第35話 親友だからラブラブなの
秋月邸に着いた俺達はなぜか門の前に突っ立っている萌の親父さん、通称真さんを発見した。あれはまた何かやらかして追い出されたな。
「なぁ、あの人秋月のおじさんだろ?あそこで何やってんだ?」
今回が初めての秋月邸訪問に心を踊らせていた一郎が真さんを指差してそう呟く。あれっお前、真さんの事知ってたっけ?
苦い顔をしたまま小さく頷いた俺は一郎の耳に口を近づける…けど嫌がられた。違うこと想像すんな!
「気にしちゃいけないよ。ここは心を鬼にしてスルーするぞ」
「あたしも賛成」
真さんの性格を知っているあかねが同意してくれた。ちゃんと挨拶くらいしないと!なんてあかねは絶対言わないよね。
「…」
真さんと出来るだけ目を合わせないように俺は門に近寄りインターホンに手を伸ばした。
『はい』
「あっ萌?あかねを連れて来たわぁん」
『なんであんたがいる』
「えぇ?」
『まっいいか。入りな』
「あっちょっと、真さんどしたのよ?」
『…知らない』
それだけ言ってインターホンをばっつり切られた。ありゃ間違いなく怒ってるよ、帰りてっ。
「あかねさぁん、帰ってもよろしい?」
あの状態の萌とまともに話なんてできやしないよ、通常時でも俺と話すと不機嫌になるのに。
「なんで?入りなって言われたんでしょ?」
「そうだよ太郎!お前の秋月が待ってんだから」
「てめっ、変なこと大声で言うんじゃねぇ!」
バカ一郎がぁ!真さんが横にいるってのにおかしな事言うな!ボケェェ!って言われる…あら、なんでこっちをジッと見てるだけなの?これじゃ一郎を殴ることができないじゃんか。
「ほら入るよ!寒いんだから!」
「レッツゴー太郎!」
「ちょっ押さないでぇ!」
2人(正確にはあかね)に背中を押された俺はまだ開いていない門に顔面をぶつける。ってワザとでしょ?
「だだだ!痛い、痛いから!まだ開いてないからね!」
俺の体力が減る中、それでも真さんは微動だにしない。マジで落ち込んでるっぽいよあれは。本当にスルーしていいのか?
「いでで…あか、あかねぇ。真さんあのまんまでいいのかなぁ?」
まだ背中を押し続けているあかねは俺の言葉を聞くとチラリと真さんに視線をずらした。でもまたすぐにこっちを見て手に力を込める。ってか痛いから!
「萌は何か言ってなかった?」
「え?あぁうん、知らないって」
「じゃあ大丈夫じゃない?さっ入るよ」
「いだっ!」
俺の顔面で門を開けたあかねは一郎と元気よく玄関に走る、ってか鼻が痛い。しかも置いてけぼりくった。
こっちを一郎がよくやる小羊のような目で見ている真さんに後ろめたさを感じつつ、秋月邸に入った俺は高瀬に出迎えられた。あれ、ここってお前の家だっけ?
「お疲れ様!大丈夫だった?」
「おっ俺にかかればなんて事ないよ!」
前に立っていたあかねを押しのけ、一郎が高瀬にデレデレな顔でそう叫んだ。この、お前は逃げたクセしやがってよくそんな事言えんな。ある意味尊敬してやるわ。ってか高瀬はお前じゃなくてあかねに言ってんだよ。
俺の推理は見事に的中し、高瀬は一郎をスルーしてあかねの腕を引いた。
「ごめんね、突然電話なんてして」
「あぁううん、別にヒマだったしね」
あははと笑って居間に進んでいくあかねと、スルーされながらもなぜかソワソワしながら一郎が靴を脱いで後に続いて行った。俺はというと入ろうかどうしようかと靴を脱ぎあぐねていた。しかも俺にも何も言ってくんなかったし。
(入りなさいな。萌だって入りなって言ってくれたんだから)
あっ悪魔。う〜ん、でもなんか入っちゃダメなような気がしてならないんですけど。
(入りなさい!)
うわっ天使。あんたまで入れってか?2人の意見が一致したの初めてじゃない?
「あれ、太郎。何してんだ?早く入れよ」
「いや、やっぱかえ…」
る。と言おうとした時、萌が制服姿のままで現れた。しかも何も言わずに仁王立ちでこっちを見てる。怒った顔はして…るよ。なんで怒ってるわけ?
「何してんの」
「えっあ、いや、お腹空いたなって思って…」
最悪な言い訳でごめんよぉ!あったま悪いから思い浮かばないのさ!そんな哀れな目で見るな!そして帰れって言ってくだされ!
「上がんな」
「はいぃぃ」
俺の考えと180度違うこと言ってくれたわ。ありがとよ!
しぶしぶ居間に入った俺の目に飛び込んできたのは、涙を流した一郎君でした。この数十秒間に何が起こったんだ!?
「いち、一郎!どした?」
「た…たぁるお!」
「おわわっ!」
たるおって誰だよ!ってことは今は気にしないことにしても、何で泣いてる?
俺の胸の中で泣き続ける一郎の頭を優しく撫でていると、ソファに座る高瀬が見えた。そして隣りには申し訳ない顔をしているあかね…なんかわかってきた。
「一郎さんさぁ、いい加減に気付ってぇ。さっきは金髪さん達に怪しまれないように高瀬は…」
「わかってるよぉ!」
「いっでぇ!てめっ!」
せっかく撫でてやってたのに腹をつねんな!掴めて悪かったな!こうなりゃ鍛えてやる!
「俺だってわかってるけど…わかってるけど夢見たっていいじゃん!」
か、悲しいし可哀相。そうだよね、もう少し夢を見させてくれてもいいよね!
「高瀬ぇ!…あっ」
そういえばコイツに誰か紹介しろって言われた時、一郎とか以外ならって言ってたよねたしか。どうしよ、高瀬にムリ聞いてもらうのも悪いしねぇ。
「なに?」
無邪気な笑顔で笑うな!俺までドッキンだよ!
一郎に(頼むよ!)と目で懇願された……もどうすることもできないですよ。こんな笑顔を振りまく彼女には何を言ってもムダよ。
「いや、あのぉぉ。え〜っと…一郎に嫌いって言ってやって」
「お前ぇ!なんてこと言わせようとしてんだよ!」
言ってもらわないとお前は変な勘違いをしたまま泣きじゃくるだろが!こういうことははっきりと言わないとダメなんだよ、晃の二の舞になってもいいのか?
「一郎目を覚ませ!お前にはもっといい人が現れるから待て!」
「16年待ったよ!」
「まだまだ待て!」
「何歳になればいいんだよ!」
「ちょ、ちょっと!」
第2回ビンタ大会のゴングが鳴る前に高瀬が止めてくれてよかった。またビンタ張り合ったら俺と一郎の顔は間違いなく腫れ上がってたよ。
「野代には悪いけど、付き合うのとかはムリ。ゴメン」
「え」
その言葉に目を点にする一郎…しかももう名前で呼んでないし。思った通り恋人ごっこは終了したみたいですな。
「それはつまり、アイツとヨリを戻すから?」
あかねのその言葉に全員の視線が高瀬へ注がれる。おっ予想もしなかった展開を見せてるぞ?萌までも「マジ!?」ってな目をしてる。
「えっ違うよ、いくらなんでもそれはないって。アイツが教室に来たときちゃんと言ってやったんだから」
「な、なんて言ったのん?」
「もう一度やり直したいって言われたけど無理って断った」
うおぉぉ!あなたは男の一大決心を軽く蹴飛ばしたのか!しかも「ムリ」じゃなくて「無理」ってとこが絶望を表わしてるよ。
でも高瀬は正解だ、杉なんとかもムシのいい話すんなってな。今さら高瀬さんの良さに気付いても遅いってね!
「よく言った高瀬ぇ!」
まだ俺の服を引っ張っているかわいそうな一郎に「気持ち悪い!」とデコピンを喰わせた俺は高瀬に暖かい拍手を送った。
できれば駆け寄って抱き締めてあげたいけど、きっと萌とあかねと一郎のトリプルコンビネーションが俺を襲うからやめておきましょうね。
「…」
グッと行動を堪えたのに萌は何も言わずに高瀬を見つめている。
う〜んそうか、元はと言えば真さんがあんなことしなきゃきっと今も高瀬と杉なんとかは付き合ってたんだよな。あっだから真さん、外に出されたのか?
「恭子、ホントにごめん」
「だからなんで謝るのさ。萌だって被害者でしょ?」
あなたはマジでイイ子だ高瀬ぇ!って一郎!お前まだ諦めません、て顔してもムダだっての!
「あれ、そういやおばさんはどしたのん?」
いつもなら家に入った瞬間「コタローちゃん」って言葉が聞こえてもいいんだけど。昨日の夜か明け方には実家から帰って来たであろうおばさんの姿がどこにも見えない。まさか連れ戻すの失敗したのか、なんて考えた俺は無知でした。
「友達と旅行に行った」
えぇぇぇ!真さんがせっかく連れ帰って来たのに?しっかり捕まえておけよ!
「り、旅行ってどこ行ったのよぉ?!」
「海外とは言ってたけど、どこかはわかんない」
萌の話を聞いて開いた口が塞がらない俺に代わり、あかねが全員が考えているであろう言葉を発してくれた。
「大丈夫なのそれ?」
って、なんだこの家族は?!国名も告げずに行ったっての?心配とかしないわけ?
「お土産でどこ行ったかはわかるから、いちいち聞かない事にしてるんだよ。それにお母さんて話長いし」
あかねもおばさんを、っていうか真さんと2人でいなきゃならない萌を心配してるっぽいけど、「あっ、そ、それなら大丈夫だね」と微妙な顔で相づちを打つしかなかった、てか大丈夫じゃないだろよ!返事が曖昧過ぎだよあかねぇ!
あっそれよりさ!とソファに仲良く座って会話を楽しむ三人娘、を見ているムサ苦しい男…俺じゃないよ、一郎のことよ。なんか俺達って場違いもいいとこじゃない?
ここにいても何もすることないから帰ろうかなぁと立ったままで一郎をチラ見すると、彼もこっちを見て…哀しい目で見つめんな!
あぁもう仕方ない、ここは愛の手を差し伸べて差し上げよう。
「あっそだ。一郎、これから俺ん家に来ない?」
「なんで?」
「な、なんでって。ちょっとヒドくないか、その言い草」
「だってお前の家に行ったら何もしてないのにおばさん怒ってくるんだよ。ただイスに座ってただけで」
「マジか?」
そりゃ初耳だよ。一郎の顔を見ただけで母ちゃんは腹が立つのか?いや、俺の母ちゃんはそんな人じゃない!
「お前ウソつくなよ!何もしてないのに怒るわけねぇじゃんか!何かしたんだろ」
「ひでぇ!何もしてねぇよ!何かってなんだよ!」
「え、えっと…うちの家宝の壺を割った、とか?」
「そんなマンガみたいな事するか!それにお前ん家にそんな大層なモンねぇだろ!」
「あってめぇ言ったなこの野郎!一生懸命になって働いてくれてる親父に謝れ!」
このままいけばこの会話が真さんに聞こえて「あっ苦しいんだな、じゃあちょっと昇給するかな」なんて事に…なるわけねぇよ!聞こえるハズねぇし、世の中そんなに甘くないってね。
「あっじゃあ皆さん、僕達はこれで…」
ありきたりなコントを終えた俺はこれで失礼しまぁす。と可愛く言おうと思ったのに、萌の携帯電話の着信に邪魔された。マジでタイミング悪過ぎだから。
俺の帰ります宣言をスルーし、萌は電話に出ると同時に不快感をあらわにした声を出した。
「…勝手にしたら」
数秒間だけの会話だったけど相手が誰だかすぐにわかる、真さんだよね?
「おじさんなんだって?」
萌の隣りで一郎からの熱烈な視線を完全にムシしている高瀬がそう言ってグレープジュースを一口飲んだ。
俺と一郎には出してもらってないけど。体動かしたからめちゃくちゃ喉乾いてんのにこの対応はないぜぇ!
「急ぎの仕事が入ったから会社に戻るって。ウソだと思うけど」
「どしてウソってわかるの?」
「いつまでも入っていいって言われないからいじけたんだよ」
いじけるって、子どもか!って言ったらうちの親父は左遷かクビ必至。だから心の中で叫ぶしかない。
「そっかぁ、あっじゃあ今日私泊まってもいい?なんか帰るの面倒になっちゃった」
高瀬、一郎の前でそんなことを言わないでください。そんなことを聞いたらきっと、
「た、太郎!俺、お前の家に行く!そして泊まる!」
ほら来たぁ!俺の家に泊まったからって萌の家と行き来できるわけねぇからね!
「いいけど、母ちゃんに怒られてもいいわけ?」
「え、怒られるのはイヤだけど…この際我慢してやるよ」
なんで上から目線?
「直秀にも会いてぇし。またプロレス技編み出したいし」
そうだ。こいつは直秀に会うと必ずプロレス技を仕掛けてたんだった。ってことは。
「お前がそんなアホなことすっから母ちゃんに怒られるんじゃねぇか!」
「アホじゃねぇよ!万が一の為の自己防衛手段を試行錯誤して暗中模索してんだ!」
アホなくせに難しい言葉を並べてんじゃないよ!自分でも意味わかってねぇだろそれ。ってか意味が通じてねぇ。
「あかねは?泊まる?」
完全に男の会話を無視している高瀬が、ジュースを飲み干してから萌の隣りに座るあかねに問いかけた。
俺達のやりとりはまたもスルー。もういいよ、勝手にやってるからさ。
「あっいや、あたし明日も部活あるし」
「朝から?」
「うん、練習試合なんだ」
「ホント?見に行ってもいい?」
「え…いいけど。見てもつまんないかもよ?」
「行く行く!カッコいい人いるかな?」
やっぱそれが目的かいぃ!コイツがただの練習試合を見に行くなんてそんな理由しかないよね。
「ねっ萌も行かない?絶対にカッコいい人いっぱいいるって!しかも強いんだよ?野代とは違うんだよ?」
「えっ俺?」
やっぱ見られてたか。ビンタ大会までの模様を見られていたとは思っていたけど、一郎が退散するところも目撃していたとは。一郎、諦めな。何を言っても弱っちい男としか見られてないよ。
「太郎…」
「な、なに?」
ちょっとぉ、悲しみオーラが全身に溢れ出てるよ。見ててツライ。
「泣いてもいい?」
「いいけど、今は我慢しろ。今泣いたら弱虫プラス泣き虫というレッテルを貼られるから」
「…ぶおぉぉぉ!」
人の話聞いてねぇよコイツ。
一郎は鼻水プラス涙を垂れ流して泣き出した。今のこの男を見て惚れてくれる人などいないよ。
「ちょっ、うるさい!太郎、近所迷惑だから!」
「お、俺かよぉ!ちょっと一郎、泣きやんでよ!俺が殴られる!」
「ぶおぉぉぉい!」
なんとかしろと立ち上がった萌に蹴られるも、どうしようもありませんよこれは!俺にもできることとできないことが……できないことしかないけど。
「泣くな!後でレモンスカッシュ奢ってやるから!」
「ギョーザバーガーにしてくれぇ!」
こんな時にそんな豪勢な物を奢れるか!さっき萌にセット奢ったからもう俺の財布は悲鳴どころか沈黙してるって。
「と、とりあえず俺帰るわ。ちゃんと戸締まりするのよん?変な人が来たら警察へ通報しなさいね?あとは…」
「あんたは母親か。いいから早く野代を連れて行け」
「はいはいぃぃ!ほら一郎、泣き崩れてんなよ!」
「ぎょ、ギョーザ…恭子ぉ」
どっちだよ!
「あ、あたしも帰るね!」
俺とあかねで泣き続ける一郎を抱え、玄関に急ぐ。やっべぇよ、萌の顔が真っ赤に染まってきた、キレる一分前です!
「気をつけてねー!」
高瀬の奴、せめて玄関に出て見送りくらいしろよ!なんでソファにくつろいだまま手を振ってんだ!
「あっ太郎、あんたあかねを送って行って」
「あいあいぃ、わかってますよお嬢様ぁん。痛い!」
っく。ちょっと場を和ませてやろうと思っただけなのに、後ろから蹴ってくるとは。
「一郎、お前ちょっと俺の家で待ってろよ。あかねのこと送ってくるから」
「お前の家になんて行くかよ!帰る!帰ってやる!」
あぁそうですか!もういいですよ、勝手に帰ってくれ…ってあっ!
「あかね!ちょっと待ちなさいってぇ!一緒に帰るんだから!」
玄関先で俺と一郎がビンタを張り合っていると、あかねが抜き足差し足で出て行こうとしている。待ってよ!
「待ってって、あぁかぁねぇちゃぁん!」
「い、いいって!あたし一人で帰れるから!」
そんなこと言っちゃダメ!あなたを送らないと俺は萌に殴られるのよ。私の心を読んで!
「あかねも太郎も勝手に2人でラブラブモードで帰れよ!俺は一人寂しく帰るから!グッバイ抜け駆け太郎!」
「てめぇ!誰が抜け駆け太郎だコラ!」
アホアホぉ!と掴んでいた俺の手を激しく振り落とした一郎が、今度はバーカバーカ!と秋月邸から走り去ってしまった。それを俺とあかねちゃんとお嬢様が呆然と見ている。
…ってか、あかねと俺がラブラブモードって、モードってなによ?でも今はそれに乗って行きましょうか。
「じゃああかね!俺達はラブラブモードで帰りましょうかぁ!」
「ヤダよ!」
即答かよ!「ムリ」って言われた時よりもコンマ何秒か早かった。
「いいじゃんいいじゃん!なんたって俺達はエビフライの仲よ?」
「どういう意味さ?」
よく言うじゃないよ、旧知の仲みたいな?でもあかねにはわかってもらえないみたいだ。
「いいから!ホラ、帰りましょ!」
「あっちょっと引っ張るな!じゃ、じゃあね萌!」
「あ…うん。気をつけて」
あかねの腕を掴んだ俺は元気よく玄関を出た。でもなんでか知らないけど突然元気をなくした萌が小声でそう言うと俺達を見送った。高瀬と2人だと恋愛話に花が咲き過ぎるからイヤだったか?
秋月邸を出た俺達は暗くなった夜道を歩いています。ちょっ街頭が切れかかってるよ!ここは毎日通る道なんだから頼むよ!
あかねの重いスポーツバッグを持ちつつ、久しぶりに何も話しかけてこないあかねに視線をチラチラとずらしながらも歩く。
ってか、なんか気まずい?
「あかね?なんで無言?」
「へ?べ、別に?」
「なんで動揺?」
「へ?べ、別に?」
リピートしてるくらいなんだから動揺してるでしょうよ!俺なんか言ったか?
「俺、また何かした?」
「へ?…」
あれ、今度はリピートしてないよ。でも無言に戻った。マジで、マジでどしたぁ!そんなあかねはあかねじゃないよ?
「マジでどしたのよ?萌か高瀬に何か言われたのぉ?」
その言葉にまたもや動揺アンド無言。このまましゃべり続けても大丈夫かしら。殴ってきたりしないよね?
「あのさぁ、あんたさっき何であんな事言った?」
「あんな事ってどんな事?」
意味が理解できませんよ。主語をはっきりしてほしい。
「だから、ら…」
「ら?」
ら?ら〜ら〜って、歌った覚えはないんだけど?しかもなぜにほのかに赤ら顔してるの?お腹痛いとか?
「だからなんで萌の前であんな事言ったんだっての!」
「だからあんな事って何さ?」
「ラブラブモードってだよ!このボケ太郎!」
「えぇ?ダメだった?」
ボケ太郎ってヒドイじゃないよ!って言おうとしたけど、思い切り睨まれたから言えません。そこはスルーしろってことかい?
「いいじゃん、別にホントのことなんだからぁん!エビフライを分け与えた仲なのよ?親友なのよ私達は」
「親友ならラブラブモードとかって言わないから!」
「いでぇ!」
あかねの手加減ゼロのヒザ蹴りが俺の太ももを襲った。ビリッときたわ!足の感覚がなるほど力入れて蹴るなっつーに!
持っていたスポーツバッグを落としそうになった俺はバランスを崩して壁に頭を強打。バカな頭がもっと悪くなったらどうしてくれる。
「いでで…。なんでよ?そんなイヤだったのん?」
「イヤっていうか、萌に悪いとか思わないわけ?」
「なんで?別に萌に言ったわけじゃないんだから」
「それは、そうだけどさぁ」
言っちゃダメじゃないけどダメだった?意味不明だよ!しかもなんで萌の名前が出てくんの?今は関係ないじゃないよ。
話題を変えようとしてか、あかねは空を見上げると「あっ」と声を上げた。なんか見えた?
「あんたも練習試合に来てよ」
「えぇ?なんでよ?」
「あんたの宿命のライバルも来るから」
「………誰?」