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第46話 母ちゃんに勝てる人はいない

「父ちゃんは?」


「まだ帰って来てないよ」


「マジで?父ちゃん帰って来たらメシにするって言ってたのに」


俺とあかね、そして母ちゃんがダイニングテーブルを囲んで座っていた。そして晩メシはカツ。試合に勝つ、という意味らしいけどもう終わったし。母ちゃん恐るべし。


「あかねが来たのに待たせたら悪いだろ」


俺は散々待ったんですけどね!父ちゃんがかわいそうだな、俺は絶対に優しい奥さんをもらう!


「また快勝したんだって?」


「あっはい」


「最高だよあんた!全く、太郎も何かやったらどうだい?そしたらちゃんとご飯作ってやるのに」


部活やったら作ってくれんのかよ!なんだよその考え方は!


母ちゃんはあかねがお気に入りだ。中学に入った時、道路で転んでのた打ち回ってた俺を家まで連れて来てくれてからの付き合い。母ちゃんはあかねに会うと必ずといっていいほど、


「あんたみたいな子どもを生んどきゃよかった」


と、実の息子の前で悪びれることなく言う。ヒド過ぎるよね。


「あれ、俺のカツは?」


「ほら」


俺の前に出されたカツは、小せぇ!ヒイキし過ぎだから!


「小さすぎだよ!こんなんじゃ腹の足しにもならねぇ!」


「じゃあ焼きそばでも作りな」


だから何で焼きそばなんだよ!他にないんかい!

でもこれはさすがにヒドいだろ、あかねのカツの半分もねぇよ。


「た、太郎?あたしそんなに食べられないから交換しよ?」


「あ、あかねぇ!!」


優し過ぎだよあかね!これじゃ勘違いもするわ。よし、あかねみたいな嫁さんを頂戴することにしたよ!


(お前にはムリな夢だよ)


るっせぇ悪魔!


「ありがとうあかねぇ!」


思わず隣りに座っていたあかねを抱き締めそうになってやめた。本能に従って動いたらきっと母ちゃんの箸が飛んでくると予想したから。そんなにあかねがお気に入りかい!?


「ダメだよあかね。あんたは試合で疲れてんだから。いいんだよ、太郎は何もしてないんだから」


「ひでぇよ!俺だって頑張ってんだ!」


「何をさ?」


「い、生きることを」


「はいはい頑張ったねぇ」


ちょっとは関心を示してよ!しかも頑張ったって過去形止めて!終わったみたいでなんかヤダ!


「太郎、なんかごめんね」


カツを二口で食い終えた俺に、あかねが申し訳なさそうに言ってくれた。キミは何も悪くないよ。悪いのは母ちゃんだ!お客さんに気を使わせるなんて!




それから俺と母ちゃんの痴話ゲンカを聞きながらもあかねは完食してくれた。食いづらかったよね、ごめんよ。


「ご馳走さまでした!」


「あいよ!」


おいしかったですと言ったあかねに母ちゃんはマジで嬉しそうに返事を返す。

彼女を実の子どもだと思い込みたいらしいな。だが残念、あなたの子どもは俺と直秀だよ!


「お茶でも入れるか。あかねも飲むでしょ?」


「え?太郎が入れんの?」


「俺は家庭的な人間なんだよ」


マジで?と本当に驚いた顔を見せるあかねさん。俺は小さい頃から母ちゃんにお茶を入れ続けてんだよね。


「あたしにも頼むよ〜」


ソファにどっかりと座った母ちゃんが「あかね!隣りに座りな!」と大声を張り上げた。ってかあかねの耳は正常なんだからそんなデカイ声出さなくても聞こえるっつーに。


「あい、どうぞぉ」


お茶を持って来た俺はソファの前のテーブルにそれを置くと床にあぐらを掻いた。2人用のソファだから俺の場所はない。


「あっありがと」


お礼を言ってくれるのはキミだけだよあかね。母ちゃんは当たり前のように茶を啜ってるし、少しはあかねを見習え!


「あんたって恋人とかいないのかい」


「俺?」


「誰があんたに言ったよ。あかねに聞いたんだよあかねに。あんたに恋人がいないことなんて知ってるから」


あぁそうですか!そりゃ悪うござんした!でも俺の顔見ながら言ったじゃんか。しかもヒドい言い草だなぁ。


「で?どうなんだい?」


「いま、いませんよ」


戸惑いながら答えるあかね。困らせないでやってくれよ母ちゃん、俺の数少ない友達なんだから。


「あららいないのかい?じゃあ太郎なんてどうだい?」


「「えぇ?!」」


「あっダメだ。太郎はダメだ」


自分の言ったことに責任持ってよ!それにダメって言うな!これでもあんたの血が流れてんだから!


「直秀の方がいいよ!あの子は優しくて良い子だから」


「俺だって優しいわ!」


「バカだねあんたは。自分で言った時点でそうじゃないんだよ」


「息子を信じろ!」


「焼きそばすら作ってくれない息子が優しいわけないだろ!」


焼きそばで優しさが決まるのかよ!そんなに食いたいならいくらでも作ってやるわ!ってか自分で作ってくれよ。


「母ちゃんさっき直秀はデートだって言ってたじゃんか」


「ありゃアタシの勝手な推理だよ」


勝手な推理すんな!先越されただの何だのって散々俺にキツイ言葉を浴びせておいて結局は推理かよ!


「あかねみたいな娘がいたら良かったのにねぇ」


「母ちゃん、俺がいるよ」


「…そうだね」


ちょっと考えたろ今。俺じゃ不満か?ってかあかねが娘だったら食事の支度とか全部任せるつもりだろ。


「…」


「どしたあかねぇ?お茶熱かった?」


母ちゃんとの口喧嘩を聞きながら、目の前に置かれたお茶をジッと見つめてるあかねに気がついた俺は優しさが溢れる声で聞いてみた。

どうかしたのか?母ちゃんがおかしなこと言うからいつも明るいあかねが黙っちゃってるよ。


「な、なんでもないよ」


言葉に詰まってる時点でなんでもない訳がねぇ。ホントあかねってウソがつけない性格だよね、でもそこがまた魅力的。


「太郎がいるからゆっくり出来ないんだろ?」


「あかねは俺に会いに来てくれたんだよ!ってか母ちゃんがいるからじゃねぇの?」


「なんでだい?」


「じろじろ見過ぎだから」


「あんたのことは見てないから安心しな」


「俺をじゃねぇよ!」


母ちゃんが俺を見てない事なんて百も承知だよ!……たまには見てよ。


「あの!あた、あたしそろそろ帰らないと」


ほらぁ母ちゃんがあかねをガン見してるからだよ!せっかく来てくれたってのに。


「慌てることなんてないよ。帰りは太郎に送らせるし大丈夫だから」


勝手に決めんな!ったく萌みたいなこと言うなぁ。もしかしたらアイツって母ちゃんみたいなオバさんになんのかな…見たいような見たくないような。


「いや、でも明日も朝練があるんで」


「あらら今日が試合だったのに休みもナシでまた練習があるのかい?あんた強いんだから少しくらい休んだってバチは当たらないよ?」


「母ちゃん、あかねは強いからって天狗になったりはしないんだ。いつでもハングリー精神なんだよ」


「お腹空いたなら焼きそばでも作りな」


「そのハングリーじゃねぇよ!」


どっから腹空いたって話に繋がるんだよ!ってか絶対に意味がわかって言ったよな。


「き、今日はありがとうございました!それじゃ!」


俺と母ちゃんが油断したスキにあかねは立ち上がると、一回頭を下げたと思ったら玄関に走り出した。それをボーゼンと見てる俺に母ちゃんが溜め息混じりでボソリと呟いた。


「あんたってよっぽと嫌われてんだねぇ」


「違うわ!あか、あかね待ってぇ!」




あかねは俺の部屋にスポーツバッグを置き忘れていることに気がつかないまま家を出て行った。


俺はというと、母ちゃんに「急げ太郎!」と急かされ、バッグを抱えて家を飛び出した。ってあかね足速くて見失ったよ!自分の家に帰ってるならこの道で合ってると思うんだけど。


ガササッ


「うわっ!っくりしたぁぁ!」


街灯が消えているから暗くて怖い。携帯電話も家に置いて来たし応援も呼べない。マジであかねに会いたい!


「…おわわっ!」


後ろが気になった俺は振り向くことも出来ずに走り始めた。なんか感じるよ、殺気というか寒気が。どこに隠れたんだよあかね!


「うわっ!」

「だだぁ!」


曲がり角を急いで通過しようとして、誰かと激突した。でも勢いに負けて倒れた俺に誰かを確認する余裕はない。


「す、すいませ…あっ太郎?」


「いでで、あっあかねぇ?」


おでこをさすりながら立ち上がった俺達はしばしの間お互いを見ていた。と、彼女が俺が持っていたスポーツバッグを指差した。


「あっあたしのバッグ…もしかして届けてくれようとしてた?」


「あんた走るの速くて追いつけなかったんですけどね。ってか送るって言ったのに」


「ごめんごめん」


「まぁ会えたからいいんだけどねぇ」


あかねがスポーツバッグを俺から受け取ろうと手を差し出してきたけど、送るという仕事を任された俺がそれを渡すハズはなく、彼女の横に移動した。絶対に家まで送ってやる。


「ちょ、太郎。いいよ送ってくれなくても」


「送るって決めたんだよ!いいから私の隣りに来なさいな」


「…キツイなぁ」


「何がキツイ?」


「あんたと二人でいることだよ」


「ひでぇ」


俺のこと好きでもないけど嫌いでもないって言ったじゃんかよ。キツイとか面と向かって言わないでくれ。でもあかねの目は俺を嫌っている目じゃない……と勝手に思い込んでおこう。


「ワタクシはあかねが大好きなのにぃ!」


「ちょ、大声でおかしなこと言うな!」


「好き好きあっかねぇ!ひゃっほぉぉ!」


スポーツバッグを振り回しながら俺を捕まえようとするあかねを避けつつ走り出した。きっとものの5秒で捕まるだろうね。でもめげないよ!


「ワタクシはあかねラブなのぉぉ!そしてエビフライもラブなのぉ!」


「マジで!マジでやめろ!」


「ぐわぁ!」


あかねの鋭いローキックがモロに俺の右足をとらえた。ほらやっぱり早速捕まったよ。しかも試合で見たキックよか数倍強い。


「ちょ、ちょっとは加減してくれぇ」


痛すぎて地面に膝をついた俺はスポーツバッグをあえなく奪われた。そこまで俺のラブラブソングがイヤだったの?あれ、笑顔じゃないよ。怒ってるよこの顔は。


「なん、なんでそこまで怒るんだよ」


「あんたがおかしなことを言うからだよ!萌に聞かれてたらどうするのさ!」


「萌は関係ないしぃ」


今日のあかねこそおかしいよ。なんでまた萌の名前が出てくるんだよ、今は俺とあかねの話をしてるんでしょうが。


「関係は、ないかもしれないけどさぁ」


「?」


なんだ?なんでそんな困った顔してんの?






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