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第110話 顔が良くても性格悪い

「お前もしょうパン買うのか?」


「あんドーナツ買うんだよ。誰が金出してまでしょうパンなんか買うか」


「しょうパンに謝れ!」


このやり取りで気づかれた方もいらっしゃるかと思いますが、只今私達は購買という戦士達が集う場所へと向かっている最中です。

何とか腹病みも収まってきたし、小さい握り飯1コじゃ午後の授業に耐えられやしねぇ。ってことでしょうパンを買いにゆっくりとした足取りで歩く一郎を背に俺は全力で走り出す。


お前のしょうパンは売れ残るからいいけどあんドーナツは大人気商品なんだ。そんなゆっくりしてたら買われちゃうんだよ!


「俺のあんドーナツぅ!」


出来るならば伝説のパン……そう、キャロットパンを食べたかったがそれは無理。昼休みに入って約4分が経った今、もう売り切れてるのは目に見えてる。だからあんドーナツを買う!もしくはクリームパンでも可!


あんドーナツ欲しさに有り得ないほどの人だかりの中へ果敢に攻め込む。

いっけぇ俺!ってか足痛い!


「いでででっ!足、足踏んでる!ってか誰か脇腹殴った!一郎助けて!」


「しょうパンの怨み、とくと味わえ!」


「意味わかん、いでで!」


みんな日々の恨みやうっぷんを晴らすみたいに蹴る殴る。ってかあんた達パンなんて見てないだろ!なんでパンじゃなくて俺の顔掴んでんだよ!


「っぬぉおお!」


蹴られ殴られしながらもなんとか命からがら抜け出し、潰れてペタンコになってしまったあんドーナ……。


「あ、あんパンかいぃ!」


間違えたぁ!粉砂糖かかってないよコレ!見るからにあんパンだよ!


「……ヤメよ」


俺にはもう一度あの中に入って行く勇気なんてない。仕方ない、一郎の元へ戻ろうか。ってかまだ歩いてやがる。どんだけ歩くの遅ぇんだよ。

深い溜め息と一緒にあんこがはみ出たパンを片手に歩こうとした時、不意に誰か(優しいタッチだから萌ではない)が肩を叩いてきた。女性であることを願います。


「一条も今日はパンなんだ?」


「あ、高瀬」


私もパンなんだよねと、いつも通りの笑顔を振りまいて現れた高瀬に少なからずも後ろめたい気分になってしまった。

塚本のことはあかねも言ってないし俺も言えてない。別に二股かけてるワケじゃないってアイツは言ってたから俺達がどうのこうの言える立場じゃないんだけどさぁ。なんか面と向かって顔見れねぇ。


「た、高瀬もパン?」


「うん。もう買ったけど」


「え?」


そんな華奢な体であの人ごみの中に入って行ったのか?すげぇな。


「って、それキャロットパンじゃんか?!」


高瀬の手に見覚えのあるパンがありました。そうです、半分ほど食べてから美味しさが伝わってくるという伝説のパン!

あわわ顔でいる俺に笑みを見せた高瀬は何か考えたと思ったらそれをチラチラ見せびらかしてくる。

自分で買ったワケじゃないだろうに!


「でもこれあんまり好きじゃないんだよね」


もらっておいてそれかよ!キャロット先輩に謝れ!

あっ待てよ?キャロットパンが嫌いってことは……よっしゃぁぁぁあ!


「じゃ、じゃあこのあんパンと交換してぇ」


「……それあんパン?」


潰れてるけど、いいだけあんこがはみ出てるけどこれは間違いなくあんパンだよ!


笑顔で「美味しいよ?潰れてるけど美味しいよ?」と頑張った甲斐があった。同じように笑顔を見せてくれた高瀬はキャロットパンを差し出してくれる。

ありがとう、またも伝説なるパンを手に入れることが出来るなんて夢のようだ!


……が。


幸せ気分で潰れたあんパンを渡そうと近寄ったとき、さっきとは違う何か裏がありそうな笑みを見せた彼女はキャロットパンを後ろに隠しやがった。くれないんかぃ。


「え?なに、交換してくれるんじゃねぇの?」


「お願い聞いてくれたらいいよ」


「お願い?」


問に「うん」とだけ答えた彼女は伝説のパンを手持ちぶさたにブンブン振る。

そんな振り回したら袋破れそうなんですけど。もらう俺の気持ちになってみてよ。


「昨日、塚本君からメール来たんだけど」


「え……」


や、野郎ぉ!三井だけじゃなくて高瀬にまで!?やばいやばい、三井はうまく凌げたが高瀬は魔性の女だから(関係ないけど)自信ない!

チラチラ辺りを見回して誰かいないかと探したが一郎しかいない。アイツじゃダメだ、余計に話をこじらせる。


「一条に怒られた、とか言ってたんだよね」


「お、怒ってないんですけど」


「あかねもいたって」


「…っすん?!」


慌てすぎて言葉にならなかった。どこまで言ってんだあの野郎は?!ってか確か「このこと恭子に言う?」とかなんとか確認してこなかったか?何で自分から言っちゃってんの?!


「何で怒られたか聞いても教えてくれなかったんだ」


え、いやそこで笑顔見せてもらっても困るだけなんですけど。俺が言えるワケねぇってば。塚本には言わないって言っちゃったし。知りたいならアイツの胸ぐらでも掴んで脅せば教えてくれるって。


「教えてくれたら交換してもいいよ」


「なっ…!」


キャロットパンは食べたい。でも言えない。っくそぉぉ!伝説のパンがすぐ近くにあるってのに!

どうするどうする?とキャロットパンを見せびらかせてくる高瀬の顔は魔女に近づきつつある。魔性を通り越してもはや魔女だ!


「どうなの?教えてくれる?」


「お、教えっ…」


言っちゃう?でも言っちゃっていいの?と、葛藤していると勢い余って持っているあんパンを握り潰してしまった。あんこが「何で私飛び出てんの?」と言って来そうなくらいにはみ出ている。

このままじゃキャロットパンの誘惑に負けて言ってしまいそうだ!だ、誰かお助けぇ!


「しょうパン買えたぜぇ!」


ありがとう一郎!やはりこういう時って親友だよね!

場の空気を全く読めない一郎はしょうパンを3つ抱えて走ってくる。またそんなに買いやがって。口が痛くなっても知らないからな。


「あっ!それキャロットパンじゃねぇか!」


さすが目ざとい。高瀬の手にあるキャロットパンをいち早く発見した一郎は羨望の眼差しでそれをジッと見ている。と、右手の人差し指を口にくわえ始める。


「それ嫌いだって言ってなかったっけ?」


キャロットパンしか目に入っていない一郎は俺を押しのけるとニタニタ顔でそれを指差す。う、何か嫌な予感がしてきた。お願い高瀬、「え?好きだよ。何言ってんのあんた」って言ってやって!


「うん、あまり好きじゃない」


このっ正直者が!

高瀬の返事を聞いて目を輝かせた一郎は何か言葉を吐こうと口を開く、その瞬間!


「じゃ…」

「言っておくけどそれは俺のあんパンと交換すんだからな」


あっぶねぇ!


やっぱり交換してもらおうって魂胆だったか。それは俺が食べるんだ、お前はしょっぱい顔してそれ食ってろ!


「何でだよ?!お前あんパン買っただろ!」


「お前だってしょうパン買っただろうが!しかも3コ!」


「マズい言うな!」


「言ってねぇよ!」


マズいなんて一言も口にしてないけど、顔に出ていたようですな。それはごめんあそばせ。


「何だよ何だよいっつも太郎ばっかり!高瀬って太郎のこと好きなんじゃねぇの?!」


おまっお前ってヤツは…。たかがパンでそこまで言うか?あれか、前にくれたとき一口ももらえなかったからか?心の狭い男だ……俺も人のことは言えませんが。

そんなこと有り得ねぇだろうと一郎の頭を小突いてやるため一歩足を踏み出した時、高瀬さんは全てを包み込んでしまいそうな笑顔を見せた。な、何を言う気?


「うん、好きだよ」


「だろうな!………え?」


まっさかぁ!と言ってくれるのを期待していた一郎は、口を半開きにしたまま足を踏み出して止まっている俺に(どういう事ですか?)光線を送ってくる。

お、俺にも理解不能です。だからそんな子鹿のような目で見つめないで!可哀想に思っちゃうから!その坊主頭を撫でたくなるから!


「だって友達だもんね?一条?」


「え?あ……あ、あぁそうそう!」


さっすが魔性の女だな。俺もちょっとだけ「え、えぇぇ?!」って気持ちにさせられたわ。ってかそうやってキミは世の中の男を手玉に取っているんだろうね。勉強になるわ。


「と、友達って……俺は?」


悲しげな表情ヤメろ一郎!

しょうパンを床に落としたのも気づかないで一郎は「俺は?俺は友達?」とフラフラ歩いて高瀬に近づいて行く。ってかアブない人になってる!要注意人物になってる!


そんな一郎の言動など気にもしない高瀬は辺りをチラリと見渡したと思ったら散らばったしょうパンを拾うとなぜか俺にそれを渡してきた。

い、いらない。本当にいらない。


「あかねなら知ってるよね?」


「え?」


いきなり話を戻されて戸惑った。

一郎が来てしまったのでもう聞き出せないと考えたのか、引きつり顔でいる俺に「あかねに聞くからいいよ」と笑顔で俺の手にあったあんパンを奪い、その代わりにキャロットパンを置いて行った。

お、思わずキャロットパンもらっちゃったよ!







それから昼飯、そして午後の授業は全く身に入らなかった。高瀬からもう何かしら聞かれたのか尋ねようとあかねに近づこうとすると、なぜだか萌がそれを邪魔してきたからだ。あかねに少しでも近づこうとすれば萌が彼女をどこかへ連れて行ってしまう。俺を悪魔か何かと勘違いしてるに違いねぇ。


そして気がついてみればもう帰りのホームルームも終わり、みんなそれぞれに散らばって行く。聞くなら今しかないよな。


「あっ、あか……ね」


もういねぇ!どこ?あかねはどこ?あの美人な女の子は何処へ?

立ち上がって辺りをキョロキョロ見渡してみるももはや教室にはいない。どんだけ身のこなし早ぇんだよ!起立、礼してまだ2分と経ってないハズだけど?!


「帰ろうぜぇ太郎!」


突然デカイ奇声が聞こえたので驚きながら声の元へと視線を移動させると、顔をツヤツヤさせた一郎がそこにいた。

てめぇ、俺がボケッとしてる間にキャロットパンを半分持っていった分際でよくもそんな朗らかでいられるな。しょうパン3コにキャロットパンまでも食いやがって。どんな腹してんだお前。


「帰るか…」


ふと見てみれば萌の姿もない、高瀬もいない。ちゃっちゃと帰っちゃったのかなぁ。出来ればモヤモヤしたまま帰りたくなかったけど、いないんじゃ話にならないか。

キャラメル達が心配な一郎は早く行くぞと急かしてくる。ってかいつから俺とお前は一緒に帰ることになったんだ?


「キャラメル達が俺を待ってるぜ太郎ぉ!つぶらな瞳で俺を待ってんだよ!」


教室を出てすぐ、気持ち悪い顔でそう言いながらなぜか手を握られた。ちょっマジで気持ち悪いわ。何が悲しくて男同士で手を握らなきゃいけねぇのよ。


「そりゃ良かったねぇ」


汗ばんで気持ち悪いとその手を突っ返して階段を2段飛ばしで下りる。もしかしたらあかねは部活だからうまくいけば会えるかもと思ったからです。一郎がイヤだということでは決してありません。彼は僕の大事な友達ですから。


「……いねぇか」


下校しようとする生徒は沢山いたけど、あかねの美しい後ろ姿に出会うことは出来なかった。でも、その代わりに……。


「お〜い太郎ぉ!」


部活に向かう途中の晃に出くわしてしまった。ヤツめ、俺の腹の痛みを倍増させておきながらその満面の笑みは何だ。……なんか俺、さっきからこんなんばっかだな。


「おい太郎おい太郎おい太郎!」


「聞こえてるから!人の名前連呼しないで!」


「何だその言い草は?!人が心配して声を掛けてやったっていうのに!」


余計に痛くなるわ!


「なぁ萌ちゃんは?」


やっぱりそれかよ!俺の腹なんて全く気にしてねぇじゃんか!俺なんて視界に入ってねぇじゃんか!


「帰った」


あかねがいないならもう学校には用はない。俺はぶっきらぼうにそう答えて外靴を取り出した。と、一郎が遅れてやってくる。よくケータイいじりながら階段を下りれたものだな。


「おぉ晃。部活か?」


「おぉ一郎。部活だ」


………キミ達って顔は違えど性格、というか脳みそはやっぱり同じモノを持っていらっしゃるようですね。

晃はさっきと全く同一の「なぁ萌ちゃんは?」を披露したが、そこはやはり一郎だ。俺が言ったのと同じ「帰った」の一言で終わらせてくれた。興味のないことに関してはめちゃくちゃサバサバしてんのね。


「帰っちゃったのか……なぁ、そういえば祭りどうするんだ?」


「「は?祭り?」」


いきなり突拍子のないその言葉に靴を持った手が止まる。一郎に至っては眉間にシワを寄せて「何言ってんだ?」と言いたそうな顔だ。そ、そこまで?


「行かないのか?」


当たり前のようにそう言ってのけた晃は俺と一郎の顔を交互に見比べる。なんだコイツ。何のこと言ってんだ?祭り?お祭り?


「あ、あぁ祭りね祭り!」


てめっ一郎!絶対にわかってねぇだろその顔は!知ったかぶってんな!


千満せんまん神社の祭りだろ?」


知ったかじゃなかったのね?!せんまん…?千満神社………せんま…あ、あぁ!


「あぁ千満神社か!……何だよ」


お前ら、何だよその目は。やっと思い出したのかみたいな顔すんな!寂しい気持ちになるわ!

もういいよバカバカ!と外靴を玄関にぶん投げて履き始めた俺の背中がそんなに寂しそうだったのか、晃にそっと肩を叩かれた。優しくしないで!


「なぁ太郎、萌ちゃん誘って行こうぜ?」


「えぇ?!い、いいよ俺は遠慮する!」


祭りって聞いてもしかしてって思ったけどやっぱりそうきたな。


千満神社祭り……それは夏が近づき、暖かくなってきたねと思う頃に行われる祭り。って言ってもよくある出店とかで盛り沢山の普通の祭りなんだけど。何より女の子の浴衣姿をいち早く拝める素晴らしい祭りだ。たしか俺の記憶じゃ3日間くらい続く祭りだったような。それで最後の日には花火を打ち上げるんだったな。


「一郎は行かないんだったよな?」


祭りの概要を少しずつ思い出していく俺の肩に手を回したままで晃は後ろで外靴を取り出している一郎にそう問いかけた。


「あぁ、行かねぇ」


普段の一郎なら浴衣姿の女子達を見るために絶対に行く!と言いそうだけど、違う。

一郎のおじい様は昔から祭りの日になると温泉へ出かけるそうで、一郎はそのお供として毎年かり出されている。でも何でわざわざ祭りの日に?って思われた方、理由は簡単、「騒がしいから」らしい。確かに一郎の家は神社に近い位置に建っている。イコール隣りのおじい様の家も近いってこと。

毎年必ずと言っていいほどギャアギャア騒ぐ輩がいるからな。


「と、言うわけで太郎!お前だけが頼りだ!」


「何が?!」


一郎に何かしら話しかけていたからと油断していた俺は履こうとしていた靴を落としてしまった。いきなり話振られても困るわ!何が俺だけが頼りなの?


「萌ちゃんを祭りに誘うんだ!」


「無理!」


誘ったら一緒に行くことになるだろが!それだけはマジでカンベンして!


「去年は萌ちゃんと一緒に見て回ったじゃないか!」


「偶然会っただけだろ!」


とは言いつつ、萌と一緒に来ていたあかねの浴衣姿を拝めたのは本当に嬉しかった。夏はまだ先とはいえ祭りに浴衣は必須アイテムだ。マジで見とれるほど似合ってた。あかねの美人な顔に紫色の浴衣ってアンタ、最高です。思わず「き、キレイよあかね!」って叫んだ記憶もある。……萌も浴衣着てました。クールな彼女にぴったりの蒼い浴衣でした。似合ってました、ハイ。


不覚にもボケッとあかね(と萌)の浴衣姿を思い出していると、スキありと晃に腕を掴まれてガンガン揺さぶられた。


「頼むよ太郎!朝にA組の教室行ったのは萌ちゃんを誘おうと思ったからなんだけど、断られたんだよ!お前がしつこく頼めばOKしてくれるだろ?」


「俺を何だと思ってんだ!?どんだけ俺はしつこいんだよ!」


イヤイヤと掴まれた腕を振りほどこうにもガッシリ掴まれているせいでどうにもこうにもいかない。

カンベンしてよ、どんだけ力強いんだよお前、そう言おうとしたとき低い声が耳に届いた。


「……お前、俺に借りがあるよな?」


「なっ!?晃てめぇ…」


悪代官気取りなのか、ニヤリと笑った晃は俺に顔を近づけてくる。

くそっ憎々しい顔なのに男前だなこの野郎。俺が女性だったら「晃君ってば、顔近いよぉ!」って頬を赤く染めてる。でもごめんなさい、私はどちらかというと思わず守ってあげたくなる勇樹の方がタイプなの。


「萌ちゃんのファーストキッスの相手はまだ見つかってないんだろ?」


だけどその代わり、ってことか。ちくしょうが。ってか一郎も実行委員のハズなのに何でいつも俺だけこんな目に?

何も言えないでいる俺を見てコレ幸いと晃は「見つけなくてもいいぞ。だがしかし!」とガンガン攻め込んでくる。

くおぉ、言いなりになるしか道はないのか?!


「宮田ぁ!部活遅れんぞ!」


助かった、と言えるかどうかは別として。

遠くから晃の部活仲間であろう生徒の声が聞こえてきた。それに反応した彼は無言を貫き続ける俺の頬を引っ張りながら声がした方へ視線を移動させる。伸びる伸びる!


「あ、もうそんな時間か?じゃあ太郎!誘ったらすぐ連絡くれ!」


「え?あ、ちょっ晃ぁ!」


ハハハハハ……って待てやぁ!決定事項かよ!

笑いながら去って行こうとするヤツのシャツを慌てて掴もうとするもさすが俊足。捕獲することは叶わなかった。





「誘うなんて絶対に出来ねぇよ…」


校門を抜けた辺りで深い溜め息を漏らした俺は隣りを歩く一郎の肩に頭を乗せて愚痴をこぼした。お願い一郎、ケータイに目を奪われていないで私を助けて。


「去年は4人で見て回ったんだろ?だったら…」

「だからぁ!そりゃ偶然会っただけ!」


お前ってヤツは全然話を聞いてくれてないね!家に帰ったらキャラメル達に会えるクセにケータイと睨めっこしてるからだよ!

重い!と肩に乗せていた頭を叩かれた俺は夕暮れの空を見上げる。良い天気だなぁ、これなら祭りも中止になりそうにねぇ。


おわぁぁおわぁぁとどこにぶつけていいかわからない想いを空に向けて叫んでいると、やっとケータイを閉じた一郎に脇腹を軽く小突かれた。


「そういや太郎。何でお前晃と去年祭りに行ったんだよ?」


それは一応去年も言ったんだけどね。やっぱり覚えちゃいないか。


「晃が俺の家に押しかけて来たんだよ」


「秋月の家にじゃなくてか?」


「行ったけどいなかったかららしい……ふざけんなぁ!」


俺は萌の代わりか!ちょっと思い出しただけで腹が立つ!

晃の顔を思い浮かべてその場でシャドーボクシングを開始する。お前なんてジャブジャブフックだ!

そんな感じで約1分ほど汗を流していると、突然ポンと背中を叩かれた。全てを悟ったような顔してるけど、何か助言してくれるのか?


「諦めて誘った方がいいんじゃねぇか?秋月のファーストキッスの相手だって見つかってないんだし。祭りに誘うだけで帳消しにしてもらえるなら良いじゃねぇか」


「じゃあ一郎が誘ってくれや」


「無理。だって温泉に行くから」


ッテメェ!何をさも当たり前のように言ってんだ!祭りなんて誘えるかよ!あーだこーだって食い物とか飲み物奢らされるのが目に見えてんだよ!そ、そりゃ浴衣姿はちょっと見たいけども。でもその代わりに散財するのはわかってんだ!

頼むよ一郎!助けてよぉと彼の腕にしがみついてウルウルな瞳を見せる。が、気持ち悪いと一蹴された。さっきのお返しですね?!


「まぁでも太郎が死んでもイヤだってんなら無理強いは出来ねぇか。明日でも晃に秋月は用事があるから無理だって言えばいいだろ」


い、一郎……何か変なモノでも食べたのかしら?あなたの口からそんな言葉が飛び出してくるなんて明日は大雨間違いなしだよ。

コイツ、まさか心を入れ替えたのかしらと彼に賞賛の拍手を送ろうとしたその刹那、


「でも、太郎が言えよ」


「てめぇってヤツは!」


やっぱりそうくるか!結局お前は何もしてくれねぇんだな!







ご感想・コメントを送って頂いた皆様、未だ返信が出来ず大変申し訳ございません。少しずつになるかもしれませんが、返信をさせていただきたいと思っております。

そして更新が滞ってしまい、大変申し訳ございませんでした。


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