パン屋にて
習作です。小学生にも読める内容としました。
1.パン屋にて
「今日はパンにしましょう。」という祖母の言葉を聞いて、床に寝転んでクレヨンで絵を描いていたミツコはすぐに起き上った。
「わたしパンだーい好き、メロンパンも買ってね。」
窓を締めながら「お昼ごはんなのだから、甘いパンは買いませんよ。」という祖母に、「えー」と言いながらもクレヨンをしまって、お気に入りのカバンを肩にかける。
幼稚園のバザーで買ってもらったキルトのショルダーバックで、中にはミツコの宝物のオモチャや懐中電灯、外国のコインなどが入っている。
「すぐそこのパン屋さんまでだから、余計なものは持たないの。」
「だって、このまえ街に行ったときには、『街まで行くから持っていったらだめ』といったでしょ。すぐそこだから今日はいいの」と言いながら、玄関に歩く。
祖母もそれ以上言うのはあきらめ、ミツコが靴を履くのを見ながら自分も靴を履きドアを開ける。その脇をくぐるように走っていくミツコに大きな声で注意をし、手をつないでパン屋まで歩いていく。
カラン、カラン。
カウベルの音を鳴らしながら引き戸をあけパン屋に入ると、トレイとトングが脇にあり、その横の棚には、奥に向かって上下二列に色とりどりのパンが並んでいる。
暖かな蒸気に包まれた空気に、酵母とフルーツの甘い香りが鼻をくすぐり、食欲を刺激する。
「お祖母ちゃん、これにパンを取るんだよ。」と言いながらトレイを取って祖母に渡す。
「ああ、ありがとう。」と言いながら、ミツコの差し出すトレイを受け取り、その脇に差してあるトングも引き抜く。
それを見て「あっ、お祖母ちゃん。ありがとう。」と小さな店に響き渡る声でミツコが言う。
その声に顔を向けた店員が、笑みを浮かべて二人を見ている。
「なんで『ありがとう』なの」とミツコに問いかけると、満面の笑みを浮かべて上を向きならが「だって食パンだけなら掴むやついらないでしょ。ビニールに包まれているもの。掴むやつを取ったということは他のパンも買うんだよね。」
それを聞いた祖母と店員は思わず顔を合わせて、どちらからともなく大きく笑う。
「ただいまー」という兄の声を聴くと「お兄ちゃん、今日のおやつはメロンパンだよ。」と言いながら玄関まで走って行った。