第124話 とろみは熱い
「……なによコレ」
「タッパーだよ、見たら分かるだろ。晩ご飯余ったらそれに入れてきて」
息子にどんだけ貧乏臭ぇことさせるつもり!?
学校から帰って来て今日の晩メシは萌の所で食べるからと言ったら有無を言わさずデカいタッパーを持たされた。頼むから俺の立場も考えて。
「こんなん持って行けるかよ! 恥ずかしいったらありゃしねぇ」
「あぁそうかい分かった諦めるよ。……じゃあその代わり父ちゃんの給料上げろって言ってきて」
「ハードル上がってるから!」
自分だけ美味いモン食ってくるんだからそれくらいしても罰は当たらないだろうと本気で言われた。目が真剣そのものでめちゃくちゃ怖いんですが。このままだとマジでタッパー持参しなきゃいけなくなりそうで恐ろしい。
なんだかんだグチグチ言ってくる母ちゃんを背に無理だからとそりゃもう慌てて一条家を出ましたよ。
「はぁ、そういやノブ君もいるんだったな」
萌のあの様子だと、きっと毎日とは言わなくてもほぼ毎日秋月邸に入り浸ってるんだろう。でもあの真さんがよく許してるよな。生理的に無理みたいって萌のやつ言ってなかったっけ。
そんなことを考えながら歩き始めて早数分、秋月邸の前にやって来ました。覚悟を決めていざ! インターホンを押して待ってみる。
「……」
またかよ、なんで俺がインターホン鳴らすと無視なわけ? 秘技・連続ピンポンをお目見えしてやろうか?
『……太郎』
「うわ……」
インターホンから聞こえたのは真さん……萌の親父さんの暗~い声。おばさんに叱られでもしたのか? っつーか、あんまし話したくないんだけど。
「あ、あの~今日はお招きにあずかりましてぇ、ありがとございますぅ~」
『あ!? お前を招いた覚えはない!』
ひでぇ。萌のヤツ俺が来ること言ってないのかよ。このままじゃバッツリ切られて終わりそう、それだけは避けたい!
「ま、真さん、萌いますか? 萌に聞いてもら―」
『だからお前なんか呼んだつもりはなぎゃあ!』
インターホン越しに聞いても充分恐ろしさが伝わってくるくらいの絶叫が響いた。ホラーハウスも真っ青だよこの家。真さんの身に何が起こったのか怖くて想像すらしたくない。
『……入って』
真さんの絶叫から約数秒後、インターホン越しに何事もなかったかのような萌の声が聞こえてきた。おいおい、真さんその場でブッ倒れてるんじゃないだろうね。
「あっ、も、萌? あの……俺マジで入って大丈夫なの?」
『じゃあ帰ったら』
「入ります!」
ここまで来てトンボ返りなどしてたまるか! それに今から帰っても母ちゃんは俺の晩メシを用意してくれない。晩メシ抜きなんて考えられません!
「……ちょっ、頼むからカギ開けといてよ!」
押そうが引こうが門が開いてくれない。また飛び越えて来いってか!? 門に飛び乗った瞬間にお巡りさんが通ったら間違いなく交番に連れてかれるけどいいんだね? キョロキョロと辺りを見回して誰もいないのを確認してから門に手を掛ける。もうこれ一歩間違ったら泥棒だよ、犯罪者の仲間入りだよ。
いでで、背中がまだちょっとだけ痛い。湿布貼ったからそろそろ良くなってもいいはずなんだが。っつーか背中痛めてんだから門のカギくらい開けといてくれてもいいと思うんですがね。どうせ玄関もカギ閉まってんだろ。どっちみち連続ピンポンしなくちゃいけないんか。
「あ」
突き指しないようにピンポンしないと、なんて考えながら歩いて行くと玄関前に人影が見えた。紛れもない、萌さんです。私服姿がまた眩しい……と思った俺は恥ずかしい。
「萌さぁ、入ってこいって言うなら門のカギくらい開けといてよ。おかげでまた飛び越えて来ちゃったんだから」
「不審者」
なっ!? 平然となんつーことを……。
萌が玄関に出ていてくれたおかげで秋月邸は連続ピンポンの餌食にならずに済んだ。カギが閉まってたら間違いなくやられるだろうと予想して彼女は出てきていたようです。ってかそう思うなら門のカギも開けとけよ!
「の、ノブ君はもう来てんのん?」
玄関で汚いスポーツシューズを脱ぎつつ萌の背中に聞いてみた。まぁ、聞かなくてもここに汚れ一つ無い革靴がピシッと揃えて置いてある時点で来てるの確定なんだけど。……隣りにあるハイヒールはもしや萌の……おばさんのでしょうな。
つーか、真さんの姿が見えないのがこれまた恐ろしい。どこかに追いやられたのでしょうか。
「……」
「萌?」
あれ? 聞こえてなかった?
高級感たっぷりなスリッパに両足を収めながら返事を待っても一向に言葉が返ってきやしねぇ。
「……来てない」
「あ、そうなの?」
聞こえてんだったらすぐに返事ちょうだい。……あれ? それじゃあの靴は誰の? ……そう言おうと口を開きかけて、やめた。
「あ、コタローちゃん。来てくれたのね」
居間からひょっこり顔を出したのは萌のお母さんでした。まったく、萌もおばさんくらい優しさ溢れる笑顔を見せてみろってんだ。それとやっぱり俺の母ちゃんと同い年ってウソですよね? もしくは母ちゃんが歳を誤魔化してるかどっちかですよね?
「こんばんは~。今日はお招きに預かりまして―」
「招いた覚えはないけど」
うるさいよ萌! 来てもいいって言ったじゃん! イコールお招きしてくれたんだろこの恥ずかしがり屋!
「本当に良かったわ。萌を一人にさせておくのは心配で仕方なかったから」
あぁそうでしょうね。この前あんなことがあったばかりで萌を一人にさせるわけにはいきませんよね……ってちょっと待って!
「え? お、おばさんどっか行っちゃうんですか?」
「え?」
いや、そこでキョトンとされてもこっちがキョトンですよ。おいコラ萌、お前さん何か隠してるだろ?
「……」
無視すんな! 説明プリーズ!
「ヤダわ萌ったら。コタローちゃんに言ってなかったの?」
「言う必要がないし」
待て待て待て! 言う必要がないって俺は空気かバカヤロー! 脳天チョップ喰らわすぞ!
「いでぇ!」
なんで俺が膝蹴り喰らわなきゃいけないの? っつーか太ももにガッツリ膝蹴りってマジ痛いんですけど!
「コタローちゃん、萌のことお願いね。明日の朝には戻ってこれると思うから」
太ももを優しくさすっていると、突拍子のねぇことを言い出すおばさん。すいません、よく聞こえなかったのでもう一回言ってもらっても構いませんか?
「てめぇ太郎ゴラァ! 萌にちょっかい出したらテメェ! ゴラァ! てめぇ! どらぁ! おりゃあ!」
お願いだから日本語しゃべってください真さん。ってかもう復活したんですね。俺としては真さんにお会いしたくありませんでした。
暴れる寸前(ある意味もう暴れてるけど)の真さんを笑顔で制したおばさんは、改めてよく見るとフォーマルなドレスに身を包んでいました。真さんも真さんでスーツをお召しになっていらっしゃる。
「か、母さんは不安じゃないのか!? この広い家に可愛い萌と猛獣太郎なんかを二人にさせて不安はないのか!?」
泥棒騒ぎがあったとき二人でいたんですけどね。ってか自分で『広い家』とか言わないでください、自画自賛やめてください。その前に俺は猛獣じゃありません、子羊です。猛獣はあなたの娘です。
「何言ってるのよお父さん、コタローちゃんだから安心できるんじゃない。何があっても萌のこと守ってくれるわ。ねぇコタローちゃん?」
恥ずかしいことをサラッと言えるおばさんに拍手喝采。だけど同意を求めないで頂きたい。何かあったら速攻で逃げるわよねって言われたら即答できました。
「はい! そりゃもう全力で唐揚げ食います!」
「てっ、太郎てめぇ! 萌より唐揚げだと!? 萌のこと大事じゃねぇのかゴラァ! しっかり守れやボケェ!」
どっちだよ!
「あ、ってことは真さんもいなくなるんですか?」
「ええ。ウチの会社の皆さんでお食事会をするの」
なるほど、そりゃおばさんも行かないわけにいきませんな。なんつっても真さんは婿養子。おばさんの存在は会社で知らない人はいない。
なんでも昔、どこぞの御曹司の求婚をバッサリ断って真さんをお婿さんに迎え入れたらしい。当時の真さんは良いトコなしの平社員。なぜあの美しい人があんな男と結婚をしたのか、秋月コーポレーション七不思議の一つ。俺だったら何の迷いもなくその御曹司とやらと結婚してたな。
「それじゃあコタローちゃん、萌のことお願いね」
「太郎分かってんだろうなぁ!? 萌を泣かせたらただじゃおかねぇぞ! いつもお前は―」
「ほらほら行くわよ。社長が遅れてしまっては示しがつかないでしょう?」
「痛い痛い母さん痛い! お願いだから二の腕をちょっとだけつねらないで! つねるなら全体的に掴んで!」
……なんだか俺を見てるようで泣きそうになってきた。おばさんと萌ってもしかして似たもの同士なのか? 萌は将来あんな風になるのか? かかあ天下万歳なのか!?
嵐の如く、と言ったらいいんでしょうか。真さんは涙目でおばさんに連れて行かれましたとさ、めでたしめでたくねぇ!
「おいおい萌萌ぇ! おばさん達いなくなるなんて聞いてないよ!?」
「聞かれなかったし」
そんな予知能力身につけてねぇよ! いるモンだと思ってたよ!
「……待てよ。ってことは俺と萌と……ノブ君で一晩過ごすの?」
い、イヤすぎる! 二人のキャッキャウフフを眺めながら一人寂しく唐揚げ食うのは辛いにもほどがあるよ! 失敗した、やっぱりタッパー持ってくれば良かった。持ってきてたらちゃっちゃと唐揚げ詰めるだけ詰めて「じゃあ俺はこれで」って帰れたのに。
……だけど萌とノブ君を二人にもしたくもないんだよなぁ。うん、矛盾最高!
うががぁと廊下で一人悶えていると、何やら大きな溜め息を吐いた萌が俺を置き去りに居間へと入っていく。待って置いてかないで!
「うほっ!」
居間に入った瞬間、唐揚げの良い香りが鼻に届いた。こうなりゃヤケだ、ノブ君が呆然するくらいに唐揚げ食ってやる!
「よし、萌! 箸持ってこい!」
「自分で持ってこい。もしくは手で食べな」
唐揚げ素手で取ったらヤケドするだろが!
「ってかノブ君は? いくらなんでも遅くね? 俺全部食っちゃうよ」
いようがいまいが食ってやるがな! この大皿に乗った唐揚げは瞬く間に俺の腹に消えることだろう! ノブ君は悲しく唐揚げの横にいるレタスを食うがよい!
「全部食べれば」
「はい?」
「ノブ君来ないし」
あ、そうなの? そっかそっか、それは納得……出来るかぁ!
「ちょ、来ないのかよ!? じゃあ何でお前ノブ君も来るけどいいんか、とか言ったんだよ!」
「言ってないし」
「言ったし!」
「言ってない」
「聞いたし!」
「来ると思うけどって言っただけ」
「うぐっ……!」
悔しいが口でコイツに勝てるのはおばさんくらいだ。おばさんお願い、帰ってきてください。
「って、うぉい萌ぇ! 何勝手に食ってんだよ!」
「悪い?」
自分だけさっさと箸持ってきてるし! 俺の割り箸も出せよ! 俺は客だぞ!
「う、美味い……! これが本場の味か!?」
「唐揚げ粉まぶしただけ」
感動してる最中なんだからちょっと黙って! でもさすがおばさん、揚げ加減もちょうど良いです。言うことなしです。
「んん? ……くん……くんくん。ねぇ萌、なんだか中華スープ的な匂いがするんですが」
「あんた犬か」
「食っていい? もとい、飲んでいい?」
「……いいよ。食べられるものなら食べな」
その表現なんだか怖い、中身何入ってんだよ。ってか萌が作ったんならまだしも、おばさんが作ったスープ(のはず)だ。間違いはないだろう。
「おぉこれは玉子スープではございませんか!」
いそいそと台所へ移動して早速鍋に火をかける。このままでも美味しいだろうけど、温めた方がより一層美味しいはずです!
「萌も飲む?」
「飲む」
いやはや、美味い唐揚げに玉子スープ。これだけでも大満足なのにおまけにノブ君もいないってアンタ。いいんですかねこんなに天国で。
「あいよ嬢ちゃんお待ち~!」
「うるさい」
悪態をつきつつもスープの入った皿を受け取る萌。不機嫌なのはいつものことだけど、今日はいつになく一言祭りですな。でも無言祭りよりはずっとマシだけど。
……もしかして、ノブ君が来ないから寂しいのか? やっぱ俺じゃ力不足なのかしらね。
「俺でごめんねぇ」
「……は?」
スープに口をつけていた萌が呆けた声を出した。ふぅむ、ズルズル音を立てるのははしたない。俺はおちょぼ口でスープを口元に持っていった。
「ズズ……」
……っふぅ、音を立てずに飲むのは難しいものだな。
「ちょっと」
「ズズ……くそっ。……ズズ……ヤロッ」
「……なんなの?」
「ズズ……え? 音を立てないように飲んでるんですけど」
「そうじゃなくて……まぁうるさいけど。俺でごめんって何」
あらあら一から言わないと分からないのかい? でも俺が言ったら絶対に不機嫌率がアップするだろう。しかし俺しかいないから誰かに言ってもらうのは無理。
「ノブ君じゃなくて俺でごめんねって」
「何それ、っていうかなんであんたが謝るワケ」
「いや、二人きりになるなら俺じゃなくてノブ君と一緒の方が良かったんではないかとじぃっ!」
思いっきりゲンコツ喰らった。頭頂部がへこむ勢いなんですけど! わざわざ立ち上がってやることか!? 涙目になったよ!
「おまっ、何すんだよ! 舌噛んだら危ないでしょうが!」
「噛めば! 死ねば!」
「えぇっ!?」
噛んで死ねってか!? 唐揚げ食ってからでもいい!?
「まったく……いでで、ちょっと優しい言葉掛けたらこれだ。そんなんじゃノブ君も愛想尽かすぞっての」
「……何か言った?」
「いいえ何も!」
これ以上ヘタなこと言ったらマズイ! 唐揚げまだ何個かしか食べてないのに追い出されたくない!
萌が何か言い出す前に食うしかないと、ジト目で睨んでくる彼女を無視して唐揚げ唐揚げスープ、唐揚げスープ唐揚げと口に放り込んでいった。
「……んがっ!? んぎっ!?」
ヤベェ! 玉子と間違えて唐揚げ丸呑みしちゃった! み、水!
「なっ、あんた何してんの!?」
「んぎっ! んげっ!」
ノドを押さえて水プリーズ! と手を伸ばす。すると何を思ったか萌が席を立ってこちらに走り寄ってきた。来るなら水もご一緒に!
「っんごぉ!?」
ドゴンかドガンかそれともガゴンか、擬音に迷う。
苦しんでいた俺の背後に回った萌は、何を考えたか思い切り背中をブッ叩いてきた。平手でバチンじゃなく、どう考えてもグーで殴ったな。っつーか背中まだ痛いのに……。
「あぢぇっ!」
手加減なしで背中を叩かれた俺は、勢いそのままにスープの入った皿めがけて顔ポチャした。熱いし痛い!
「あぢっ! あぢっ!」
まだ冷めてない玉子スープはそりゃ音立てて飲まないとヤケドしゃちゃうよねってくらいに熱かった。
スープが目に入りその場でのたうち回っていると萌が水で濡らしたタオルを大急ぎで持ってきてくれました。さすが持つべきものは幼なじみ。
「っんがが……熱いし苦しいし……」
「……っはぁ」
そこで溜め息吐くな! 俺だってしたくてやってるんじゃないだ! でもタオル持ってきてくれてありがとう!
少しぬるくなったタオルを顔から外してテーブルに視線を移すと、大惨事。スープは飛び散って唐揚げに掛かってしまっている。こりゃ残さずに食べないと。
「せっかくの唐揚げが台無しだなぁ」
「誰のせい」
「……ごめんなさい」
勝手に唐揚げノドに詰まらせてスープに顔突っ込んで(この際だ、萌に背中を叩かれた勢いで顔面を突っ込ませたとは思わないことにしよう)、俺は何してんだってことだよ。ノブ君の名前さえ出さなかったら今も美味しく唐揚げ食ってたんじゃないだろうか。余計なこと言ったねこりゃ。
「……ノブ君は何で今日に限って来ないワケ?」
余計なことって考えてるそばから俺は何を言ってる!? 俺の思考と口は別人格だったのか?
「呼んでないから来ないだけ」
変なこと聞いてすいませんでした! と謝ろうとしたら、あっさり萌はそう答えた。まぁ、そりゃ呼んでなかったら来ないよね……っていやいやそうじゃなくて。
「おばさん達いなくなるのに呼ばなかったの? せっかくのキャッキャウフフチャンスだっびょ!」
ノド元に手刀繰り出すのは勘弁してください! 息詰まったから!
「……」
一言二言イヤミを言われるだろうと覚悟してた。でも萌は何も言ってこない。目が合うとさっと逸らされた。どんだけ嫌われてんの俺。
「……あんたさ」
「ぐぇほっ……んぁ? なに?」
「……あの時、あんた」
ん? どの時? 唐揚げ詰まらせた時?
「捜して、くれたんだよね……」
「……は?」
捜す? 誰を?
口を開けてポカンとしていると、いきなり蹴られた。突然の襲撃に無防備な腰がゴキリと音を立てる。
「いっで! 何すんの!?」
「ウソつくな!」
何も言ってませんけど!?
「あんた私のこと捜してくれたんでしょ!!」
「あ……え? な、何のことかしら?」
「とぼけるな!」
萌が何のことを言っているのか察しがついた。でも認めたくない、認めたら俺は何も出来ずにノブ君の勇姿を見守ってましたって白状してるようなもんだ。何があっても認めるわけにいきません!
「だ、だからそれは前にも言ったでしょうが! おばさんから電話もらったけど、その後は別に―」
「早希が電話くれた! あんたが私のこと捜してくれてたって教えてくれた!」
「えぇ!? 三井ったら何をー」
「なんでウソつくわけ!? お礼なんて言われたくないから!?」
「ち、違ぇよ! 誰だってお礼は言われた方が嬉しいでしょ!」
「じゃあ何でウソついた!?」
このっ、何が何でも俺をウソつき呼ばわりするつもりか。っつーか三井さん、あなたは何ということをなさったのでしょう。俺への天罰でしょうか。
「う、ウソウソ言うな! ノブ君が助けてくれたんだからもういいだろ!」
これでも結構どころかかなりへこんでんだ! これ以上キツく言われたら泣いちゃうんだからね!
「……助けた? 誰を? 何から?」
やべっ、何か知らないけどイライラしてきた。あのときの自分を思い出してめちゃくちゃイライラしてきた。
「お前を! 男共から! すげぇよノブ君は! 先に飛び出したのが俺だったらお前のこと助けられたかどうかマジでわかんなかった! だからあれで良かったんだと思った! だから悔しくて認めたくねぇんだよ! だからウソついてんだよ! そんくらいちょっとは分かれよ!」
グダグダな日本語で、自分でも何を言っているのか見当もつきません。ですが萌には解読出来たのか、驚いたような表情で俺を見つめて固まっている。
そこで止めておけばいいものを、思考がぶっ壊れた俺はタオルを握りしめて立ち上がった。
「助けられなかったのにハイ俺も捜しましたよって言えるか!? ただのアホでしょ!? 俺が助けたかったからって時間よ戻れなんてアホでしょ!? 怖い思いしたお前の気持ちなんてお構いなしにそんなこと考えた俺バカだろ!? 好きな女も助けられない俺死ねでしょ!?」
……んぅ? 待て待て。今なんか最後の方でどさくさに紛れてすげぇこと言わなかった? 巻き戻せ巻き戻せ、何て言ったか確認したい。
「……な、あんた……何言ってんの?」
さっきまで俺の言葉を解読してくれていた萌にもわからなかったらしい。早口過ぎて聞き取れなかったんでしょうか。まぁそれならそれで良いんですが。ってかそっちの方が良いんですが。
「と、とにかく! 俺はウソつきです!」
……ばっ、認めちゃったよ! 最後に何をウソつき宣言してんだ俺死ねでしょ!?
「いっ、今のナシ! ナシナシナシ! ウソつきじゃない!」
「……ウソつき太郎」
ハイ素晴らしいあだ名を頂戴しましたぁ!