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第27話 新しい恋よ来い

『萌のファーストキスを奪った相手を探そう!』実行委員長、一条 太郎と申します。そして目の前で飯を食っているのは、実行委員の野代 一郎。

俺達は絶対にこの任務を成功させることはできません。だって萌に直接聞くしか方法がないから。あかねに聞いても「知らない!」って言われそうだし、高瀬に聞こうものなら「え?誰よ?」って逆に質問されるよね。


萌に何も聞けないまま午前中の授業が終了してしまった。そして俺達は無言のままで弁当を頬張り続けている。いたた、口の中が切れててうまく食べられない。一郎、お前はよくそんなにがっつけるよね。


「太郎…お前、聞いてくれよ」


一郎が萌をチラ見しつつ俺に小声でそう言ってくる。俺だってできるなら晃とまたバカやりたいって思ってるけど、許してもらうためにアイツの過去を探るなんてことできないってば。


「なぁ、やっぱ晃にはできないって言おうって」


「何言ってんだよ?お前、がんばりますって言ったんだろ?また殴られっぞ?」


「殴られてもいいよ。だって俺、萌の…」

「内緒話するならもっと小さい声でやれ」


俺達の会話が筒抜けだったのか、萌に叱られてしまった。思ったよりも大きな声で相談し合っていたみたいです。


「ご、ごめんなさいぃぃ…」


もう謝るしかない。前を向くと、一郎が「今しかねぇって」という顔で見つめてくる。ムリ、ムリだってぇ。


「なになに?何の話?」


萌と弁当を食べていた高瀬が目を輝かせてそう聞いてきた。君に言った瞬間、話が盛り上がること間違いないから言わないよ。


「な、何でもないって。ねぇ一郎?」


「おぉ?お、おぉ…」


そこは「おぉ!」って元気良くいけよ!あぁもう、高瀬が疑惑の目で見てるじゃないの!なんとか誤魔化して!


「なになに?さては、その腫れた顔に関係あんの?」


スルドイ……しかし言えない!高瀬と目を合わせないよう、俺達は無言で弁当に食らいついた。それを溜め息をついて見ているあかね。あとであかねに相談してみるかな・・・って頼りすぎ?


「萌ちゃぁぁん!」


俺達が弁当を全て食べ終えた後、元気良く晃が教室に入って来た。けどまたも萌はスルー。誤解は解けたと思うけど、アイツの行動に変化はなしです。


「一郎太郎!顔がめちゃくちゃ腫れてんな!」


「えあ、そう?」


そういや鏡とか持ってないから自分の顔が今どんな風になってるかなんて確かめてなかった。そんなにヒドイ?昨日の勇樹よりヒドイのか?ってか、あなたに精一杯の力で殴られたんだから、そりゃ腫れるって。


「殴って悪かったな一郎!許せ!」


「え、あ、いや、俺の方こそ」


「いいんだ!もういいんだよ!………太郎から聞いたんだろ?」


一郎の肩に腕を回した晃が、悪者顔で最後にそう小さく呟いた。その顔は「許すんだからちゃんと俺の言ったことやれよ?」って言ってるよ、もう断れそうにない。


「萌ちゃん!ラヴレターは偽物だったけど、君の気持ちはわかってるからね!いつでも俺の胸に飛びこ、ぐわぁ!」


両手を広げて萌の元へと走り寄った晃が蹴られて倒れる。気持ちはわかってないよ絶対に。


「ねぇ、なんであんたそんなに萌が好きなの?」


素早く立ち上がった晃に、口に箸をくわえたままの高瀬が質問した。それは俺も前に聞いたことがあるけど、あの時は素顔がどうのって言われたような。


「お前、いつも萌ちゃんと一緒にいてわからないのか?」


「一緒にいるけどわかんない」


高瀬さん、そこは少し考えてから答えてあげようよ。

教えてよ〜と晃の袖を引っ張る高瀬は憂いのまなざしで見つめる、さすが魔性の女。しかしそれが萌命の晃に効くハズがない。


「マジでわかんないのかよ?ダメだな、そんなんで萌ちゃんと友達だなんて!津田ぁお前ならわかるだろ?」


突然の指名にびっくりしたあかねは、飲んでいた緑茶が気管に入り咳き込んだ。あっあかねが泣いてるよ、でもこれは俺のせいじゃない。


「あた、あたしぃ?…え〜っと、裏表がない性格だから、とか?」


「ハズレぇ!まったくお前まで!萌ちゃんの友達失格だな!」


「あんたに言われたくないわ!」


飲み終わった緑茶のパックを晃の顔面めがけて投げるあかね。少し残ってたお茶が顔にかかっても晃の自信に満ちた表情に陰りは見えない。そんなやりとりをウーロン茶を飲みつつ聞いていた俺は、はたと晃と目が合ってしまった。こ、こっち来ないでぇ!


「太郎!お前は考えたか?」


「え?な、何がですか?」


「萌ちゃんの秘めたる美しさの秘密だよ!」


そんなこと考えてすらいないんですけど!なぜに宿題にされてんの?


「秘めたる美しさって言われても…あのまんまでしょ?別に何も秘めてはいないと思うんですが…」

「バカ太郎がぁ!」


「ぐわぁ!」


全体重を乗せた晃の張り手が俺の左頬にまともに入った。バチン!とものすごい音が鳴り、イスから転げ落ちる。


「いってぇ!」


冗談じゃないにしてもマジで痛い!しかも何で殴られたかまったくわからん!

頬をさすりながら起き上がろうとした俺は、、なぜか一郎まで晃にビンタを喰らうところを目撃した、それも往復ビンタ。一郎の口に入っていたご飯が宙を舞う……汚ぇ!


「ちょっとぉ!俺なんも言ってないじゃんかよ!」


「聞かなくても顔でわかるんだよ!」


「だからって殴るこたぁねぇでしょ!」


床に落ちたご飯粒を拾い始める一郎を見ていた俺は、いつの間にか晃と普通に話をしていることに気がついた。きっと俺達に気を使ってくれてんのかもしれない、晃ってそういう奴だし。


「A組は一郎太郎を先頭にマジでアホばっかだな!萌ちゃんが可哀想で仕方がない!」


今の言葉に頷くクラスメートはいない。お前に言われたくねぇ!って顔してるよみんな。って何で俺と一郎を先頭になの?


「何で俺らが先頭になんだよ!太郎を先頭にならわかるけど」


「それは俺のセリフだわよ!」


俺はまだご飯粒を拾い続けている一郎の頭に晃ばりの張り手を喰らわせた。あんた、どの口が言ってんのよ!


「でぇ!何すんのよアホ太郎!」


「うるさいわよボケ一郎!」


「なによ!この、あかね太郎!」


「なにさ!…ってあかね太郎って悪口になってないわよ?」


「あっ…」


男子も、恐らく女子もこんな痴話ゲンカなんてしないでしょう。だってあかねも高瀬も晃だって俺達と視線を合わせないようにしてる。あっ例外がいた。でも暖かい目線とはほど遠い冷めたい目をしていらっしゃる。


「席替えどころかクラス替えしたい…」


食が進まないのか、萌は冷たい目で俺を見たまま立ち上がった、のに気がついた晃が性懲りもなく彼女の元へとダッシュする。


「萌ちゃんどこに行くの?俺も行っていいよね?」


「トイレ」


「え」


それはついて行けないね。仕方ないよ、一緒に行こうものなら一人で警察行きだよ。

肩をがっくりと落とした晃が俺を睨む……ってなんでよ!


「太郎…お前、聞いた?」


「え、何を?」


萌を寂しく見送った晃は、弁当箱を片づけている俺のヒザに座ってきた。って女子にされるのならまだしも男にされても嬉しくないから!しかも重い!


「何って、萌ちゃんのファーストキスの相手だよ!」


そんなに大きな声を出さないでぇ!みんなの注目の的になっちゃったじゃないよ!


「ま、まだ聞いていませんよ…ってか聞けない」


「なんだってえぇ!?」


何してんだよ!と俺の上に座ったまま地団駄を踏む。痛い!痛いから!


「お前、何を恥ずかしがってんだよ!男ならズバッと聞け!」


「その言葉そっくりそのまま…」

「なんだ?」


「いえ…」


ちくしょお!言い返せない!言いたいけど言えない!一郎助けてぇぇ!


「あっ俺も、おトイレぇ…」


逃げんなボケぇ!と手を伸ばすけど一郎に届くはずもなく、晃の全体重をヒザに抱えたまま俺は「くそぉ!」と叫んだ。


「太郎、頼んだからな!」


「えぇぇぇ!?」


俺の肩を憎しみ&親しみを込めて叩いた晃は「萌ちゃんのいないA組に用はない!」と教室を出て行った。それを廊下で見届けた一郎がいそいそと戻ってくるのを発見した俺は、ダッシュしてタックルを喰らわせた。


「逃げてんじゃねぇよ!」


床に突っ伏した一郎の坊主頭をバシバシと叩いた俺は、あかねの視線に気付いた。なんだろ、ジッと見つめられてるよ。


「太郎、ちょっと」


ちょいちょいと手招きをするあかねにつられて俺はもう一度一郎の頭を軽く叩き、彼女の元へと走った。あっ高瀬がいない。あかねを置いてどこに行ったんだ?


「あんた、宮田に何を頼まれたの?」


俺と晃の会話が聞こえていたんだね。あかねになら言ってもいいかな、協力してくれそうだ。


「いや、実はね。萌のふぁ…の相手を探せって言われたのよ」


「ふぁ…の相手?そんなの探してどうすんの?」


俺もあかねもやっぱりふぁ…から先が言えない。俺たちって純情乙女と、あれ、男の場合は純情なんて言うんだ?わかんねぇ。


「た、対決するとか?」


思ってみたことを口にしてみる、単なる当てずっぽう。でもあかねは信じたようです。


「対決?対決してどうすんのさ?萌を取り合うとか?」


「いや、ごめん。ウソ言った」


まさかマジで俺の言葉を信じるとは、あかねも余裕がないと見える。でも今は冗談を言っちゃいけなかった。あかねは「真面目に考えろ!」と一郎の仇をとるようにおでこに正拳を繰り出した。


「俺だってわかんないんだもん!ってそれよりあかね!その相手が誰か知ってる?」


「知るわけないじゃん!あたしだってさっき初めて聞いたんだから!」


あっそうだ、さっき萌の話を聞いてたとき「マジで?」って顔してたんだ。俺ってば忘れん坊だね。


「なにテヘッて笑ってんのさ!」


やべっ!顔に出てたか!?


「私知ってるよ?」


マジかぁ!と振り返ると、そこにはいつの間にか戻ってきた高瀬が立っていた。あんたマジで知ってんの?


「マジかよ高瀬ぇ!」


と、言おうとした俺をフッ飛ばし、さっきまで倒れたまま誰かに声を掛けられるのを待っていた一郎がそう叫んだ。しかしフフンと笑った高瀬はスタスタと俺の元へと歩み寄ってくる。無視された一郎は指をくわえて俺を見つめる…ってかまた子羊のような目してる!やめて!


「一条が私の頼みを聞いてくれたらいいよ」


「頼み?」


まったく想像がつかない。何を言うつもり?


「誰か男の子紹介して」


「そうきたかぁぁ!」


思ってもみなかった頼みに俺は頭を抱えてそう叫んだ。やっぱりこいつは魔性の女だよ!新しい恋にいくつもりだよ!


「俺が知ってる男なんて、ロクな奴いないんですけどそれでもいいのん?」


「野代とか以外ならいいよ。あっそういえば一条って弟いたよね、彼女とかいないの?」」


多分いないよ。ってか一郎以外って…かわいそうだね。でもこの前直秀に高瀬は魔性の女だからやめておけって言っちゃった!ここは悲しいウソをついておこう。


「いや、いるんじゃ…」


待てよ、ここでいるって言っちゃったら高瀬は教えてくれないか?……直秀ゴメン!


「いや、アイツは彼女いない歴15年だから大丈夫よ!」


「マジで?」


やった〜!と(ムリヤリ)あかねとハイタッチをした高瀬だったけど、「あっ」と短く声を出したと思ったら俺をチラリと見てきた。


「ねぇあかね、一条の弟ってかっこいいの?」


何気にヒドイ事言うねぇ、しかも小声ですらないし。ってか俺の顔をジッと見ないでいただきたいんですけども。


「太郎とは全然似てないよ」


「あかねぇ!そこはウソでも少し似てるかなぁ、くらい言ってもいいんじゃないのぉ?」


あっごめんと素直に謝るあかね、それはそれでなんか逆に寂しい。


「同じ高校なんだよね?何組なの?」


「えっA組だけど…」


「A…組?」


あっマズった。直秀ってたしか杉…なんだっけ?名前忘れたけど高瀬の元カレと同じクラスだったよな。


「…」


思った通り黙っちゃったよ。元気そうでもまだ完全に傷が塞がってるわけはないよね。

なんて考えていると、高瀬の親友であるあかねが無言で俺のほっぺたをものすごい力でつねってきた。


「ぐぎぎぎ…!」


新記録を樹立できるかと思うほどに俺のほっぺが伸びる伸びる。


「ちょっちょっとあかね、やばいって!泣いてるから!」


一郎が涙目になった俺を見て「やめてあげて!」とあかねの腕を掴んでくれた。けど力は弱まるどころか強まってる!


「あ、あかね!私べつに何とも思ってないから!」


「そ、そう?」


俺の泣き顔も一郎の迫真の演技にもウンともスンとも言わなかったあかねが高瀬のその一言に手を放してくれた。


「A組なんだ?」


「え、あっはい。そのようです」


今は2人が友達同士とは言わない方が高瀬の(俺の)為だよね?


「じゃあ今から見に行こうよ!」


「「ダメぇぇ!」」


あかねとのコラボレーションが決まったところで無愛想萌様が戻って参りました。

高瀬さんもったいぶり過ぎて聞く機会を失ったよ!


「なに」


「えっ?み、見てないよ?」


「ちっ」


「すいません見てました」


また舌打ちかよ!


「行こうよ一条!」


萌が自分の席についた後、高瀬がさっき晃にしたように俺の袖を引っ張ってきた。

やべっかわいいかも。茶髪な女の子もいいかもね、って気が多いよ俺。


「早くしないと昼休み終わっちゃうよ」


「えぇ、でもぉ」


ぐぐぅ、そんなに見つめられても…。なんて嬉し恥ずかし気分に浸っていると、全く可愛くない男が俺の腕を掴んだ。


「俺も連れてってぇ!」


「なんでだよ!お前はいいわよ!」


「ワタシも行きたいぃ!」


一郎が誰のマネかすらもわからないブリッ娘を気取る。…坊主頭でそんなことされても嬉しくねぇ。


「気持ち悪いのよ!」


放して!と軽くビンタを食らわせると、大袈裟に痛がる乙女一郎。


「いたぁい!もうお嫁に行けなぁい!」


「一生いかなくてよし!っていうかいけないから!」


ひどいひどい!と叫ぶ一郎を横目に、萌とあかねが何やら会話をしている。なんだ?まさかふぁ…の相手を聞いてくれてるのか?


「早く行くよ一条!」


「あっちょっマジで?」


半ば強引に腕を引っ張られた俺は、キツイ目で睨んでる萌と視線を合わせたまま教室を後にした。あかね!戻ってきたら教えてねぇ!


「マジで連れてってくんないのかよ!」


ドアを閉めたとき一郎の悲痛な叫びが聞こえた。


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