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第12話 ごまかしは通用しない

一時限目を俺は保健室で過ごした。


ミエリンに鬼気迫る顔で「休ませてぇ!」って懇願したからだ。でもきっとミエリンは仮病に気付いてる、顔が半笑いだったもんね。それでも何も言わないミエリンに感謝しつつ、俺は昨日萌が寝ていたと思われるベッドに横になっている。


あぁなんかもう授業受けたくねぇな。このままお腹が痛すぎるから帰りたいって言っちゃおうかなぁ。体温計に熱い息でもかけて「熱があるぅ!」って叫んでみるか?


「あんた、一時限目終わったよ?戻らなくてもいいのかい?」


カーテンを勢いよく開け、半分諦めた顔でミエリンが俺にそう聞いてきた。

行きたくないよぉ、今は高瀬と萌に会いづらいんだよね。それに絶対あかねに何か言われること間違いなしだし。


「ミエリン、俺お腹痛いから帰るぅ」


ベッドに寝たままで俺はさもお腹が痛いですよという顔を見せた。けどミエリンには逆効果だったみたいです。


「お腹痛いって?それにしちゃあ元気良く保健室に入って来ただろ?」


うっスルドイな、さすが学校の母ちゃんだ。でも「保健室に入った瞬間からヒドくなった」なんて言っても早く教室に戻れって言われそうだし。マジでどうしよ。


(サボらないのかい?)


やっぱりそう思うかい?俺もそうしたいと思ってたんだよ悪魔さん。ってお前天使か!改心したんじゃなかったの?お前に意見を求めてないから!


「今日だけは見逃してぇ、ホントにお腹痛いのよん」


ベッドから起き上がった俺は潤ませた目をミエリンに見せた。

雨の日に出会った捨て猫みたいでしょ?心をくすぐられるよね?絶対にくすぐられるよこれは。


「あのねぇ、あたしだって…」


ミエリンが何か言いかけた時、具合が悪そうな女の子が友達に連れられて入ってきた。

めちゃくちゃ青い顔してるな、大丈夫か?しかもちょっとかわいいし、すごい心配・・・・俺はダメ男だ。


「あらあら、どうした?」


「急にお腹痛くなっちゃったみたいで」


冷や汗を掻くほどにキツイのか?こんなにツライ顔をしてる子の隣りで元気100倍の俺なんかが寝てちゃダメだよねぇ?

…帰るか。


「み、ミエリン。やっぱ俺、戻るわ」


「あぁそうかい?気をつけるんだよ?」


「はぁい」


力なくそう呟いた俺は女生徒をベッドへ寝かせているミエリンに手を振ると保健室を後にした。…チラリと見たけど、やっぱりあの子かわいいよ。一年生かな?


あ〜でも行きたくねぇ、足取りも重くなるわぁ。でももう保健室には行けないし。あの子にはまた会いたいけどさぁ。

できるだけ階段をゆっくり上がるけど、時間稼ぎにもなりゃしねぇ。


「太郎ぉ!」


階段を全て上がり終えたとき、でかい声が耳に響いてきた。こんな大きな声で俺の名を呼べるのはあかねさんくらいだよ。

あかねは俺に向かって走ってくる。そんなに慌ててどうしたの?


「どしたぁ?」


「どしたじゃないっての!あんた、恭子の彼氏…じゃなくって元カレに何かしたんだろ?!」


あらら〜、もはやバレてるのね。でも頷きたくないわぁ。ここは可愛く首を傾げてみるか?


「なになに?何の事?」


「すっとぼけんな!」


やべっ、逆効果だったか?怒りを増幅させてしまったようですなぁ。そのドスの利いた睨み、ヤクザもタジタジですぜ。


「一時限目が始まる前にさ、鼻にティッシュ詰めた元カレが教室に来たんだよ!そんで恭子に何度も頭下げて、萌にまでごめんなさいぃ!近付きませぇん!って。あんた何をしたんだよ?」


あかねぇ、杉原のモノマネすげぇ似てるよ!でも今そんなこと聞いてんじゃないんだよ!って言われるのがオチだよね?

説明したくないけど、言わなかったらまたタックルされそうだし。さてどうする?


(保健室で寝てたからわかんねって言ったらどうよ?)


俺は悪魔と交信を始めた。ちょっとはいいこと言うじゃない、あんた進歩したなぁ。

でもさ、じゃあ何で保健室で寝てたわけ?って返されんじゃない?


俺の言葉にどう返答したらいいのかと思い悩んでるのか、悪魔は何も言って来ない。何か言ってくれぇ、俺は何にも思いつかないんだからさ。


(お前には関係ねぇ!って言ってやるがいい!そしてタックルどころかマウントポジョンをとられてその顔をズタボロにされるがいいさ!)


天使てめぇ、横から口を挟むんじゃねぇ!今悪魔が必死に何か考えてんの!あんたはお呼びじゃないのよ!


「何で黙ってんの?やっぱ図星なわけ?」


スルド過ぎるよあかねちゃん。でもあと少しだけ待って!生まれ変わった悪魔が名案を思いつくから!


(うるせぇ…って言え)


お前まったく進歩してねぇ!何も思いつかなかったのかいぃ!待ってた俺の身にもなれぇ!

どうしたらいい?なんて言えばいい?やっぱりシラを切るしかないよね?すぐにバレるかもしんないけど。


「あ、お、俺は何もしてな…」

「太郎ぉぉ!」


このスッ飛んだ叫びは一郎?

ふと声がした方へ目を向けると、右目の周りが真っ青になっている一郎が見えた。一体お前の身に何が起こったんだ?!


「太郎ぉぉ!」


思い切り抱きつかれたけど、俺にそんな趣味はなかったからそのままブン投げた。

あっ顔から落ちちゃったけど、一郎なら大丈夫だよね?ごめんね、えへっ。


「お前ぇ!何てことすんだよぉ!」


涙を浮かべて、というか涙(と鼻水)を垂れ流しながら一郎くんは僕をキッと睨む。

保健室で寝てただけの俺には、なんで一郎がこんなに泣いてんのかサッパリわからん。お前、男の子だろ?男の子は歯を食いしばって涙を止めるものよ!


「わたくし男と抱き合う趣味はございませんのよ、あしからず」


「お、俺だってねぇわよぉ!」


じゃあ何で?って聞こうとした時、あかねの痛い視線に気付いた。この子、諦める気はないようだね。

まだ涙を瞳に溜めている一郎に向かってあかねがキツイ一言を吐く。


「一郎!あんたが入ると話がこんがらがるからちょっと向こう行ってて!今あたしがコイツと話してるんだから!」


こんがらがるって、そんなはっきり言わんでも。見てよ、一郎の涙が止まらないよ。なんか、すげぇ可哀想だよこの子。


「一郎!ごめぇぇん!」


あまりの可哀想さに、思わず一郎くんを抱き締めてしまいました。一郎!俺を許してぇ!そして俺を連れて逃げてぇ!


「たたた、太郎ぉぉぉ!我が親友、太郎よぉぉ!」


「お〜いおいおい!」


そうやって泣く人なんていないよね?おいおいって、誰を呼んでいるのかね?

ってか嘘泣きがバレバレじゃないのよ!


「太郎!話を逸らすな!」


一郎と抱き合っていると、背中に手痛い蹴りを喰らう、マジで痛い。あなた空手部なんだから、素人相手にマジ蹴りをかましちゃあいけないよ?


まだ泣いている一郎を体から引き離しってかお前!制服に鼻水がついただろうがよ!俺のしわくちゃのハンカチーフで拭けってか?


「あかね!俺を、俺を信じろ!」


「ムリ!」


やっほぉ即答ぉぉ!俺のこと、そんなに信じられないんだね?いいさいいさ!グレてやるよ!やさぐれてやるから!

って、あかね。本気モードで睨んでいるよ。頼むからその冷たい目をどうにかしてほしい。


「あんたのやったこと、大体はわかるけど…」


わかんの?わかるのに俺を蹴ったの?…あぁそうか、杉原の奴、鼻にティッシュを詰めたままで高瀬と萌に謝ったんだったね。俺が殴ったのなんてすぐにわかるよね。

……あれ?じゃあなんであかねはこんなに怒ってるわけ?


「わかるけど…!あんた、何であたしを連れて行かなかったんだよ!あたしだってね、頭にきてんのに!」


やっぱりそうきたかぁ!

ダメダメダメ!あかねがついて来てたら、杉原は鼻血だけじゃ終わってねぇから!絶対アバラ何本かやられてるから!お前はそれだけ強いんだよ!俺がお前を連れて行かなかった理由を考えろぉ!


めちゃくちゃと言ってもいいほど腹が立ってるあかねは俺に突進、ってか何回タックルしたら気が済むのよあなた!もう痛いから、とっても痛いんだよ!


「待て待て待てぇ!ストップあかねぇ!」


両手を前に出し、ギリギリのところであかねを停止させた。危ねぇ、このままタックルされてたら階段を転げ落ちるところだよ。


「ちゃんと説明するから聞いてください!」


素早い身のこなしで俺はその場に土下座、俺って土下座のプロフェッショナルになれそうだ。…嬉しくねぇ!


「いや、あのね?あの時は俺も、自分じゃよくわかんないんだけど…えーと」


「はっきり言え!」


そうなんだよ!俺だってハキハキ言いたいんだよ!でも、言葉が見つからないの!だからそんなに怒るな!短気はソンキだよ?


「殴るつもりなんてなかったんです。ただ、アイツの顔を見てたら、なんといいますか。腹が立ちまして…ポコリと、やっちまいまいた」


「ポコリって…」


遠くから見ていた一郎が小声でツッコミを入れてくれた。でも、場は全然和まない。ますます悪化してる気すらします。


「…何であたしを連れて行かなかった?」


気付いてくれぇ!自分で気付いて欲しい!女性に「お前が来たら修羅場もいいところでしょうよ!」なんて言えない。な、なんて誤魔化せばいい?あく、悪魔ぁ!助けて!


(気付いたら行ってた…って言え)


「気付いたら行ってたんです!無意識のうちになんです!」


「…っはぁ」


あかね、そこで溜め息をつかないでくれるかな?せっかく悪魔が俺に囁いてくれた言葉を溜め息で消さないでください!


呆れた表情で俺を見下ろすあかね、そして土下座しままの俺。…遠くでいつ終わるかウキウキ気分でこっちを見てる一郎。


無言のままで2時限目のチャイムが鳴った。

やっぱ、教室に戻りたく、ありません。








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