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第51話 バカだって風邪は引く

萌に元気よく「断ってきま〜す!」と言ったはいいものの、なぜか現在僕は廊下に立っています。そう、きっとやって来る御曹司と萌を会わせない為にです。ってか廊下って寒い!


「早く来い来い早く来い!」


その場で地団駄を踏み続けていると、足音が聞こえて来た。この正確な歩幅は伊藤先生か?

階段をゆっくり上ってくる人影をジッと見ていると…スーツは着てないな。ってことは遅刻した学生か?


「あっ太郎!俺を待っててくれたのかぁ!」


お前かいぃ。


「わざわざ廊下で待っててくれるなんて、お前はやっぱり親友だ!…じゃあ一緒に掃除してくれよ!」


「お前を待ってたわけじゃねぇよ!」


他のクラスはまだホームルームの真っ最中だから廊下には誰もいない。だから俺と一郎の声が反響しまくり、そしてうるさすぎ。ミス西岡は来ないよな。


「じゃあ誰を待ってんだ?伊藤先生か?」


「ええ、そうよ」


「なんで?教室で待てばいいじゃねぇか」


「…2人きりで話したいことがあるんだよ」


コイツに御曹司の話なんてしたら「俺だって負けない!」と意味不明な発言をして俺に殴りかかってくること間違いない。意味もわからず殴られるのなんてイヤだし、それに一郎(なんか)に。

ここは面倒くさいから何も言わないでおいた方が無難なんですよ。


「先生と何を話すんだよ?」


この男に「あぁそうか、わかった」っていう言葉は存在しない、どこまでも掘り下げる。自分が納得しても掘り下げる。ついには自分が何について聞いているのか忘れるくらいに掘り下げる、イコール一郎と話すと疲れる。

美咲ちゃん、あなたは我慢の限界に達していたんだね。今さら気がついたよ!俺もメールで会話しようかな…その瞬間、アイツの鼻水に溺れそうだけど。


「お前に関係ないことだから安心して」


「安心できねぇ!」


「なんでだよ」


「そんなこと言って俺の悪口を伊藤先生に言うつもりだろ!お前のことなら何でもお見通しなんだよ!おら正直に吐け!」


見通してねぇよ!まったく考えてないからそんなこと!お前の悪口を言うような顔してるか?言うなら下校時にそっと言うわ!


「吐け!吐けよ!」


「いだだ!足踏むな!」


本気で踏むな!折れても知らないんだから!ってか俺の足だけど!


男同士、涙目になりながらの足踏み合戦が火ぶたを切った。やべぇ負ける!先に踏まれたからダメージが俺の方が多い!



「一条君に野代君、どうかしましたか?」


タンマタンマ!と一郎の坊主頭にチョップを喰らわせていると、優しいお顔の伊藤先生がお目見えした。先生の顔を見ると一郎のことなんてどうでもよくなるくらいに穏やかになれる。ありがとうございます!


「せ、先生ぇ!一条君が僕の足を踏んでくるんですよ!助けてください!」


この野郎、お前が先に仕掛けてきたクセしてぇ!でも伊藤先生の前で汚い言葉を使いたくない…決して庭田先生事件が影を潜めているからではありません。


「あぁそれは大変でしたね。一条君、秋月さんは教室にいますよね?」


一郎を軽くスルーした先生は萌の生存、ではなく出席確認をしてきた。温厚な伊藤先生にまでスルーされるとは、やるな一郎よ。


「え?はい、いらっしゃりますが」


普段まったく使わない敬語をがんばって試みるから何か微妙におかしい!


横でチョップが思ったより利いていたのか、坊主頭をさすっていた一郎がエセ優等生を気取りやがって!と俺の足を踏んづけた。

ってか俺の攻撃が痛かったわけじゃない、先生のスルー攻撃が利いたみたい。少し涙を溜めてるよこの子。


俺の返事を聞いた先生が一度「う〜ん」と唸った。どうしたのでしょうか、僕でよければご相談を承りますが。


「先生?どうしたんすか?」


「いえ、さっき秋月さんのお知り合いの方が見えたんですが」


「知り合い?おい太郎、知り合いって誰だ?」


「ぼ、僕は知りません」


お願い先生!一郎の前でヘタな事をおっしゃらないでくださいまし!ってどうしたんですかって聞いたのは俺だけど。しかも僕って言ってる時点で隠し事してんのバレバレぇ。


「そそ、その人って、帰ったんですか?」


「いえ、学校が終わるまで待つと言われたんですが、果たしてどこで待つのやら。あぁそういえば一条君もあの方と知り合いなんですね」


「え?!いや俺は…」


普通な俺に御曹司の知り合いなんていない!と信じたいんですが、どうもムリなようです。


「そうですか?キミの事も聞かれたんですが」


「それは僕ではないのではないでしょうか?僕は金田 幸哉なんて知りませんし見たことすらありません!」


焦ってるから日本語メチャクチャだよ!それになんで俺が慌てなきゃいけないんだよ。思わす名前を思い出しちゃった…言っちゃった!


「やはり知り合いなんですね?」


「うあ、はいぃ…あっ!でもそんな親しいとかはないです!名前くらいしか知らないし」


「まぁホームルームもやらなければいけませんし、教室に入りましょうか」


「はいぃ…」


おぁぁ、また先生にウソを言ってしまった。あの事件以降、もう絶対にウソなんて言いません!って自分と約束したのに!別に知り合いですって言っても良かったよなぁ。反省しろよ俺!


笑顔を見せたままの先生が教室のドアを開けた時、話に入っていけなかった一郎が俺のケツをつねってきた。思わず「あちゃぁぁ!」って、熱くないのに叫んじゃったよ!でも叫び声を上げても先生はスルー、俺達を無視して教室に入って行ってしまった。一郎のせいだからな!





「遅れてすみません。ホームルームを始めましょう」


普段と全く変わらない笑顔で教壇に立った先生は、チラリと俺を見た。そしてニコリと微笑んでくださいました。でもきっとその笑顔は「早く席につけよ?」みたいな?…悲しい!

ケツ…もといお尻をさすりながら自分の席に戻った俺は、腕組みをしている萌をチラリと見た。

あなたのお陰でまた伊藤先生に嫌われてしまったわ。え、人のせいにすんなって?


「アイツは?」


俺が萌の事を見ていたのを察したのか、ホームルームを始めた先生の方を見つめたままそう聞いてきた。

見るんじゃねぇって言われなかっただけマシか。俺はできるだけ小声で萌に顔を向ける。でも彼女は前を向いたままです。


「会いに行こうとしたけど伊藤先生に止めらて失敗しました。でもご安心くださいお嬢様、彼はどこか遠くへ行きました」


「誰がお嬢様だ。馬鹿にしてんでしょあんた」


「滅相もありません!尊敬はしても馬鹿になど!」


「馬鹿にしてんだろ!」


「っぽぉ!」


先生がふと窓の外を向いた瞬間、萌の握り締めていた消しゴムが飛んできた。ってそれあかねのでしょ!俺が顔面で受け止めなかったから中庭に飛んで行ったよ!


危ねぇでしょ!と軽く叱っていると、萌の隣りで頬杖をついていたあかねがハハハと笑ってこっちを見た。


「あんた達、相変わらずだね」


違うでしょあかねぇ!今は「あたしの消しゴムだよそれ!」って怒るトコだから!


萌に消しゴム返せ!と小声で怒鳴られていると伊藤先生と目が合った、そしてニヤリ。な、なぜ笑ったのですか?僕の顔に何かついていますか?


「それではホームルームを終わります」


何も言わないんですか!何か言ってください!


「あっ一条君」


俺の願いが通じた!でもただ勢いに任せて念じてみただけだったんですが。


「はい!何でしょう!」


あっなんかニヤリしてない、いつもの微笑みだ。まさかクラスのみんなの前で褒めてくれるんですか?照れるなぁ…褒められるようなことはひとつもしてないけど。


「庭田先生から後で職員室に来てほしいと伝言を頼まれたんですが」


「にわ、庭田先生、ですか?」


岩ぁんが休みでよかった!もし来てたらてめぇこの野郎!って睨まれてたよ!


「はい庭田先生です…早く行ってあげてくださいね」


うわっ怖いよ伊藤先生ぇ!そういや先生も庭田先生ファンでしたね、忘れてました。ってまたニヤリしてる!


「太郎さん、あんたまさか庭田先生までぇ!」


「黙れ一郎!」


お前は話に入って来るな!おわわ伊藤先生のニヤリが睨みに変貌していくよ!プラス庭田先生ファンの男子から熱い視線。


後ろを振り向いた一郎の頭を叩くと、勇樹もこっちを見ているのに気がついた。一郎のアホさ加減にイライラしてんのか?良かったらキミもこの坊主頭を叩いてみる?憂さ晴らしにはもってこいだよ?


「太郎、言っておくが庭田先生はお前のことなんて何とも思ってねぇんだからな!誤解すんなよ!」


「お前が言うな!」


勘違い野郎はお前だろ!ちょっと女子に優しくされただけで好かれてるって勘違いするクセに。その前に庭田先生が生徒を相手になんてするかよ…教師であるターナーも相手にされてないけど。




勇樹の気になる視線を受けつつもホームルームを終えた俺は、伊藤先生の指示通り職員室に直行しようと立ち上がった。


「俺も、いい?」


「お前は呼ばれてねぇだろ」


「そんなこと言って庭田先生と2人きりで話がしてぇだけだろ!」


「俺だけが呼ばれたんだから当たり前だろ!あなたは黙って1人寂しく英語の予習でもしててくださる?」


「ひっどー!それが親友に向かって言う言葉ぁ?」


「あなたはお呼びじゃないの。それではご機嫌よう」


おほほほ!と萌のおばさんを気取って教室のドアを開けた俺は何かに吹っ飛ばされた。デカかったけど、まさか熊か!?


「萌ちゃん会いに来たよ!」


晃かよ…もう目覚めたのか?相変わらず回復の早い男だ。まぁあれなら放っておいていいか。じゃあワタクシは庭田先生の元へ、いざ出陣!


「あっ太郎」


スキップしようとしたのに止めないでよ!


「どうなさったの?」


立っていたのはシャーペンを忘れたのに消しゴムは2個持ってたあかねだった。彼女はドアを開けたままで突っ立っている俺に走り寄って来た。


「あたしも行く」


「なぜ?」


一郎との会話を聞いてなかったのか?俺だけが呼ばれたんだよ?先生に用事とかあるの?

首を可愛く傾げた俺を無視したあかねは、行ったらダメかよという顔で俺の肩を叩いた。


「部活休ませてもらおうと思ってさ」


「朝練は出たのに?」


「そう」


「何かあったの?」


今まであかねが部活を休んだとこなんて見たこともない。事件に巻き込まれたとか?俺でよかったら相談して!


「隆志の奴、風邪引いちゃてさぁ。朝はお母さん遅番だからゆっくり出て行ったんだけど、帰りが遅くなるかもしれないって言ってたから」


「代わりにお粥とか作るって?」


隆志とはあかねの弟。たしか、今年で9歳だったかな?中学生の時、あかねの家に遊びに行くと「タロー遊ぼう!」といつも俺の元へ走って来たんだった。かわいい思い出…今気がついたけど、俺って呼び捨てにされてた。


そっか、あかねも苦労してんだな。そういえば最近あかねの家に入ってないな、この前は玄関でバイバイだったし。よし、ここは俺の出番だな!


「俺も今日お見舞いに行っていい?」


「いや、風邪移したら悪いから」


「馬鹿は風邪引かないから」


ヒドい言われよう!と声の主を探す、けどその必要なし。面と向かってそんなことが言えるのは萌しかいねぇよ。


「健康体と言ってちょうだい」


小さく馬鹿じゃないと反論した。でも無視、絶対に聞こえてるよね?だって一瞬チラ見したし。しかし俺を無視したままで萌はあかねに近付いて来る。

お前も来るつもりかよ?でも空手部じゃないでしょあなた。


「のぞみとかなえは?風邪引いてない?」


のぞみってのはあかねの妹で、たしか美咲ちゃんと同い年。そんでもってかなえは今年で11歳。なぜか津田家では女の子の名前はみんな平仮名。余談ですが隆志が幼稚園に通っていた時、僕も平仮名がいい!って泣いたことがあったみたいです。


「あの子らは大丈夫、隆志だけなんだ。今は隣りのおばさんがついててくれてんだけど、午後からパートがあるって言ってたから」


「じゃあ午後からはあかねママの出番?」


「誰がママだ」


「そして太郎パパの出番でもある」


……あっ。


「い、いや、ぱ、パパって言っても、あかねのパパってわけじゃなくて…」


あかねにおかしなこと言うなって注意されてた!進歩しろよ俺!やべべべ!あかねが怒ってる!


「え〜っと…俺のパパは、秋月コーポレーションの〜……平社員?」


言ったのは俺だけど意味が全くわからない!父ちゃんが平社員だからなんだ!一生懸命に頑張ってくれてんだ!


「父ちゃんは頑張ってるから!覚えておいてよ萌ぇ!」


アピール効果なし!萌さんこっちを睨んでます。って、あれ?晃は?


「マジかよ一郎?!」


あれ?と振り返ると、一郎と何やら楽しく会話している晃が見えた。俺の席に図々しく座りやがって、職員室から戻って来たらつまみ出してやるんだから!


「じ、じゃあ行こうかあかね?」


後でキツく叱ってやる!って顔をしたあかねに声を掛けた俺は、一郎と晃の会話が少し気になったけどそれを無視して職員室を目指すことにした。ってか萌に会いに来たのに一郎と楽しく会話してんなよ。





「あんたマジで何考えてんだよ!」


階段を降りていると、前を歩くあかねにこっちを振り向かないままで怒られた。


「つい口から出てしまいまして」


「ついじゃないって」


そんなに怒らなくても良くないか?いつもの冗談でしょうよ。なんだかあかねは萌の事となると人格が変わるなぁ。そこまであの子が大事かい?


(お前より萌が大事に決まってるだろうが)


うるさいよ悪魔、そんなこと知ってんだよ。俺だって悪魔よりあかねの方が百倍大事じゃい!


(階段から転がり落ちてしまえ!)


嫌味もここまで来ると清々しいね。


「ちょっとあかねさん、最近何かあった?」


「なんで?何もないけど?」


即答されると突っ込んで聞けないじゃんか。まぁ慌てる表情もしてないから何も隠してはいないんだろ、って事はわかったけど。



変なあかねーと背中を突っついていると、玄関の方から人の話し声がガヤガヤと聞こえてきた。…なんで誰1人としてガヤガヤなんて言ってないのにそう聞こえるのだろうか。


そんなどうでもいいことに頭を悩ませていると、先に階段を下りきったあかねが何かを発見したのか小さな声で「あっ」と言ったのを俺は聞き逃しませんでした。前にも言ったけど、俺は地獄耳を持参しています。


「どしたあかね?」


「あれ、あそこにいるの工藤のお姉ちゃんだよ」


え〜?と人混みに目を向けると…ホントだ。澄まし顔で女子達を見てる。でも背が高い一際目立つね、それに美人だし。


「何で香の姉ちゃんが学校にいるんだ?」


「うん、何でだ?」


2人で顔を見合わせてから触らぬ神になんとやら、俺達は息を潜めて群衆の前を通り過ぎようと抜き足差し足を始めた。庭田先生が俺を待っているんだ!誰も声を掛けてくれるな!


「あっ一条君?」


「は?」


誰だよ!声を掛けないでって言ったばっかりなのにぃ!と勢いよく振り返ってみると……聞こえないフリして通り過ぎればよかったよ。


「か、金田…さん?」


人混みの中心にいたのは説明不要の御曹司、金田 幸哉様でありました。そしてその隣りには香の姉ちゃんがスーツをビシッと着こなして立っている。ちょっとちょっと、あなた達はもう高校生じゃないでしょ?なんでここに?


「久しぶりだねぇ、元気だったかい?」


微笑というか、なんというか、おいそこいらの女子!金田が笑ったからって目を輝かせるな!そんなに美青年かこの人?…俺に言われたくねぇ!


「あぁはい、元気ですぅ…」


めちゃくちゃ元気がない声で挨拶を返す俺。でも金田はそんな俺を見ているようで見ていない。どこを見てんだよ。


「キミもすっかり大人っぽくなったね」


「あ、そうすか?」


あれれ、なんだか悪い気はしないよ。そういやこの人と最後に、ってか最初で最後に会ったのは14歳くらいだったよな。そりゃ俺も高校生だし、大人っぽくもなりますよね?もっと誉めてくれてもいいですよ?


「ハハハ。冗談だよ」


「…」


殴ってもいいですか?その素敵な前歯をゴッキリへし折ってもいいですか!ってか相変わらず上から目線が好きだなあんたは。


「僕も25歳になったし、変わったろ?」


「そうすね…」


結局それが言いたかったんだろ?あんまり変わってねぇよ!だからいちいちポーズを決めるな!

…はっ!周りの女子の目が輝きからハートに変貌していってるよ!はっきり言って羨ましい、けど口には絶対に出しません。


もういいっすか?とその場を後にしようとすると、「ちょっと待って」と金田は俺の肩に手を置いてきた。できることなら振り払ってやりたいわ。


「実は僕、今年から副社長になったんだよ」


何ソレ、自慢?


「だから萌さんとの約束を果たせるんだ」


「約束って?」


萌のヤツ、イヤだとか言っておきながらちゃっかり約束なんてしてんのかよ。あっもしかしてこれが俗に言う「イヤよイヤよも好きのうち」?


「僕が副社長になったら結婚してくれるんだよ」


「うそぉーーーー!」


隣りで聞いてたあかねも、


「ウソォーーーー!」


やっぱりあかねは女性だね、俺よりもキーが高い。って今はそんなことに感心してる場合じゃないよ!そんな約束いつの間にしてたんだよ萌のヤツ…ってそういや俺もその現場にいたぁぁぁ!覚えてるぅぅぅ!


あかねとのコラボを披露していると、香の姉ちゃんと目が合った。しかも冷静に俺を見つめている。しっかし、香とは似ても似つかない顔してんな。


「あっそうだ綾君」


ムンクの叫び状態の俺達に笑顔を向けた金田が香の姉ちゃんに体を向けた。お姉さんの名前は綾さんっていうんですね、顔も美しければ名前も美しいね!


「はい」


「僕はこれから少しここを離れるけど、よろしく」


「え、ですが秘書として副社長をお一人にするなど…」


「僕だって1人で考えて、1人で行動することくらいできるんだ。それじゃあ頼む」


「……かしこまりました」


いいんですか綾さん(勝手に呼び始めたことをお許しください)こんな金持ちドラ息子に好き勝手言われて悔しくないんですか?あぁもう金田が行ってしまいますよ!


それじゃあと軽く手を上げた金田は、周りにいる女子に誘導してもらいながらゆっくりと消えて行きましたとさ…帰ってくんな!


「あの、キミってたしか」


まだムンクを続けていた俺に綾さんが声を掛けてきてくれた。ふと見るとあかねはもう普段の顔に戻ってるし。


「香の、友達だよね?」


僕のこと覚えていてくれたんですね?ありがとうございます!


「はい!一条 太郎です!」


「津田 あかねです」


ちゃっかりあかねも自己紹介なんてしちゃって!でも大丈夫、あかねちゃんも美人だよ!ダイジョブダイジョブとあかねの肩をポンポンと叩いた俺は、その手をさっさと振りほどかれた。ヒドイ、せめて一言何か言ってから振りほどいて欲しい。


「あの、綾さん?って、金田…さんの秘書なんですか?」


ここは呼び捨てはマズイだろうな。だから心を鬼にしてさん付けしました。


「うんそうなの。一条君は副社長とは知り合い?」


「いや、知り合いっていうか」


今まで1回しか会ったことがないから、知り合いと呼べるのかどうか。しかもその時はたしか…えっと、そうだ!ダンディおっさんも一緒だったな。

って、それじゃああの人はどこかの社長だったのか?どうりで威厳があると思ったよ。真さんはないけど。なんて考えていると、俺の意見なんて聞いていなかった綾さんが腕組みをして話し始めた。


「副社長ったら、突然『行かなければならない所がある!』って言い出して。私も訳もわからずついて来たんだけど、まさか婚約者がいたとはね」


「婚約者?それって、萌のことなの?」


うっ、俺に聞かれても困るよあかね。













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