番外編6 私達から言わせてみれば
『活動報告』にて報告をさせて頂いております。合わせて読んで頂けると幸いでございます。
恋人は高校に入って変わってしまった。帰りはいつも玄関で待っていてくれてたのに、いつの間にかその姿は見えなくなった。それでも、たまに一緒に帰ると「お前が好きだ」と言ってくれて。それが嘘だと知っていても、彼の笑顔を見ると……。
私は偽善者だ。嫌われたくなくて、どんなことも気づかない振りをしていた。自分が傷付きたくなくて、彼が私の元から去って行くのなんて考えたくなくて。
でも、そんな全てが一瞬にして崩れ落ちた出来事が起きた。高校に入って一番に声を掛けてくれた友達と、肩を寄り添い合って歩いていたと誰かから聞かされたのだ。彼女は私と彼が付き合っているのを知っていて、私の相談に乗ってくれて。どんなことでも話せる大切な友達が出来たと喜んでいた矢先に。
彼はもう私の知っているユウ君じゃない。私の知っているユウ君ではいてくれない。私は彼に別れを告げた。これ以上、白々しく彼の隣りで笑う自分を演じたくなかったから。
久しぶりに会った一条君は見た目以外、何も変わっていなかった。それが余計に私の心を揺さぶったのかもしれない。中学の時に仲の良かった友達はみんな違う高校に行ってしまったから、ユウ君以外に誰も頼れる人がいなかった私にとってどれだけ救いになったか。
それが甘えだって、私だって分かってる。みんな少しずつ変わっていく。私だって変わらなければいけないって、いつまでも中学の時のままじゃいられないって。けど、そんな私の思いを一条君は見事に拭い去ってくれた。
「知ってても……知ってるのに……なんて」
一条君にさよならを告げ、玄関に飛び込んだ私はドアに背中をくっつけてそう呟いた。彼は何も変わっていない。ううん、変わらないように努めているだけかもしれない。
頭を軽く振って腕時計に視線を落とすと、時刻は深夜0時をとうに過ぎている。ふるっと一度身震いをしてから靴を脱ぎ居間に入って行った。
「早希! あなた今までどこにいたの!?」
居間には突然家を飛び出した娘を心配する母の姿があった。お母さんは涙目で私に突っかかって来る、けどそれをお父さんが必死に押さえている光景がそこにあった。
「こんな時間になるまで! 連絡もしないで!」
「ご、ごめんなさい……」
一条君から連絡を受けた後、少し出てくるからと、それしか言わずに家を飛び出してしまったのだから怒られて当然かもしれない。
「まぁまぁ母さん。早希もホラ、反省してるみたいだからその辺で」
「お父さんはまたそんなこと言って! 甘やかすにも程があるでしょ!? 何があったかちゃんと説明しなさい!」
これが俗に言うかかあ天下……。だけど私もその血を引いている。未来の自分を見ているような気分に駆られた。
「あ、あの、友達が…………」
なんて説明したらいいのだろう。説明のしようがない。
……ううん、私のせいだ。全て私から始まった。私が秋月さんにあんな事を言わなかったら、彼女はあんな怖い思いをしなくて済んだはず。
「友達が……友達から突然熱が出たって連絡が来て……彼女、一人暮らしだから……」
嘘嘘嘘。いつの間にか嘘が上手になっている自分に腹立たしさと嫌気が差す。
「熱!? そ、それで大丈夫だったの!?」
お母さんは誰がなんと言おうと、素直過ぎる性格だ。祖父母に大切に大切に育てられたのだとすぐにわかるくらい、少しも疑うということを知らない。私も、弟の哲平もそこは似なくて良かったと思う。
「あ、うん。もう熱も下がったから……」
それは良かったわ、とホッと胸をなで下ろすお母さんは微笑んでくれた。そしてそれを見た私の胸にチクリと何かが刺さる。
本当のこと言えなくてごめんなさい。嘘ついてごめんなさい……。
「ん? 早希? それは誰のジャンパーだい?」
突然、メガネを指先でクイと上げたお父さんにそう尋ねられ……あ、ジャンパー!
「あ、こ、これは……友達が、貸してくれて……」
一条君のジャンパーを着たまま帰って来ちゃったんだ。ギュッとジャンパーの裾を掴んだ私は慌てながらそう返すと「そうか」とお父さんは笑ってくれた。
……お父さんも、お母さんと一緒だ。
ホッとしながらも両親におやすみを告げて階段を上がる。一条君のジャンパーは私には大きい。袖もブカブカで、でも……暖かい。
「姉ちゃん、おかえり」
ふぅっとジャンパーを抱き締めながら自室へ戻ろうとドアノブに手を掛けた瞬間、弟の哲平が自分の部屋から顔を覗かせた。
彼は私の2つ年下だから、今ちょうど中学三年生。いつの間にか抜かされていた身長は、気がつけば私と頭ひとつ以上は違う。
「あ、ただいま。ごめんね、起こしちゃった?」
「いや、起きてた。それ誰のジャンパー?」
「え? あ、これは友達の……」
「……ふーん?」
な、なに? 哲平は少し意地悪な笑みを見せて廊下に出てくると、ジャンパーをまじまじと眺めてくる。
「それ、男モン?」
「――!? ちょ、ちょっと返してよ!」
ヒョイとジャンパーを取り上げられた私はぴょんぴょんと飛び跳ねるけど、届かない。弟をこれほどまで恨めしく思ったのは久々かもしれない。
「あーあ、チャック壊れてんじゃん。姉ちゃん、こんなジャンパー寄越すヤツなんてやめた方がいいと思う」
「て、哲平には関係ないでしょ!?」
「関係あるって。だってもしかしたら俺の兄ちゃんになるかもしんねぇんだよ?」
こ、この子は……! いつもこうだ。哲平は私のことを姉と思っていないのか、よくこうしてからかってくる。小さいときは可愛かったのに、どうしたらこんなひねくれたような顔つきが出来るんだろう。
「ま、どんだけチャック壊れてようが、姉ちゃんが良いっていうんなら良いんだけど」
私にはそんなの関係ない。一条君のジャンパーは、一条君の優しさ。彼は私のせいじゃないって、責めなかった。怒ってくれた方が良かったのに……そう思うのは、私の勝手な都合だって分かってるけど。
「ほい返す」
暗くなっていく私の表情を見て気が咎めたのか、哲平はぶっきらぼうにジャンパーを寄越すと頭を掻きながら自室に戻っていった。と、思ったら突然こんなことを言われた。
「それ、ちゃんと返すんだぞ?」
「わ、分かってるよ!」
洗濯してから返します! と断言した私を見てニヤリと笑った哲平は今度こそ部屋に戻っていった。全て見透かしているようなあの表情……いつの間にあんなこと言うようになっちゃったのかな。私と手を繋いで歩いてくれてたのがとっても懐かしい。
自分の部屋に戻り、ジャンパーをハンガーに掛ける。と、それを持ち上げて見つめた。
大きいな。久しぶりに会った彼は身長が伸びてて、とても格好良くなってて……でも、彼は何一つ変わっていない。私に向けてくれる笑顔は前のままで、そしてあかねや秋月さんに会って何も変わってない人達もいるんだと安堵した。
……ジャンパーを見つめながらふと思った。私は安心感を求めているだけなのかと。一条君を好きになったのは、ただ変わっていない彼に安心感を抱いたからなの? きっと彼はこれからも変わらないでいてくれるような気がする。でも、それだけ……?
「違う、そうじゃない」
一条君の一挙一動が気になる。彼の慌てた顔、怒った顔、驚いた顔、笑った顔……全てが私の心を揺さぶる。彼にはいつまでも変わらないでいて欲しい。あの笑顔を私に、私だけに向けて欲しい。
「……知っても、知ってても……好き……かぁ」
ジャンパーを出来る限りの力で強く抱き締めた。一条君の背中、大きかったな。彼にはいつまでも笑顔でいて欲しいと、心の底からそう思う。だけど……。
彼の恋を応援できるほど私は強くないし、人間も出来ていない。でも――。
「一条君の……バカ」
私はポケットに入っていた携帯電話を取り出した。
―――――
あの萌の顔見た? ねぇ見た? やばっ、明日問い詰められるって分かってても面白い。
一条と別れてから(あかねの姿を発見して逃げたんだけど)特に何をするわけでもなく街中を一人歩いていた。右も左も恋人同士ばかりで、これは面白くない。
萌もさぁ、なんであんな偏屈なの? 一条のこと好きなのに他の男と相合い傘したり街中を堂々と歩いたりして……あっ、私も人のこと言えなかったっけ。
何をどう見ても萌は一条以外の男に気はない。それは遠くから見てる私にでも分かる。だから、からかいたくなる。一条のことも、萌も。ドキドキ純情青春マンガはあの二人に任せておけば問題ない。そう思いたくなるほど二人は純情。
でも私に言わせてみれば面白いの一言、これに尽きる。特にあの一条の慌てっぷりは見てて本当に面白い。ちょっと腕組んだだけで慌てて、可愛いヤツだ。萌とはそういうことしないのかなー?
ケータイをいじりながら街を歩いて、それも疲れてもう帰ろうかなと顔を上げた時だった。ちょうど真っ正面に見たことのあるヤツが近づいて来る。
「よ、よう……」
そう言って手を挙げたのは塚原君……だっけ? ま、どうでもいいや。
「あ、久しぶりだねー。あのメールくれて以来?」
一条に怒られましたメールを寄越して以来、彼に『もうメールとかめんどいからしてこないでね』って返信してから会っていなかった。
ふと見ると、彼の横には綺麗な女の子がぴったりと張り付いて動かないでいた。なにその目。別にあんたの彼氏取ろうとか全っ然思ってないから大丈夫。
「この人誰?」
ジロジロと私を見つめた女が低い声で塚原に問う。彼はしどろもどろになりながらも「友達」と答えた。あんたと私が友達? 冗談でしょ。
軽々しく友達と言われて頭にきた。誰があんたの嘘に付き合ってやるもんですか。
「あんたもよくやるね。そんなに取っかえ引っかえしてたら今に女いなくなるよ?」
本当はメールなんかじゃなくて会って言ってやりかったことが山ほどある。メールなんかじゃ威力は半減するから。あんたに何か言い返す余裕があれば聞いてあげるよ?
腕を組んで待ってみたけれど、彼からの返答はなかった。弱っ、なにこの男。打たれ弱すぎ。
「ちょっとあんたさぁ、ユウ君の何なの? ただの友達が調子乗ってんじゃねぇよ」
顔の割に口が悪い。その女は小さい声で、戸惑う塚原に聞こえないよう凄んでくる(っていうか、絶対に聞こえてるけど)。
こういう女に限って自分のこと弱く装うんだよね。本当はドン引きするくらい強いクセに。
「何なのって、元カノだけど? あ、ホラあそこでこっち見てるあの女。あれも元カノね。ついでに言うと、あのケーキ屋さんでバイトしてる子も元カノ」
そう言って遠くにある小さなケーキ屋を指差す。だけど全部ウソぴょん。塚原の交友関係なんて知らないし、ましてや元カノなんて知らない。こっち見てるあの女はただの知らない女子高生。ちょっと使わせてもらいました。ケーキ屋さんはただ単に目についただけ。
「な……!?」
なんですってぇ!? と悲鳴を上げそうな女がキッと塚原を睨んだ。あれ、これ修羅場突入? いいよ、見届けてあげる。
「ちがっ、ちょっ恭子! 変なコト言わないでくれるか!?」
「何が? 全部ホントのことでしょー? …………だけど私、お祭りすっごく楽しみにしてたのに……どうして?」
ツツと頬から涙がこぼれた。私ってどれだけ性悪女なんだろうと本気で思うくらいに名演技。これで慌てない奴はいないね。
「ほ、本当なの? ユウ君この女の言ってること本当なの!?」
もう我慢出来ねぇ! と女は塚原の胸ぐらに手を掛けた。息苦しそうにしながらも彼は「違う、違う!」と首を振る。それしか言うことないワケ?
……なんだろ、つまんない。
「それじゃ塚原君……一生バイバイ」
あとは勝手にやって。もうどーでもいい。涙を拭いた私は塚原達に背を向けると歩き出した。
「え? あ、ちょっと……俺、塚本! 塚本だって!」
彼らと別れて数分、とぼとぼと歩いていた。涙はもう止まってもいいはず。なのに止まってくれない。何コレ、私が別れを悲しむなんて有り得ない。
いつだって男はバカで自分勝手で、自分のことしか頭にない。でも、そんな男に振り回される私も相当なバカ。良い男って、どんなヤツ? ただカッコ良ければいいの?
「あーあ、私何やってんだろ……」
グスグスと鼻をすすって空を見上げる。まだ夜空にはほど遠くて、だけど夕焼けがとてもキレイで、少しの間立ち止まってしまった。私らしくないけどさ。
バカ、か。それって一条も当てはまるんだよね。さっき言ったようなバカとは違う意味で。それが面白いから私もからかっちゃうんだよね。
ふふと笑ってから、不意に手の平に視線を落とした。さっきまで一条の腕をしっかりと掴んでいた私の手。あんなに慌てて、笑っちゃうよ……。
「いっちじょーの……バーカ」
―――――
「危ないので連れて帰ります」
恭子は何か用事があるらしく、三人でってワケにはいかなかったけど、まぁまたこういう機会はあるでしょ。だから今日は二人で楽しく積もる話を、そう思ってた。
だけど……!!
「俺が一緒に帰りますから」
なんだお前!? いきなり出てきて何を言ってんだ!?
目が点になって固まるあたしをヨソに、男は健やかそうな笑みを見せて萌の真正面に立っていた。萌の知り合い……だとは分かった。うん、分かったよ。それはいいとして、危ないって何?
「あの~、あたし達これからちょっと行くトコがあるんで」
何も言わない萌に代わってあたしが口を開く。ふと彼女に視線を向けると俯いてしまっていたから。何か弱味でも握られてんの? あたしに言ってよ、出来ることなら何だってするよ?
そんな強気(?)な発言をしたあたしの目を男が黙って見てくる。なんだ、何見てんのさ。
「萌、行こう」
ちょ、ちょっと待て。あたしの話聞いてた? 怪訝そうな顔であたしを見るやいなや、いきなり萌の手を引っ張った。危ないって言うけどさ、今はあんたの方が危ないヤツに見えるんだけど!
「……何ですか?」
萌の手を掴んだ男の腕をがっしり握ってやると、そう言われた。なんですかってこっちの台詞。
「そっちこそなんですか? あたし、これから二人で行くトコがあるって言いませんでした?」
身長は向こうの方が高いから、必然的にあたしは顔を上げる。けど、男はあたしをジッと見下ろしたまま動かない。だんだんと腕を掴む手に力が入ってくる。
いつも太郎や一郎に邪魔されて、こうやってゆっくり萌と二人で話することなんて滅多にないんだ。……あ、いや、太郎や一郎が邪魔だって言ってるんじゃなくて……い、言ってるか。二人ともゴメン。
ゴメンゴメンと心中で呟いていると、ジッとあたしの目を見ていた男が小さな溜め息を吐いた。
「……手を放してもらえませんか?」
「先に萌を掴んでる手を放してくれるんなら、いいですよ」
「……」
「……」
どのくらいそうしていただろうか。異様な雰囲気を醸し出しているあたし達に好奇な視線が注がれる。でも、あたしは手を引っ込めない。ここで引いたら負けって直感がそう言ってる。
それから男はやっと観念したのか萌から手を放す。あたしもそれを見て男を解放した。結構力入れてたのに、顔色ひとつ変えないなこの男。何者?
「ノブ君、私、あかねと寄る所があるから……」
今さら? ってツッコミを入れたくなるようなタイミングで萌が口を開いた。でもその目は男を見ていない。視線は斜め下。なんでそんな低姿勢でいるワケ? いつもの萌らしくないよ?
「萌? この男に何かされた?」
思わずそんなことを聞いてしまうほど、萌の声は弱々しかった。本当に心配になるほど。
ノブ君――そう呼ばれた男はあたしにチラリと視線を移すと、少し怒りを含んだ口調になった。
「変なこと言わないでくれるかな。俺はただ萌が心配なだけだよ」
「の、ノブ君! 私なら大丈夫だから」
「じゃあどうしてそんなに元気ないんだ? 昨日のことが引っかかっているからじゃないのか?」
「それは――」
「俺がついてる。大丈夫だから」
「……」
ちょいちょい待て待て。あたしを置いてけぼりにして何してる。2人の世界に入ってあたしは空気か。今さらながら太郎の気持ちがよくわかる。
「あの~萌さん? あたしにも説明してくれませんか?」
この男が萌を心配しているのは演技じゃないってのはわかった。だけど物語の進み具合の早さについていけない。完全に置いてかれてる。
「あっ、ご、ごめんあかね!」
「いや、いいんだけどさ。何かあったの?」
ごもごもと口ごもる萌はチラッと男に視線を移動させると、キュッと目をつぶってから小さな吐息を漏らした。言いたくないこと……か。
「萌、帰りな」
「……え?」
聞きたくないって言ったら嘘になる。けど、当人の気持ちを無視してまで聞くことじゃないとも思う。話したかったら話せばいいし、話したくないならそのままでいい。決してふくれてるんじゃないよ。
「なんかよくわかんないけどさ、帰った方がいいよ。積もる話はまた今度ね」
「あかね……」
「さぁて、あたしも帰って妹達の相手してやるかな!」
萌の言葉を遮るように、あたしは大声を張り上げた。まぁこうなっちゃったもんは仕方ない! 潔く諦めて帰ろう!
「あ、ちょっと! ノブ君、さん……でしたっけ?」
うーんと伸びをしている間に、それじゃ、と萌の手を引いて行こうとする男を慌てて呼び止めた。
「萌を守るってんなら、とことん守ってください」
その言葉を聞いたノブ君、さんはにこやかに笑うと「もちろん」と頷いてくれた。くそっ、あたしは何を言ってんだ。萌を守るのはそこで笑っている男なんかじゃない。萌を守るのはいつも隣りにいるアイツで……。
そのあとは言葉が出なかった。申し訳なさそうな顔をしている萌に(あたしなら大丈夫だから)とアイコンタクトを送ってさよならを告げる。
結局何も言えず終いで二人の背中を見送ってしまった。あの男は一体萌の何なのかすら聞けないまま。でも、萌を見つめていたあの目なら……大丈夫だろう。
「にしても、最初にあたしを見たあの男の目……あたしがそんな危ないヤツに見えるのか!? ……って、一人で怒ってても疲れるだけかぁ……」
あー疲れた。何か精神的にどっと疲れた。何もしてないのに疲れた。あたしもさっさと帰ろ。
妹達の相手は余計疲れるから帰ったら速攻で布団に入ろう。今日はお母さんパートないから夕飯の心配いらないし。
首をコキコキ鳴らしながら力なく家路を進む……と、目の前に見たことのあるヤツらの背中が見えた。
「恭子と、太郎? アイツら何やってんの?」
ヤバイ腹立ってきた。太郎の姿見てたらさっきのこと思い出してきた。あんたが、あんたが萌のそばにいたら……あ、一緒に行きたいって太郎に言われたのに突っぱねたのあたしだ。
「……恭子……太郎……」
フラフラと二人の元へと歩み寄る。あたしバカだ……。太郎に一緒に行きたいって言われた時、来いって言えば良かった。
ん? 待てよ? 太郎は……萌と一緒にいたかったからそう言ったのか? あ~もうわかりづらいんだよバカやろー。
「バカやろぅ……」
一緒にいたかったならはっきりそう言えバカやろー……。
一年以上も途絶えさせてしまい、大変申し訳ございませんでした。読んで頂き、本当にありがとうございます。