表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/133

第99話 何度観ても飽きない

突然ですが、熱を出しました。きっとあかねの弟である隆志に風邪を移されたと思われます。……隆志には会ってないのでそれはナイですよね。


自分でも驚くほどフラッフラな足取りだったので、大事をとって今日は学校を休みました。でも心配ご無用、今は元気に直秀の部屋でDVDを鑑賞中です。

朝はウンウン唸ってたんだけど、卵がゆを食べてがっつり寝たら熱は下がりました。もしかしたら風邪じゃなくて知恵熱ってヤツだったかもしれないと思った今日この頃。


『マッフル〜!』


『フォ〜ン!』


最終回でご主人様と再会することが出来た鉄の犬、マッフル。いやいや、これはいつ見ても感動するわ。興奮してまた熱が上がったらどうしましょ。


「…」


マッフルを抱き締めて泣き叫ぶご主人様(35歳)を眺めながら、あまりにも彼の声がデカかったので音量を下げようとリモコンに手を伸ばす。と、昨日の出来事がふと甦ってきた。


「……っはぁ」


喫茶店カフェで言われた言葉がどうしても頭から離れない。そのせいかどうかはわからないけど、今こうして熱を出して寝てるワケで……DVD見てるけど。






「突然だけど…私、立候補してもいいかな?」


言われた瞬間は意味がわからずに目が点になってなっていた、と思われる。

真剣なで俺をジッと見つめている早希ちゃんはどうやら僕の言葉を待っているようです。


立候補……って学級委員長とか?投票したいのは山々なんだけど、学校が違うから応援するくらいしか出来ないよ。でも大丈夫、早希ちゃんなら当選すること間違いナシだから。


「ダメかな?」


「え?いや大丈夫、出来ると思うよ」


そうか、相談ってこのことだったのか。誰かに背中を押して欲しいんだね。心配することはない、キミならやれる!


「出来るって?」


こんなパーフェクト少女でも不安なんだろうね。アホな俺だけど、応援くらいは出来るから!


「三井なら何に立候補しても当選確実だって。不安がることないよ」


「………一条君って、鈍感?」


「は?」


え、なぜにジト目で睨んでくる?いつの間にか怒らせちゃったの?お前に応援なんざされても嬉しくも何ともねぇんだよみたいな?


「そういう意味で言ったんじゃないんだけど」


機嫌を損ねてしまった理由が今ひとつわからないが、フイと視線を外した早希ちゃんがコーヒーに口をつける。

少しムッとした顔をしてるのは俺の勘違いじゃないよね。こういう時ってどう対処したらいいかわからない。目の前にいるのが萌だったら「何で怒ってるわけぇ?ワタクシが何かしたぁ?」って言えるのになぁ。


空のコーヒーカップをテーブルに置くことも出来ずにいた俺は、早希ちゃんが何か言ってくれるのを待ち続けるしかありません。


「秋月さんも苦労してるんだね」


「萌が?ちょっと三井さん、苦労なら俺の方が何倍…いや何万倍もしてるよ?」


「ふふっ」


「ちょっ、何で笑ってんの?」


なんだなんだ、いきなり機嫌が直っちゃったよ。やっぱり女性の気持ちってよくわかりませんな。


カチャリとカップを置いた彼女は何が可笑しいのか必死に笑いを堪えているように見える。が、声がだだ漏れだよ。そんな可愛い声で笑われたら注目の的だよ。


「一条君って面白いよね」


「え?そ、そう?」


おっ、やっとさっきまでの早希ちゃんに戻ってくれたかしら。これでもう一安心ですな。ってか面白いって、面白そうな発言をした記憶はこれぽっちもないんだけど。でも、嬉しいです。


「学校でもそんな感じ?」


「そーねぇ。あかねにはよくツッコまれるよ。……ってかブッ飛ばされてる」


「あはは!あかねも大変だね」


いや、俺が大変だよ?空手部のホープである彼女に殴られたら鼻血出るから。後で謝ってくれるけどマジ痛いから。


「いいなぁ、私も同じ高校受ければ良かった」


な、ぬぁんて事をぉ!それはイコール俺と一緒にいたいと言ってらっしゃるのですかぁぁ!


「早……三井?」


気をつけろ俺ぇ!こんなときに冗談でも名前で呼んだらダメだろが!調子コイてると思われるって!

名前を呼んだはいいけど、どうしよ。コーヒーおかわりどう?とか……おかわり自由なら何杯でも飲んでやる。


「そんなに仲がいいなら、もしかして一条君あかねと付き合ってる?」


……この場にあかねがいないことを幸せに思う。聞かれたらローリングソバットの餌食になってるところだよ。そしてみぞおちに正拳突き喰らって飲んだコーヒーが逆流する。


「あかねとは親友だけど?」


「親友?」


「って言ったら咳き込むほど笑われた。それってヒドくねぇ?」


「ふふっあかねらしいね」


くすりと笑う早希ちゃんは、ごめんなさい可愛いです。


今思うとこの笑顔が好きだったんだよなぁなんて感慨深くなってしまう。中学の頃は隣りに並ぶだけで心臓バクバクだったのに、俺ってば余裕ぶっこいて対面に座っちゃってるよ。


「あかねって付き合ってる人いないのかな」


「うぅ〜んどうでしょうか。戦国先輩……とは付き合ってないか」


戦国先輩…本名ふじのくらやま先輩はたしか早希ちゃんと同じ高校に通ってるハズ。あかねもその高校を受験したみたいだけど、落ちてしまったようで。俺?俺は今の高校一筋だから。早希ちゃんと同じ高校に行こうなんてハナから無理なのさ。


「モテてるとは思うけど、みんなのあかねだからねぇ」


思うじゃなくて、実際モテるんだよあの子は。優しいし美人だし分け隔てなく接してくれるし、それに何より強い!ちょっとやそっとの男じゃ彼女とは釣り合わないさ!そう、俺のような男性じゃないとな!……自分を過大評価してすみません。


話が逸れてしまった感は否めないながらも、早希ちゃんの笑顔に癒やされつつ時間が過ぎていく。でも彼女がどうして俺を(デートに)誘ったのかが未だに不明。晃と萌とあかねの話題しか出てないよ。


他愛ない話で盛り上がり、ふと店内を見渡すと『コーヒーおかわり自由』という有り難いポスターを見つけた。

なんか1人で喋ってたからノド乾いた所だったんだよね。ちょうど良い、おかわりを頼ませていただこう。でも太っ腹なお店だこと、これからヒイキにしてしんぜよう。


「一条君」


ウエイトレスさ〜んと手を上げようとした時、早希ちゃんは突然消え入りそうな声で俺を呼んだ。


「なに?」


あっキミもコーヒーを飲み干してしまったようだね。おかわりしようと思ってるのかい?何も言ってないのに心が通じ合っちゃったよ。


「私、立候補する」


「え?うん…」


めちゃくちゃ深刻そうな顔で断言する早希ちゃんを見て、そこまで思い悩んでいたんだと気がついた。さっきも言ったけど、応援するからそこまでゴリ押ししなくても大丈夫だよ。


「私、一条君が好きです」


「……は?」


ちょい待ち。今、なんて言った?うまく聞き取れなかったので巻き戻しを要求したいのですが、無理ですか?


「一条君が好き」


心の中で巻き戻しを願ったのにリピートしてくれたぁぁ!

…って待って待って!今の俺、絶対に口を必要以上に開けてるよね!驚きと戸惑いでアゴが外れそうなんですが!


「私じゃ、ダメかな?」


だぁかぁらぁ!そこで上目遣いは卑怯だってぇ!言葉に詰まって何も言えなくなるからね!


不覚にも心の中で雄叫びを上げてしまった、と同時にある人物の顔が浮かんでくる。そうだ、俺は先週萌に告白という人生初の試みをしたんだ。早希ちゃんの告白は……正直嬉しい。嬉しいけど、だけど…。


「俺…」

「いきなり変なこと言ってゴメンね。迷惑だよね」


「め、迷惑だなんてとんでもねぇ!」


慌てて江戸っ子みたいな発言しちゃったよ!明らかに動揺してるよ。


「いや、迷惑とかじゃなくて……」


何て言ったらいいんだ俺は。断らなきゃいけないのはわかってんだけど、上手い言葉が見当たらない。俺ってこんなに口下手だったっけ。


「……」


うぉ、なんかイヤな雰囲気に取り巻かれつつある。お願い、お願いだから泣いたりとかしないでね?早希ちゃんに泣かれたりしたら俺まで泣くから。


「……私、諦めないから」


「へ?」


「絶対に振り向かせてみせるから」


「あ、あの早…三井さん?」


それは決意表明と受け取れとおっしゃる?


「今日は自分の気持ちを言えてスッキリした!」


ちょっ、あなたはスッキリしても俺はモヤモヤしてるから!晴れ晴れした表情で言われても!


あわわ慌てる俺に笑顔を見せた早希ちゃんは、不意にケータイを取り出したと思ったら突然立ち上がった。

なになに?!それ以上大きな声を出したらイヤよ!それでなくても可愛い声なんだから周りの視線が心地良い!って言ってる場合か!その前に俺の話を聞いてください!


「ゴメン一条君、私行かないと」


「あ?え、あ、うん……いや、そうじゃなくて、俺の話…」

「またメールするね!」


「うん……って、ちょっ早希ちゃぁぁん!」


バイバイと可愛く手を振って早希ちゃんは俺を置き去りに行ってしまった。そのあまりの清々しさに少々呆けてしまった俺は、彼女の背中を見守るしか出来ない。と、ある重大な事実に気がついた。


「………はっ!」


ヤベェ、コーヒー代もらうの忘れた!早希ちゃんはもう行っちゃったし!俺の勝手な想像だけど店員さんにガン見されてる気がする!

どっと冷や汗が顔を伝う中、テーブルに置かれた紙に恐る恐る手を伸ばす。


「!」


た、高ぇぇぇ!






結局あの後、財布から鞄からひっくり返してお金をかき集めて支払いましたよ。いくら俺でも飲み逃げなんてしません。


鉄の犬のエンディングを聞き終え、少しの間ボーッとする。そして画面に『おしまい』の文字が表示されてからテレビの電源を切った。もうこれ何百回見ただろ、でも飽きないってすごい。


「あー感動したー」


間違いなく棒読みで感想を述べたところで直秀の部屋から出ようとDVDを手に立ち上がる。


「…」


実はあれから夜に早希ちゃんからメールが来たんです。


『今日はいきなりあんなコト言っちゃってゴメンね!あの後コーヒー代払ってなかったの思い出したの!だから明日持って行くから!』


驚いたのは『持って行くから!』のビックリマークの後にまたもハートマークが2つほど並んでいたこと。思ったより早希ちゃんって前へ前へ行くタイプなんだね。中学の頃はわからなかった意外な事実が判明しました。

コーヒー代くらいいいよ〜って返事はしたんだけど、その後なぜか返信がありませんでした。貧乏のクセに見栄っ張りだからビックリしたのでしょうか。




「あれ?」


湿気の強い自分の部屋に戻るとケータイがピコピコ光っているじゃありませんか。あかねかな、それとも一郎かななんて考えつつケータイを開く。みんな心配してくれてありがとう。


「……?」


予想外にも送信者は萌でした。でもおかしい、『ドア開けろ』って何?しかもメール来たの2分前だし。


「…え〜っと」


頭がうまく回らないながら女子高生もビックリなくらいでメールを返す。


『どこのドア?学校の屋上なら行けないよ?熱出して休んだ身だからさぁ。げふぉげふぉ…。悪いけどあかねに頼んでくださりませ』


熱出してる奴にドアを開けに来いだなんてあんまりじゃありませんか。ここはちゃんと動けないということをアッピールしておかないとね。でもメールで咳き込むって、ちょっと高等技術だったかしら。萌に伝わったかどうか微妙だけど。


「わっ!」


ビックリしたぁ!油断してたら電話鳴った!着信音量最大だからマジでビビる!


「…萌かぃ」


見るとケータイの表示には『鬼娘』の二文字が。いいから来いなんて言われないか心配だったものの、本当に屋上に閉じ込められてるとしたら可哀想だと電話に出てみることに。

いくらあの子でも熱でうなされてる俺に酷なことはさせないだろ。出ても大丈夫、大丈夫……と言い聞かせる。


「もっしもしぃ?」


『……元気じゃん』


いつもの調子で出ちゃった。


「あっ…げふぉげふぉ」


「遅い」


演技が上手じゃなくてごめんよ!「あっ」って言った時点でバレたよね。

でもあなた、いきなり元気じゃんって。「大丈夫?熱出たって聞いていても立ってもいられなくて。それに、それに一緒に登校出来なかったの寂しくて」じゃないの?………有り得ねぇか。


『家にいるんでしょ』


「え?いるけど?」


なに?何の確認作業?


『じゃあ早くドア開けて』


「は?」


ドア開けろって、一条家のドアのことだったのですか?ったく、わかりづれぇってんだよ、ウチのドアならそう言えっつーに。メールでも主語が欠けてるんだね。

でも何用で来たんだろ。お見舞いとも思えないし。ドアを開けたらバァン!とか勘弁してくれよ。


「い、今開けるからちょっと待ってておくんなましぃ」


『……ップ、ップーップー…』


わかったくらい言ってから切れやぁ!







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ