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第107話 俺にとっての天使はあなた

俺ってなんでこうも意気地がないんでしょうか。今しかねぇって所でいつもトチる。どうにかならないモンかね。


「そんな俺どうしたらいいと思う?」


「いや全然意味わかんないんだけど」







塚本に出会った次の日、すなわち昨日は土曜日だったから1日中ずっと家で過ごしました。なんか気分が乗らなかったんですよ。ゴロゴロして終了しました。萌からの呼び出しメールもなかったし……一郎の野郎ゲーム貸してくれなかったし。


あっ萌からもらったコップはもちろん自分の部屋に連れて帰りました。だって母ちゃんに見られたら即使われるから!あの方は誰の物とか関係なく使っちゃうからね。そして間違って割ったとしても「じゃあ使われないよう隠しておきな」って逆ギレで終わる。




そして日曜日、いつまでも家に閉じこもってないで気分転換にちょっとぶらつくかぁと思って外に出てみた。


10分ほど歩き続けてやって来たのは有名な4階立ての某デパート。

1階の総菜コーナーで味見を楽しんだり、2階に新しく出来た本屋さんを見て回ったりしたが、ちょっと疲れたので1階に戻ってフードコート内に進入した。何も飲まず食わずじゃあれだからメロンソーダでも買うかな。


「あっ」


ジュースを買ってウロウロしていると、ここで会ったが百年目、なんと親友であるあかねがテーブルに座っているではないですか!だから思わず向かい合わせの席についちゃった。というワケで今に至ります。


「ねぇねぇ部活は?」


「今日は休みだったんだ。って、あんたなんでちゃっかり座ってんの?」


「親友だから?」


「あんたねぇ」


あかねに会えたのは正直ラッキーだと思う。

気分転換に、なんつっても気分なんて全然晴れなかった。さっき本屋で『男の重みは顔じゃない、心だバカ野郎』って題名の本を読んでみたけど全然タメにならなかった。味見コーナーは最高だったけど。


そんな時にあかねですよ。これはもう天の思し召しです。あかねは天からの使者だったのね。

……余談ですが、彼女もついさっきまで本屋にいたらしいです。全く会わなかったね。


「あれ?ちょっと萌は?」


「え?いませんけど?」


彼女は萌と俺が一緒にデパートへ来たと思ったらしく、忙しなく辺りをキョロキョロ見回しながら「あたしなんか放っておいていいから」と俺を立ち上がらせようとする。あかねったら困った顔して可愛いんだからぁ!


……なんて変な事は言わずになんとか1人で来たと言い続けること約2分、やっとわかっていただけたようです。が、まだ信じ切れていないのか挙動不審気味だな。こんな時は空気を変えてしまおう。


「ねぇねぇあかねぇ。何飲んでんの?」


「え?あぁキャラメルなんとかってヤツだよ」


「い、一郎の飼い猫飲んでんのぉ?!」


「は?」


そういや一郎のヤツめぇ、昨日に引き続き今日までもメールすら送ってきやがらないとはな。キャラメル達に夢中だからってことは重々承知してるが、何か送って来て欲しい。

慌ててみたものの、すぐさまそっちのキャラメルじゃないってことに気がついた俺はメロンソーダを半分ほど一気飲みする。


「……で?何か悩みでもあんの?」


「いぇぃ?!な、何で?」


「勘?かな」


さ、さすがあかねだな。占い師もビックリな的中率。

まぁ俺1人で悩んで考えてみてもどうしたらいいかわかんなかったんだよな。ここは敢えて言ってみるのも手かもしれない。


「いや実はですねぇ…」


「うん?」






それから何十分かを費やして一昨日起きた事件を一通り暴露する。その間あかねはキャラメルなんたらを飲みながら黙って聞いてくれていた。


「……ってワケなんです」


なぜかあかねを前にしたらスルスルと言葉が出てくる。ここまで自分をさらけ出せる友達なんてそうはいないよなぁなんて感じながら、彼女に対して感謝の気持ちが膨らんできた。ってかべらべら話す男ってどうよこれ。


「恭子が塚本 裕也と、ねぇ……」


あかねは塚本と聞いてすぐに同じ中学だったこと、そんでもって三井と付き合っていたヤツというのを思い出した。さすが記憶力バツグンだね。


「う〜ん、あんたが悩む所はそこじゃない気がするんだけど」


「え?」


「あんたが悩むべきは萌と早希に挟まってる所だろ」


「はさっ挟まってるだなんて!俺はあかねに挟んで欲しい!ずぎゃっ!」


対面に座っている俺の弁慶を爪先で蹴ってきやがった!少しも見ないでピンポイントで当ててくるなんて相当修行しないと出来ないよそれ!


「あたし思うんだけどさ。あんたは本当に良いヤツだよ」


他の方々に悟られないよう静かに足を撫でていると、不意に褒められた。

あかねさん今なんと?俺が良いヤツって、好きだって?……真剣に考えてくれてるのにこれはマズいな。


「早希があんたを好きになったのわかる気がする。でも、だからこそはっきりさせた方がいいんじゃないかな」


「ど、どういうこと?」


「前に断ったとは言ってたけど、石井ってヤツに呼び出し喰らって行った時、彼氏だって紹介されちゃったんだよね?あの子の性格からして太郎が萌のこと好きだと思ってんなら、いくらあんたを好きでもそんなこと言わないと思うんだ」


「そ、そうなんですかねぇ」


一気に説明し終えたあかねはキャラメルなんたらを勢い良く飲んでいく。俺もそれを眺めつつメロンソーダに口をつけた。


三井の性格からして、か。俺もおかしいとは感じたんだけど萌もいなかったし石井に早く諦めて欲しかったからそう言ったんだと思ってた。でも、違ったのか。


「…ってかあかねさん」


「ん?」


「いつ俺が萌のこと好きだって言った?」


「え?あ、いや……勘?」


くっ、そんな照れた顔して言われたら怒れないじゃんかよ!ってか当たってんだけどさ。

何も言わずにメロンソーダを飲んでいく俺を、少し困った表情であかねが見つめてくる。


「当たり、でしょ?」


「……あかねには嘘をつけませんなぁ」


「やっと白状したかこの野郎」


「えぇ?!」


変わりようがすごいなオイ!いきなり刑事みたいな顔つきになっちゃったよ!


「でも早希に萌とは付き合ってないしぃ、勘違いはヤメてぇとか言ったんだとしたらマズイね」


あかねさん、俺のモノマネ似てるよ。杉なんとかのモノマネも似てたけど。もしかして才能あるんじゃない?


「何がマズイの?」


「あたし言ったじゃん。早希とハンバーガー食べに行った時、宮田みたいに最初から最後まであんたのこと話してたって」


「なんでそこで晃が出てくんのよ」


「アイツ口を開けば萌じゃん」


「……」


それは三井が口を開けば太郎太郎言ってるってこと?

こんなトコで晃の名前を出すのはカンベンしてぇなんて言いながら、互いに競い合うようにジュースを飲んでいく。

と、ストローから口を放したあかねが意味深な発言をこぼした。


「早希はもしかしたら太郎がこっちを振り向いてくれるかもしれないって思ってるんじゃないかな」


「え、マジで?」


「早希から連絡もらったとき萌を置いて行っちゃったんだよね?自分の方が好かれてるかもしれないって思ってもおかしくないと思う」


「……」


三井はどうか知らないけど、萌のヤツは勘違いしてるっぽかったな。お礼にどっか行こうって三井から誘われたとき「行けば」みたいに言ってきてたし。だから心を鬼にして断ったんだけど。


ウンウン唸りつつメロンソーダを驚きの速さで飲んでいく。それと同時くらいでストローに口をつけたあかねは、なぜか俺の顔をジッと見つめてきた。

そ、そんなに真剣な顔で見つめられたらドキドキしちゃうよマジで。あんたそれでなくても美人なんだから。


「……太郎ってモテるんだね」


「ちょっ何よその意外そうな顔は?!」


「え?そんな顔してないって!」


そう言いながらも怪しい目をしてやがる。あかねの嘘なんざすぐにわかるんだよ!

こんな時は秘技、無言で見つめる!


「……………」


「ご、ごめん悪かった!お詫びに何か奢るからさ」


俺の表情を見てこりゃヤバイと感じたらしく、あかねは顔を少し赤らめて両手を合わせて謝ってくる。

ここで結構よ!って断るのは逆に申し訳ないよね。よっしゃ、気の利いた一言でも言ってやるか!


「じゃああかねが飲んでるヤツ」


「オッケわかった。それじゃ買って来るからちょっと待っ…」

「あっダメダメェ!今あかねが飲んでるヤツがいいのぉ!」


「……」


ちょっ、ちょっと。冗談で言ったというのにその真剣な眼差しは何でしょうか。私達は親友同士なんだからそんな顔しなくても……親友に見せる顔じゃねぇよそれ。


「……全部飲んじゃってるけど」


残ってたらくれたんかいぃぃ!?

真剣な表情してたのは飲み干しちゃったけどいいのってことかよ!間接キッスうんぬん以前かよ!


「そ、そうなんだ……。あっ何かメロンソーダ飲んだらお腹いっぱいになってきた」


「あ、そう?じゃあ奢るのはまた今度」


う〜む、男として見られていないのはわかっていたけどこれほどまでとはね。ってか鈍感過ぎるよあかねちゃん。俺の気持ちズタボロだよ。

悲しみに浸りつつまだ少し余っているメロンソーダをズルズル飲む。


「……俺、きっぱり断れるかな」


どんなに考えても俺は三井の気持ちに答えてあげることは出来ない。でも悲しませるって考えたら………断るってのに悲しませるもクソもないか。どんな言葉で言ったとしても悲しませることに間違いはない。それならやっぱり早く言った方がいいのかもしれない。


「早希は諦めないって言ったんだよね?」


そう言ったあかねは俺と同じく困り顔でストローを抜いたり差したりする。

またその話を蒸し返してくれたな。忘れたいってワケじゃないんだけど、その事を考えようとするとなぜか萌の顔が浮かんでくるんだよ、それもめっちゃ怒り浸透な萌の顔が。


「えぇ、言われました」


「太郎が本気で萌を好きなら、それをちゃんと話した方がいいと思うよ。いつまでもズルズルべったりってワケにいかないだろ」


「ず、ズルズルべったり……」


「うん」


このご時世でそんな言葉聞いたの久方ぶりですよ。


ふと辺りを見回すと周囲の明るい声が「ズルズルべったり…ズルズルべったり…」と言っているように思えてきた。ヤバイ、これ禁断症状だよ。

ガリガリ音を立てて周りの声が聞こえないようおががぁとストローにかじり付く俺を見たあかねは、エンジェルスマイルを見せながらこう言ってきた。


「まぁ恭子のことは長い目で見ようよ。それよりあんたは自分のこと考えた方がいいよ」


あかねよ、やはり貴女は天からの使者だったね。その笑顔は俺に勇気を与えてくれる。本当にありがとうございます!


「そうですな。ありが…」

「ユウ君!お待たせ〜!」


「………え?」


ありがとうあかねぇぇ!と叫ぼうとして止まった。

ユウ君、って今呼ばれたのって……もしかして塚本?


「……」


ゆっくり声がした方向へあかねと共に視線を移動させていく。


「あ」


俺達がいる場所から5メートルほど離れた場所にユウく……塚本はいた。と、彼の名を呼んだと思われる女性(ミニスカート着用)が同じ席についたのを見届けたあかねが俺の肩をポンポン叩いてくる。


「あれ塚本だよね?」


「……うん、まずヤツに違いねぇ」


ストローをかじりつつ俺達は不審者のようにジッと事の行く末を見つめる。

端から見たら恋人同士みたいだけど、アイツには高瀬がいるからそれは違うよな。ってことは妹……却下。似てねぇ。


「電話ありがと!」


「あぁ、何か会いたくなってさ」


さすがミスター地獄耳の俺。ざわつく周囲の声を除けて2人の会話が聞き取れる。見るとあかねも同じ地獄耳を装備していたらしい。


「アイツ恭子と付き合ってんだよね?」


「……だと思うけど」


確かに高瀬は「私の彼氏」とヤツを俺に紹介してきた。あんな幸せそうな顔はあんまり見たことなかったし、嘘は言ってないと思う。と小声で答える。


「あっそうだ。私ユウ君と見たいと思ってた映画があるの。良かったらこれから一緒に見に行かない?」


「あぁいいよ」


「ホント?嬉しい!」


「じゃあ行こうか?」


立ち上がった2人を見て瞬時に顔を前に戻す。ここで顔なんて合わせたら何を言ってくるかわかったもんじゃない。バレないよう出来るだけ姿勢を低くして2人の行動を見張る。……こんな体勢でいた方がバレそうだ。


「何か今のって完全に恋人同士の会話っぽくねぇ?」


「……」


俺の問いにあかねは何も返してこない。ただ何か考えているのかブツブツ独り言を呟いている。

そんな俺達なんて露知らず、塚本と女性は腕なんて組んだりなんかして歩き出した。


「終わったらどっかでメシでも食う?」


「私スパゲティがいいな」


「……」


ど、どう考えてもこりゃあ……。

言いようのない不安に駆られ、あかねに後をつけるかどうか尋ねようと口を開こうとした瞬間だった。


「でもこうしてユウ君と腕組んで歩けるなんて夢みたいだなぁ。ホンットに嬉しい!」


「あぁ俺も」


「……」


……こりゃあ……こりゃあ……こりゃあぁ……………。


「こりゃあぁぁぁぁ!」












更新が遅れてしまいました……。誠に申し訳ございません。


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