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第97話 混乱しすぎて髪むしる

俺の告白を聞いて「帰る」とだけ言い残し走り去った女性を(超全力で)追いかけたが、振り返ってもらうことも出来ず結局は逃げられてしまった。


そして一人寂しく家に戻った俺はまずこう思った。


「一郎忘れてた!」


母ちゃんからの「晩ご飯は?!」という質問を聞き流し、ダッシュでハンバーガー屋へと到着した俺は、萌達と出会ったと思われるソワソワ一郎を目撃。ってかまだソワソワしてんのかよ、一体何時間そうしてたんだか。


遅い遅い、ジュース全部飲んじゃっただろと怒り心頭の一郎に平謝りの俺は、それから彼の相談を受けながらも萌のことしか考えられなかった。

っつっても一郎の相談なんてやっぱ思った通り、「俺、高瀬のこと好きかもしれない…」だったからスルーしても支障はないけど。まぁ誰々が俺を見てた〜という相談じゃなかっただけ良しとしようか。


好きなら当たって砕けるしかないんじゃねぇか、という俺の体験談を元に話してあげるとナゼかニッコリと微笑まれた。このっ絶対にオーケーしてくれるよなぁみたいな顔ヤメろや。


「わかった、じゃあ当たってみる!」


「そして砕ける」


「テメェ!」


「だってお前断られてたじゃんか。付き合うのはムリって言われただろ」


「でも、でもぉ!」


「ちょっ何で腕を掴む?!」


なんだかんだで一郎との雑談は1時間をとっくに超した。2人してジュースを一杯ずつしか頼まなかったのに、それだけ長い時間いられるなんて奇跡に近いです。

氷をガリガリ食べる一郎にポテトのSを奢ってあげようかなぁ、なんていらない考えが頭をよぎったけど、持ち合わせが全然なかった。しかもジュース一郎に奢ってもらっちゃった!てへっ!


でもそんなに長くいたのに、今日の出来事を俺は話すことが出来なかった。言ってもいいんだけど(一郎って意外に口が固い?と思い込んでおく)なんか、言えなかった。それが勇樹や晃に対する罪悪感からなのか、そうじゃないのかはわからなかったけど。


当たって固まってやる!と豪語する一郎を正面に、こんな風に自分の気持ちを素直に出来るコイツを少し羨ましいと思ってしまった。しかし絶対に口にしない。


2時間ほどかけて一郎の恋について延々聞かされ、家に戻ったのは20時近くだった。もちろん夕食はもはや片付けられている。だから泣く泣く焼きそばを作って食べた。ってかやっぱり俺焼きそば大好き!

それから布団に入った後、もしかして萌からメールか何か来るかな、なんて考えた。……来なかった。


明日明後日が休みで良かったかもしれないね。もし登校日だったら昨日の今日でどういう顔して会えばいいかわからなかったし、ちょうど良かった。それに、勇樹にどう切り出せばいいかじっくりと考えられる。




宣言通り、土曜そして日曜はずっと家にこもった。日曜の朝(7時)に一郎からの『俺の家でゲームしねぇ?』メールが来たものの、家から出る気すらしなかったため断ってしまった。悪い一郎……でもいつかそのゲーム貸してくれ。





そして今日、土日と休みが続いたにも関わらずこの2日間グッスリと眠ることが出来なかった俺は、目の下にいいだけクマを作りつつもいつも通り秋月邸の前で萌を待っています。


やっぱり先週ののことについて何か聞いてきたりするかのなぁ。でも全然眠れなかったクセして、何も考えてこなかった。告白したことをナシにして、なんてことは思ってないけど、これから俺と萌はどうなるんだろうって考えると眠れなかったんだよな。まぁ何かあるとも考えにくいけど。


待つこと約2分、俺と同じく目の下にクマを住み着かせて出て来た萌は、目が合うなりジッと何かを考えた顔を見せると、無邪気な笑顔でおはよう言おうか迷っている俺に向かって右手を差し出してきた。


まさか「手、繋ぎたいんだけど」なんて言うつもり?いくね、攻めるね萌さん。まさか今に限って「お手」はないでしょう。

ってか、うわっ手の汗すげぇよ俺!


無言でガン見してくる萌に戸惑いながらも、素早く学生服で汗を拭い恐る恐る手を伸ばす。


「ちょっと、何」


「え?」


もう少しで触れてしまう!と思ったら、寸前で手を引っ込められた。

俺と手を繋ぎたいから差し伸べてきたんじゃないの?何でそんな困惑した表情をしてるの?


「…お金」


「え?」


お金?……あ、樋口さんのことですか?って紛らわしいんだよコンチクショー!金なら金って始めから言ってよ!緊張した俺アホじゃん!


「ひ、樋口さんね。返しますよ、返しますとも!」


尋常じゃないくらいの汗を手にびっしょりと掻きながら樋口さんを財布から抜き取る。そして別れを惜しみつつ萌へ渡す。あれ?心なしか樋口さん悲しそうなお顔をしていらっしゃる。


「ありがとうございました…」


さよなら樋口さん、少しの間しか一緒にいられなかったけど楽しかったよ。

悲しげな俺とは対照に、無表情で樋口さんを受け取った萌は即座に自分の財布へ彼女をかくまうとなぜか1回鼻をフンと鳴らす。

ってかそこで鼻を鳴らす必要があるのか?


お金は返したものの、お互いに何やら気まずい雰囲気で萌を先頭に歩き始める。

あっやっぱり告白しようがしまいが、このポジショニングに変更はないわけか。


ピュッピュピュッピュおかしな口笛を吹きながらいつも通り萌の背中を見つめてみる。

うぅん、待てど暮らせど振り向いてもこないようだね。さっさと前を歩く萌は先週のことなんてなかったのようです。


歩き続けて少し経った時、公園が見えてきた。そしてふと立ち止まる萌につられるように止まる。

何か落とし物でもしたのか?なら突っ立ってないで探せばいいのに。


「萌?行かないと遅刻するよ?」


「わかってる」


チラリとこちらへ視線を向けた萌とバッチリ目が合った。しかし、彼女は何かを言ってくるでもなく俺に睨みを利かせてくる。なんで親切に遅刻するって教えてあげたのに睨まれなきゃいけないんだよ。


「ヒヒ、ハハハ…」


何を言っていいのか見当もつかずにただ笑ってみる。冷や汗は掻くし、口は引きつりすぎて痛みに変わってきた。

もうイヤだ、こんな微妙なテンションのままで登校したくねぇ。


辺りを見回してみると、よし誰もいないな。一郎とか高瀬に見られたら冷やかされるの山の如しじゃ。…ってか俺、一郎のこと口が固いって言っておきながらそれかよ。


ジッと突っ立っている萌に、決意を固めた俺は元気に口を開く。


「萌ェ!」


「わっ!な、なに」


まさか声を掛けられるとは考えていなかったのか、萌は驚きの表情でこっちを振り返る。

このままうやむやになったとしても、今までみたいに萌が俺に接してくれるならそれでいい。でもギクシャクするんだとしたら、イヤだ。お前なんか嫌いとか、別にどうでもいいとか言われても、ギクシャクするのだけはイヤだ。


「あのさ、先週のことだけど。萌がなかったことにしたいって言うなら…」

「そんなこと言ってないだろ」


「え、あ、そう?」


………後が続かねぇよ!俺の言葉を遮ったんならその後もよろしく頼むよ!


「え〜…っと、あ〜」


あ〜…しか出ねぇ!

なかったことにしたいとは思ってない、らしいのはわかった。でも、それならどうすればいつも通りに振る舞ってくれるんだ?


「私、嬉しかったんだよ?」


とかってニコッと笑ってくれたら…それはそれで対処に困るけど。今は嬉しそうな表情もしてないし…しいて言うなら困った表情だけど。萌も俺と同じようにどんな顔したらいいかわからないのかね。


「俺さ…つい勢いで言っちゃったけど…あ、いや勢いでってそういう意味でなくて。えっと…」


「…私は何て答えればいい」


「えぇ?いや、俺に聞かれても」


やっぱりそうか。キミもどんな顔して俺という美男子と話せばいいか悩んでいるのだね……スルーしてくれて構いません。

ってか、俺にどうするか聞かれてもマジで返答に困る、ニコッと笑われるよりも困るよ。


どうしよ、ここで冗談でも「じゃあ付き合っちゃう?」なんて言えるわけないよなぁ。そんなこと言ったら赤鬼状態で鞄アタックどころかローキック、ミドルキックの嵐に襲われそう。


「萌はどう思ってる?」


ゴメン、丸投げしてゴメン!俺も頑張って考えるから、キミも頑張ってくれ!


「…私は別に」


「べ、別に?…っひ!」


ちょっなんでそこで睨む必要性があるんだよ!丸投げしたのが悪いのか?


無言で睨みつけてくる萌に気持ちで負けたら終わりだ!と睨み返すもあえなく惨敗。俯いた俺は腕時計に目を落とす。

早く行かないと遅刻するなこれは。でも仁王立ちで睨みつけられたら身動き取れないっつーに。お前は何が目的だよ、俺を石に変えたいのか?


「あ、歩きながら話そうか」


涙で頬が濡れていないか確認した俺は萌を背に勝手に歩き出す。背中を押して「さぁ行こう!」なんてことは怖くてさすがにムリ。俺が歩いたら萌も歩き出してくれると信じて学校を目指す。


「太郎」


……キミはどうして俺が歩き出すと話し始めるかね。俺のことからかってるのか?そんなことするなら俺だって黙っちゃいないよ?叫んで叫んで叫び通すよ?


振り返った俺に対してもう一度公園をチラリと見た萌は、静かに歩み寄って来る。それもものすごい冷めた目で。


「な、なに?」


前を歩いただけでそんな怒るの?だってこの前は何も言ってこなかったじゃんか。ってかじゃあ歩いてよって話だよ。


「あんたは私のこと嫌ってるって、ずっと思ってた」


「は?…………いだっ!」


そこでなんでローキックを繰り出すのよ!?ノーガードだったからマジで膝に入ったよ、どんだけ不意打ち好きだ?!


あまりの激痛にその場にヒザをついた俺は萌の顔を見上げる。が、もはやそこに彼女の姿はなく…。


「ってか置いて行くなっつーにぃ!」





次に萌を見たのは、教室内でした。そうです、逃げられたんですよ。先週と同様に走り去られたわけです。いくら俺の足がターナー並に速かったとしても、ヒザの痛みに耐えながら走るのはやっぱりキッツイです。


優しくヒザを撫でながら教室へ入っていくと、すで自分の席に座りあかねと談笑している萌の姿があった。

あんにゃろう、俺に本気のローキックを喰らわせておきながらよくそんな笑顔でいられるな。


「あ、おはよ太郎」


「おはあかねぇ」


晃のマネになってしまったが、あかねに笑顔で挨拶をして窓際一番後ろの席につく。すなわち萌の隣りです。

あかねめ、この前俺を置いてさっさと帰ってしまったことすっかり忘れているようだね。ってか普通に挨拶しちゃったよ!俺も忘れてるよ!

チラッと萌達の方へ視線を向けてみるけど、お話に夢中のようで俺の存在は空気と化しています。


さっきローキック喰らわす直前に言われたこと、悪いけど実は良く聞き取れなかったんだよね。

だって小声だったし、ボソボソ言われても聞こえるかっつーに。

頑張って記憶を呼び起こそうとフンフン鼻息を荒くして窓の外を見つめる。そういやまだ一郎来てないな。また遅刻か?


「たろーーい!」


朝くらい静かに過ごせないのかねあの子は。ってか朝から何を泣いてんだよコイツ!鼻水出てるって!抱きついてくるな!


「朝っぱらからうるせってんだよ!ってか近い、鼻水つけんな!クリーニングしたばっかだから!」


「くだ、砕けてしまったぁぁぁ!」


わかってた、わかってたことだった。高瀬には付き合うとかムリって言われてたじゃないか。どうしてキミは自分にとって悪いことは右から左へ流れ出てしまうのだろう。一郎の七不思議。


「そうか砕けたのか。でも悲しむな一郎!」


「た、太郎ぉ!」


「砕けるとわかってたじゃないか!」


「!!」


なんでビックリしてんだお前は。やっぱり聞き流してたのか?前向きなのはいいけど、度が過ぎるだろ。


「もう俺、立ち直れない…」


「ちょっだから鼻水……げ、元気出せって。女性は高瀬だけじゃないだど」


……カッコ良く決めなきゃいけないところでカンじゃった。いつまで経っても俺は大事な所でつまずく傾向にあるようです。


「ありがと、ありがと太郎…!」


カンだことについて何も言及してこない一郎に感謝しつつ、くっついて来ないように顔を押さえ込む。ち、近いマジで!鼻水が学生服にベットリついちゃう!


「おはよ〜!」


お前鼻水つけようとしてるだろ!?と言いたくなるのをグッと堪えて一郎をなだめていると高瀬がお目見えしました。しかし俺や泣いている一郎が見えているにも関わらず、笑顔でみんなに挨拶しながらちゃっちゃと自分の席へついた。


高瀬、俺はお前のその神経をある意味で尊敬させていただきたい。まぁ一郎のことだから朝いきなり「俺と付き合うしか道はねぇ!」とか言ったんだろうね。そう思うと高瀬が可哀想でならない。その場に杉なんとかがいなかったことを願うよ。


「この前は楽しかったね萌!」


「え?」


「え?って、早希とハンバーガー食べたじゃん!もう忘れた?」


「あ…わ、忘れてないよ。楽しかったよね」


「うん楽しかったぁ!あぁそうそう、あかねも呼ぼうかって思ったんだけどね」


「えぇあたし?!」


高瀬の言葉を聞いて、急にオドオドし始めたと思ったらあかねがこっちをチラ見してきた。フッそうか、キミは出来るならば逃げたことをなかったことにしたくて、それで俺を空気に変えていたのか。しかし高瀬という強大な人物がそれを許すと思うか?


あかねは勇樹が萌に告白したということを決して俺に言わなかった、でも態度でわかった。それで勝手な解釈して推理した俺が萌に言っちゃったんだけどね。

だけど萌は「あんた太郎に何か言った?」みたいなことは言ってないようですね。普通に会話してるし。


高瀬は高瀬で知ってるんだかなんだか。高瀬ならいの一番に「ねぇねぇ一条!萌ったら佐野に告られちゃった!」って言ってきそうだけど。キャロット先輩についてしか言ってこなかったからな。まぁ彼女は彼女で考えがあると思いますが……やっぱり女性の思考は理解不能ですな。


「あの、一条君?」


「え?あ……」


透視能力を少しでも発動して高瀬の思考を読み取ろうと一郎から手を放したとき、可愛い声が俺を呼んだ。これは、やはり振り向かなくてもわかるほどに可愛らしいお声にございますね。キミの変声期はいつか聞きたい。


「ちょっと、いいかな?」


「あ、あぁいいよ」


こんな時に「王子ぃ!会いたかったわ!」なんてこと言って抱きついたりしたらマズイよな。今日の勇樹、なんだか深刻な顔してるし。それに全然萌の方へ視線を移そうとしない。やっぱり気まずいんだろうか。

ティッシュをあかねから受け取り鼻をかむ一郎の背中を叩いた俺は、ふと無意識に萌を見てしまった。が、彼女はこっちを見ないでナゼか一郎をガン見している。ダメだよ萌、そんなに見つめたら一郎が勘違いを起こしちゃうよ!


「いでっ!」


「俺の萌ちゃぁぁぁん!会いたかったぁぁ!」


教室から出ようとドアを開けた瞬間、突進してきた晃に吹っ飛ばされた。勇樹じゃなくて俺が先に出て良かったよ。もし勇樹だったら「いでっ」じゃ済まなかった。「ぎゃあ!」って遠くまで飛んで行くところだったよ。


「俺の萌ちゃぁぁあん!めちゃくちゃ会いたかったよ!え?!萌ちゃんも会いたかったって?!」


言ってねぇよ!

なぜか「萌ちゃぁあん!」を連呼する晃は吹っ飛ばされた俺なんかお構いなしに教室内へ飛び込んでいく。


そうだ、コイツにも言わなくちゃいけないんだよな……その前に俺が萌のふぁ…の相手ってことまだ言ってなかったよそういえば。うまいこと忘れててくれたらサイコーなんだけど。そんなウマイ話はないですよね。


萌にへばりつく晃を見つめながらも、まずは勇樹との密会が先だ。

困った、というか腹が立っている萌の表情を確認した俺は、何か言われる前にと勇樹の腕を掴んで教室を飛び出した。





「ゴメンね、話してる時に呼んじゃって」


「あ、いや大丈夫。大したことは話してなかったし」


「ならいいんだ…」


朝は全くと言っていいほど人気のない化学室の前まで来た俺は、勇樹に何を言われるか予測出来た。


勇樹は、きっと萌に告白をしたと言ってくるはずだ。告白するって俺に宣言してたくらいだ、律儀に報告してくれるんだろう。


「あのね…実は僕、秋月さんに告白したんだ」


「え?そ、そうなんだ」


ちょっ、そこで上目遣いヤメて!不謹慎だけど抱き締めたくなるから!可愛すぎてどうにも止まらなくなるから!


「一条君、知ってた?」


「え?」


ここはウソでも知らなかったって言った方がいいか?……でも勇樹にウソはつきたくないなぁ。

え、いや、おや…と動揺バレバレでいる俺に勇樹は小さく息を吐き、大きく息を吸い込んだ。


「秋月さん、やっぱり一条君のこと好きみたいだね」


「え?」


知ってるって、そっちのこと?

目が点になる俺に勇樹は力なく微笑むと同時に、ギュッと拳を握ったのがわかった。


もしかして、俺を殴りたいと思ってる?…まさか、先週のこと知ってる?


「勇…」

「僕、諦めないとか言っておきながら諦めざるを得なくなっちゃった。…だから、僕に気兼ねなんてしないでね」


「勇樹…?」


そう言ってまた微笑んだ彼は、素早く俺に頭を下げる。


「ゴメン、先週…見ちゃったんだ」


「み、見た?」


「先週の金曜日、一条君達と別れてバスに乗ったはいいけど途中で降りたんだ。フラれちゃったけど、秋月さんにこれからも友達でいてくださいって言おうと思って。それで公園まで行った時…」


そうか、知ってたんだ。知ってて勇樹は俺のことを想って気兼ねするなって言ったのか。バレたくないとか考えて、俺はアホか。


「ゴメン勇樹!お前の気持ち知ってたのに!」


「あっいや、いいんだ。僕だって秋月さんの気持ち知ってたのに告白したんだから。だから頭上げて」


ね?と細い指が俺の肩に触れる。ダメだ、もう我慢できねぇ!


「勇樹ぃぃ!」


「うわっ!」


こんな時に不謹慎過ぎるけど、俺は勇樹を思いっ切り抱き締めた。コイツ、コイツはなんて奴だ!俺なんかの為に!


「だ、大丈夫?イタタ!」


あまりにも強く抱き締めてしまったため、勇樹が悲痛な叫び声を上げる。

こんなヤツどこを探してもいねぇよ!俺なんかを心配してくれるなんてぇ!


「俺が女だったら一生お前を放さない!」


「あ、ありがとう…」


嫌がる素振りなんて見せず、勇樹は微妙な顔で笑顔を見せてくれる。


だけど。


そんな勇樹の寂しそうな顔を見て、このままでいいのかと思った。

勇樹は俺に気兼ねするなって言ってくれたけど、結局のところ俺は勇樹を傷つけたんだ。そんな俺が平然と萌と一緒にいてもいいのか?それはあまりにも理不尽過ぎないか?勇樹がいいならって、それに甘えるのか?


それからその事を考えつつも、勇樹にお嬢様抱っこを繰り出して教室へと戻った。




「俺を差し置いて2人で何コソコソ話してたんだよ!俺も混ぜろよ!」


「るっせ!ってか何でまだ泣いてんだよ!」


「な、泣いてなんかないモン!」


「気持ち悪い言い方すんな!」


教室へ入った瞬間に一郎が飛んで来た、そしてこのやり取り。お前はずっと泣き通しだったのか?あかねは慰めてくれなかったのか?


(ゴメン、ギブだった)


あ、やっぱりそうだったの?ってか俺もギブだよ。


ふと周りを見回してみると、晃の姿は既になかった。きっと萌に文句の一つや二つ……三つ四つ言われて肩を落として帰ったと考えるのが妥当だな。アイツも懲りずにやるね。


お疲れ、とあかねとアイコンタクトで会話を済ませた俺は一郎の頭を引っ掴んで席に座らせようと歩き出す。それに気がついた勇樹が俺の背中を1回だけポンと叩き、それに対して振り返った俺に小さく微笑むと席へと戻って行った。


やっぱり、このままじゃいけないよな。


痛がる一郎をムリヤリ座らせて自分も席に着くと、萌がこっちを見ているのがわかった。けど、気がつかないフリをして窓に視線を移してしまった。

ここで萌と何やかんやと楽しそうに喋ったら、勇樹に申し訳ない。そう勝手に思った。萌にも申し訳なかったけど、俺の小さいオツムじゃそれしか思いつかなかった。





それから俺は伊藤先生がやって来るまで萌のガン見に耐えた。あかね達と楽しく会話してるのにこっち見なくてもいいのに。ってか一郎、何でお前まで俺をガン見してんだよ。まばたきくらいしろよ!充血始まってるって!


「ぐわっ!目、目が!」


「まばたきしないからだっつーに!アホか!」


もうマジでうるせっ!もうその坊主頭をブッ叩いてもよろしいか?!それかエルボーでアゴ先狙ってもいいか?

やんややんや暴れ出す一郎にゲンコツでもエルボーでもなく、ビンタを喰らわせていると今の俺にとっての救世主、伊藤先生が現れた。


必死で目の乾燥を訴える一郎にスマイルを提供した先生は、何事もなかったのようにホームルームを始める。ってか先生、スマイルで何もかも解決できると思っていらっしゃいますか?


「あれ?………メール?」


ホームルームが始まってくれたお陰で萌のガン見がやっと終わり、一息ついた俺はいつの間にか来ていたメールに気がつく。


『朝からメールなんてしてゴメンね!実はちょっと話があって。学校が終わってから会えないかな?』


さ、さ、早希ちゃんからのメールだぁぁぁぁ!やべっどうしよ、仮にも俺は萌という女性に告白というものをしている身分なのに!


「…っきぇ!」


いつからガン見を再開してんだ萌ぇ!ビビって変な声出しちゃったじゃんかよ!


「あの…何かご用ですか?」


「別に、窓の外見てただけ」


ウソつくなっての。めちゃくちゃ俺と目が合ってんじゃん、絶対に俺を見てたんじゃん。

窓を見てると言いつつこっちに冷たい視線を投げかけてくる萌に、思わずケータイを後ろに隠した俺は慌てふためいて伊藤先生こっち見てる!とウソの証言をした。


「ウソつくな」


「え?なんでウソってわかるの?」


「うるさい」


てめっ!





「え〜、それじゃあホームルームを終わりますね」


全くこっちを見ていなかった伊藤先生によるホームルームが幕を下ろした。


早希ちゃんからのメール、何て返信したらいいものか。勢いに任せて言ったことでも、告白した3日後に別の憧れていた少女に呼び出し喰らってランラン気分で行くってどうよ。萌への裏切り行為に値しませんかね。


「っはぁぁぁぁ…」


もし行くとするならやっぱり萌に承諾を得た方がいいのかな。でも別に俺達って恋人になったわけでもないしなぁ。ってか何で行くこと前提で考えてんだよ俺は!


「太郎」


「っはぁぁぁぁ…」


「バカ太郎」


「…はい?」


自分でバカって認めちゃったのも知らないで返事をした俺は、立ち上がっている萌の顔を見上げる。

すいませんが見下ろさないでください、そして見下さないでください。


「行かないの」


「え?ど、どこへ?」


あんたどんだけ目が良いんだよ!ケータイの字なんて小さいのによくそこから見えたね!


「…視聴覚室」


「え?」


違う高校なのに視聴覚室で早希ちゃんは待ってるの?学校抜け出して俺の為に来てくれたわけ?


「太郎!視聴きゃく……覚室まで競争しようぜぇ!」


俺を見下し……見下ろしている萌に疑問の眼差しを送っていると、気合いの入った一郎がカミながらもそう叫んだ。


「何で?」


「あぁ?今校内放送入ったろ!映画見るんだよ!」


校内放送?映画……聞いてなかった。


「あ、あ〜視聴きゃく……覚室ね!行こう行こう!」


一郎と同じ所をカンでしまったが、ケータイをポケットにねじ込んだ俺は笑って誤魔化し立ち上がった。

やっべぇ、色々考えすぎて校内放送すら聞こえてなかった。それにしても萌がわざわざ俺に「行かないの?」なんて言ってくるとはね。いつもなら俺なんて無視して勝手に教室を出て行くクセに。


顔を引きつらせながらもフハハハと高笑いを披露した俺は、チラリと勇樹の方へ視線を向けた。

うっ、勇樹が寂しそうな微笑みを見せている。………。


「さ、さぁ行こうか一郎さんや!」


「おぉ!どっちが早く視聴きゃ…覚室へ行けるか勝負だ!」


またも一郎がカンだことに対してツッコむ元気もなく、俺は勇樹と萌に見守られながら一郎と共に教室を出た。





映画は当たり前だけど外国映画でした、しかも字幕ナシ。だから何を言っているのか全然わかりませんでした。聞き取れた単語といえば『ソーリー!』『アイキャント!』。自慢にもなりません。


好きな場所に座っていいとの事だったので、俺は一郎と一番後ろに陣取り、萌はあかねや高瀬と真ん中くらいの席へ。勇樹は…一番前だった。


始まった途端に爆睡している一郎を横目に、ふと早希ちゃんのメールを思い出してみる。

『おはよ〜!』の件名……いや、文章に問題はないんだけど。なんで、なんでおはよ〜の後にハートマークがついてた?早希ちゃんは俺を混乱に陥れようとしているのか?あぁもう考えても答えなんてわかりませぇん!


ミス西岡にバレないよう、誰にも言えない秘密を抱えた俺は静かに頭を掻きむしりました。でも、萌にはバレました。そして思い切り睨まれました。













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