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第120話 あかねは全てお見通し

近日中には120話を更新します、なんて宣言をしておきながら今日になってしまいました。今までと比べて少し短めですが、読んで頂けたら嬉しいです。

どうもあなたの一条た……ごめんなさい、自己紹介してる暇ないです。足がすくんで動けないんです。

 ゆっくりと振り向いた先に目が据わっているあかねがそこにいらっしゃったんです。その無表情な感じがこれまた良い……なんて言ってる場合じゃない!


「あ、あれ? たしか積もる話ってのをしに行ったのでは?」


「……1人で?」


「す、すいません……」


こわっ、怖いよこのお方。何でか知らないけどめちゃくちゃキレてるよ。分厚い板とか手刀で軽く叩き割れそうだよ。バット3、4本くらいローキックで軽くイケちゃうよ。

 あまりの恐ろしさにブルブル怯えていると、ふと彼女は信号を渡りきった高瀬の方へと視線をずらした……今だ! 疾風の如き速さでその場を後にしようとして…………捕まった。


「愚痴っていい?」


「ど、どうぞ……」


今のあかねに逆らってはダメだ。逆らったらその瞬間に鉄拳制裁が待っている。ここは流れに逆らうな。

 ありがとうとお礼を言ってくれたあかねは、さっきの高瀬と同じようにガードレールに腰を落ち着けると長い溜め息を吐いた。

 うぅむ、やっぱり俺は隣りに座らない方がいいんだろうな。それに何だか覇気がない。何より声が小さい。萌と積もる話が出来なかったのがそんなに悔しかったのか。


「……あたしってさぁ、そんな危ないヤツに見える?」


「え? なんで?」


今のあかねは危ないヤツに見え……ない! 見えませんよ絶対に! あかねは何があっても美人あかね!

 その突然の問いに上手い言葉も見つからず彼女の顔をガン見していると、何やら独り言のようにブツブツ話し始めた。


「危ないから連れて行くだの、俺が一緒に帰るからだの……お前は萌の何なんだよ!」


「えぇ!?」


俺にキレられても困ります!

 完全に怒り大爆発状態で何度もガードレールを殴りつける彼女に慌てふためくしかない。ちょっ、そのままいったらガードレールが……じゃなかった拳が折れるって! 骨折モンだよ!


 腹の立つことに何が彼女をここまでにさせたのか痛いほどわかる。絶対にノブ君だろうな。温厚なあかねをここまでキレさすとは大した野郎だぜ。怒りを静める俺の身になれってんだよ。


「ま、まぁそんな怒らないで。良かったら俺と一緒にケーキ……」

「太郎!!」


「はいぃっ!?」


突然立ち上がったかと思ったらものすごい形相で睨まれた。それに伴い背筋を伸ばして元気良く返事してしまった。


「あんた何でそんな普通にしてられんの!? 萌のこと好きって言ってたクセに!」


大声でいきなり何を言い出すんですかあんた! 通行人がめっちゃ見てるから! 変なヤツらって顔されてるから!


「俺そんなこと言ってな……」

「言ったよ言いました! 言ってないかもしれないけど言いました!」


どっちだよ! 間違いなくノブ君への怒りを俺にぶつけてるよね! 八つ当たりだよね!

 あたしなら平常心でいられないよ! と、既に平常心ではない彼女はまだまだ怒りが収まらないらしい。そこまで積もる話がしたかったのか。俺じゃダメなのか。


「こんなとこで油売ってないで萌のこと奪い返して来い!」


面と向かってどうとも思ってないって言われた俺が奪い返しに行けるわけないじゃん。ってか奪われてないし。

 何か言えよ! という顔でいるあかねは俺の言葉を待っているようです。


「や、ヤダね! 萌なんざノブ君とラブラブってりゃいいんだよ! 俺だってあかねとラブラぶぉ!」


お願いだから最後まで言わせて! その後だったら殴ろうが蹴ろうが我慢するから!

 絶対にラブラブ言ったのが悪かったのでしょう。凄まじいボディブローの餌食になった。さっきは精神的なボディブローだったが、肉体的に喰らってもキツイもんはキツイ。さすが高瀬とあかねはお友達。


 痛みに耐えつつも今しがた萌達見たよ、仲むつまじく歩いてたよ、なんて言ったらどうなるかわかったもんじゃない。これは胸に閉まっておこう。


「あんたは何とも思わないワケ? 萌がアイツに取られちゃっていいの?」


ごふごふ腹を押さえる俺が可哀想になったらしく、優しく背中を撫で始めてくれたあかねは暗い声で小さくそう言った。


「……べ、別に」


そう強がりを言ったがバレバレなのはわかっている。でも未練たらしい男にはなりたくない……ってか、そう言ってる時点で未練タラタラなんだけどさ。


「鼻膨らませてよく言うよ」


うがっ!? そうだ、あかねは俺がウソをついたりすると鼻の穴が広がるという恥ずかしいクセを知っている1人だったっけ!

 あわわと鼻を隠したが、その行為は「俺、ウソついてます」と言っているようなもの。わぁ、すごい恥ずかしい。


「……まぁ、あんたが良いってんならあたしは何も言えないけどさ。……でも何かイライラするんだよなぁ」


「そんじゃ気晴らしにバッティングセンターにでも行きませんか?」


男が女の子をバッティングセンターに誘う時ってのは、間違いなく格好良い所を見せたいから。でもあかねを誘う場合は全く違う。ストレス発散以外に理由はない。どう頑張っても彼女の方が打つからね。あかねを落としたいならばバッティングセンターだけは絶対に避けなければならない場所なのだよ。


「バッティングセンターかぁ、そういや行ってないなぁ」


最後に行ったのは中3の秋だっけ? と懐かしい話を始めた彼女は少しだが表情が和らいだ気がする。

 そうそう、中3の時に行った行った。一郎がホームランぶっ放す! って騒いだ挙げ句、


「そういやそん時に一郎がデッドボール喰らったの覚えてる?」


「あはは覚えてる覚えてる。バントの構えして指に当たったんだよね」


痛がる顔が面白すぎて爆笑しちゃったんだよね。んでもってそれに怒った一郎にドロップキック喰らわされたんだよ。あかねも萌も笑ってたのに俺だけ……。


「……ははっ」


またか、また萌のこと思い出してるよ俺。未練タラタラ、未練タラ助ですどうも。

 笑いたいのに声が出ない。そんな自分に嫌気が差して下を向く。と、そんな俺の様子を見ていた彼女は一度だけう~んと伸びをすると「よしっ」と手を叩いた。


「バッティングセンターはあたし1人で行ってくるかな」


不意にそう言って彼女は俺の肩を叩いてくる。その顔にもうさっきの怒りは見えない。


「あんたがいたらうるさくて周りの人に迷惑かけるかもしれないし」


そう言いながらも思わず見惚れてしまいそうな笑みを浮かべてくるあかね。それは励まそうとしてくれているのがすぐにわかった。けど敢えてそのことには触れず言葉を返す。


「俺だって秩序ある行動くらい取れるっつーに」


「いーや、あんたは『ゴーゴーあかね~! 打て打てあかね~!』とか絶対に言うね」


うっ、否定出来ねぇ。過去に言った覚えがあるだけに何も言えねぇ。

 それでもあの頃の俺じゃないよ、だからお供させて~と必死に食い下がっていると、俺の心を見透かしたかのような言葉が耳に届いた。


「自分に正直になるって案外難しいよね」


「……」


自分に正直に、かぁ。正直に言って今に至るんですよね。正直に言ったからどうとも思ってねぇよって返されたんだ、振られたんだよ俺は。抱きつかれたりして調子に乗ってたんだなきっと。……でも、じゃあ何でアイツは抱きついたりしてきたのよ? 思わせぶりな態度は全部何だったんだ? 冗談か? 俺で遊んでたのか?


「……萌ってさぁ、意味わかんねぇよね」


「え?」


「わかんねぇ……」


っはぁ、何で俺あかねに愚痴ってんだ。男のくせにグジグジしやがって。誰か一発殴ってくれ。あっ、あかねじゃなくて誰かその辺の人でいいから。


「……そう言うあんたも充分意味わかんないけどね」


「えぇ?」


思ってもみないその返事に顔を上げると、笑顔のままで彼女は言葉を続ける。


「萌のこと好きなくせにあたしとラブラブとか言ったり。早希の携帯番号知って浮かれたり。祭りの時だってそうだよ、何があったか知らないけど萌を1人にしたり。あんたの行動だって意味不明だよ」


「いや、それは……」


だって、あんたのことなんてどうとも思ってない、だから三井と楽しめば? なんて嫌味言われて一緒にいられるか? 隣りで花火見てもつまらないだろ。

 萌に言われたことを復唱してやろうかとも思ったが、きっと困惑するに決まってる。むざむざ彼女を悩ませる発言なんざしたくないし、俺だって言いたくない。萌に振られた事実を知られたくない。


 言葉に詰まった俺はジッとあかねの澄んだ瞳を見つめることしか出来なかった。けど、そんな俺のガン見に頬を赤くさせることもなく、彼女はもう一度ガードレールに腰を落とした。


「中学の頃からずっと近くにいるあたしがさ。あんた達は付き合ってるもんだって疑わなかった理由わかる?」


「……毎日一緒に学校行ってたからじゃねぇの?」


それ以外に理由なんてないでしょう。同級生の奴らだってそれで勘違いしてたんだし。


「はずれ」


「?」


溜め息を吐きつつも女神のような笑みを浮かべた彼女にいきなり背中を叩かれた。め、女神が持つ攻撃力じゃねぇ、破壊神の攻撃力だよ。


「萌の顔見たらそう思っちゃったんだよね。あんたに向ける顔は明らかに他の男子とは違ってたんだから。それにあんただってまんざらでもないって顔してたし」


「俺に向けた顔? いつもキッツイ目線送られてましたけど。それに俺はまんざらじゃないって顔したことは一度もないですが」


少しでも目が合えば溜め息が睨み攻撃喰らわされてたんですがね。好きな男にそんなことする女子がいるかよ。俺なら恋する乙女の目線飛ばすよ、そして見事ゲットしてみせるよ。


「素直になれ、一条 太郎」


「……」


なんで俺、あかねじゃなくて萌なんだろう。なんでこんな女神を差し置いて俺は……俺より数倍たくましいからか? 男として全てにおいて負けているからなのか?

 ……そういえば中学の卒業式の時、後輩の女の子数人に告白されてたっけ。第二ボタンくださいっていつ言われるかとそこらにスタンバッてた男共をほっぽいて、女であるあかねに告白しまくった後輩の女子達よ、俺を含む男達は悲しみで涙が溢れそうだったぜ。


「俺、あかねのこと好きになりゃ良かっ……」

「断る」


早っ! いくらなんで早すぎるぞ! 一秒くらい考えてくれてもバチは当たらないのに! ってかやっぱり最後まで言わせてくれねぇのか! でもそんなところも男らしくて大好き!


「……あかね、ありがと」


ふと口をついて出た言葉は感謝の気持ちだった。でも何についてのお礼? と質問されても俺もわからん。だけど何だか、少し体が軽くなった気がする。どこまでも飛んで行けそう。

 俺の言葉に「へ?」と表情を固めた彼女だったが、すぐに「あたしも愚痴って悪かったね」と少しはにかみながら答えてくれた。


「やっぱ俺、諦め切れないみたいだわ」


「うん、知ってた」


知ってたの!? 俺自身が知らなかった事実をどうやって?

 うぇぇえ!? とこの上ないぐらい目ん玉を広げた俺に、彼女は笑って……ちょっ、笑いすぎ! どんだけ俺の顔面白いの!?



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