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第50話 あごヒゲ生えたらもう大人

御曹司の金田 幸哉、彼との出会いは今から約2年前。少々昔話にお付き合いをお願いします。



中学2年生の冬休み、夜中まで直秀とゲームに夢中になっていた俺は萌からの電話が来ていることに全く気付くこともなく自分の部屋で爆睡していた。


「兄ちゃん、萌ちゃんから電話だよ」


「萌ぇ?誰ソレ?俺の知り合いにそのような人はいないよ直君」


直秀が子機を持って俺の部屋に入って来るなりイヤなことを言ってくれた。狭い家でそんなにデカイ声を出さなくても聞こえてるっての。眠いんだから、冬休みなんだから。


「そんなこと言っていいの?萌ちゃんに筒抜けだけど」


「なっ、ボケェ!なんで受話音量最大にしてんだよ!」


はい、全て丸聞こえでした。だって電話に出るなり「バカアホ!」と罵られたから。わざわざ起きて電話に出てあげたのに第一声がそれかい。


「ど、どうしたんですかこんな朝から」


『もう昼!あんた、今すぐ家に来て!』


返事も聞かないうちに電話を切られた俺は、まだ部屋にいた直秀と目が合った。お前、お前のお陰でぇ!


「喰らえ卍固め!」


「痛い痛い!痛いってぇ!」


「太郎!あんたうるさいよ!」


母ちゃんの声の方がうるさいよ!ってかなんで俺ばっか怒るんだよ!直秀にだって非があるでしょうが!長男ってホント損な役回りだよ!


「イテテ…に、兄ちゃん早く行かなくてもいいの?」


「行くよ!ただしお前が気絶したら行く!」


「ヤダよ!お母さん!お母さん!」


親を呼ぶとは汚い子どもだね!まったく手を緩める気はない俺は、おりゃぁ!と直秀が泣きそうな顔を見つつ力を込めた。

うお、ミシミシ音が聞こえてくるよ。これは母ちゃんが階段を上ってますよって音で間違いない!くっそぉ、もう少しだったのに!こうなりゃ!


「ほあぁぁ!」


「ごあぁぁ!」


母ちゃんが部屋に突入する前に直秀を解放してあげた俺は、フライングクロスチョップを彼に喰らわせた。


「太郎!あんたってヤツは……あれ?直秀あんた何で寝てんだい?」


入ってくるなり俺を怒ろうとした母ちゃんは、俺の敷きっぱなしの布団に寝そべる直秀に目を奪われた。頼む直秀、そのまま起きないで。


「突然の睡魔に襲われたみたいよ」


「まったく、自分の部屋で寝なさいって」


よっこいせと軽々と直秀を肩に担いだ母ちゃんは「早く萌の所へ行きな。じゃないと転校させられるよ」と恐ろしい一言を呟いて部屋から出て行った。こえぇ、真さんならやりかねない。急いで着替えて俺!





ピンポーン。


「…なんで誰も出てくれねぇんだよ」


あれから5分で着替え歯磨きその他を終えた俺は、秋月邸の門が開いてたから勝手に入り玄関のチャイムを鳴らしていた。ふと見ると何台も駐車できるスペースには見たこともない外車が止まってる、高いのかなこういう車って。


「あれ、開いてる」


試しにドアノブに手を掛けてみると、開いちゃったよ。

すいませーんと言っても反応はない。こんなバカでかい屋敷でこの無防備さ、泥棒さんこんにちは所の話じゃない。


入っても誰のお出迎えもなし、おばさんが来てくれる様子もなし。勝手に入るけど、おじゃまします。


「僕と、付き合ってください!」


今のドアを勝手に開けた俺は、聞き慣れない男の声を聞いた、そして驚いた。俺、俺に告白したのか?うん、ありえない。


「も、萌!幸哉君もこう言っていることだし!」


目の前には無表情を貫いている萌、の隣りでなんとか頷いてもらおうと必死な真さん。俺はというと、ドアノブに手を掛けたまま動けないでいた。俺、なぜこの場所に呼ばれたんだ?


「あれ、太郎?」


固まったままでいた俺にやっと気がついてくれたのは、真さんでした。でもその表情からして歓迎してないな、何でここにいる?って顔だ。

14歳の少年に向かってその態度はどうなのさ。


「こん、こんにちはー…」


場違い率100%の俺は、そっとドアから手を放すとおほほーと無意味な笑いを見せる。でも笑ってくれる人は皆無。


「え、もしかして萌が呼んだのかい?」


「そう」


悪びれる様子もなく、真さんに手を握られていた萌はそれを振りほどくと俺の元へ走り寄って来た。それを見ていた俺は、近寄って来た萌に視線を合わせる。ちゃんと説明してくれぇい。


「萌さん、説明求む」


「メンドイから後」


うわサイアク。せっかくこの忙しい冬休みにわざわざ時間を割いて来てあげたってのに。ってか寝てただけですけどそれがなにか?


「秋月さん、彼は?」


なんだこの渋すぎる声は?と見ると、ソファにどっかり腰を落としているダンディな男の人が葉巻をくわえて俺を見つめていた。しかもなぜか勝ち誇った顔。勝負した覚えはないんですけど。


ダンディおっさんの質問に少し慌てた顔をした真さんが、身振り手振りで俺の紹介をしてくれた。


「か、彼は隣りに住んでいる子ですよ。萌と同級生なんです」


「ほほぉ、同級生ですか…ふぅむ、萌ちゃんよりも年下に見えるけどねぇ」


おいオッサン!初対面でその挨拶はないんじゃないの?よく見てください、微妙にあごヒゲが生えてるのわかります?どんどん大人に近付いていってんだよ!少年を見くびらないで!


などとは言えない小心者の俺は「よく言われます」と拳をギュッと握った。その横で萌が申し訳なさそうな、いや、少し笑ってやがる。お前に呼ばれたせいで知らない人に小バカにされてんですけど!


直で睨むことができない俺は萌の足下を睨みつけていると、彼女に求婚した幸哉と呼ばれた青年がスタスタと背筋を伸ばして近付いてくる。

見たトコ俺よかずっと年上っぽいな。大学生かな?

なんて考えていると幸哉さんがスイッっと手を差し出してきた。なんだ?お手とかって言う気?俺はそこまでいじられキャラじゃないよ!


「初めまして。金田 幸哉といいます」


俺はあなたの犬じゃない、って言おうとしたのに拍子抜けしちゃったよ。でもとても礼儀正しい青年だ。見るからに金持ちそうだし。


「はじ、初めまして。一条…太郎、です」


なんで俺、萌にプロポーズした人と握手してんだ?いまいち状況が理解できないんですけど。

しかし萌は俺と金田と名乗る青年が握手しているのを見ようともせず、疲れた顔で溜め息を連続で吐いた。ってかよく連続で溜め息を吐けるな。


「突然だけど、キミは萌さんのことをどう思っているのかな?」


「ど、どうとは?」


「好きなのか、愛しているのか」


その2択おかしくないですか?どっちを取っても真さんは睨む気マンマンなんですけど!しかも段々と手が痛くなってきてる!笑顔見せてるけど結構力入れてるよこの人!年下にそんなムキになってどうする!


「ゆき、幸哉君!太郎と萌はそういう関係ではないよ!」


いででと苦痛に顔を歪めている俺の肩に手を置いた真さんは、動揺しまくりで金田に笑顔を振りまく。ってちょっと!肩に置いた手!力込めすぎ!別に肩とか凝ってないから!


手と肩、両方の痛みに耐えかねた俺は「痛いです!」と2人の手を振り切り、なぜか萌の背後に回った。これなら誰も攻撃などできまい。俺って男らしくない。


「いや、萌さんの彼を見るその瞳でわかりました。ただの友人を見る瞳ではありません」


くっせぇセリフだね。俺なら口が裂けても言えるわけがない。しかも瞳と書いて『め』と言ったからねこの人。

それに萌が俺を友人と思ってないなんてハナから知ってますよ。この子は俺を奴隷として見てるんですから。


「しかし、僕はこんなことでは諦めません。萌さんもう一度言わせてください。僕と結婚してください!」


違うよね!さっきは付き合えって言ってたでしょ。話が飛びすぎだから。しかも萌はまだ14歳、結婚するにしてもあと2年待たないとね。


「え、あのムリ、です」


そう言って後ろにいた俺を彼に突き出した萌…なんで盾にされてんだよ。俺に文句を言うときは威勢がいいクセに、こういうときに限って何でしどろもどろになるんだよ。いつものお前を出せばものの4秒で帰ってくれるよ?


萌の小声の返事を聞いた金田は一瞬しょぼんとした顔を見せた、がすぐに元の涼しい顔に戻ると俺を挟んで萌と会話を勝手に始めてくれた。


「ど、どうしてですか?」


「え、どうしてって…」


ちょ、押すな!押されてもどうにもできねぇよ!このままじゃ好きでもない人と抱き合うことになる!ってか男!この人男!

しかも萌!理由なんていくらでも挙げられるだろ!例えば、顔が気に入らない…カッコ良いから却下!じゃあ金持ちじゃないから…真さんの知り合いって時点で金持ち決定、却下!……え〜と……却下!


(太郎!)


微妙に指で背中を刺さないで!お前は爪長いんだから痛い!悪いが俺に勝てる要素はゼロに等しい!何を言ってもムダ!


(ムリ、ムリだから!)


(じゃあ何で来たんだよ!)


(萌が呼んだからでしょ!)


俺と萌が瞬きも忘れてアイコンタクト合戦を繰り広げていると、ダンディおっさんが葉巻をくわえたまま立ち上がり、萌を真っ直ぐ見据えている金田の肩を優しく叩いた。で、デカイよおじさん。190センチ以上はあるな。


「幸哉。きっとお前が親のスネをかじって仕事もしないから断られているんだ」


「え?本当ですか萌さん?」


「い、いや…」


バカ!そこは何でもいいから頷いておけばいいんだよ!チャンスだよ!


何も言わず萌と数秒間、見つめ合った金田は俺をチラリと見た。でも睨んでいない。もう諦めたのか?案外楽勝だったね。


「それじゃあ、僕が副社長になったらもう一度あなたに会いに来ます!」


なんて前向きな方!しかもなぜ社長ではなくて副社長?というツッコミをやっとこ飲み込み、彼の潔さに感動した俺は後ろにいた萌を金田の前に移動させた。


はっきり言うことは言わないと、相手に悪いよ。イヤならイヤと言わなきゃ申し訳ないでしょ。ってさっきムリって言ったけど、きっと忘れてると思うからもう一度言ってあげた方がいいよ。


「あの、ご、ごめ…」

「お返事は次回お会いしたときに伺います。父さん、行きましょう」


「お?あぁそうだな。それじゃあ秋月さん、今日はこれで」


「へ?あっはい!何のお構いもできませんで」


ちょ、ちょっと?萌は心を決めて返事しようとしたのに勝手に帰るの?最後まで聞いてあげてくれないわけ?


ポカンとしている萌を背中に金田親子が真さんに続いて居間を後にしようと歩き始めた。勝手な親子だな、ちょっと待てぇ!


「ちょっと待ってください!」


引き留めちゃったよ、しかも俺が。どうしよう、言葉なんて全く考えてもいない。萌はどっか一点を見つめたままボケッとしてるし、おばさんはいないし!


「なんでしょう?」


優しい笑顔を見せている金田が俺に体を向ける。ガン見してる、何か言わないと、何でもいい!


「ぼ、俺は…萌に、萌の、萌が…」


「はい?」


何を言おうとしてるの俺。何の勉強してんだ?ほらほら、金田親子に真さんまでもが?な顔を向けてるよ。どうする、ここは何でもいいから言うしかない!


「あえ、え〜と、も、萌も、多分、いい大人になっていることでしょう」


なんの予想してんだよ!萌を助ける為に呼び止めたんでしょ!意味不明なこと口走ってしまった!


「…?はい、待ち遠しいです」


金田さん、あなたはとても誠実な方なんでしょう。きっと汚いモノになど触れたこともないんだろうね。じゃなきゃそんな清々しい顔なんて見せられないよ。このボンボンがぁ!



と、長々と昔話を語って思ったことがある。語ったところで何かあるのか?金田がとってもいい人だとアピールして終わっただけじゃねぇか!












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