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第37話 初めてのデジャヴ

一人で(卵だけは萌に食べられたけど)八宝菜を平らげた俺は、そのお礼にと現在、皿洗いを実行しています。目の前には俺が買ってきた柿の種とサラミを食っている女2人。対面式キッチンだから何やってんのか丸見え。


ってかそれで酒でも飲んでたら間違いなくただのオヤジ。その前にハンバーガー食ったから腹一杯じゃなかったっけ?甘いモノ以外でもおやつは別腹なの?


皿、といっても数枚しかなかったからちゃっちゃと洗い終えた俺は、なぜか少し前まで高瀬が身につけていたエプロンをしています。自分で言うのも何ですが、キモイ!


「さぁて、じゃあ俺そろそろ帰るわぁっておぉぉぉい!それ俺のご褒美!」


新妻みたいにエプロンで手を拭いていた俺がふと見ると、萌が(俺の)チョコレートの封を破りあろうことかムシャムシャと食べている。

さっき俺言ったよね?俺のチョコって言ったよ!


「ちょ、ストップストップ!食べちゃダメだってぇ!」


返して!と彼女から奪うも、もはや俺の手の中にチョコは見当たらない。食うの早いっての!一気に食い尽くしやがった。その細っこい体のどこに吸収されたんだ?


「俺のチョコって言ったじゃんか!なんで食うんだよ!」


「あったから」


「あったから?そうかそうか、それは納得…できるか!返せ!俺のチョコレイツ返せ!」


「もう胃の中に入ったから返せない。…チョコレイツってなんだ」


おま、悪い顔してんなぁ。そんなんじゃ嫁のもらい手なんざ見つからないよ? でも真実を告げたら殴られるよな。

うずらの卵は食うわ、チョコは食うわ。最悪だよあなた!


「あぁもう…」


怒る気力も失ったわ。と肩をガックリと落とした俺はなぜかまたも笑っている高瀬に視線をずらした。俺が嫌がらせを受けているのがそんなに楽しいのかい?


「高瀬さんよぉ、なんで笑ってんだ。お前からも何か言ってやってくれぇ」


「幼なじみっていいよね」


「「よくない!」」


立ったままの俺と、ソファでくつろぐ萌が同時に叫んだ。ってか睨むな!今は俺が睨むところだからね!

それに幼なじみなんて生易しいもんじゃないって。俺は萌に同等の人間として扱われてないんだから。


「もういい!俺帰る!」


ムダに大声を張り上げた俺はエプロンを脱ぐとテーブルにそっと置き、萌が座るソファに乗っかっている学生服を取ろうと手を伸ばした。


「いだっ!」


なんで殴るんだよ!お前を触ろうとしたんじゃないよ、学生服を取ろうとしたの!まったく、被害妄想ヒド過ぎなんだから。ってだから何で睨むんだよお前。


イタタと頬をさすりながらも学生服を恐る恐る、尚かつ素早く取った俺は睨む萌を無視してそれを着た。と、ある重大な事を思い出した。


「あっそうだ、はい」


当たり前に手を差し出した俺を「は?」という顔で見る萌。意味がわかってないのか?


「柿の種とサラミ代。消費税込みで417円になります」


柿の種もサラミも198円だったんだよね。おつりは俺の小遣いになるから安売りしてたの買って来たんだよ、俺って天才!


「っはぁ…あんたって、ケチだね」


「はいぃ?」


それはお前だよ!ハンバーガーを俺に奢らせておいてそれはないだろうよ。俺は太っ腹太郎よ?


メンドくさっと立ち上がった萌は、高そうな財布(きっとブランド物だとは思うけど、そういうのに疎い俺にはわからん)を取り出すと500円玉を……投げつけてきた。


「イタッ!ちょっ速すぎて取れないから!」


ちょっとは手加減して投げろってのよ。ホッペにベチッと来たわ!でも素直に払ってくれたからこれ以上は何も言わないであげよう。


「えっと、500円だからおつりは…え〜…………」


あ、暗算ができねぇ。俺ってそんなアホな少年だったのか、めちゃくちゃ落ち込みそう。


「83円だよバカ太郎」


うお、暗算早いね萌。ってかバカはいらないだろう…今はいるか。


「はい、じゃあ83円の……あっおつりない」


ちょうどうまいことに小銭がなかった。どうする?サービスで100円返すか?


「いらない」


「え、いいの?」


「83円だし」


この、さすが社長令嬢!でも覚えておけ、83円に笑う者は83円に泣くということを!ってかラッキー。じゃあここは少し褒めてあげようか。


「萌ちゃん太っ腹ぁ!」


「うるっさい!」


「はいすみませぇん」


照れるとかないのかよコイツは。まっ俺も怒られるの承知で言ったんだし。でもわかっててもイヤなもんですなぁ。


「そ、そいじゃ…」


バイバイと手を上げようとすると、またもタイミングよく着信が鳴った。また一郎か?まだ言い足りない事でもあんの?


「あら直秀だ」


見ると液晶には「ブラザー」と表示されていた。何用だ?もう金持ってないよ?


「はいはい?」


『あっ兄ちゃん、今どこ?』


「秋月邸だけど?」


『マジで?』


秋月邸と聞いた直秀の声が突然高くなったのを俺は聞き逃さなかった。お前って萌のこと避けてたハズだよね?


「ちょっと萌ちゃんに話あんだけど替わってもらえない?」


『話?』


コイツはなぜか萌をちゃん付けで呼ぶ。だけど俺が『萌ちゃん』なんて言ったら絶対に萌は殴ってくるのに直秀が言っても殴ったりはしない、差別とはこのことでしょうな。


「ってかお前、萌の携帯番号知ってんだろ。改めて掛け直せよ」


帰ろうとしてんのに足止めしないでくれ。とまでは言えない、萌めっちゃこっち見てるし。


『いいじゃんか別に。早く替わって』


「ったく。萌ぇ、直秀だよん」


はいよ、と萌から離れている俺は電話を投げた。ってちゃんと受け取れ!落とすなよ!


「直秀?久しぶり」


楽しそうに会話を始める萌を見て思った。なんで笑顔で会話してんだよ。俺と話してるときにだってそんな笑顔見せてくんないのに。まるで二重人格。


「直秀って、一条の弟?」


「え?あぁ、うん」


今日そういや高瀬と2人で直秀を見に行ったんだったね。あっそうだ、萌は電話に夢中だしちょっと心に引っかかってること聞いてみるか。


「なぁ高瀬、ちょっと聞きたいんだけどさ。体育の時間に言ってたことってマジなの?」


「体育の時間?私なんか言った?」


「言ったよ!…萌の勇樹」


いくら電話中といっても本人を前にしてはっきりと言えないから暗号化してみた。でも高瀬には伝わるだろ。


「あ〜それ?マジだよ。なに?信じられない?」


「あっいや、そうじゃないんだけど。なんで知ってんのかなぁって、ただの好奇心です」


そうなの、好奇心のカタマリなのよ僕は。あの時の勇樹の行動も気になるし。どう考えてもあの2人が恋人同士には見えないんだよな。


「なんでって、見たから?」


「え、俺に聞かれても困るんですけど。って見たの?現場を見たわけ?」


「見た、ような気がする」


おぃぃぃ!重要なとこだよそこ!あやふやな発言は控えて!


「そんな気になるなら直接聞けばいいじゃん」


「聞けるか!お前に関係ないって殴られんのが関の山だっつーに。って話を逸らさないでよ」


…おい、なんでそこで乙女の視線になる。なんで見つめる!うがぁ!一郎の気持ちが痛いほどわかるぅ!その目は反則だよ高瀬さん。


「な、何よ何なのよ?何で見てんのよ?」


「一条さ、何でそんなに気になるの?」


「え?」


「過去のことだよ?今あんた達は付き合ってんだからいいじゃん」


「だからそれはあなたの勝手な勘違い!怖い事言わないでよ!いでぇ!」


高瀬に詰め寄ろうとして後頭部に激痛が走った。タンコブできちゃう!

後頭部をさすりつつ振り返ると、すでに電話を終えた萌が仁王立ちで俺を睨んでいる。ってか携帯電話で殴った?俺のだよそれ。


「あんたマジでうるさい。近所迷惑」


冷たい視線の女王はそう言い放つと携帯を思い切り投げつけてきた。って壊れる!アンテナ伸びた!


「ちょっと!壊れたらどうすんだよ!」


「修理しな」


俺が通う高校は普通科なんだよ?直せる技術なんて取得してねぇよ!


「それより何の話をしてた?」


「え?な、何ってなにぃ?」


言えないよ。お前のふぁ…の相手について話してたなんてさ。高瀬よ、絶対に言ってくれるなよ!と、アイコンタクトを送った。気付いてくれるよね?


「恭子、教えて」


「あぁ、あのね…」


「たっかせぇぇ!」


俺のアイコンタクトがわかんなかったのかい?あかねならすぐにわかってくれたよ!そしてなんとか誤魔化そうと必死になってくれてた!


「いらない事言わなくていいからぁ!」


ありゃ、さっきの萌と同じこと言っちゃったよ。ってかもう誤魔化しようがねぇ!


「なに?何の話?」


ジリジリと差を詰めてこないでぇ!どうしようどうしよう!あかねもいないし、高瀬は萌の味方っぽいし、勇樹はいないし!


「俺、かえ、帰ります!戸締まりよろしく!」


「あっ待てバカ太郎!」


「放して!その手をお放しになってぇ!」


この女ぁ、力がハンパじゃねぇ!腕が、腕がちぎれそうだよ!しかもその目は「言うまで放すものか」って目だ。狙った獲物は逃がさないみたいな…逃がして!


「いててぇ!」


少しずつ力を加えてきてる!爪を立ててる!痛い痛い!


「わか、わかった!い、言うから!」


涙目になったよ!水(涙)もしたたるいい男とはこのこと?なわけねぇ。


「いっつぅ…。あんた本気でつねったね?」


「お前が逃げようとするからだよ、このバカ太郎」


またバカって言ったよ。それに俺と高瀬の内緒話なんだからスルーしてくれればいいのに。って萌の話なんだけどさ。


「えっとぉ……なんて言ったらよいものか」


「…」


この無言、辛すぎ。高瀬を見ても「お疲れ〜」って目だし。助け船も出してくれないのか?いいよいいよ!殴られるの覚悟で言ってやるよ!


「勇樹のこと話してたの!」


おわかりでしょうか、微妙に核に触れていません。これでふぁ…の話には結びつかないよね。


「勇樹?なんで勇樹が出てくる?」


「え?勇樹は勇気があるよねぇって話?いだっ!」


「私に聞くな」


かわいく笑ってみたのに殴られた。

あなたのふぁ…の相手について議論してたって言ってもいいわけ?言うよ?言っちゃうよ?


「無視?なんか言え」


「ちょっ、ストップ!」


勘弁してぇ!と両手で萌をガードしようとした時、チャイムが鳴った。誰だろ、真さんか?この際誰でもいい!助けて!


「痛い!」


チャイムに気を取られていた俺は、萌の鉄拳を交わすことができなかった。グーで殴るな!女性はビンタでしょう!ってかさっき俺と一郎はビンタ大会してたけど。


「あっ来たかな?」


殴られ倒れた俺を完全にスルーした高瀬がそう呟き立ち上がった。あら、あなたの知り合いが訪ねて来たの?ってか助けてくれてもよろしくないかい?


「じゃあ私これで帰るね」


笑顔の高瀬さんはそう言うと、鞄を手に取り居間を後にしました。って待てぇ!


「ちょっと待ってよぉ!俺を置いて逃げるな!それに高瀬、今日泊まるんじゃなかったの?」


「え?」


あんた何言ってんの?って顔すんなよ!さっき泊まるって言ってたじゃんか!ってか置いて行かないで!


「一条達が帰った後に泊まるからって家に電話したら、用事あるから帰って来てってお姉ちゃんに言われたんだよね。だから帰るの」


だから帰るの?だからの意味がわからんわ!俺のことは放っておくのかい?このバカでかい屋敷に萌という名の猛獣と2人でいろってか!


「私が帰っちゃったら萌、1人でしょ?それで一条に戻って来てもらったの」


「お、俺も帰るよぉ!」


「それはダメ」


え?なぜよ?なんで即答?


「八宝菜作ったんだから」


「はい?どういう事?」


「一条は今日ここに泊まるんだよ」


が、ガビーン!!……表現が古いのはお気になさらないでいただくとして、何をどう考えたら俺がここに泊まる話に繋がるんだよ!

八宝菜食ったからか?食ったら泊まらなきゃなの?そういう事は早く言ってくれ!そしたら食べなかった…でもおいしかった。


「泊まるったって…って待て高瀬!」


「それじゃまたね萌!」


「うん、気をつけて」


「はいは〜い」

「ばいば〜い…いだっ!」


ちっきしょ、高瀬のマネして一緒に出て行こうとしたら、足を引っ掛けられて無様にも転んでしまった!


「いったぁ…」


鼻を思い切りぶちつけちゃったよ!ヒリヒリするわ!高瀬はそんな俺を無視して逃げやがったし、ってかちょっと小走りだったよ。


誰も助け起こしてくれないので自分で起き上がると、足を組んでソファに座り直した女王と目が合った。なによ、お皿は洗ったわよ。トイレ掃除しろとか言わないでよ。


「ねぇ萌ぇ、高瀬が帰るから俺に電話したわけ?」


「そう」


「なんで俺なんだよ。あかねに電話したらよかったじゃんか」


萌の隣りに座ったらきっと殴られるから向かえのソファに座ろうね。きっとちょっとやそっとじゃ帰らせてもらえないだろうし。


「あかねは明日も部活あるって言ってた」


だからって俺か?パシリにされて、お次はここに泊まれって?しかも高瀬のヤツ、八宝菜食った代わりに泊まれって、用意周到だな!


「真さん帰って来るんでしょ?」


「さぁ」


「さぁって…」


またまた気まずい無言。でも勇樹のことを聞いてこないのはよかった、きっと忘れてくれたんだ。もし聞かれてたら俺1人じゃとてもじゃないが説明なんてできやしないよ。


「…勇樹」


「はいぃぃ?!」


なんて口走ったんだ?よ、妖気を感じるの?ってか俺の考えてたことがわかるのか?エスパー萌か?


「いだっ!つまようじ投げんなよ!危ないでしょ!」


テーブルに置いてある物ならなんでも凶器にするんだから!そんな子に育てた覚えはありません!…おばさぁん海外から戻って来てぇ!


「危うく刺さるとこだっての。いきなり何すんだよ」


「腹の立つ顔してたから」


それだけでかよ!俺のあくどい顔なんて今に始まった事じゃないだろ。


「ってか恭子と何を話してた?」


やっぱり覚えてたか、さすがだな萌さん。


「だから言ったでしょ。勇樹は勇気がある、いぃっ!!」


今度の武器は履いてたスリッパかよ!しかも速かった!ってかうまいこと顔面に飛んできたな、ヒモで結んであんの?自由自在なの?


右目を潰された俺は飛んできたスリッパを睨む。

高そうだねこれ、貧乏人には手が届かない代物かしら?と思わずそれを持ち上げた時、もう片方のスリッパ手裏剣を喰らわせた萌がすっくと立ち上がった。

ってか怖ぇ、スカート履いてる女性なのに怖い。


「誤魔化すな」


「ご、誤魔化してなんて」


「…」


「ちょっと待った!言うから投げるもの探さないで!」


とは言ったものの…俺には関係ない話だし、「お前に関係ねぇ!」って言われるのがオチだし……俺って、情けない。


「なに?はっきり言え」


「えっとぉ、たか…Tさんに聞いたんですけど、も…Mさんのふぁ…の相手について話をしていたら、Yさんの名前が出てきまして」


高瀬って言ったらアイツにもとばっちりがきそうだからイニシャルにしてあげた。俺って優しいね!


「はあ?」


「いやだからね?Tさんは、Mさんのふぁ…の相手がYさんだって言ったのよ。でもちょっと信じられなかったので、改めて聞いてみたのよ」


「Tって恭子でしょ」


「そ、そうとも言いますね」


おわ、バレてた。ってバレバレだよね!ってことはYさんもわかっていらっしゃる?


「…Yは勇樹」


「へ、へぇ…」


「で、Mは私か」


「そのようで…」

「死ね!」


「なぜぇ!」


立ったままの萌は土下座している俺に、ローキックを繰り出した。でも俺にとってはハイキックに相当します。だって左側頭部に思い切りヒットしたんだもんね!ってかスカートの中が見えるっての!


「うぐぐ…」


頭を押さえた俺は、怒り心頭の萌様を見上げました。まだまだ怒りは収まらないようですよ、思いっ切り歯ぎしりしてるよ。


「そんなの聞いてどうすんの?あんたに関係ないでしょうが」


「いや、その通りなんですけど。でも間接的に関係はあるんですよ」


「はぁ?」


晃、スマン!後はお前に全てを任せた!お前のことだ、きっと萌に殴られても喜んでくれるだろう。


「晃に頼まれたんですよ。萌のふぁ…の相手を捜せって」


「宮田が?」


「はい…俺、晃に悪いことしたからその償いにって」


「私だって被害者だろ」


「はい!それはもう!でも断れなくってぇ!」


許しておくんなましぃぃ!と秘技、高速頭下げを披露。秘技でも何でもない、ただ素早く頭を上下させるだけ。

頭をガンガンと地面にぶつける俺に、重〜い溜め息を吐いた萌は軽く、信じられないけど本当に軽く、俺の頭を叩いた。いつもなら意識が飛ぶほど殴ってくるのに。


「あの、萌?」


全く痛みを感じなかったんですが、俺の神経がイカレたか?あれ、睨んでないよこの子。絶対に鬼の形相になってると思ったのに。


「そのこと、宮田に言った?」


「いいえ言ってません!」


ここは即答でしょう!ちょっとでも考える素振りを見せたら殺られる!


「野代は知ってんの?」


「いいえ知りません!知ってるのは、僕とあかねちゃんだけです!」


「あかね?あんたあかねに言ったわけ?」


「え?いや、俺は言って、ないハズ…あっご、ごめんなさい」


言ったよ!聞いて驚けぇとかも言っちゃったよ!


「まぁあかねならいいか。…バカ太郎」


「はいぃ」


バカをつけられても何も言い返せない。素直に返事するしか俺に道はないのよ!ここは我慢よ我慢!


「恭子が何でそんなこと言ったか知らないけど、勇樹じゃない」


「はい…え、ええぇぇぇぇ!?じ、じゃあ誰が初め、ぐえっ!」


ってかデジャヴ!これ完全にデジャヴだよ!この後にたしか萌が、


「反省してないわけ?」


なんて言ったらそれこそデジャ…って言ってるよ既に!すげぇよ人間!


「何で嬉しそうな顔してんの」


「へ?いや、それは」


初めてのデジャブ体験したから嬉しくてつい、なんてこんな状況で言えるか!


「うわぁ!」


どう言い訳しようか悩んでいると、玄関から物音が聞こえた、しかもよくある『ガタン!』って音。それにビビった俺らは一時停止。いや、俺だけ。萌は音を聞いた瞬間に俺の腕を掴んできた、痛い!


「いだだ…ね、ねぇ萌。真さんかな?」


「し、知らない。ちょっと、見に行って来てよ」


「えお、俺ぇ?ムリ、ムリだってぇ!戦えないって!」


「だ、誰と戦うんだよ!」


早く行け!と俺の腕を掴む手に力を込めてくる萌は、ちょっとビビってる顔してる。なんか面白いよこれ。初めてコイツがビビってる顔見たわ。


「だからなんで嬉しそうな顔してんの」


「いだだだ!いき、行きますよ!」


雑巾を絞るように腕を握るな!引きちぎられるわ!


「てかさ、泥棒だったらどうします?」


腕の仕返しに驚かせてやろうとそう言ったら、萌の顔が青ざめた。マジでビビってるよこの子。


「こわ、怖いこと言ってないで早く行け!」


「ちょ、背中押さないでって!」


強がっているけど手が思い切り震えている萌が、渾身の力を込めて俺の背中を押した。そして転んだ。




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