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第53話 何度怒鳴れば気が済むの

ね、眠れないぃぃ。布団に入ればすぐ就寝のこの俺が全く寝付けないでいる。


理由はわかっています、そう、勇樹の勇気ある告白を受けたからです。クラスのみんなは自分達の話に夢中で彼の声は聞こえなかったみたいだけど、聞こえた人が1人いました。その名もあかね。色恋話が好きな高瀬は一郎と俺のビンタ大会を見終わると、さっさと自分の席に戻って近くの友達と話し込んでたから聞こえてないみたいでした。


あかねは口をポッカリと開けて勇樹を見つめていた。「マジで?知ってたけど、マジで?」みたいな顔でした。

俺はというと、結局何も言えないまま冷や汗ダラダラでその場をやり過ごしただけ。勇樹の真剣な表情はチャイムが鳴るまで続いた。俺、勇樹にあんな顔されたの初めてだ。


それからギクシャクした形でその日を終えた俺は、萌が誰と帰るのかなんて気にも留めないまま自分の家に走った。そして現在、まだ午後7時半だってのに布団をかぶっています。


「全然、眠れねぇ」


なぜ勇樹が萌を好きかは別として、なぜ俺にその報告をしたんだ?一度でも勇樹の前で、


「俺は萌が好きだぁぁぁ!」


なんて言ったか?それとも「僕の好きな人を泣かせるなんて許せない!」って言いたかったのか?…後者しか有り得ねぇ。

でもちょっと待って。なぜその前に萌は涙目になったんだ?その理由が全くわからん。ってか俺が泣かせたのか?


「うぇぇ、わかんねぇよぉ」


「太郎!起きな!」


今一生懸命考えてんだから呼ぶなよ母ちゃん!それに帰って来たとき腹が痛いからメシいらないって言ったろ!1人でいさせて!


「太郎!」


「…せぇ」


「太郎!」


「…るっせぇ」


「一条君?」


「うるっせぇぇ!!……あ、あれ?」


ガバッと威勢良く起き上がった、のはいいとして、なぜ机が目の前に?

ど、どこだここ。なぜ家で寝ているハズの俺の前に庭田先生がいるんだ?学校はもうとっくの前に終わってるのに。これは、夢か?


あれれ?と教室の時計に目を向ける。あれ、時間がおかしい。なんでまだ7時限目?


「え、あ、え、ご、ごめんなさい庭田先生ぇ!」


居眠りこいてたぁぁぁ!しかも事もあろうにまた庭田先生を怒鳴っちゃったよ!岩ぁんが休みでよかった。けど他の男子からの「てめぇ後で覚えてやがれ」な視線が怖い。


「い、いいの…いいのよ」


悲しみに押し潰されそうな声を出さないでください!いや、俺が、僕が全て悪いんです!


「本当に、本当にすいませんでしたぁ!」


立ち上がった俺は、庭田先生に向かって何度も頭を下げる、そして気がついた。俺の前の席にいる野代君、俺の大声も届かず爆睡中。てめぇ、てめぇも起きろや!


マジでマズった、あっちが夢だったか。でも鮮明に覚えてる夢ってのも珍しい。あって事は勇樹の告白も夢?ついでに萌の涙目も夢か?なぁ〜んだ、考えて損しまくり〜。

と、萌の方へ顔を向けるとふと目が合ってしまった。そうだ、この凶暴娘が涙を流すハズがない!すなわち、あれは夢だったのだ!…じゃあどこからが現実だ?今日一緒に帰らない、からか?


すいませんすいませんと頭を下げていた俺に庭田先生は「大丈夫…」と一言、今にも消え入りそうな瞳でそう呟くと教壇に戻って行った。

本当に、すいませんでした。そしてなぜ一郎は起こさないのですか?俺だけがイビキ掻いてたとか?


ガタンとイスに座ると、俺と目が合っていたのにそのまま授業に戻った萌をマジマジと見つめてみた。目は充血とかしてないな、って言っても一時限目が始まる前の出来事だったからな。


「授業に集中できないんだけど」


やはり俺の熱視線に気がついていたのか。ってかこっちを見ようともしねぇ。


「あ、あのさ。今日って俺1人で帰るんだっけ?」


「は?」


「ちょっと夢とゴチャゴチャになっちゃって」


「何言ってんの?」


萌の態度を見て悟った。やはり俺の夢だったんだね。またご機嫌ナナメのお嬢様にニコニコしながら帰らないといけないのか…違うか、俺の言動が萌をご機嫌ナナメにするんだ。


「1人で帰れって言ったろ馬鹿太郎」


現実かい!紛らわしいなまったく、俺が。しかし漢字で『馬鹿』はやめてくれ。マジでバカな気分にさせられるから。おい、言いたいこと言ってまた俺を無視かい萌。


いいですよ、1人で帰りますよ〜と少しおちゃらけた顔を見せた俺は、萌が泣いたことも現実だったのかと考える。でも泣いたような雰囲気は醸し出してないし、やはりあれは夢?


「一条君?」


「ひぇい!」


突然のご指名に俺は返事とは言えない素っ頓狂な声を上げてしまった。しかしそれに笑ってくれるのは高瀬のみ。男子は笑ってくれるどころか「指名されてんじゃねぇ!」って顔。しかもなぜに名指しされたか全くわからない。俺にどうしろと?


「ごめんなさい。野代君を起こしてもらってもいい?」


「え?」


俺の事は起こしたのに一郎は人任せでいいんですか…モノは考えようか。俺を起こしてくれたけど、一郎は起こさない。イコール俺の方がお気に入り?


「お前いつまでも寝てるんじゃないよ!庭田先生がご立腹だぞ!」


目の前の坊主頭を2回叩いたところで居眠り野郎は目を覚まし、ゆっくりと顔を上げるとこっちをボケッと見つめてきた。男に見つめられても嬉しくねぇ。


「…あと42秒」


「微妙!」


普通は「あと5分」じゃないの?なんで秒単位で答えてんだよ。


俺の攻撃が全く効いていない一郎を見ていた庭田先生は「もう、もういいわ。ありがとう」と言い残すと授業を再開した。俺は先生を泣かせた上、お役にも立てない。自分で自分を殴りたい!


(殴ればいいんじゃないのぉ?あっははー)


誰だお前。悪魔も天使もそんな話し方したことないだろ。新キャラ登場か?


(天使だわよ)


お前、悪魔だろ。


(はい不正解〜。あんた最悪ぅ。…ップ)


意味わかんねぇ。出てきた意味がわからん、そしてなぜそんな言葉遣いをしたかすらもわからない。


庭田先生への申し訳なさから、自分で自分の頭を軽く叩いた俺に恐怖心を煽られたのか萌がチラリとこっちを見てきた。うん、不信感で一杯の顔だね。そういや一時限目から萌とマトモに話してねぇな。

休み時間の時も俺と一郎がいくらアホなことをしていても、それを見ることもなけりゃ怒ることもなくあかね達と会話をしてたし。


やっぱりあのとき萌のこと、少なからず傷つけたのかもしれない…けどなぜ?そんなに萌は俺と帰りたいのか?いやそれはねぇ!だっていつも一緒に帰っても不機嫌そうな顔だし、朝だって迎えに行っても不機嫌だし。天の邪鬼なの?


「太郎」


「あっはい?」


見てたのバレたか?と、とっさに教科書に目を落とした俺に、彼女はそれを咎めるわけでもなく俺ですら聞き取れないほどの小さな声でポツリと、


「言い忘れてたけど、もう朝も迎えに来なくていいから」


そう言い終わった萌は一瞬、見間違えかもしれませんが悲しそうな…顔をしたか?俺に聞かれても困る。

う〜、ここは何て答えるべきだ?「え〜どうしてぇ?」はダメだな。なんかわからないけどダメな気がする。じゃあ「そんなに俺が嫌いか?」……聞くまでもないなこれは。


「聞いてんの?」


あーでもないと考え中の俺に向かって、先生にバレないよう素早く萌は腕を叩いた、しかもグー。これは叩いたじゃない、殴っただ。

もう少し待ってよ!今考え中なんだから!あなたに余裕という言葉はないの?


しかし俺にそんな時間はない。なぜならば萌の、萌の隣りに座っているあかねが鬼のような顔で僕を見ていたから。なぜあなたが怒る?怒らせた記憶が一切ございません。


「朝、朝は迎えに行くから絶対に!」


俺の渾身の大声がクラスのみんなに届いてしまった。みんな見るな!「アイツ、サムい」みたいな目をやめろ!


「えっと、一条君?」


やっと悲しみを乗り越えた庭田先生に俺の大声が聞こえなかったハズはなく、教科書を持ったまま固まっていた。俺、マジで先生に迷惑を掛け過ぎ。そして男子からの睨みが倍になったのは言うまでもない。


だけど今はそんなことを気にしている場合じゃない。なぜならば、萌が真っ赤な顔で俺を見ている。そういえばこの子に間違って抱きついた時もこんな顔をしていたような…。そしてその後が恐かった。

そこまで真っ赤な顔するなんてどれだけ腹が立ってんだよ。でもお願いだから庭田先生の前でコロスとか言わないでね?先生は僕と同じ子鹿なんだから!


「…」


俺とあかねが萌の言葉を遮る用意をしてたのに、彼女は何も言うことなく小さく頷くと真っ赤な顔を隠そうとしてか教科書を持ち上げた。

なんだこの対応は。また怒らせるようなこと言ったか?ってかオーケーなのかノーなのかわかんねぇっつーに。迎えに行っていいのか?


(あかねぇ。怒りよ静まれぇ)


萌が教科書で顔を隠しているスキに、目が合ったあかねにアイコンタクトを送った。きっと萌はあかねに報告したに違いない。私アイツに泣かされたと言ったに違いない、だからあかねはあんなに怒った顔してんだ。俺だって毎日泣かされてるってのに。


俺のアイコンタクトに気がついてくれたあかねは、庭田先生と萌にバレないよう(と言ってもきっと先生にはバレてるけど)ノートで顔を隠しつつ返事をくれた。


(いい加減なことやってたらマジで怒るよ。あたし言ったよね、萌のこと大切にしろって。元はといえば太郎の…)


すげぇ。アイコンタクトなのに何を喋ってるか全部わかる。しかもまだあかねは延々と送り続けている。

けど、大切にしろって言われても萌が一緒に帰りたくないって言ってんだからムリに帰ろうとする方がダメなんじゃないの?


(大体あんたが、あっ)


ずっとアイコンタクトを送り続けていたあかねだったけど、萌が教科書を机に置いたところで終了せざるを得なくなった。今は萌に感謝するべきですね、アイコンタクトでまで怒られたくねぇ。


「…」


何か言われるのかと期待していたけど、萌は何も言わず俺の方を見ないまま庭田先生の授業に耳を傾けている。そしてまだ顔は赤いまま。そんなにムカついたのか?と、ふと萌の視線が宙を舞った。それに続いて俺も視線の先に顔を向ける。


「…」


勇樹?なぜこっちをガン見してるんだ?しかも優等生のお前が授業もそっちのけで萌を見ているとは。あれか?好きな子は授業中でも見ていたいみたいなヤツか?




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