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第13話 いっそのこと睨んでほしい

嫌々ながら教室に入ると、いつも通りのクラスがそこにあった。でも、高瀬も萌も自分の席についたまま何も話そうとしないし、お互い顔を合わせようともしない。

やっぱり俺が原因なの?あっそういえば、高瀬の奴、萌に何て言ったのかなぁ?2人を追いかけずに俺、杉原の所に行ったんだった。ってか、もうアイツの名前すら声に出したくねぇな、思い出すだけで腹が立つ。


窓際一番後ろの席についた俺は、チラリと隣りを見る。けど2人とも前を見据えたままで、俺は空気の様な存在になってる。ちょっと、寂しいよね。「ボケェ!」って言って欲しい…俺はアホか!


「太郎!たろたろたろ太郎さぁん!」


毎日毎日こいつはうるっせぇなぁ!

それにさっきはあかねに夢中で気にも留めてなかったけどお前、何で右目がそんなに腫れてんだ?……あっもしかして、それってあかねにやられたのか?俺が捕まえておいてって言ったから?後からじんわりと効いてきたの?


俺のせいかぁぁぁ!


「すまん一郎ぉぉ!」


まだ先生は来てなかったから、俺は大声で前の席に座る一郎の右目に手を当てた。

その瞬間、一郎の顔が苦痛に歪む。あっごめんごめん。


「でぇぇ!おま、お前!俺ケガしてんだからぁ!ちょっとはいたわれよ!」


「わ、悪ぃ。気付いたら触ってた。痛そうですね、一郎さん」


「痛いってもんじゃないっての!右目見えないんだから!あかねに正拳突きを喰らったんだから!」


やっぱり俺のせいだったよ。マジでごめんね!考えてみれば、一郎があのあかねを止めるのはムリだよね。ってでも、あかねは俺の後を追って来なかったから…よくがんばったなぁ!ってぇぇぇ!?


「ゆ、勇樹ぃぃ!」


俺達の意味のない会話を聞いて、チラリと俺の方へ振り返った勇樹に思わず叫んでしまった。少年の左のほっぺたが赤く腫れていた。

お前の身にも一体何が起こったんだぁ!


「勇樹も俺と一緒にあかねを止めてくれたんだよ。さすが学級委員長だねぇ」


お前、か弱い勇樹に手伝わせたのかいぃ!見ろよ、顔半分が腫れてるじゃねぇか!お前よか可哀想だわ!

ってかさすが学級委員長ってんなら、あかねは何だ!あいつは副委員長じゃなかったのかよ!


「勇樹、お前大丈夫か?」


席を立ち、俺は勇樹の座る窓際一番前に走り寄った。あぁ、せっかくのかわいいお顔がこんなに腫れて。


「あぁ、うん、らいりょぶ、らけろ?」


「けろ」?今「けろ」って言ったよね?口がちゃんと開かないほどに腫れてるよ!大丈夫じゃないって!お前は絶対に保健室へGOだよ!


「勇樹!保健室へ行こう!そして氷水で冷やそう!」


無理矢理に勇樹を立たせた俺は、腕を掴んで教室を出ようと試みた。


「い、いりりょうくん!らいりょぶらけら!」


「らけら」って言ってる奴が大丈夫なわけないでしょうが!しかも俺の名前「いりりょう」になってるし。


「だってお前、腫れてるよ?ヒドイくらいに腫れてるって!」


「らんれもないけら!」


お前、もう喋るな!可哀想で涙が出るよ!ってあかねぇ、あんたちゃんと謝ったんだろうね?


萌の隣りに座ったいるあかねに視線を移す…ってなんで俺を睨んでいるの?ああそうか、説明不足だからだね?あっ立たなくていいよ!


「佐野!マジでごめん!」


俺に腕を掴まれたままの勇樹に向かってあかねが深々と頭を下げる。ってお前、謝ってなかったのね。しかし人のいい勇樹、キミならば絶対にこう言うハズだ。


「いや、つらさんろせいりゃらいけら」


あっちゃぁ!今カッコ良く決めなくちゃいけないのに語尾をマズった!ってか全てをマズってる!でも勇樹!やはりキミは勇気がある!だから勇樹なのだね!私は拍手を送りたい。


って元凶は全て俺にあるんだったよ、忘れてた。


「俺のせいだ!全て俺が悪い!2人とも、本当に申し訳ないぃ!」


秘技、土下座。俺って生涯であと何回くらい土下座すんのかな。おいぃ!床くらいちゃんと掃除しろよ!膝下真っ白になったじゃんか!


「あんたのせいじゃないでしょうよ」


え?あかね、今、なんて?


「そうらよ、いりりょうくんろせいららい」


せいららい…せいじゃないって事だよね?ありがとう2人共!こんな俺にそんなに気を使ってくれて!

でも、そんな俺達の小芝居を見ても、高瀬も萌も何も言ってこない。いつもの萌なら「うるっさいんだよ!」って言ってくるのに。やっぱり、何かあったんだね。でも聞くに聞けない雰囲気だし。後であかねに聞いてみるか?


「遅れて悪かったね!授業やるよぉ!ってあんた達!チャイムはとっくに鳴ってるよ!座りなぁ!」


うげぇ!2時限目って英語だったのか!やっぱり保健室で寝てりゃよかったよ。あんまり英語って好きじゃないだよね。日本人なら日本に住んで日本語喋ってればなんとか生きていけるでしょうに。


「ミスター一条!キミ1時限目は保健室に行ってたみたいだね?もう何ともないの?」


「あ、もう大丈夫になりましたぁ…」


「あっそう?じゃあやるよ!座った座った!」


このハイテンションなんとかなんないかしら。いつもこの調子だから授業受けてる側としてはツライんだよ、しかもノートに書かないと平気で廊下に立たされるし。ってかこのご時世、廊下に立たされてる人ってあんまり見たことないけど。


「ありゃりゃちょっとミスター佐野!あんた顔半分腫れてるけど?」


そこはスルーしてあげてくださいよミス西岡!ミスター伊藤なら絶対にスルーしてくれてるのに!ってか先生、たしかミスで合ってますよね?


「あ、らんれもらいれす」


「なんでもないんだね?じゃあ教科書開いてー!」


うまく言葉を発することが出来ていない人に対してその対応はちょっとないんじゃないでしょうか?そこはスルーかよ!

と、一人でツッコミを入れていると、視線を感じた。この強烈で痛い光線は萌、だよね?


恐る恐る隣りを見ると、やっぱり萌が俺を見ている。でも睨んでいるわけじゃなく、ただ見てるだけ。

…微妙なんですけど。何て反応をしたらいいかわからないんですけど。これならいつものように睨まれてる方がいいんですが。


「え〜っと、何でしょうか?」


ミス西岡にバレないように、教科書で顔を隠しつつ俺は小声で応対した。あの、何か言ってほしいんですけど。


「あんた、杉原に何て言ったの?」


「え…」


ここで「杉原って誰?」なんてマヌケな返答できやしない。言った瞬間、萌の握っている消しゴムが俺の顔面を捉える。って消しゴム握り潰しそうだよこの子。


「何てって…よく、覚えていないんです」


正直に言って本当によく覚えていません。頭に血が昇り過ぎてたから自分でも何て言ったかなんてわからんのよ。でも、こんな返答で許してくれる萌様ではないですよね?ええぃ!消しゴムのひとつやふたつ、俺には効かんわぁ!


「…そっか」


教科書で消しゴムをブロックしようとしてた俺を見た萌は、そう小さく呟くとミス西岡の方へ視線をずらした。なんで消しゴム投げて来ないの?「覚えてないわけねぇだろが!」ってのが、あなたの次の言葉じゃなかったの?一郎や勇樹のようにあなたの身にも何が起こったの?


「あの、萌?」


おかしい!あの萌が何も言わずに授業に戻るなんておかしいよ絶対に!

あれか?呆れてモノも言えない状態なの?ちょっと!聞いてんの?って俺、心の中で喋ってるから聞こえるハズないってね?


「…何」


こっちを見ないままでそう返事をくれた萌さん。怒ってるわけじゃなさそうなんですがね、全く視線を僕に合わそうとしてくれません。普段は別に視線を合わせなくてもいいけど、なんかちょっと気になる。


「怒って、います?」


そんなこと聞いたら怒るって!ダメだって、ちゃんと言葉を選ばないとぉ!でも今は、悪魔も天使もネンネの時間……ってお前ら今出て来いや!あっやっぱ天使は来るな!悪魔ぁ!


(こっちを見ろやぁ!って言うがいいさ!そして…)


交信遮断!いちいちなんなんだよお前!「言うがいいさ!」ってなんだよ!なんで命令口調なんだよ!


「別に怒ってない」


あら、普通の返答だよ。こんなに普通の返答もらうの久しぶりなんでちょっと泣ける。

って本当に普通すぎて逆に怖いんですが。


何も言ってこないし見てこない萌をチラ見しつつ、筆箱を開けた俺はある事に気がついた。


新しいシャーペン買うの忘れてたぁ!やばい、このままだったら廊下に立つハメになる!また具合悪くなったからって保健室に逃げるか?いや、それはダメだぁ!さっきミス西岡に大丈夫ですって言ったばっかだよ!


一郎にまたシャーペンを借りようと背中を突っついた、って振り向けぇ!親友が危機に陥ってんだよ!

何度も背中を突っつくけどまるで反応なし。何でよ?俺なんかした?

意地でも振り向かせたい俺は突っつきが軽い殴りに発展していった。やべぇ!ミス西岡がこっち向いた!廊下に立ちたくない!一郎様ぁぁ!


「ミスター野代!何をしてる?!」


野代って……一郎?俺じゃないの?

ってお前、早弁してんのかよ!あまりにも早いだろがよ!まだ2時限目だっつーに!


「お腹が空いて勉強する気が起きないんです」


そんな理由で通るなら誰もが早弁するわ!アホかマジで!…アホだったよ、忘れてた。


「廊下に立とう!」


「えぇぇ!ちょっと待ってください!ちゃんとノートには書いてますよ!」


ミス西岡とアホ一郎がギャアギャアと騒いでいる最中も、俺はなんとか一郎の机に置いてあるシャーペンを盗めないかと考えていた。

このままじゃミス西岡は俺の机の上にシャーペンがないことに気付いてしまう!一郎と2人仲良く廊下になんて立ちたくねぇ!ちくしょう、伸びろ手ぇぇ!……ダメだぁ!


頭を抱えて机に突っ伏した時、誰かに腕を叩かれた、しかも相当な強さで。絶対に赤くなってるから!


「なんだよ痛いって…!」


そう小声で怒鳴った俺はミス西岡に注意を払いつつ横を向いた。


……シャーペンだ、しかも見たところ新品だよこれ。


萌がシャーペンを俺に差し出していた。なに?見せびらかしたいのかい?お前はシャーペンすら持っていないのかって言いたいのかい?


「…早く」


「はい?」


「…」


「イテェ!」


萌が剛速球でシャーペンを投げつけてきた、しかもこの至近距離から。思いっきり腕に刺さったから!絶対血が出てるよ!

ってやべぇ!大声出しちゃったよ!ミス西岡に感づかれたか?


「ミスター野代!廊下へ行こう!」


「ちょ、じゃあこれだけ食べてから…」

「早く行こう!」


「行け!」じゃなくて「行こう!」って言うところが微妙に恐怖感を与えるね。

一郎は口一杯にご飯を詰め込むと、ルンルン気分で教室を出て行った。

ってルンルン気分でよく廊下に立てるよね。お腹が一杯で幸せだからか?


「それじゃあ授業再開するよぉ!」


ミス西岡は俺の方へは近寄らずに教壇に戻った。あっぶなかったよ、危機一髪とはこのことだね。

萌に投げつけられたシャーペンは今俺が握っている。…もらっていいのかしら?


「これ、くれんの?」


「使えば」


もう、本当に素直じゃないね!でも、ありがたく使わせていただくよ!

思えば萌に何かもらったのって、中学2年の誕生日以来だね。あの時はたしか……何をもらったか忘れた。










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