ようやく私にもモテ期が!……やって来たと思ったんだけどなぁ
最初に一言。
私は乙女ゲーは携帯ゲームでしかやったことありません(笑)
全て聞き齧っただけで適当に単語とか用いているので間違えがあるかも
「俺は、杏子さんが好きです!」
佇む私の目の前には頬をうっすら赤く染めた、学校で一二を争う位カッコイイと言われている月縞涼太の姿があった。
彼と言う人間を表すと、容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能でさらには性格も良い上に家は金持ちと言うまぁ、世間的に言うとイケメン、好物件と呼ばれる部類の人間だ。
放課後の、校舎裏でそのイケメンから告白される。
全国の乙女にとっては垂涎するようなシチュエーションだろう。
『はい、喜んで!』とか言う場面だ。
だが今現在私は、目の前で照れくさそうに笑っているイケメンに冷たい視線を送っている。
理由?私は彼に興味が無いからだ。
まぁ、一番の理由はそれでは無いのだが。
「それで?だからどうしたと言うのですか?貴方が誰を好きであろうと私には全く関係ないのですが」
抑揚の無い声で返答した私に若干たじろいだ月縞だが、直ぐに気を取り直したように話を続ける。
「関係ないわけじゃない。
さっきも言った通り俺は杏子さんが好きだ!
だから、協力してくれ(・・・・・・)!」
とまぁ、ここで察しのいい人は事情が分かったかもしれない。
あぁ、自己紹介がまだだった。
初めまして、私の名前は佐渡尚。
決して私の名前は杏子ではない。
杏子は私の幼馴染みの名前だ。
お分かり頂けただろうか?
そう、つまり目の前のイケメンは自分の好きな人に近付く為に協力しろと言ってきているのだ。
放課後の、校舎裏と言う場所へ下駄箱に入れた手紙で呼び出してまで言う内容がそれ?
ふざけんじゃない!!
って普通の乙女の皆さんがたは思うだろうが私は違う。
内心、『あー面倒くさ』と言う気持ちで一杯だ。
さて、ここで突然だが私の幼馴染み、花園杏子について説明しよう。
私の幼馴染みは、ふわふわとした腰までの長さのある茶色の髪、整った眉、長い、睫毛の下にある瞳は大きくいつも潤んでいる。
そしてその下の鼻や唇は小ぶりで、唇は可愛いピンク色で常にプルプル。
花も恥じらうような………とまぁ続けてみたが要するにめっちゃ可愛い。
身長も低いので、下から見上げる様に人を見るのだがそれが上目遣いで更に小首を傾げたりするから破壊力は抜群だ。
それで可愛いらしい声でおねだりなんかされたら何でもしてあげたくなる。
それに、見た目で威張る訳でも無く常に人を思いやり、困った人を放っておけず、正義感が強く、芯が強い。
その上さらに頭も良い。
と中身もパーフェクツ。
運動の方はからっきしだが、それはご愛嬌として親しみを持てる。
こんな、可愛くて可憐で完璧な女の子を世の男どもが放っておくと思うか?
答えは否だ。
彼女に近付こうとあの手この手を使ってくる。
クエスチョン、好きな人に近付くのに最も近付きやすい方法は?
アンサー、その人の友人に協力してもらう。
つまり、私は今まで様々な男どもに杏子に近付く為の踏み台として扱われてきたのだ。
もちろん、全員が全員ではなく自分の力で振り向いて貰おうとする人もいるが大抵その人物はストーカー予備軍と成り下がるので世の中ろくでもない人間が多いと中学のころには一時期軽い人間不信に陥りかけた。
お陰で人を見極めるスキルレベルはガンガン上がり、今では友人たちに『彼が好きなんだけど、どう思う?』的な相談をしょっちゅう受けるようになった。
ちなみに今のところ百発百中だと好評である。
将来の職業に仲人なんて良いかもしれない。
まぁ、冗談だけど。
可愛い幼馴染みをそんな風に人を利用するような男にやるか。
そんな感じで男を見定めて追い払っていたら、いつの間にか私は『杏子さんと仲良くなるための登竜門』とか言われる様になった。
まぁ、私ごときを越えられない奴に杏子を近付けさせる気はさらさら無いのでその呼び名は甘んじて受けよう。
クエスチョン、こんな可愛くて完璧な女の子がこの現実世界に存在するのか?
アンサー、存在しない。
何故かって?
ここがとある乙女ゲームの世界だからだ。
『学園彼氏』通称学カレと言われる一週間の曜日をモチーフにしたイケメンが登場する乙女ゲームの世界にどうやら私は転生したらしい。
頭可笑しい?
私もそう思う。
実際、病院に行ったが金を溝に捨てたようなものだった。
高校入試時
『絶対一緒にこの高校に通おうね!』
何て可愛い杏子がこれまた可愛い事を言って校門で振り返った時にカチリッとした音と共に様々な映像が私の脳内に溢れ出てきた。
膨大な情報量に私の頭は容量限界し、卒倒した。
医務室に運ばれ、そこで試験を受ける事になったのだが正直試験どころでは無かった。
だが、可愛い幼馴染みの為に意識が朦朧とする中私は死ぬもの狂いで頑張った。
結果、見事合格。
しかも入学生代表となった。
あれか、逆になにも考えずにやったのが良かったのか?
何はともあれ結果オーライで新入生代表の挨拶をする事になった私は内心首を傾げた。
私の記憶では新入生代表は攻略キャラの一人である水瀬香という男が努めていた。
それが私に変わってしまったのだがこれは一体どういうことなんだろうか。
考えたが特に思い付かなかったので放置。
それよりも私は大事な大事な可愛い可愛い幼なじみの将来の恋人になるやもしれない人物を見極めると言う重大任務があるのだ、多少の違いに構っている暇などない。
高校に入学した杏子は瞬く間に新入生1可愛い女子と言う評価を手にいれた。
そうだろうそうだろう、杏子は可愛いだろう。
だが、やっぱり心配していた通り悪い虫が寄り付く様になった。
中には盗聴機を仕掛けようとしたり、杏子の私物を盗もうとしたりとストーキングに及ぶ愚か者もいたのできっちりしめておいた。
昔から害虫駆除は得意だ。
基本にこやかに、時に無表情で脅し、いやいや説得したら大概は大人しくなってくれるので簡単だしな。
害虫駆除と平行にイベントもしっかり発生させる。
私的には図書委員長の木戸直哉君が内外共に男前なのでオススメなのだがやっぱり杏子の好きになった人と結ばれて欲しいので無理強いは出来ない。
イベントは発生させても間違っても逆ハーにはならないように気をつけている。
このゲーム、逆ハーエンドがあるにはあるのだがその場合主人公がヤンデレと化した攻略キャラたちに惨殺されると言う結末が待っているので絶対に避けなければいけない。
このエンドはクレームが殺到したらしいが製作者曰く『一人の女を複数の男が平等に愛せるわけねぇだろう、絶対直ぐに亀裂が生じる。夢見すぎ』とのコメント。
激怒したプレイヤーたちの非難の嵐は凄まじく、ネットで叩かれまくったがそれが逆に話題を呼び、ハードバージョンも出たのだから笑い話だ。
まぁ、それは良いとして話は冒頭に戻るが私は月縞に協力する気は一切ない。
男なら他人の力を借りずに自分の力で惚れた女を振り向かせてみろってんだ。
「話は以上ですか?でしたら終わりですね、私は用事があるので失礼します」
一応先輩なので形だけお辞儀をしてその場を後にする。
「っておい!ちょっと待てよ!」
背後で何か叫んでいるが気にしない。
さっきも言った通り用事があるのだ。
走って追いかけてくる足音が聞こえたので競歩の要領で歩くスピードを早めて校内に入り、一階の女子トイレへと急ぐ。
捕まる前に女子トイレに逃げ込む事が出来た。
ドアの陰から気配を伺うと少し離れた所で待機しているのが分かった。
ふん、いつまでもそうしていると良い。
ドアに向かってべーと舌を出してから私は窓から女子トイレを脱出した。
向かう先は屋上だ。
「好きなんです!」
佇む私の目の前には頬をうっすら赤く染め、瞳を潤ませた、抱きしめたい位可愛いと御姉様方に言われている金野憐の姿があった。
彼と言う人間を表すと、金髪碧眼、純情可憐、超絶可愛く動作が小動物じみていることから愛玩動物との異名を持つ(本人は知らない)。
人気ピアニストの父と有名バイオニストの母を持つ家は金持ち。
世間的に言うと男の娘と呼ばれる部類の人間だ(本人は知らない)。
放課後の、屋上でその男の娘から告白される。
全国の男にとっては萌えるようなシチュエーションだろう。
『はい、喜んで!』とか言う場面だ。
だが今現在私は、目の前で照れくさそうに笑っている彼に無感動な視線を送っている。
理由?私は彼に興味が無いからだ。
まぁ、やっぱり一番の理由はそれでは無いのだが。
「それで?だからどうしたと言うのですか?貴方が誰を好きであろうと私には全く関係ないのですが」
無表情で抑揚の無い声で返答した私に若干怯えた金野君だが、勇気を振り絞ったかのように真っ赤になりながら言った。
「関係ないわけじゃない。
今言った通りぼ、僕は杏子さんが好きなんだ!
だから、協力して下さい(・・・・・・・)!」
「お断りします」
コンマ一秒も掛からずにばっさり切って捨てた。
かなりのデジャブを感じるこの光景、実は本日六回目である。
先ほどの月縞は五回目、今が六回目だ。
前世の記憶が有ろうとも一応私も年頃の娘だし、最初はイケメンからの呼び出しにときめいたり『私にもついにモテ期が!?』とか思わないでもなかったが蓋を開けたらこれなんだから世の中って世知辛い。
そんな思いをしたんだからもういっそのこと無視して帰ろうかと何度思ったことか。
それで後日人目のあるところで『何で来なかった!』とか嫌だしやっぱ行くしかないのか?と結局全員に会うことになりましたが?
私って優しいなぁと自画自賛して慰めてみるが余計に虚しくなったのは内緒だ。
ちなみにこの後は私と杏子の幼馴染みであり攻略キャラの土谷恒太の相談に乗る予定である。
だから私に頼るなと何度言えばわかるのだろうか。
それにしても隠しキャラの日比谷君からも呼び出しを受けるとは驚いた。
彼はゲーム内では細かいルートや質問などがあり、一度間違えたら即攻略不能状態になるというかなりの難易度を誇っていたキャラだ。
流石ヒロインと言いたいところだが杏子はいつの間に彼を攻略したのだろうか?
私は非常に気になります。
軽い現実逃避をしていた私は腕を取られ我にかえった。
「そこを何とか!お願いします!お願いします!お願いします!!」
「ええいっ!すがり付くな男らしくないぞ!」
そう言うとピシリッと音を立てて固まる。
彼は自分の女の様な見た目や軟弱なところを気にしており、男らしくいようと常に心がけている。
そのため男らしいと言う言葉に弱いのだ。
まぁ、あれだよね。
こう言っちゃあ何だけその悩みってテンプレだよね。
閑話休題。
話を戻そう。
私はここぞとばかりに畳み掛けた。
「大体、人に協力してもらって好きな人に振り向いて貰おうって考えが男らしくない。どうやって振り向かせるかを考えるのも恋愛の醍醐味じゃないのか?
自分の行動にその子が喜んでくれたか、嫌がらせてしまったとかで一喜一憂したり、次は何をやってアプローチをかけようと想像したりするのが青春だろう。
男なら自分の力とありのままの自分の魅力で振り向かせてみせろ。
そうしない男に杏子の隣にいる資格は無い!!」
私の言葉に俯いた金野君。
ふむ、度重なる呼び出しにちょっと苛ついていたようだ。
ちょっと言い過ぎてしまった気がする。
俯いて震える金野君に泣かせてしまったかと慌てて声をかける。
「言い過ぎ「ありがとうございます!」へ?」
勢い良く頭を下げられた。
「貴女のお陰で目が醒めました!そうですよね!自分磨きをして振り向かせるのが一番思いが実った時が嬉しいですよね!!」
「あー、うん、そうだな」
彼が自分磨きと言ったら何故か可愛さの追究と脳内で勝手に変換されるよな。
ゴスロリとか似合いそう。
「ご指南、ありがとうございます師匠!!!」
「…………師匠?」
「それじゃあ、早速筋トレに行ってきます!何かあったらまたよろしくおねがいしますね!」
「いや、ちょっ」
「失礼します」
私の制止の手は宙を切った。
彼の背は屋上のドアの向こうへと消えた。
彼は将来細マッチョな美青年ピアニストになるのをアフターストーリーで見たので知っている。
今の調子が続けばその未来は確実だろう。
つまり将来優良物件。
「ふむ、意外と彼も良いかもしれんな」
可愛い杏子と可愛い金野君。
これはこれで萌えるしまぁ良いか。
なんだかどっと疲れを覚えたのでさっさと帰ることにした。
もう一人の幼馴染みである土谷恒太の相談は明日に繰り越してさっさと寝ようと私は欠伸を一つ落として屋上を後にした。
とりあえず本日の収穫。
弟子が一人増えました。
佐渡尚による可愛い可愛い幼馴染みの彼氏判定は、まだまだ終わりそうにない。