢中になっていた俺はAに羽交い締めにされている萌にやっと気がついた。って貴様!萌に触るなって言ったの聞こえてなかったのかよ!


「ぐぇ!」


離れろやぁ!とAの元へダッシュをしかけた俺は立ち上がったBに思い切り後頭部を攻撃された。くっそ、これは考えてもしない展開だ。


「どこ見てんだよ。お前の相手は俺だろうが」


「てめっ…」


すぐに立ち上がろうとしたけど、足がガクついてうまく立てない。ちっくしょ、頭がイテェ。思い切りブン殴りやがったなこの野郎…ってか石なんて持ってんじゃねぇ!そりゃ痛いわ!


「オラどうした来いよ?まさかもうギブアップか?」


「てめぇ…!」


「言っておくが、てめぇは俺を殴れねぇぞ?」


なんだとぉぉ?!ってそりゃドラマでよくあるシチュエーションだろが!彼女を人質にされた主人公が敵にいいだけ殴られるっていう…俺はどうすればいいんだ。やっぱりされるがままか?


「ぐぁ!」


そうだよねぇ、萌は俺の恋人でも何でもないけど、アイツの安全を考えると手は出せないよねぇ。ドラマを見てると「絶対に誰か助けに来るんだろ」なんて思ってたから別に気にも留めてなかったけど、現実じゃそううまくはいかないってか。





もういいだけ殴られた俺は鼻血から口血からいいだけ垂れ流し状態。誰も来なけりゃ警察官も来ない。さっきチャリンコですれ違った警官のお兄さんはもうとっくに交番に戻ったか?


「こん、ちくしょうが…!」


「あぁ?しつこいんだよ!」


倒れながらも前歯が一本抜けたBの足にしがみついた俺は腹部を思い切り蹴られた。マジで痛いんですけど。

殴り疲れたBはゼェゼェと息切れを起こし、最後にもう一度俺の腹を蹴ると捕まっている萌の方へ移動しようと歩き出す。


…ボケ野郎、ボケ野郎、ボケ野郎!


立てずにいた俺はかすれた目でBの背中を睨むことしかできない。

くっそ、萌のこと助けることできねぇのか俺は!動け足、手!

でも俺のそんな願いも虚しく、Bは萌にたどり着いた。こうなりゃケータイで警察に連絡とかするしかねぇか!


「キミ、萌ちゃんだったよね?」


「違います」


「え…ぐわっ!」


そう叫び声を上げたBがうつ伏せに倒れている俺の隣りに吹っ飛んできた。


「な、なんだ?」


倒れたままの俺は何がなんだかわからず、仰向けに倒れたBを見た。しかしもうその目に生気は宿っていない、気絶してるよ。


「た、太郎!大丈夫?」


「あ、萌…?だ、大丈夫だけど…」


走り寄って来た萌は涙声&涙顔でそう言うと俺を抱き起こしてくれた…いつもなら「恥ずかしい!」とか叫んでるけど、そんなこと言ったら萌はきっと俺を殴る。

と、目の前に救世主を発見した。


「あえ、あかねぇ?!なな何でここに?」


立っていたのは首にタオルを掛けているあかねさんでした。その様子から部活の帰りかい?


「ここはあたしの通学路だよ」


悪びれる様子もなくそう言ったあかねは、掛けてあったタオルを俺の頭にそっと置いた。これで血を拭えと?ってうわ、いい匂いするんですけど。全然汗臭くないよ、なぜぇ!


「ちょうど萌が男に羽交い締めされてんのが見えてさ。なんだ?って思ったらあんたいいだけ殴られてたから」


「いいだけって…」





























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