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第33話 一郎君だけ有頂天

「ギョーザバーガー食いに行くぞー!」


「おぉ…」


放課後になり予想通り一郎が俺の手を引いて元気よくそう言った。金欠の俺にハンバーガーを奢らせるつもりらしい……サイアクゥ。


「一郎さんや、マジで行くのかい?」


「あっ?お前ぇ、勇樹には奢って俺には奢んないのかよ!俺だって…」

「ハイハイわかりましたぁ!」


同じこと話すのメンドイわ!

ってか何が悲しくて男二人仲良く行かなきゃいけないんだよ。ってあれ、待てよ。勇樹と行ったときはこんな気持ちにならなかったのに。むしろ楽しかったし…これってま、まぁさぁかぁ!


「あっ勇樹!気をつけて帰れよー!」


マジかぁ!と頭を抱えていると一郎がほっぺたに湿布を貼っている勇樹に声をかけた。岩ぁん攻撃のせいでまたもや勇樹の顔が腫れている。かわいそうに……あっそっか、あの子を見てるとカワイイ子犬みたいに思えるから一緒にハンバーガー食ってもイヤな気分になんないんだな。それに比べて一郎は犬ですらない、かわいさゼロ。


「行くぞ太郎!」


「行くけど奢るのはムリだかんな」


「…じゃあ秋月に奢ってもらう」


「それはやめなさい!ハンバーガーじゃなくて拳を喰らうことになるから!」


「おっ、うまいこと言うね」


このアホ、ハンバーガーしか頭になくて自分が何を言ってんのかわかってないよ。


「秋月ぃ!俺達と一緒にハンバーガー食いに行こうや!」


「ヤダ」


「え…」


ほらね、奢る以前のハナシだよ。あっ行かないってことは今日一緒に帰んなくてもいいわけ?


(一緒に行った方がいいわよ。萌はあんたの言葉を待ってるよ)


それはどう考えてもないんじゃないかなぁ?悪魔さんって頼りになんだかなんないんだか。


(…あんたはいつも私の話をマジメに聞かない!こんな脳みそ、ぐっちゃり潰してやる!)


グロいよその表現!怖いわ!


「じゃあ秋月は一人で帰んの?」


「…」


萌は一郎の言葉を無言で流す。なんとか言えっつーに。

しかし萌のそんな行動をモロともせず、一郎は有り得ない一言をあっさりと言ってしまった。


「太郎が奢ってくれるって言ってんだよ?」


「ちょぉ待て!いくらなんでも二人分はムリだから!」


金欠だっつってんだろが!人の話を聞け!


「恭子と帰るから」


「えっ高瀬と?またナンパされに行くの?…でぇ!」


俺の気持ち悪い笑顔に腹を立ててか、持っていた鞄を投げつけられた。あだだと鼻をさすっていると茶髪のカワイ子ちゃんが萌に走り寄ってきた。


「あっ萌、帰るよ〜!って一条達も来るの?」


「はい?」



高瀬の目的は聞くまでもなくナンパされに行くらしかった。直秀は好みのタイプじゃなかったのね。でもよかったわ、もしも直秀と高瀬が結婚、なんてことになったら俺は高瀬に「お義兄さん」と呼ばれて…話が唐突過ぎ!



学校を出た俺と一郎はハンバーガー屋に行くために二人仲良く歩いている。たまに手を握られそうになるのを振りほどき、そのアホな顔にチョップを喰らわす……そして距離を置いて前を歩く萌と高瀬の後ろ姿が見える。同じ方向かよ!


高瀬と萌が楽しそうに会話しているのを見て思った。萌のヤツ、俺と話してる時とは雲泥の差じゃんかよ。いつも俺があーでもこーでもないって話しかけてもブスッと聞いてるだけだし。ちょっとは笑ってくれても罰は当たらないと思うのですがね。


少しイライラが募った俺は、「ハンヴァーガー!ハンヴァーガー!」と年甲斐もなくはしゃいでる一郎の頭を叩いた。しかし彼に痛がる様子はなく変な踊りを続けている。って「ヴァ」って何だよ、晃が言うラヴみたいな?……知るか!





歩き始めて5分ほど経ったとき、萌と高瀬の前に二人の男性が現れました。


「今ヒマ?よかったらこれからカラオケとか行かない?」


ナンパされんの早ぇ!ってかあの時の金髪さんとロン毛さんではないね。へ〜ぇ、「今ヒマ?」がナンパの基本形なのか。うんうん勉強になるな。

立ち止まって話す高瀬達にいつの間にか追いついてしまった俺と一郎は、


「道のど真ん中で突っ立ってんじゃねぇ!」


なんてことは決して言えず、


「あっちょっとゴメンなさいねぇ」


と、間に入って行く。さっさとこの迷宮から脱出してハンバーガー食って帰ろう。って俺はジュースのみだけど。


「あっ…太郎!」


「えぇぇ?なん、なんでしょ?」


うまく通り抜けようとしたとき、萌が何か慌てた様子で俺の腕を掴んだ。なんだ?


「触っちゃイヤ!触れたら腐るよ?」


俺に触れられたら腐るって言っておいて自分から掴んでくるなんて、なによ?このひと達はあなたのタイプじゃないの?見た目はカッコ良いじゃないよ。


掴まれた腕を振りほどくこともできない俺は萌と見つめ合ったまま動けません。ってかマジでなんなの?なんか言うことあるから俺の動きを止めたんでしょ?黙ってちゃわかんねって。


「萌?逃げる?」


高瀬が萌に小声でそう呟く。に、逃げるって…悪いが俺は走れないよ?カラオケくらい行ってあげたらいいじゃない、どうせ男共のオゴリでしょう?俺が行きたい!


「…」


無言で俺を見ている萌と、男達を品定めするように見ている高瀬。そしてまだハンヴァーガーの舞いを見せている一郎。なんだこの異様な人々、男達の笑顔も引きつってるし。


「あれ、もしかして、コイツらキミ達の彼氏?」


うわ、「彼氏?」って語尾が上がったよ。…コイツらという言葉には怒ったりはしません、慣れてるから。ってか違うから!


「いえ!僕達はそのような者では断じてありませぬ!ただの通りすがりの高校せ、だだだぁ!」


掴まれていた腕に激痛が走った。思いっきりつねられた!そして関節技を決められる。って何で今プロレスごっこに発展してんの?


「あえ、えーっと…」


何を言えばいいのかわかんねぇ!さっさとハンバーガー食って帰りたいのに!


「あっごめんなさい、実はそうなんです。それじゃ、行こ…一郎」


「はっ?」


何かを察した高瀬がまだハンバーガーの舞いを踊る一郎の腕をグイと引っ張り歩き始めた。それに続いて萌も俺を引っ張って行く。おいおいぃ、なんだよ。


「あっなんかいいねいいね!このままみんなでハンバーガー食いに行こう!」


高瀬に腕を組まれた一郎が有頂天でそう叫ぶ。そっか、一郎って彼女いない歴16年だったね。そりゃ高瀬みたいにカワイイ子に腕を組んでもらえたらウソでも嬉しいよね。……現実逃避しちゃダメ!


「ちょっ萌ぇ。恥ずかしいから離してぇ」


いつの間にか俺と萌までもが腕を組んでいる。マジで、マジで恥ずかしいぃ。こういうことに全く不慣れな俺は、なぜか辺りをキョロキョロと挙動不審に見渡している。なんでこんなに焦ってんの?腕を組まれたくらいで…この純情少年が!


「いいから黙って歩け」


「だっ、だってさぁ。晃に見つかったら俺死ぬ」


「死ね」


「おぃぃぃ!」


「まだアイツらこっち見てるんだから。いいから黙れ」


「だ、黙れって」


チラリと振り向くと、あっホントだ。めちゃくちゃ不審な目つきで俺達を見てるよ。あの目は絶対に疑ってんな。


「俺さ、彼女と一緒にハンバーガー食うの夢だったんだよ!ありがとうたか…いや、きょ、恭子」


何をその気になってんだよ一郎!お前は騙されてんだよ!高瀬は高瀬で「えへへっ」って笑ってるし。やはり魔性の女!一郎を困惑させないであげて!


「…」


こちらの彼女は魔性の女ではなく、悪魔の女。めちゃくちゃ睨まれてます。お前が俺の腕を掴んでんだろ、なんで俺が睨まれなきゃいかんのよ。


「ねぇ、もういいんじゃないの?」


「まだ見てる」


「いや、もういないって。諦めて帰ったって」


「…」


なんで無言?さっき高瀬と話してたときは笑顔振りまいてたじゃんか。俺にはその笑顔を封印してんの?解放しても怒らないよ?

顔を赤らめて喜ぶ一郎とは正反対に、葬式気分な俺は萌に引っ張られたまま歩き続けた。


「おっしゃ!今日は気分がめっちゃくちゃいいからきょ、恭子!俺がハンバーガー奢ってやる!」


「ホントに?食べたい!行こう行こう!」


おっけぇぇい!と気分最高な一郎は高瀬にがっしりと腕を掴まれたまま店に入って行った。って、やっぱ俺達も入らなきゃなのか。

無言でいる萌にチラリと視線を合わせた俺は、(は、入りますか?)と目で合図を送る。なんか声を出したらまたつねられそうだ。


「金太郎の奢りだから」


ボソッと恐ろしいこと言うな!金欠だってあれほど言ってんのに、どんだけお前は耳が遠いんだよ。ってか俺なんかより金持ってんじゃんよ、なんてったって社長令嬢なんだから。…金欠だから金太郎?んな訳あるか!


「あっ俺ギョーザバーガーね!きょ、恭子は?」


いちいち「きょ」って詰まってるよ。言いづらいなら高瀬でいいのに。ってか高瀬のヤツめ、一郎を見事にオトしやがったよ。ただ腕を組んだだけなのにすごい必殺技を持ってんだな。そしてあのアホ男はきっと萌に腕を組まれても勘違いするだろうね。あっそれだけ純粋ってこと?


カウンターの前では一郎と高瀬が恋人同士のようにハンバーガーを選んでいる……これはフィクションです、実際とは異なります。


「え〜?ギョーザ?匂わない?」


「へっ?あっそうか、それもそうだ!」


お前、あれだけギョーザバーガーって言ってたクセに。親友として悲しいよ!男なら「匂いがキツイ方がうまいんだよ!」って怒鳴って欲しい…けど俺も言えないけど。


結局普通のハンバーガーセットを二つ頼んだ一郎は、「別々に座るから!」と意気揚々に歩いて行ってしまった。そして残された俺はというと、カウンターの前で萌に腕を組まれた(正確には指の跡がつくほど力強く掴まれた)ままでボケッと立っている。

ここは「何になさいますか?お嬢様」って言った方が……言った瞬間、俺の腕は悲鳴を上げる!


「あっ萌、何食う?」


「ウーロン茶」


「いや、飲み物じゃなくて。えっとねぇ、俺のオススメはチリみそバーガーだけど」


「何それ」


「チリソースとみそが絶妙のハーモニーを醸し出してるハンバーガー」


「あんたって味覚おかしいんじゃないの?…野代と同じだ」


なんてことを!お前は食べた事がないからそんなことを言うんだろ。それに一郎のしょうパンと一緒にするな!全然しょっぱくないんだから!勇樹と食ったときは普通のハンバーガーにしたけど、実はコレ大好きなのよ。でも春の限定商品だからもうそろそろお別れ。


「食ってみろってぇ。しょっぱくないから」


「…ウーロン茶でいい」


人がせっかく親切に奢ってやろうとしてんのに。あなたは金持ちの娘でしょ、そんな貧乏臭いこと言わないの!

ブツブツ言っている俺の足を軽く踏み、まだ腕を掴んだままでいる萌は辺りを見回していた。あんまり来たことがないから珍しいのかもしんないね…チャンス!


「すいませんチリみそバーガーセット二つください!」


スキをついてカウンターの(キレイな)店員さんに息継ぎする間もなく早口で注文した。そして俺の勝手な行動に気がついた萌が振り返り、軽く手首を捻ってくる。


「いだだっ!ギブギブ!」


「あっあの」


店員さんは「この2人はどういう関係?」って表情丸出しで見てくる。でも今「俺はコイツの召使い」って言ったら手首がひっくり返っちゃうよな。


「お、お飲み物はいかがなさいますか?」


「あ、う…ウーロン茶と、メロンソーダで」


「か、かしこまりました」


苦痛に顔を歪める俺は、引きつった笑顔を見せる店員さんに心から謝罪しました。そりゃ笑顔も引きつるよね。恋人らしからぬ行動だもんね。




代金を払い終えた俺はハンバーガーが出来るまで、萌に手首を捻られたままの状態でカウンターの側に立っていた。チラッと窓側の高瀬達を見ると、なぜか口の周りにケチャップをつけまくった一郎が笑顔でポテト頬張っている。

あの野郎、ぜってぇ高瀬に拭いてもらう気だな。計算高い男だ!


「お待たせいたしました!」


店員さんが早く俺を解放してあげてと目で訴えながらハンバーガーその他が乗ったトレーを持って来てくれた。ありがとうございます!これで自由の身になれます!


トレーを受け取ろうとしたとき、萌の手が俺からスルッと離れた。腕組んだまま持ってたら絶対に俺はバランス崩してブチまけるからね、ナイス機転。


「萌ぇ、どこ座る?」


「どこでもいい」


「あっそう?じゃあ一郎達とは離れた方に座りましょうかね」


「なんで」


「だって一郎の口元見てよ」


「…恭子に悪いことした」


本心で言っているってのがわかるほど、萌は落胆した表情を見せた。あそこにいるのが勇樹か晃なら高瀬も救いってモンが……あれ。


「そうでもないんじゃないの?高瀬なんか楽しそうだし」


「…そうかな」


「ほら、楽しそうじゃんか」


「…うん」


アイツらはアイツらで楽しくやってんだから俺達も楽しくがんばりましょうやと冗談で言ったのがいけなかった。後ろについて歩いていた萌が他の人にバレないよう素早く俺の足を蹴った。


「がんばるって何だよ」


「いや、つい出来心で」


ホントに馬鹿太郎だと溜め息をついた萌は、一郎達が見えない2人用の席に座った。それと向かい合わせにして座った俺はトレーをテーブルに置く。うん、いい匂い!さすがチリみそ!


「これ、本当に食べられるの?」


「は?あなたねぇ、食べられないモノをわざわざ金出して買うかフツー?」


「あんたならやりかねない」


なんつーこと言うのよ。金欠の俺が冗談のネタに買うか!


「いいから食べてみなって」


不安な表情のまま萌は、なんでかまたも周囲を見渡す。そして「…やっぱ誰も食べてないじゃん」と言いたそうな顔で俺に視線を戻した。って、みんなはみんな!


「んーうまい!」


いつまで経っても口をつけない萌を眺めながら、乱暴にハンバーガーを手に取り頬張る。最初はチリソースがピリッとくるけど、後から味噌の優しいぬくもりが伝わってくる。サイコー!


「うまいうまい!」


ちょっと、そんな見つめられたら食べづらいですがね。できるなら少し視線を外してもらえませか。ってか食べないの?


「おいしいよ?」


「…た、食べる」


コイツはあんまこういうの食う人じゃないからな、ちょっと上級者向けのハンバーガーを買ってしまったか?初心者用に普通のでよかったもしんないね。

恐る恐るそれを口に運んだ萌は、俺を一瞬睨んだ。な、なんで。


「見られたら食べづらいんだけど」


「あっそうね、ごめんねぇ」


俺が食ってる間ずっと見てたクセにぃ!でも言えない。




「ねぇ」


「うん?」


ずっと無言で食べていた萌がやっと声を発した。遅いよ、俺なんて全部ハンバーガー食っちゃったよ。


「直秀は元気?」


何でそれ聞く?今は味の評価をするところじゃないの?おいしくないけどなんか言わなきゃって思ってその言葉を選んだの?


「元気よぉ、萌に会えなくてボク寂しいって言ってた」


「ウソつくな」


「すいません」


直秀ははっきり言って萌が苦手らしいです。小さい頃に萌(正確には俺が命令されて)が毛虫をアイツの服に入れたから。そりゃ苦手にもなるわ、トラウマもんでしょ。


「って、おいしくない?」


「…食べられないことはない」


どっちだよ!マズイけど食えるよ的な言い方やめてよ!作った方に失礼極まりないよ。


「あのさ、さっきの男の人達はお前のタイプじゃなかったの?」


「なんで?」


「だって、だから俺の腕を力強く掴んだんでしょ?」


「別に」


「え?どゆこと?」


タイプだったら逃げずに立ち向かうだろうよ。それに高瀬は少し乗り気だったみたいだし。でも今は一郎のお守りをしてくれてるけど。

そういやアイツらどうしたかな、口元拭いてもらったか?


なんて考えた俺は、ウーロン茶を一気に飲み始めた萌を横目に体を浮かせ一郎達をチラ見した。


「おいぃぃい!も、萌!茶ぁなんて飲んでる場合じゃねってぇ!」


突然の大声にウーロン茶がノドに詰まったのか、萌は涙目になりながら咳き込む。ごめんごめん。


「な、なにが?」


大きく深呼吸した萌が続いて立ち上がり、何を思ったか手を上げた……殴るのは後!


「ちょ、ちょっとアイツら見て…」


「は?…あっ」


一郎達のテーブルに、行儀悪く腰を掛けている男がいた。その男の髪色は金髪……き、金髪さんではないですか!

見つからないようにテーブルの下にしゃがみ込んだ俺達はこれからのことについて話し合おうと顔を近づける…うっ久しぶりにこんな間近で萌を見た。そうそう、それで上目遣いなんてしてくれた日には俺はお前を抱き締める!

と、萌は無表情で俺のおでこに正拳を喰らわせた。まだシャーペンの傷が癒えてないのに!


「いだっ!な、何すんだよ!」


「近い」


「あっごめんさぁい」


ふーっ、危うく正拳突きじゃ済まなくなることをしそうになったよ。


「で、どうすんの」


「俺にそれを聞くかい?」


「考えろ」


「…えっと」


思い浮かばないんですがね。さてどうしましょうか…なんて悠長に考えていると、背後からガタン!とイスが倒れる音が聞こえた。これって。


「俺のきょ、恭子に手ぇ出すな!」


まだ彼氏気取りだよ!

音を聞いて立ち上がった萌に続いて俺も、と腰を上げた瞬間、テーブルに思い切り頭をぶつける。うわっ恥ずかしい。


「な、何やってんだよバカ太郎!」


「仕方ないじゃんか!」


一郎達を完全に無視して俺達はその場で言い争いをおっ始めた。ってダメ!そんな大声出したら絶対に…。


「おい、あっちにもいた」


え…とゆっくりと振り返ると、ロン毛さんまで登場!どうするどうする?萌達を置いて走って逃げるわけにもいかないし。


「た、てゃおぃ!」


一郎が俺の名前なのか不明な奇声を発してこっちに走り寄って来た。って高瀬を置いてくんな!


「こい、コイツら俺ときょ、恭子が楽しくハンバーガー食ってるのが気にいらないって変な言いがかりつけてきたんだよ!」


そっか、お前はあの事件を知らないんだった。安心しなさい、お前は標的じゃないから。って俺は?


「お前、よくも俺にラリアットかましてくれたな?」


き、金髪さん。あなたは根に持つタイプなのか。ってか俺の顔は見えてたのか?こっちを見る直前にかましてやったってのに、あんたの動体視力は並大抵じゃなさそうだ。


「え、太郎。お前、この人達と知り合いなの?」


「んなわけあるかよ。名前すら知らないし」


どうしてくれようかと考えていると、いつの間にか高瀬までもが俺の背後に回っている。萌は萌で腕を組んだままで動かない。元はといえばあんた達のせい……ラリアット喰らわせたのは俺か。


「黙ってんなよ。ちょっと外出ろや」


絶対にボコボコにしようとしてるね。そんなに指をバキバキと鳴らしても俺は戦う意志は全くありませんよ?あかねでもいてくれたら金髪さんは任せたけど、一郎じゃご・・・・1分で倒されるね。俺もきっと2分が限度。


「あっちょっと待って!メロンソーダ飲むから!」


「あぁ?」


まだ半分も飲んでないんだからもったいないでしょ!と俺は金髪さんとロン毛さんを睨み、できるだけゆっくりとジュースを飲み出す。一気に飲んだら炭酸がキツイ。

飲んでいる間、必死に俺は考えていた。戦うなんてことになったら絶対に負ける。と思っていた方がいい。だから却下。じゃあ逃げる?…それはムリ。あの時は不意打ちをかまして油断させたから可能だったのよ。


「早くしろ!」


「ジュースくらいゆっくり飲ませろ!」


他の人達もいるから迂闊に手を出せないのをいいことに、俺は「ざけんな!」と文句をつけた。言いたいことは今しか言えない。


(外に出たら走って逃げてくんない?)


メロンソーダはとっくに飲み終わってたけど、ストローをくわえたまま俺は萌に振り返り小声で提案をした。


(あんた達は?)


(え…あぁ俺らも萌達が逃げたの見たらスキ見て逃げる)


(出来るの?)


(ターナーと競争して勝ったくらいだよ?ご安心くださいませ)


(…わかった)


とても小さな声のやりとりだったけど、高瀬と一郎にも伝わっていたみたいで俺達は素早く頷く。


「もう飲み終わっただろうが!」


ロン毛さんに我慢の限界が訪れたのか、俺の肩を軽く押した。ってか店員さん方、見てないで助けろ。それか警察へ通報して。


「行ってやるわ!ボケ、このボケ!ぅいちれー!行くぞ!」


一郎の名前を噛んだけど、恥ずかしがってる場合じゃない。「ゴミを捨ててから!」とテーブルのゴミを片付けた俺は、萌に合図を送る。


(玄関開けたらダッシュしてね)


(わかった)


萌と頷き合った俺は、金髪さんとロン毛さんに睨みを利かせた。できることならこの睨みで帰って欲しいけど、俺の瞳にそんな目力はない。









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