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第19話 両思いは思い込み

楽しいお昼休みの時間。僕はといいますとドアに手を掛けたまま硬直して突っ立っています。なぜって、かわいいあの子が僕を見つめているからに決まっている。


「…」


俺って、軟弱野郎だぁ!なんで何も声が出ないわけ?なんか言おうよ、声を掛けようよ。ほら、あの子も何か言葉を待っているよ、いけよ俺!

あっでも、もしここで声を掛けて、「え…なんですか?」とか冷めた目で言われたどうしよう。そうだ!お腹はもう治ったのかい?って声を掛ければ……でも待て!「何でそんなこと聞くんですか」とか言われるか?ってなんで俺ってこんなにネガティブ思考なのよ。


(あなたは間違っているわ。見てご覧なさい、あの子はあなたを見ているでしょう?声を掛けられるのを今か今かと待ち受けているの!さぁ勇気を出してアタックするの!)


アタックて…天使さん、さっきはあなたの意見を取り入れさせてもらったけど、今回ばかりはそうもいきませんよ。

よく見てよ、あの子は俺じゃなくて晃を見てるんだよ。……キミも晃のファンなのね?


(そうよ彼女は晃のファンよ。だから声を掛けるの、そしてあんたに用はないと言われるがいいさ!)


やっぱりそうくるか!はっきり言われると逆に清々しいわってか呼んでないんだから、脳みその奥に潜んでてよね!


「ドアは開けておいてくれぇ!」


立ち上がった晃はドアを掴む俺の手を叩いた。

お前さぁ、ドアを開けてたからって萌がお前の方に顔を向けるわけはないんだよ、それって悲しくないですか?


「あの…」


俺が晃の膝にローキックを喰らわせようとしたとき、女の子が呟いた。顔が可愛いと声まで可愛いんだね!しかもそのセミロングの黒い髪、ツボです、モロに僕のツボですよ!


「はいはいはい!」


俺は前に立ちはだかる晃をフッ飛ばし、こっちを見ている女の子に元気良く返事をしました。

…あれ、俺の後ろにいる晃君を見ているよ、俺を透かしてるよ。


「宮田先輩、ですよね?」


やっぱり俺じゃなくてコイツなのね。やっぱり男は顔なのかい?心は置き去りでいいのかい?でももしそうなら一郎はどうすんだよ!可哀想じゃないの……俺ってヒドイ。しかも俺だって一郎のことをそういう風に言えるほどカッコ良くねぇし。


「そうだけど、なに?」


てめぇ、なんだよその無関心な顔はぁ!もっと興味津々になれよな、俺が空しいだろが。

晃を蹴ってやりたい衝動に駆られたけど、ここでそんなことをしたら「先輩に何てことするんですか!」って言われそう。ってかさっき蹴っちゃったけど。


「お話があるんですけど、ちょっといいですか?」


お話って、ここじゃダメなの?俺はいちゃいけないの?ちょ、ちょっと。見つめられるのは嬉しいんだけど、その目はまさに「すみませんが、消えてください」って目だよ。やっぱり邪魔なのね?


「あっ僕まだ弁当食ってなかったー。じゃあこれでー」


めちゃくちゃ棒読み。ですがこんな可愛い子の頼みを聞かないわけにはいきません。晃、お前この子を泣かせてタダで済むと思うなよ!それを考えて言葉を発しろ!


「いや、悪いけど。俺いま忙しいから」


おいぃ!お前は別に忙しくねぇだろ!ただドアの隙間から萌を見てるだけでしょうが!はたから見れば暇人以外の何でもねぇよ。


「あっそう、ですか…わかりました」


「あっ」


ちょっと待ってって、俺が言っても意味はないんだよねぇ。俺には全くの無関係だし。あぁでもすごい悲しい背中だよ。…晃てめぇ!


「晃ぁ!ちょっとくらい話を聞いてあげてもよろしくないですかぁ!?」


俺はドアに張り付いている晃の後頭部を叩いた。ってかその行動はもはやストーカーだろ。萌に同情の意を表します!


「だから俺はいま忙しいんだって。そんなに言うなら太郎が聞けばいいじゃねぇか」


俺が聞いてどうすんだよ、意味がねぇだろボケェ!

くっそぉ、声に出して言いたい!言いたいけど言えない!ボケボケェ!


「あの!」


あまりの腹立たしさに、無言で晃の頬をつねっていると声を掛けられた。しかも今度は俺に、なにかしら?


「もういいですから。すいませんでした」


あっ怒られたよ。よく見たら晃の頬が真っ赤になってる、力を込めすぎたのね。あぁそうか、それでやめろって言ったのね?俺が悪者なのね。

この怒り、誰にぶつけてくれようか…一郎君!キミならわかってくれるはずだ!しょうパンを食いながら待っていてくれぇ!


女の子は俺(正確には晃)に軽く頭を下げると、小走りで階段を下りて行った。あの背中は絶対に泣いてるよ…この色男がぁ!あっ決して誉めてるわけじゃないよ。


「てめぇ、女の子を泣かせておいて、ってこっち見ろやぁ!」


またドアに張り付いてるよこの変態野郎!いい加減に目を覚ませよな、お前がいくらがんばっても萌は振り向いてくれないって。…ってなんでだろう。理由を聞いたことがないな、よし今度聞いてみよう、そして殴られよう。


「お前、マジでやめてってぇ…!」


晃の頭と腕を掴んでドアから引き離そうと必死になるけど、ビクともいないよコイツ。お前がどっかに行ってくれないと俺は教室に戻って弁当が食えないんだってば!俺の悲痛な心の叫びを聞いてよね!


「お前がやめろってぇ!俺の大切な時間を潰すなって!」


何が大切な時間だってんだよ、ただ覗き見してるだけでしょうが。これじゃラチがあかねぇよ。

俺は晃から手を離すと距離をおいた。そう、ジャンプキックを喰らわせる為に。勢いよく助走です!


「離れろボケェェェ!」


やりすぎたぁ!ドア壊しちゃったぁぁ!俺の正確なジャンプキックが晃の背中を捉えた、まではよかったんだけど。

ふっ飛ばされた晃がドアにぶつかり、破壊された。やっちゃったよ俺!てへっじゃ済まねぇ!


「「ごぉぉ!」」


俺達はそのまま教室に侵入。あたたと顔を上げると、冷めた目線で俺達を見下ろすお友達…って俺、これでもがんばったんだけど。


「太郎!あんた何してんのさぁ!」


晃じゃなくて俺かよ!

あかねが暴走気味で俺の元に走り寄ってくる。怒るなら晃を叱ってよ!こいつが全て悪いんだから!


「あかねぇ!俺、俺がんばったんだよ?」


そう涙目で懇願した俺は、遠くで呆れている萌と目が合った。あんた、俺にやめさせてこいと言っておきながら溜め息ですか。

しかも一郎のヤツ、俺がいないのをいいことにウーロン茶を飲み干してやがる。そんなにしょっぱいなら2コも完食するなっつの。


「お前、萌ちゃんの前で恥を掻かすなよな!」


「なに言ってんだよ!全部お前のせいじゃんかよ!」


マジでムカついたわ!と俺は倒れたままの晃にさっき喰らわせることのできなかった腕ひしぎ十字固めを仕掛けた。


「いてぇ!マジでやめて!」


晃の声なんて無視だよ。俺は腹が立ってんの!そして空いているのよ!痛いなら早くどっかに消えてくれぇ!


「わか、わかったからぁ!」


技を決められて苦痛に歪むその顔。ホントにわかったのか?まぁ俺だってそこまでヒドイ奴じゃないし、ここは素直に聞き入れてやるとしますかね。


「わかったなら早く自分の教室に戻ってよね」


手を離してやると、晃は「いてぇ…」と立ち上がり、事もあろうに萌の元へ走って行った……ってわかってねぇよあのアホ!

黙々と弁当を食べている萌は、近付いた晃を完全に無視しています。

ってかなんでアイツはあんなに萌に嫌われてんだ?中学の頃はそうでもなかった気がするんですがね。高校に入ってからひどくなったような…。


「萌ちゃん。俺はここを去るけど、心は一つだ!」


は、恥ずかしい!しかも真顔でその言葉を言えるのはキミだけよ!しかもよく考えたら意味がわからん、心は一つって。

…萌、シカトを貫いているよ。晃が完全に空気のような存在にされてる。それでも諦めない晃…冗談で言ったんじゃないよ?


「あんたさぁ、萌が迷惑してんのわかんない?」


「そうよそうよ!迷惑だってのよ!」


高瀬さんの言葉に便乗させていただきましたわ。

それにしてもよくぞ言った高瀬ぇ!さっきはオブラートに包んで、とか思ってたけどこの際そんなの関係ないよね。


「迷惑?」


なんでそこで疑問形なんだよ!マジであいつの頭の中を見てみたいわ。

それでもまだ弁当を食べ続ける萌様。あなたのその態度、表彰ものですよ。


「宮田」


弁当を全て食べ終えてしまった萌が、嫌々ながらも立ち上がった。あっあれはもう限界って顔だ。長年顔を付き合わせているとわかるんだよね、微妙な変化に…別に嬉しくねぇ、わかったらわかったで怯える回数が増えるだけだし。


「なんだい?俺と離れたくないって?」


なんでそんなにポジティブスィンキング?西岡先生のお陰で英語の発音はバッチリだね、テストの成績は悪いけど。

俺が全く関係のないことを考えていると、腕組みをしたままの萌が晃に低い声で言い放った。


「もうわかったから、弁当くらい静かに食べさせて」


何がわかったんだ?コイツのアホらしさがわかったってのかい。それは前々からわかってたことでしょ?

しかもあんた弁当全部食べちゃったんだよね?まだ食べ足りないのか?俺のでよかったら少しだけあげるよぉ。

ってか萌さん、俺と晃じゃちょっと話し方違うよねぇ。俺がもしもアイツだったら「うるっせぇんだよ!弁当くらい静かに食わせろやボケ!」だよね?


「萌、ダメだって。こういう奴をつけ上がらせちゃ。ハッキリ言ってやらないと」


さすが魔性の女。こういう時の対処法をわかっていらっしゃる。そのままマシンガンのように言ってやれ!


「ハッキリって……高瀬、悪いがお前のき、ぐわっ!」


「お前それ言うの何回目だよ!聞き飽きたわ!」


俺は晃の後頭部を思い切り殴った、正確には叩いた。殴ったら絶対に痛いからね。手の平で叩いてあげたの、私って優しいから。


「太郎、なんでお前はいつも俺の邪魔すんだよ」


少し涙目になった晃が俺を軽く睨んできた。ごめんなんて言わないよ?

ってか邪魔って、萌に頼まれた…というか命令されたからですけど?異存はあって?


「秋月が太郎に命令したからだよ」


い、一郎。お前言っちゃったよ。しかも頼んだじゃなくて命令って言った。後で萌にどうにかされても知らないからね。

晃が俺を「なんだってぇぇ?」という目で睨んでくる、って俺は何も悪くないんだよ。一郎君の言うとおり、萌に命令をされたから仕方なくだよ。


「…お前、中学のとき言ってたよな。萌ちゃんとはただの幼なじみだって」


「い、言ったけど?」


この鋭い眼差しはなんだ?いつもとは違う気迫を感じる!でもここで引いたらダメ!心を強く持って俺!

何を言われるか待っていると、突然晃は俺の胸ぐらを掴みこう叫んだ。


「お前、俺の萌ちゃんに気があんのかぁぁぁ!」


「なぜぇぇぇぇ!」


叫ばすにいられないよ!何をどう考えたらその答えに辿り着くのよぉ!俺の萌ちゃんってのは今は置いておいて、俺が何で萌に気がなきゃいけねぇんだよ。お前、一郎の言葉が耳に入ってなかったの?命令されただけなんだよ俺はぁ!


「ちょっ、おまっ落ち着けぇ!」


「同じクラスだからか!そうなのか!」


何がだよ!同じクラスだから何があんだよ!てかお前、違うクラスだけどちょくちょくこっちに来てんじゃないのよ。


胸ぐらを掴まれている俺はなんとか離れようともがく、でも予想以上に晃の手には力が込められていて思うように抜け出せない。このぉ、俺の力を甘く見るなぁ……ダメ!

ぐえぇと叫んだとき、俺を助けようとあかねが晃にローキックを喰らわせてくれた。ありがとうあかね、マジで死ぬところだったよ。


「あんたいい加減にしなぁ!自分の教室に戻れ!」


膝を抱えてうずくまる晃にそう言い放つあかねは、まさに鬼神。俺、あなたについて行きます!にしても今のはモロに入ったよね、痛そうだわ。


「A組は全員で俺と萌ちゃんの邪魔をするつもりなんだな」


膝をさすりながら立ち上がった晃がボソリと呟いた。なんかさっきと違って冷静だね、でもなんで微妙に笑ってんだ?


「お前達がそういうつもりなら、俺だって負けないんだからなぁ!」


うわぁぁ!と叫んで教室を去った晃、を呆然と見守る俺達。何に負けないって言ったんだアイツは。理由を述べてから出て行けよな、ちょっと気になるでしょうが。


まぁでもこれでやっと弁当にありつけると、俺は自分の机に戻った。みんなもそれぞれ教室を出て行ったり、昼食を再開したりしてる。いつもと変わらない風景に戻りました。晃のことに触れる人は誰一人としていない。このクラスって意外に冷たいのねぇん。


「さぁて食べましょう!って一郎ぉ!てめぇ人の弁当勝手に食ってんじゃねぇよ!」


弁当は見事に空っぽにされていました。「お、俺じゃないって!」と首を振る一郎、お前はパンを食べていたんだよね?じゃあなんで米粒が口についてんだよ!バレバレなウソつくなってんだ!


「俺は早く弁当が食いたいから晃を追っ払ったんだよ?それなのにこの仕打ち、もう許しておけません!」


俺は空っぽになった弁当箱で一郎の頭を叩いた。さっきお前言ったよね、「親友が昼からの授業を受けられなくなってもいいのか?」って。その言葉、そっくりそのまま返してやるわぁ!


「俺は食べてないわよ!あかねだってぇ!」


「あたしかよ!」


立っていたあかねが横から一郎の側頭部めがけて手刀を繰り出した。人に罪をなすりつけるのはよくないよ、だから助けてやらない。

エビフライは食ったけど、他のモノ全部食いやがってぇ。ご飯だってまだ半分くらいしか食ってなかったのに。しかもお前しょうパンを2コも食っておいてよく俺の弁当が食えたね。お前の腹は底なしか?


















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