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第14話 だからそれは勘違い

授業は平和に過ごすことができました!それもこれも全て、無表情な顔のままで席についている萌さんのお陰です!ってこのシャープ、返さなくてもいいんだよね?


3時限目は、古文かぁ。庭田先生に会うのツライんですけど、絶対に何か言われそうなんですけど。

庭田先生はめちゃ美人だから、生徒達は非公式のファンクラブを作ってる。俺が先生を泣かせたことが広まったら……考えるだけで怖い。


「うぁぁぁ、帰りたいぃ」


そう呟いた…呟いただけです。もうこうなりゃいっそのこと、「庭田先生を泣かせたのは僕です!」って宣言するか?全くもって意味がわかんねぇけど、宣言する意味がわからん。


「太郎」


机に頭を何度もぶつけている俺の背後から、あかねの声が聞こえる。振り返る?しかないよね。きっとさっきの続きを聞かれると思うけどさ。


「なんだい、あかね太郎?」


俺達のコンビ名を言ってみたけど、あかねには聞こえていないみたいです。ブスッとした表情で僕を見ています。

なんだよ、せっかく人が笑わせてあげようとしてんのに、頼むよ。


「萌も」


俺の隣りに座ったままの萌に話しかけたあかねは、自分のイスを俺達の真ん中に置いたと思ったら聞き取れないくらいの小声で話し始めた。


「………た?」


って全然聞こえないから!声小さすぎるから!


「あかね、何喋ってんのか全然わかんないから」


俺のセリフを萌にもっていかれた。まぁいいか、これくらいは。譲って差し上げよう。

あかねはごめんごめんとこれまた小さい声で謝る。そんなに小さい声で話さないとダメなのかい?


何を言われるのかあかねに耳を近づけていると…し、視線を感じる。なんだ?誰?

辺りを見回してみると、一人の男がいじけた顔で俺を見ていた。一郎よ、カーテンに巻かれて楽しいかい?


「俺を仲間外れにすんなよなぁ!」


こっち来んな!まだカーテンに巻かれたままだろが!ホコリが舞ってんだよ!


「俺だってみんなと楽しく話がしたい!」


そう叫んだ一郎が俺に抱きつく。どうする?また投げ飛ばしてくれようか?…可哀想だからやめてあげよう。

一郎に抱きつかれたままの俺は、「気にしないで続けてください」とあかねに話を促した。ってコイツ、鼻息荒ぇ!

このアホがどっかに行くことはないと諦めたあかねは、できるだけ一郎に聞こえないように声をひそめる、って聞こえる程度で話してね!


「…萌、あんたさっき恭子になんて言われた?」


お前も知らなかったんだね?聞かなくてよかったよ。もし聞いてたら「あたしだって知らないよ!」って返されてたね。よかったよかった…って俺、関係なくない?俺には何も聞かなくてもいいのかい?


「なにって…」


あかねよりも小さな声でそう呟く萌は、やはり元気がありませんなぁ。

俺だってできれば何を言われたのか聞いてみたいけど、聞いていいもんなのかどうか。うぅん悩む。


「…」


無言はやめて!何でもいいから言ってちょうだい!


(ハッキリ言え!と言うがい…)


消えろ天使ぃぃ!お前には聞いてないから!ってかお前の大声で萌の声が聞こえないっつーの!黙っててよ!


「…私は」


「一条」


誰だよ!?せっかく萌が何か言いかけたのに!と振り向くと、目の前には高瀬がいました。その顔は、あれだ。何か聞きたい事があるって顔だよ。でもさっきは俺を無視して席に座ってたよね?


「え?ど、どしたの高瀬ぇ?」


そう言いながらも俺はあかねに視線を移す。「今あたしがこいつと話してるから!」って言ってくれるのを期待しているんですが、何も言ってはくれないのですね?じっと高瀬を見つめてないで、何か言ってあげて!

ふと見ると萌は高瀬と視線を合わせないように下を向いてる。こんな2人を見てたらマジで何があったのか聞きたいわぁ。


「ヒロくん、私に謝りに来たんだけど。何か知らない?」


知ってます、というか俺が謝れと言ったんです。なんて言えないよぉ!ってかヒロくんはないんじゃない?あの顔でヒロくんて。

まだ高瀬の顔が見れない萌は、スッと立ち上がると、事もあろうに頭を下げてるぅ!お前が頭を下げたとこ見たの初めてですよ!感動しましたぁ!


「ごめん恭子。全部私のせいなんだよ」


それは勘違いだよ萌ぇ!悪いのはキミの父親!真さんでしょうに!

俺は萌の間違いを正してあげようと口を開いた。でも、


「萌、あんた何も悪くないでしょうよ。悪いのは…」

「私が悪いんだって言ってんだよ!」


「いいぃぃぃ!ご、ごめんなさいぃ!」


ずっと萌は怒る素振りも見せなかったから俺、調子に乗ってた!そうだよ、あんたはキレてなんぼだよ?でも怖い!睨みすぎだからね!


「私は何も知らなかった、じゃ済まないんだよ」


何も言えない。そう言ったら俺だって知ってる、昨日真さんがお前に見合い話を持ってきたの知ってる。相手は誰だかはわかんなかったけど、聞いて帰るべきだったかもね。


俺達の会話に入って来られずにいた一郎は俺から離れると、一発頭を殴られた。

なんで?なんで今この状況で頭を殴られなきゃいけねぇんだよ!しかもお前、何で泣いてんの?意味わかんねぇ!


「ってぇ!何すんだお前!」


「俺だって何も知らねぇんだ!知らねぇのになんで俺はあかねに殴られたんだよ!しかも俺だけ謝ってもらってねぇ!」


えぇぇぇ!それ今言いますか?話題を変えるな!頼むから黙って俺に抱きついててよ!って俺は何を言っているの?怖いわ!

あかね、謝ってあげて…って無視しちゃってるよ。高瀬を見たまま動かないよ。


「す、すまん一郎。でも一から説明すんのめんどいから後で」


「おいぃ!親友が泣いて懇願してるってのにめんどいって何だよ!いいよいいよ!勝手にしろよ!俺は一人で便所に行くから!……ついてくんなよ?」


めんどくせぇぇぇ!その顔は「ついて来てよ?」って言ってる顔だろうが!状況を理解してモノを言え!今は男2人で連れションしてる場合じゃねぇんだよ!


動こうとしない俺を見た一郎は「ばっきゃろぉぉ!」とだけ言い残して教室を去っていった。

マジであいつは何がしいたんだよ。でもちょっと心が痛んだ、後でジュース奢ってやるからカンベンしてくれ。


それから俺達は一郎のことはスルーして話を続けることにした。


「お父さんが見合いするってきかなくて。相手は誰だって聞いたら杉原 洋っていう私の後輩だって言われて。ムリって断ったんだけど」


あっそういや、女は16歳で結婚できるけど、男は18歳になんねぇとダメなんだよね?どっちにしろ白紙に戻るんじゃん!俺、一人で突っ走ってバカじゃん!


「って結婚なんてムリでしょ?だって杉原はまだ高校に入ったばっかで15歳なんだからさぁ」


あかねぇ!ナイスツッコミだよ!そのまま行けぇ!ってどこへ?


「いや、私もそう言ったら…」


萌はなにか言いづらいのか口をパクパクと動かす。これは嫌な予感がするよ。あの真さんのことだ、きっと一筋縄じゃいかない答えを言われたんだろうね。言いづらいかい?じゃあ俺が言ってあげようじゃないか。


「愛に年の差なんて関係ないって言ったんじゃないの?」


俺の言葉に驚いた萌が大きな目をもっと大きくさせてこっちを見る。やっぱり図星かいぃぃ!あの親父の思考回路はどうなってんだよ!まぁ愛に年の差は関係ないけど、それとこれとは話が全然違うし!


「え…萌、図星?」


聞かないであげて!あえて聞かないでよあかねぇ!萌の親父はバカなの?って言ってるようなもんだから!きっと萌だって恥ずかしくて死にそうになってるから!

萌は下を向いたまま二度、コクコクと頷く。って頷かなくていいよぉ!ムリしないでぇ!


「はっきり言って、私のお父さんってちょっとおかしいから」


ちょっとどころじゃありませんよ!すっっっっごくですよ!めちゃくちゃおかしいんですよ!でも実の娘だからね、そんなことは口が裂けても言えないだろうね。いくら呆れても自分の父親をそんなに悪くは言えないのよね。


「そっかぁ…」


フッと笑った高瀬がそう呟いた。なんで笑ったの?真さんに対してかい?それならば大口を開けて笑ってやるがいいさ!って俺、天使に似てきた。あぁもうヤダ。


「萌は、断ったんだ?」


「……うん」


あれ、なんか高瀬、まだ笑っているよ。どしたどしたぁ!そこで魔女的に高笑いでも始める気か?

なんて思っていると、高瀬の口からは信じがたい言葉が飛び出しました。


「そうだよね。だって萌には一条がいるんだし」


「「はい?」」


萌と2人同時に聞き返してしまいました。こういう所では俺達の息はピッタリですよ。萌太郎?うわっなんか変。


「ヒロくんの事はもうどうでもいいよ。私、新しい恋する!」


「ちょっ、ちょっと高瀬さぁん!あんた、なんか勘違いしてるからぁ!」


新しい恋をするのは悪いことではございません、大いにやってくださいまし。でも、今、言ってはいけない一言を言ったよ!


「俺とこの人はなんでもないのよ?勘違いはいけませんわぁ!」


「え?なにが?」


あんた、さっきとは比べものにならない笑顔を見せてくれるのはいいんだけどさぁ、なにが?はないでしょうが!


「だから!俺と萌はなん、いってぇぇ?A5!」


俺の叫びをシャットアウトしたのは萌の力強い右足でした。思いっきり踏まれた!足の爪が痛い!踏むならつま先だけじゃなくて足全体を踏んで!


「なにすんのぉ!」


「黙れ」


だ、黙れって。誤解を解いてあげようってのにこの子は!何が不満なのよ!言ってごらん!


「ごめんね恭子」


そうじゃないでしょうよ!誤解を解くのが先でしょ?はっきり言わないとわかんないのよこの子は!昨日あれだけ言ったのにまだわかってないんだから!


「いいんだよ。アイツにティッシュ鼻に詰めたままで謝られたとき、なんか冷めちゃったし」


そんなんでいいのかいぃぃ!鼻にティッシュ詰めて謝ったらダメなのか?勉強になるよ!そしてやっぱりお前は魔性の女だ!しかももう「ヒロくん」じゃなくて「アイツ」だし。


「ってことで!萌!今日一緒にナンパされに行くよ!」


ってことで?ってどういう意味?という顔をしている萌、を見てる俺とあかね。ってあかねは連れて行かないのかい?あかねさんも美人ですよ?

ああダメか、部活動に参加してるものね。じゃあワタクシを連れて行くかい?それこそ誰も声なんて掛けてくれませんけど。


って高瀬ぇ!あんたさっき俺と萌は付き合ってる、みたいなこと言ってなかった?俺が本当に彼氏だったら怒り狂ってるよ?

俺は萌はやめておけと高瀬に言おうと口を開こうとした。


「萌は…」

「いいよ」


いいのかいぃ!あんた、この世で一番嫌いなモノはナンパと長ネギじゃなかったっけ?高瀬の事を思ってかい?でも今まであなたをナンパした男達は、全員が殴られてあえなく撃沈してますよ?高瀬、お前はそれを知ってて言ってんのか?


アホだこいつら!と思っているとき、校内放送がかかった。喋ってるのはミスター伊藤。

しかも俺の名前を呼んでいる。俺、何かしたっけ?あっ仮病使って保健室で寝てたのがバレたのか?


はいはいと重い腰を上げると同時に一郎が教室に慌てて入って来た。お前、マジで疲れるわ。








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