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第43話 簡単に念力は出ない

イスに座った俺はドアの方を見たまま動けません。萌は立ちすくんだまま動けません。そして直秀と美奈さんは「?」な顔したまま僕達を見ています。


どうしてかと言いますと、俺の視線の先には私服を格好良く着こなしている、背が高くて男前な顔をしている男がいたから。その名は晃…なんでお前がここに存在してんだよ!ややこしくなるわ!


「萌ちゃん!俺の萌ちゃん!待ち合わせもしてないのに会えるなんて奇跡だ!神様の思し召しだよ!最高だよ俺!」


最悪だよ!なんでこういうときに限ってめんどくせぇヤツに会うんだよ。

でもまだ晃のやつは俺に気がついていないみたいだ。よっしゃ、俺は低い体勢を保ったままこの店を出よう。


「あれ、キミはたしか…太郎の?」


「あっ、はい。兄がお世話になってます。弟の直秀です」


うまいことテーブルに隠れた俺は、直秀が晃に捕まったのを見届けると立っている萌に視線を移した。そう、さよならの合図を送りました。


「ぐえっ!」


服を引っ張られたせいで息が詰まった!俺なにもしてないじゃんか!さよならって目で合図しただけだよ?


「何すんだよ…!」


晃に気付かれたら困るから怒りの発言も小声になっちゃうよ。でも萌は俺を見下ろしたままで動かない。


「あんた、逃げる気でしょ」


テーブルの下にいる俺に向かって萌が毒を吐くように小さく呟く。ヤバイ、ここで「はいそうです」なんて言えない。


「え?まさ、まさか!」


「目が泳ぎすぎ」


「…マジですか」


俺も直秀同様、ウソがつけない正直者だったのか?ってか逃がしてくれないのかよ!こんな所でお前といるの見つかったら晃に何をされるかわかったもんじゃないって!それでなくても晃には借りがあるんだからさ。だからここは晃にバレないように逃げさせてください!


「直くん!この人、直くんのお友達なの?」


「え?あぁ、兄ちゃんの友達」


あれ、美奈さん?あなた目が輝いてますけど?晃に一目惚れか?やっぱり男は顔なのね。ラッキーだったね直秀、これで美奈さんの心は晃に移ったよ!…お前も逃げろ!そして俺を連れて行け!


「あの、初めましてぇ!私、鈴木 美奈って…」

「萌ちゃん!これから俺と映画でも見に行かない?」


さっきの俺のように喋ってんのにかぶしたよ晃!でもお前、せっかくかわいい声だしてアピールしてんだからさぁ、ちょっとは話を聞いてやってもよくないか?お前には萌しか見えてないの?……聞くまでもないか。


「今忙しいからムリ」


「とか言って、本当は俺とどこかに行きたいと思っているんだろ?目は口ほどにモノを言うってね!」


意味不明だな。萌の目を見ろよ、あれはどこかに行きたいぃ!って目じゃないよ。どこかに消えろ!って目をしてるんだよ。気付け晃!


「な、お、ひ、でぇ…!」


テーブルの下から晃にバレないように俺はすんごい小声で直秀を呼んだ。俺を助けられるのはお前しかいないんだよ。


「なんだよ?ってか何やってんの?」


ボケェェェ!声を出すヤツがあるか!今まで隠れてた意味がまるきりないじゃんかよ!


「誰かいるのか?」


やっべぇ!晃がこっち来る!逃げたい逃げたい!でもどこへ?


「あっ太郎じゃねぇか!お前こんなとこで何をやってんだよ」


やっぱりバレてしまったか。無念!…いいよ、覚悟を決めてやるさ!


「おぉ晃さんではないですか!お久しゅうございます!ささ、どうぞ座っておくんなまし!ほら直秀!晃さんに紅茶でも頼まないか!」


ここは気分良くしてやって、その間にダッシュで逃げるしか方法はないな。大丈夫だ、晃は萌しか見てないし、俺がなんでここにいるかなんて考えてもいねぇよ、へへへぃ。


「なんでお前が萌ちゃんといるんだ?」


「え?」


考えてたのかよ!ってか言い訳なんて考えてるヒマなかった!

たす、助けて萌!と俺は立ったままでいる萌に助けて光線を出した。


「…」


無視かよ!あれだけ俺に助けて光線を出しておきながら…俺が助けてあげなかったから復讐してんのか?助けておけばよかった!


「あの、晃さん?」


ちゃっちゃと萌の隣りに座っている晃に美奈さんが近付いて来た。予測できる。「秋月さんとはどういう関係なんですかぁ?」だよね?そして修羅場に発展する!


「秋月さんとは、どういう関係なんですかぁ?」


きたきたぁ!俺の予知はバッチリだね!


「関係?なんで?」


てめっわかってねぇ。なんで?って質問する意味がわかんねぇ。このアホどうにかなんねぇかなぁ。


「ですから、秋月さんと付き合ってるとか?」


「付き合ってるとか?って何が?」


「…」


徐々に美奈さんの声に元気がなくなっていく。そりゃそうだ、アホな質問返しを喰らってんだから。ってか直秀、お前が少し可哀想になって来たよ。あっけなく晃に鞍替えしちゃって、女ってのはみんな魔性の女なのか?


「俺達はそういうのには縛られないんだよ。なぜなら一心同体だから」


「…」


答えになってねぇ。付き合ってんのかどうかって聞いてんだよ晃君。美奈さんなんて言葉を発する元気すら失ってるよ。

あっ息を吹き返した…なんで晃と直秀を交互に見てんだ?品定めしてるのか?女性って、怖いわぁん。


「秋月さんって、もしかして二股してるんですか?信じられなぁい!」


な、なんか、美奈さんが見る見るうちに意地悪姉ちゃんに見えてくるんですけど。でも萌は何も言わずにジッと俺を睨んでる。安心しろ、晃が助けてくれるさ。


「キミ!今なんて言った!?」


予想通りに動いてくれる男でよかったよ。でも相手は女性なんだから、やんわりと怒らなきゃいけないよ?


「二股してるだぁ?どの口が言ってんだ!萌ちゃんは俺以外見えてないんだよ!」


「それこそ勘違いだからぁ!」


コイツに任せるんじゃなかったよ!萌の顔が真っ赤になる前になんとかしないと!ってもうなってる!新規オープンの店を一日で廃業させたくない!ここは無理矢理にでも萌を連れて外に出なければ!


「晃お前ちょっと黙れ!萌、行くよぉ!」


「離せバカ太郎!」


「ひゃっほぉ!」


あなたの右ストレートなんて何回喰らってると思ってる?もう簡単に避けられるんだよ!暴れないで静かに俺に引っ張られてよ!


「俺の萌ちゃんに触るなぁ!」


「「お前のじゃない!」」


萌の腕を引っ張っていた俺と彼女のコンビネーションラリアットが晃の胸を捉えた。「ごぷっ」と無様に床に倒れ込む晃。


「こ、この野郎。お前の萌ちゃんでもないんだぞ!」


「知ってるわ!」


誰がいつそんな怖いこと言ったんだっつーに。頼むからおかしな発言はしないでほしい。

倒れたまま萌を見つめる晃を飛び越えた俺は、ついて来いと言わんばかりに彼女の手を引っ張った。お前も飛び越えろ!


「ちょっ危なっ!」


「ぐわぁ!」


飛び越えることが出来なかった萌は晃の腹を思い切り踏んでしまった。跳躍力ねぇよ萌!でも相手は晃だ、やっぱり嬉しそうな顔してるよ…変態!


「も、萌ちゃんに踏まれて死ねるなら本望だ…」


「あ、晃さん大丈夫ですか?」


苦しむ晃を無視してドアを開けようとした時、美奈さんのかわいい声が聞こえてきた。介抱してあげてくださいね。よろしく!


「立てますか?」


あらら、背景にバラの花が見えそうな笑顔を見せてるよ。晃のヤツめ、羨ましい!でも晃君は彼女は見ていません。俺の隣りにいる女性を見ています。


「ちょっとキミどいてくれないか?萌ちゃんが見えない」


「え…」


ちょうど美奈さんが遠くにいた萌の姿を遮っていたのか、晃が踏まれた腹をさすりながら起き上がった。ってお前はどれだけ萌が好きなんだよ。


「太郎!いい加減萌ちゃんから離れろ!さもないとヒドいぞ!」


「どうヒドイんだよ!」


「俺の念力でお前の両足が靴擦れを起こす!」


「微妙に怖いわ!」


ネチネチ攻撃もいい加減にしろ!お前にそんな能力はねぇだろが!俺が萌の手を握っただけでそんなにキレんのか?真さんかお前は。


「おおぉぉぉ!」


念力をかけているのかどうかは別として、立ち上がった晃が手の平を俺に向けてきた。そしてゆっくりと近付いてくる。目がマジだ…靴擦れ起こしたくない!


「わか、わかった離すよ!離せばいいんでしょ!」


晃に念力なんて送れるハズはないとわかっていても、怖くなった俺は萌から手を離した。これで俺の足は安心…って!


「おおぉぉぉ!」


「ちょっもう離したって!なんでまだ念力送ってんだよ!」


コイツはどこ見てんだよ!手の平が俺じゃなくて萌に向いてるって!このままじゃ萌が靴擦れを起こす!


「おおぉぉぉ!もぉぉえぇぇちゃぁぁん!」


「おわっ………ねぇ萌」


ずっと俺に念力をかけてくる晃が怖くて咄嗟に萌の後ろに隠れていたが、いつになっても靴擦れを起こす気配はなさそうだね。

俺は呆れた顔を見せる彼女の隣りに移動し、小さく声を掛けてみた。ってかこんんなに大声で叫んでるってのに、何で誰も何も言って来ないんだ?俺達をスルーしてんの?


「なに」


「あなたって、ああいうヤツに好かれること多いよね」


「…それ嫌味?」


「いや、素直な気持ちを言っただけ」


嫌味などでは決してありません、逆に同情しているんだよ俺は。思えば萌って変なヤツにばっかり好かれてたような気がするよ。

去年なんてクリスマスでもないのにサンタの格好をした男に告白されてたよね。その前は「キミにはサングラスが似合う!」って言い寄って来た男に鼻メガネをプレゼントされてたし。

お前ってそういう星の下に生まれたのか?


「萌ちゃん」


ボケッと晃の1人コントを見ていると、いつの間にやら俺の隣りに移動してきた直秀が小声で呟いた。疲れた顔してんな、家に帰って寝た方がいいぞ。ってか俺に話しかけてんのに萌ちゃんはないでしょうよ。


「今日はごめんね」


「え?あぁ大丈夫だよ。それより直秀の方が大丈夫?」


「ちょっと予定とは違ったけど、鈴木のヤツ宮田先輩を好きになってくれたみたいだから一安心だよ」


「そっか」


「うん、ありがと」


ちょっと待てぇ。話に混ぜてくれ!なんで俺を中心に立ってるのに2人だけで会話を楽しんじゃってんだよ!俺だって被害を(こうむ)ってんだよ!ここは無理矢理にでも話に入るしかねぇ!


「萌も直秀もモテモテだからねぇ…」


自分で言ってて虚しい!誰か、誰か僕を好きだって言ってくれる人出て来て!後でジュースを奢ってあげるから!


「あっやっぱり太郎ちゃんだ!」


「あ?」


誰だ?俺をちゃん付けで呼ぶ人なんて存在したか?ってかこれ以上話をややこしくしないで!まだ晃は念力を込めてるし、美奈さんは萌を睨んでるし、直秀は重〜い溜め息をついてるし!


「ちゃうぃ!」


……アホが来たし。









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