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第10話 修羅場なんか見たくない

萌は教室の入口で、高瀬は俺の横で動かなくなっていた。2人は睨んでいるというわけではなく、ただ見つめ合っている。それを俺は心臓爆発ドキドキで見てる。

重いよこの雰囲気!ふと見てみると、誰一人として会話を楽しんでるやつがいない。こんな静かなクラスだったっけ?


「てゃうぉぉ!」


うわ、最悪のタイミングで一郎の奴、俺の名前の進化系を叫んでやがる。

この雰囲気で一郎のアホな叫び、さ、最悪だ!


俺はまばたきも忘れて2人を交互に見ている、が2人とも動かないし、口も開かない。

マジで嫌な雰囲気だよこれ。

ここは俺が一発ギャグでもかましてやりますか?……絶対に笑えないけど。


「も、萌?」


俺にさっきまで馬乗りになり殴ろうとしていたあかねが口を開いた。ってあなた、先程の勢いはどうなさったの?

いつものお前なら「萌ぇぇぇ!」って叫ぶよね?がんばってよあかね!


(た、太郎!ヘルプ!)


あかねがギブアップしたのか、俺にアイコンタクトをとってきた。ってそんな目で見られても困るんですけど?

俺だって何て言っていいかわかんないし。


(お前、さっき俺をひどい奴呼ばわりしたじゃんか!)


俺もアイコンタクトを返す、ヒネくれてやるわよ!


(わ、悪かった!さっきは言い過ぎた!ごめん!謝るからヘルプ!)


あかねぇ、お前ってホントに正直者だよね。みんながみんなお前みたいなやつだったら、ケンカなんて絶対に起こらないよ。

心の広い俺はあかねを許した、までは良かった。で、でも何をどうしたらいいのか全くわからねぇ!


まだ萌と高瀬は戦闘体勢には入ってはいない、冷戦状態。何かするなら今しかないんだけど、言葉が見つかりませぇん!あかねさん、やっぱり俺には荷が重すぎます!


(ゆ、勇樹ぃ!)


俺は隣りにいる勇樹にまたもやアイコンタクトで助けを求める。俺は口下手だし、何か言ったら絶対に戦いを煽るような事になりかねねぇ!


頭の中でああでもないこうでもないと言葉を探していると、天使降臨…帰れぇ!お呼びじゃねぇんだよ!


(萌にこう言ってやるがいいさ!あれ?お前、高瀬の元カレは?と聞いてみるがいい!そして醜い女の争いに巻き込まれるがいいさ!)


誰もお前の意見なんて聞いてねぇんだよ!勝手に喋ってんじゃねぇ!悪魔ぁ!めんどクセェからお前も出てくんなよなぁ!


(…)


マジで出て来ねぇのかよ?諦めモードか!そんなんじゃ悪魔なんて務まらないんじゃないのぉ?

ちょっとは気の利いた事ひとつでも言ってみろやぁ!


「あ、あの…」


ゆ、勇樹!よくぞ口火を切った!その調子でブチかませぇ!俺は陰ながら応援をさせていただくわ。

俺とあかねは天に祈るような気持ちで勇樹を見守った。あかね、あんた意外に臆病者なのね?


「あ、いや…」


何か言えぇ!萌も高瀬もお前に注目してんじゃねぇか!今しか、今しかねぇんだよ!

自分の気持ちに素直になってくれぇ!


「ちょぅろぉぉ!」


長老って俺か?俺の事なのか!?ってマジであいつうるっせぇ!黙って戻って来いやぁ!


「…萌、ちょっといい?」


クラス全員が冷や汗を掻いていると、高瀬が口を開いた。

ちょっといい?って「ちょっと殴らせてくれない?」って事じゃないよね、絶対に。


「…わかった」


そういえば元々こいつら仲がいいんだよな。ふと見ると、あかねがめちゃくちゃ困った顔してる。そりゃそうだ、あかねはどっちととも仲がいいんだから。どっちかにつくなんて出来ないよねぇ。


(あかねぇ!お前も行った方がよろしくない?)


2人にしたらどうなるか、想像がつかん!もしかしたら友情にヒビが入るどころか、血の雨が降るかもしれない!

俺はあかねに充血しそうな目で訴えた。


(あた、あたしかよ?!)


って目で訴えるあかね。俺だってムリだからぁ!


俺達が目だけでそんな会話をしていると、萌と高瀬が教室から出て行こうと歩き出した。

やばい!けど声が出ない!いけあかねぇ!


(ムリぃ!)


諦めんなぁ!がんばれぇ!俺はムリだけど。

そんな事をしてる間にも2人は無言のまま歩みを進める。俺達はあたふたしてるしかねぇのかぁ!


「いでぇ!」


萌がドアを開けた瞬間、一郎の声が響いた。見ると萌が尻もちをついている。

一郎、あんたマジでタイミング悪すぎだわ。


「あだだだ…あっ秋月?」


萌と同じようにコケていた一郎が尻をさすりながら立ち上がった。に、逃げて一郎さぁん!今変な事言ったらあなた保健室行き決定よぉ!


「朝のホームルーム始まっちゃうのにどこ行くんだ?」


空気読めぇ!ホームルームとか、それどころじゃないのよ今は!ちょ、ちょっと!早く!早くその場を離れて!俺に萌を止めることはできないからね!


「萌、大丈夫?」


「あ、うん」


高瀬はコケたままの萌に手を貸し、立たせてあげた。あれ?普通、自分の彼氏を奪いそうな人に手を差し伸べるかしら?

俺が高瀬の立場なら絶対に手なんて貸さないし、「早く立ってよ!」って言いそうなんだけど。

もしかしたら高瀬って、めちゃくちゃいい奴?男が惚れるのもムリないってこと?


俺があーだこーだ考えている間に、萌と高瀬は教室の外へと出て行ってしまった。

やっべ、このまま2人にさせて本当にいいのかい、あかねぇ!

……俺って、他人任せ?


「ちょ、たろぉぉぉい!」


場の空気がまったく読めない一郎が俺めがけて走ってくる。なんだよその内股走りは、内股の人をナメてんだろお前。


「お前、ちょっとは空気読めぇ!」


走り寄って来た一郎に俺はラリアットを喰らわした。一郎は言葉を発することもできず、その場に倒れた。

一郎お前さ、俺がラリアットの構えしてるのに、なんで速度を緩めないで走ってくるんだよ。しかも自分から突っ込んできたし。ボケたいのならどっか一人でやってください!


「た、太郎!大丈夫かなあの二人…」


心配が頂点に達しそうなあかねが俺にそう質問してきた。

大丈夫か大丈夫じゃないかと聞かれたら、「大丈夫じゃないでしょう」と言いたい。でも、言えない。そんなことを言ったらあかねは絶対に猛ダッシュであの二人を追いかけるでしょ?

女の子だし、殴り合いには発展しないと、思う……というか思いたい。


「だ、大丈夫だと、思うよぉ」


自信なんて全然ないし、俺だってわからん!でもさ、やっぱりこれは二人の問題であって…違うか。問題はあいつらじゃない。


「あかねぇ、高瀬の元カレって、一年なんだよね?」


「え?あ、うん。何組かはわかんないけど、一年生だってこの前恭子言ってた」


何組かはわからないか、あれ?そういえば、直秀の友達って言ってたよなってことは同じクラスか?直秀はたしか…何組だったか覚えてねぇ!そのくらい記憶しててよ俺ぇ!


「一郎!」


倒れたままだった一郎は俺の突然の大声に驚いたのか、背筋を伸ばして立ち上がった。なんかちょっといい気分ですよ、ってそれどころじゃないっての!


「ホームルーム欠席しますって、伊藤先生に報告しておいてぇ!それとあかねをよろしくぅ!」


一瞬、は?というような顔で俺を見たけど、一郎は「承知しましたぁ!」と敬礼を見せた。頼むよ一郎さん!


「ちょ、どこ行く気?」


ダッシュで教室を出ようとしたとき、あかねが俺の腕を掴んだ。こ、こいつ、やっぱり力がハンパじゃねぇ!でも、離してぇ!


「あかねぇ!離してぇ!」


「どこ行くか聞いてからだ!」


「ととと、トイレぇ!我慢してるのぉ!」


絶対に疑ってるねその目は。ダメよ!あなたがついてきたら絶対に修羅場になるから!私、修羅場など見たくないの!


「トイレぇ?あんた、昨日もそんなこと言ってなかった?萌を保健室に連れて行った時だって…」

「年のせいか、近くなったのぉ!だから離してぇ!」


急かすようにそう叫んだ俺は、腕を掴むあかねの手を手刀で切り離すと同時に、教室を猛ダッシュで後にした。

…あかね、キミは絶対についてくるなよ。お前が来たら話し合いで済むことも済まなくなるからね。


俺がチラリと教室に目を向けると、あかねの大声と一郎の叫び声が聞こえてくる。一郎!あかねを離しちゃダメよ!お願いねぇ!


階段を二段飛ばしで駆け下りる。たしか一年の教室は一階にあるはずだ。直秀のクラスは…行けばわかるよね!


(お前が行って何になるっていうの?それより今はあの2人を追いかけるのが先ではないの?)


え?今、誰が喋ったの?て、天使?あんた、改心したんだね!俺はとても嬉しいよ!

天使の言うことも確かに一理あるけど、あの2人は絶対に悪くないでしょ?悪いのは真さんと、そして名前も知らない一年だよ!

あいつが高瀬を泣かせて萌を困らせてるのは確実でしょ?……まぁ真さんが絶対に悪玉だとは思うけどさ。



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