第125話 広い背中は男の証?
年内までには書き上げる! と、意気込んでいたのですが……ちくしょう……。
今回は急展開を見せております。読んでいただけたら幸いでございます。
「ふぃ~、良い湯じゃったのぉ」
「あんたは年寄りか」
顔面を池ポチャならぬ皿ポチャしたせいで髪の毛は熱々のスープまみれ。でも自分としては良い匂いだから別に気にしてなかったんだけど、そんな中華な香りぷんぷんなワタクシに嫌そうな顔した萌が、
「私は別に良いけど、多分そのままでいると毛が抜け落ちていくと思う」
と、妙に恐ろしいことを言われちゃいましてお風呂をお借りした次第です。いやはやデカイ浴槽は最高ですなぁ。足を真っ直ぐビョーンと伸ばしても全然オッケー最高。
……着替え? そりゃあんた、一回家に帰って持ってきましたよ。ついでに自分ん家で風呂に入っちゃえば良かったんですが、でもそうなると萌が長時間1人になってしまうと考えたわけです。……ただ単に秋月邸の風呂に入りたかったからじゃありませんよ。
「萌は? 入んねぇの?」
「黙れ」
え、何でそこで睨む? ちょっと聞いてみただけじゃんよ。そんな怒らなくてもいいでしょうに。
勢いで萌にあんなことを言ってしまったワケですが、あれからずっと微妙な空気が今現在も流れています。そりゃもうスープでひたひたになった唐揚げを無言で食うほどに。食いながらもチラリと萌を見てみると、彼女も無言でひたすらレタスを頬張っておりました。
やっぱ、なかったことにしてくれって事なのかね。
「あのさ、さっきのことだけど―」
「ちょっとジュース買ってくる」
「え? あ、ちょい待たれ!」
あからさまに避けてるなおんどりゃ! そんなに忘れたい出来事なの? 闇に葬り去ってしまいたいの?
「ちょっと待って方向音痴!」
「それ嫌味?」
「嫌味じゃないよ! 本当のことぶぉ!」
いきなりの裏拳が左頬にクリティカルヒット。骨にヒビが入るかもっつーくらいの衝撃だよこんにゃろ!
「いでで。じゅ、ジュースなら果汁100パーのグレープジュースがあるでしょうよ」
「アレ濃すぎる」
今さら!? おばさん買い物に行ったら必ずといっていいほど買ってくるよね? お前が好きだから買ってるんじゃないの? 一体おばさんは誰の為に買ってきてるんだ?
「わ、わかった。100パージュース以外が飲みたいんなら俺が買ってくるからさ。その代わり萌は家から出ないでよ?」
「命令するな」
「命令じゃねぇっつーに。お願いだっつーの」
俺の言葉のどこに命令口調が混ざってたよ。ってかお前の方こそ命令口調じゃねぇか。
「……マジで、頼むから」
そう言って少し頭を下げる。今日だけは出来るだけ俺の目の届く範囲にいて欲しい、何があっても全力で守るから。たとえ俺がどうなっても、萌だけは守りたい……うん、守る。
…………くっせぇぇー! 俺クッスゥエーーー!
……あ、危ない危ない。軽く現実逃避しそうになった。俺っていつからこんなロマンチストになったのよ。風呂入ったのにクサイってどういうことよ。
「そこのコンビニなのに、行っちゃダメなの?」
なんで? と首を傾げる萌さん。すぐ近くなのにって言いたいんだろうけどね、まずあなたは夜の道は危ないという言葉を覚えようね。
っつーか、いきなり可愛らしい言葉&仕草すんのヤメてよ。「行っちゃダメなの?」なんて言ったことないでしょ。「なんでダメなのさバカ太郎が」でしょ。不覚にもドキッとするから。無意識にやってるなら尚更タチ悪ぃよ。
「だ、だからダメったらダメ! 代わりに俺が行くって言ってん……だ、だめぇぇええ!」
「なっ、何が!? っていうかうるさい!
耳をつんざくような絶叫を聞いた萌が黙れとローキックを繰り出してくる。が、痛みを感じている場合じゃない。俺が行ったら萌が1人になるじゃんか! どっちみち萌を1人にする! ヤバイヤバイ、危うく萌の策略にハマるとこだよ。
う~ん、部屋で大人しくてくれてんのが一番なんだけどなぁ。……仕方ねぇ。
「……おしっ、一緒に行くぞ」
「え、なんで? ジュース一本に2人で行くことないんじゃないの?」
おい、俺の分は無いんかい。俺には果汁100パー飲んでろってか。
「すぐ近くかもしんないけど1人はダメだってば。だから俺も行く……つっても、何かあったとき役に立てるかどうかはわからんけど。まぁやばくなったらお前が逃げる時間くらいは稼げるから」
あかねみたいに空手家じゃないし、ノブ君みたいに強くない。じゃあどうするってーと、不意打ち攻撃か、それが出来ないなら逃げる……お願いだから卑怯とか言わないでね。これでも一生懸命考えた末に出した結論なんです。勝ち負けじゃなく、どうやったら萌が無事に生還出来るかが勝負なんです。それに俺の逃げ足の速さは萌も知ってる。どんとこい!
「そうと決まれば萌殿、出陣じゃ!」
「ほ、ホントに2人で行く気?」
「え? 行かないの?」
俺は行く気満々なんですけど。便乗してチョコ買ってもらおうと思ってたんですけど。298円くらいの高級チョコレートをねだろうと考えていたんですが。
「……行く」
「よっし! 行こう行こう!」
「でもその前に髪乾かせば?」
「うん? あぁいいよいいよ。俺は自然乾燥派だから」
「……そう」
鞄から財布を取り出そうとする萌を急かし(うるさいと怒られた)、近くのコンビニでいいんだよな? なんて会話をしながら玄関に向かった。
「あ、太郎」
「んぁ?」
俺の後ろを歩いていた萌にちょっと待てと服の裾を引っ張られて立ち止まる。行くのヤメたとか言わないよね?
「髪に何かついてる。ちょっと頭下げて」
「マジで?」
何も考えずに萌の方へ体を向けてほいと頭を下げる。その瞬間、彼女の手が触れた感触がした。
……ちょ、おぉ、うぉ、急に照れてきちゃった!
「……もう、いいよ」
「お、おぉ。な、何ついてた?」
触れられた所がなんだかむず痒くて頭をボリボリ掻きつつ顔を上げる。
ダメだダメだ、変に意識するな。好きなヤツに触れられたからって意識するな……っていうのには無理がある! 俺も何で普通に頭下げちゃったかなぁ、アホでしょ!?
「糸くず」
「う、おぉ……糸くず……」
……ままマズイ、言葉が続かない。ありがとうすら出てこない。
「あり、ありが、アリガトゥネェ……」
「なに? 気持ち悪いんだけど」
ごめんよ鈍感ちゃん!
うぅむ、萌は全然といっていいほど俺を意識してないのが丸分かりだな。そうじゃなかったらついさっき告白っぽいことされたヤツの頭掴む……じゃなかった、こんな不用意に、その、なんだ……あぁもう頭おかしくなるわ! もっと自重しろってことだよ!
萌のアホ! なんて言えずに固まっていると……恐い恐い、お願いだから睨まないで。
「あ、あぁいや……」
ラッキーなことにノブ君がいないし、彼女を前にして言いたいことは山ほどあるのに、でも言葉に詰まってそこから先が進まない。
そういや2人っきりって久しぶりだな。ここ最近は何をするんでもノブ君とかノブ君とか、ノブ君とかいたし。
「い、糸くずってさ、クズなのかなぁ?」
はい、すんません。空気に耐えられなかったとはいえアホなこと口走りました。
「クズはあんたでしょ」
はい、すんませんその通りです。って違うわ!
「サラッとひでぇな!」
「あんたが意味分かんないこと言ってるからでしょバカ太郎」
クズかバカかどっちかにしてよ! どっちも嫌だけど!
バカバカ! と可愛い感じで怒ってみようかと悩んで却下した。殴られそうだしやめておこう。あ、だけどおかしな言い合いをしたお陰で少し落ち着いたな。これならイケるかも。
心の中でゆっくり深呼吸をしてからしっかり顔を上げる。よし、もう大丈夫だいじょう……。
「お、おまっ……!?」
「?」
それは反則ですぜ萌さんや!
説明させて頂こう。気合いを入れて私が顔を向けましたところ、萌さんはサラリとご自分の髪を耳にかけたんです。そう、なんでか僕は萌さんの『髪を耳にかける仕草』に弱いらしいんです。
……えぇ自分でも意味不明ですよ。前にもその仕草を見せられて不覚にもドキリンコしたくらいに意味不明ですよ。
でも今それやるか!? 平静を保とうと意気込んだ瞬間にやるか!? あんた鬼か!?
「さっきから何なの? はっきり言え」
言えません、言えませんよ。言ったらソッコーで「ヘンタイ」って返される。
どうしようか迷った挙げ句、何でもいいから話題を逸らそうと萌をチラ見して思いついた。
「……あ、あれれぇ? 萌も髪に何か付いてるよぉ? 取って差し上げる!」
「ちょっ、触るな腐る!」
おんどりゃあ! さっきは自分から触ってきたじゃん! 原理は同じじゃん!
「あんたに触られたら、その……呪いが移りそうで怖い!」
なんの呪いだよ! そういうことを真顔で言われると泣くぞ!? ってか何で言葉に詰まったよ。まさかさっそく呪われはじめてんのか!? ……ってか俺がいつ呪われたよ!
「悲しいから呪いとか言うな! もうほら行くぞ!」
額にこれでもかというくらいに汗を掻いていたけど、バレたくなくて萌を背に靴を履き始める。もうさっさとコンビニ行ってジュース買って……って、俺こんな状態で泊まれるの!?
もう何も考えるな、ちゃっちゃと行っちゃおう! と靴を履いて勢い良く立ち上がると同時に、いきなり服の袖を軽く掴まれた。おまっ、ちょ、それ本当にヤメて。
「ど、どした?」
「え? ……あっ、ご、ごめん!」
自分でも無意識に掴んでたのか、萌は慌てて手を放すと俯いてしまった。ってかそんな焦らなくても。赤い顔されるとこっちも困っちゃうんですよ。こっちも赤くなりそうっす!
「え、えっと……行きたくない?」
って尋ねてみても、何も返事がない。ななな何よ何よ。何か言ってよ。
「……太郎は、さ」
ポツリと小さな声で俺の名前を呼んだ萌は、何を考えたのかほんの少しだけ近づいてきた。
「その、さ……こと……」
「さ?」
まったく聞き取れないのでもう一回お願いしますと言いたかったけど、変に口を挟んだりすると萌はきっとそれ以上何も言ってこなくなるだろう。だから何も言わずに彼女の次の言葉を待つことにした。
「す、す……」
「す? 何だよ?」
「好き……なの?」
……え、なにコレ。なんの確認作業? 俺がさっき口走ったことを確認されてるわけ?
「す、好きって……さ、さっきも言ったじゃんか! すす好きなヤツ守れない俺アホじゃんかって!」
恥ずかしいこと二度も言わすな! 穴があったら入りたいくらいだよ!
「え? …………あ、そ、そうじゃ、なくて……」
じゃあ何だよ! もうはっきり言って欲しい! それでなくてもパニクって頭から湯気が出そうなのに!
「だ、で、でも……太郎は」
「なにさ!?」
「早希の、こと……」
あ、コイツ俺が今でも三井のこと好きだって思ってるな。なんでお前のこと好きだって言ってるのに信じてくれねぇんだ?
……ごめんなさい、俺が曖昧な態度ばっかり取ってたからですよね。でも俺、三井のことは好きだったけど、今は違うって前に言わなかったっけ。それすら信じてもらえてねぇのか? そんなに俺ってちゃらんぽらんなの?
「あ~……あぁもう! 俺は!」
ガシガシと頭を掻いてから萌の顔を真っ直ぐに見つめる。戸惑っているような表情の彼女は少し身を仰け反らせた。
「お、俺は! おま、お前、お前が、お前、おま、え……」
お前しか言えてないですよ俺! さっきまでの勢いはどこへやらですよ! 萌も「お前?」って顔してるし! 男ならやってやれでしょ! こんな2人っきりで、しかもノブ君がいないチャンスなんてそうそうないんだから!
「なんか、ごめん……」
気合い入れろや俺! と心の中で自分を叱咤していると、消え入りそうな声が聞こえてきた。
……あの、なんの「ごめん」でしょうか? 一度振られてんのに、もう一回振られるってオチっすか?
「私……やっぱりもう、限界かも。これ以上、誤魔化せ、ない……」
ちょちょちょっ、なんでそこで泣くの!? 振られた俺がおいおいと泣くなら分かるけども。
下手に彼女に触ろうとすれば殴られそうだし、かといって気の利く言葉も見つからず、オロオロするしか道がない。どどどうしよう、どうしたら泣き止んでくれるのよ。いないいないばぁとか……殴られる!
小さく「萌? も~え?」と呼んでみる。が、反応無しです隊長! 助けてください隊長! 悪魔も天使も今出てこないでいつ出てくるのってくらいに来てくれないし! どこに消えやがったあの野郎共!
「私やっぱり、太郎のこと……好き、みたい」
ここは男らしく彼女の肩に手を乗せて安心させた方が……なんて考えていると、不意に少しだけ顔を上げた萌が小さくそう呟いた。その表情は困ったような、でも少しほっぺたが赤くて……え?
「……へぁ?」
今この子は何て言った? 太郎が好き? ……太郎って誰じゃい! ……俺じゃい! ……え、え、うぇぇえええええええ!?
「うぇ、うぇぇえええええ!?」
うそーーーん!! 何で玄関で告白されてんの、じゃなくって! だだだってお前、ノブ君にラヴだったはずじゃ?
「……ごめん。本当は言わないままでいようと思ったんだけど……」
目ん玉が飛び出そうなくらいに驚いていると、なぜか知らないがもう一度謝られてしまった。
また俯かれてしまったせいで萌が今どんな表情をしているのか見たくても見えない。そんな中、彼女の肩が少しだけ震えているのに気がついた。
「……太郎の、ことなんか好きじゃないって、思おうとしてた。ただ家が隣りだってだけで、こんなバカ男、絶対に好きじゃないって……好きになるなんて有り得ないって……気持ち悪いって……」
ちょっ、待てコラ。最後の方はどう考えても悲しすぎるだろ。
「それに、太郎は早希が好きだし、早希も太郎が好きで……」
「だ、だからそれは勘違いだって―」
「それでも!」
キッと俺を睨んだ萌はうっすら涙を溜めていて、思わず言葉に詰まってしまった。
「私は性格キツイし、あんたに優しい態度なんて、取れないし……。だけど早希は優しくて―」
「俺は萌が好きだって言ってんじゃんか!」
「嘘だ!」
即答するな! 俺の瞳(と書いて「め」と読む)を見ろ! どこがウソ言ってる? この純真な瞳を見ろ! ヤケじゃねぇよ、勢いでもねぇよ!
「だってあんた早希のこと―」
「お前が好きだって言ってんだりょ!」
……一番大事なところで噛んじゃった。でも、それでも言葉を切りたくない。言って言って、わかってもらえるまで言ってやる!
「お、お前の性格がキツイのなんて昔から知ってるっつーに! それに俺が何を言っても返事一言で終わるし、冷たい視線とか送ってくるし。蹴るし殴るし鞄アタック繰り出すし。 俺以外のヤツと話してるときは笑顔なのに、俺が寄ってくと途端に不機嫌無表情になるし……」
……あれ? 何か、好きな人に言う台詞じゃない気がしてきたんですけど。
「……それ、遠回しに私のこと嫌いって言ってない?」
「ちがっ、言ってねぇよ!」
目尻にほんの少しだけ涙を溜めている萌は、それを拭おうともせずに俺を睨んでくる。待て待て、いま言葉考えてるから焦らせないで!
「嫌ってなんかねぇよ! お、俺のこと別にどうとも思ってないって言われたとき……正直めちゃくちゃヘコんだし。けど、ノブ君は格好良いし強ぇし、それに萌のことめちゃくちゃ大切に思ってるから。俺じゃどう頑張っても負けは確定してて……萌のこと諦めなきゃいけないのは、分かってたけど……」
ノブ君……彼が萌を好きなことは確かだろう。俺がこうして告白してること自体、萌にとっては迷惑な話だとは思うけど。
「……ちょっと、後ろ向いて」
「へ?」
上手く言葉が出てこなくて、ノブ君と自分を比較しても意味がないって分かってるのに。
そんなことを考えていると、萌が俺の右腕をパシッと叩いてきた。微妙に痛かったけど言われた通りに後ろを向いてから……背筋がゾッとした。も、もしかして頭パーン! って叩かれるのか? 伝説のバチコンがお目見えするのか?
「……背、また伸びた?」
「え? あ、あ~伸びた、かもねぇ。ほら、俺って晩成型でしょ?」
こんな時までおちゃらけなくてもいいのに、どうして俺の口はこうもいらない言葉がポンポン出てくるのかね。
「そんなの知らないし……。でも、あんたの背中って……」
「え? ……いだぁっ!?」
背骨いってぇえええ!
殴られはしませんでした。だけど、頭突きされました。お前は何が目的なの!? 何がしたいのよ!?
「あんた何す……って、萌?」
頭突きを喰らわせてきた彼女は、そのまま俺の背中におでこを押しつけたまま動かないでいた。萌に触れられている部分が少しずつ熱くなっていって、だけど身動きが取れない俺は固まったまま首をグリングリンと左右に振った。萌、萌の顔が見たい。けど見えない!
「……馬鹿太郎」
えぇっ!?
「……ありがとう」
「えぇっ!?」
おぉ、今のは韻を踏んだのか? 萌のヤツめ、なかなかやりおるな……ってバカ! そうじゃないでしょうが!
「あんたの背中ってさ……広い、よね」
萌の小さな呟きを耳にして、頭からポッポ―と何かが出て来そうなくらいに恥ずかしくなった。
「お、おぉ? ひ、広い……かなぁ? あ~……でも自分の背中なんて見たことないから……よく分からんけど。萌が言うなら広い、のかねぇ? でも、一郎の背中も結構広くてたくましいよ?」
どうしてここであの坊主頭の名前を出してしまったのか自分でも意味不明。だけど俺は知っている、彼の背中が暖かいことを。主に羽交い締めを喰らわせた時によく感じるんだよね。でも今はそんな情報いらなかったよね。
「あんたの背中しか見てないから……野代の背中は知らない」
ぶっぎゃー!! もう何コレ何コレ! お前そんなこと言うキャラじゃないじゃん! 何でそんなこと言うの!? そんなに俺の心弄んで楽しい?
「……づぉっ!?」
訳の分からない言葉は出てくるものの、体は動けずそのまま固まっていたらスルッと萌の腕が伸びてきて腹に回された。ま、まさか、そこからまさかのバックドロップを披露する気!?
「……デブ太郎」
「うぇ、ちょっ、おぃいい! 俺の腹は程良く引き締まってるっつーに!」
自慢出来るほど腹筋は割れてないけど、デブって言われるほどダブついてねぇよ!
「デブ太郎……」
デブ太郎としか言ってこない彼女は、腹に回している手に力を込めてくる。……ってかさ。その……む、む、む…………。
(ヒヒヒ、胸が当たってるよ萌ちゃぁんと言いなさい。そしてキレた彼女のバックドロップを喰らうがいい!)
てめっ天使ぃ! 今さら出てくんな! 久しぶり!
(忙しいんだから呼び出さないでよ。いま脳内パラダイスに出かける支度してたんだから。まぁ言いたいこと言ったし、それではアディオス)
呼び出したの今じゃねぇよさっきだよ! タイミング合ってねぇんだよ! それに脳内パラダイスって、結局俺の頭ん中だろが!
「太郎……?」
「うひぇっ!? は、はひぃ……」
も、もう何コレ何コレぇぇぇええ! 誰でもいいから助けてくださーーーーーい! このままだと鼻血出るぅぅぅううう!