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SOAREYE  作者: 新殿 翔
6/25

MEETING


「ああ、入ってくれ」



 開いた扉の向こうから現れたのは、悠希。


 彼女はマリーナと裕真を一瞥して眉間をひそめて口を開いた。



「……なんですか、用事って」

「いやなに、いろいろと気になることがあるだろうと思ってね。教師としては生徒の悩みは解消すべきだろう? だから、少し話をしようじゃないか。座ったらどうだい?」

「……」



 無言で悠希はソファーに腰を下ろす。


 ちろりと、その瞳が裕真を見る。



「ん、どうかしたか?」

「別に。なんでここにいるのかと思っただけよ」

「俺も、どうして無愛想なクラスメイトがここにいるのか知りたいな」

「……」



 その裕真の言葉に、悠希が鋭く目を細めた。



「おいおい、裕真。昨日資料を渡したろう。見てないのか?」



 マリーナが二人の間に割って入る。



「残念ながら今朝見ようと思ってたんですけど、どっかの誰かに邪魔されまして」

「皮肉な奴め……彼女はあれだ、スペーサー――昨日のあのスキル持ちの機体のパイロットだよ」



 間を置いて。



「――はあ!?」



 裕真と悠希が、同時に立ち上がった。



「なに教えてるのよ! 相手はただの学生よ!? しかも、頭の弱そうな。この話が広まったらどうするつもり!?」

「こんないかにもクール気取ってるのがアレのパイロットですって、何の冗談ですか?」

「オマエら、相性抜群だな」



 お互いを指さして言う二人に、マリーナがにやりと笑みを浮かべる。


 二人は互いを睨み合っていた。



「安心しろ。裕真はアタシの関係者だし、月坂は本当にスペーサーのパイロットだよ」

「……なによ。他の生徒の質問には無関係だって言ってたじゃない」

「そんなもん本当のこと言えるわけないだろうが」



 悠希の責めるような言葉に、裕真が軽く嘆息する。



「嘘吐き」

「本当のことだが、お前の言い方はなんかムカつくな」

「はいはい。じゃれるのはそのくらいにしておけよ」



 手を叩いて言い争う二人を宥めて、マリーナがテーブルを指先で撫でる。


 すると、テーブルの上に透明なモニターがそれぞれ一つずつ三人の目の前に浮かび上がる。



「ま、後で正式に説明させると思うが、アタシ達は今日から約一週間、天都の軍と共同することになった」

「共同……?」



 なぜこんな連中と、という顔だった。



「それは名目で、実際にはアタシらの軍事力をそっちに見せつけて、いろいろと融通しやすくする為なんだがね。まあ、もうその段階は昨日の時点で十分に果たせたわけだが……君という最強のシンボルのおかげでね。最強というのは、諸刃の剣だよな。それは勝利し続ければどこまでも士気を上げるが、敗北すればそれに比例する大きなショックの与える」



 あっさりと腹の内を曝して、マリーナはモニターを操作する。


 敗北という一言に、ひっそりと、悠希は拳を握り締めた。


 それを横目で認めつつも、裕真は無言でモニターに視線を戻す。


 悠希のモニターにマリーナが古辺に渡したものと同じ資料が流れる。要求物資の項目だ。



「この辺りは、兵隊……君の場合は傭兵と呼んだ方が適切かな。ともかく、戦う立場の君には関係ないか。とんでもない量の物資をアタシ達が天都に要求しているということだけ理解しておけばいいよ」

「なによ、それ。勝手に襲ってきて……それじゃあ強盗と同じじゃない」

「そう思ってくれていいよ。こちらもね、いろいろと形振り構っていられるほどの余裕はないのさ」



 強盗と呼ばれて表情一つ変えず、むしろどこか楽しそうにそれを認めて、マリーナはモニターを新型ソアレイの項目へと写した。



「けれど、一応は交換条件くらい用意してある。この機体百機と交換、とね」

「これは……」



 研究者ではないが、一見して悠希にもその機体の性能がどれほどのものかはおおよそで理解出来た。



「実のところ、この量産の為にはエデンの物資だけじゃ足りない。無国籍で外部との交流がほとんどない、言わば孤島的なエレアスだから。それで物資をこんな形にでも得なくちゃならないのさ。付け加えて言えば、天都を取引先に選んだ理由は私の古巣だからなのだけれど」



 もしこれが百機も戦場に投入されることがあれば、軍の戦力は今よりもずっと高い戦力を持つことが可能だ。



「昨日の機体って、これ?」

「ディズィのことか? まさか。基本的な部分は共通しているが、いくらなんでも、ディズィと同じ性能を持ったものを量産機にするなんて、アタシでも出来ないよ。それにあれは、そもそも機体性能だけじゃないしね」

「……どういう意味?」



 悠希が疑問を口にすると、マリーナが意味深に笑んだ。



「君は知っているだろう?」

「私が、知っている?」



 少し考えて、悠希は答えを弾き出す。



「スキル、なの?」

「ご明察。これ以上はアタシの口から教えることは出来ないな」

「……別に、教えてもらおうだなんて思ってないわよ」

「強がりめ」



 裕真が揶揄する。



「うるさい」



 悠希は冷淡な言葉を叩きつけた。



「それにしても、どういうつもり?」



 マリーナはどうして悠希にこんな話をするのか。


 彼女達にとって、この情報を悠希に教えるメリットがない。取引の話はもとより、共同の件も必要があれば軍から彼女に連絡があるだろう。スキルのことについては、いずれはバレるかもしれないが、今それを明かす必要なんてないし、それどころか自分達の手札を明かして不利にすらなりかねないのだ。



「それほど深い理由はない。単に、君に興味があったというだけのことなんだよ。次元干渉系のスキルはかなり珍しいからね。アタシが知ってるだけでも君と裕真、それにあともう一人くらいしか存在しない貴重なものだ。研究者として、そういう対象は是非とも観察してみたくなる。話は、その観察の一環さ」



 悠希は、そのマリーナの言葉にひっかかりを覚えた。



「……ちょっと待ちなさい」

「ん、どうかしたかい?」



 マリーナは、なんと言った?


 次元干渉系のスキル持ちに悠希の名をあげた。それはいい。


 だが、同時に裕真の名も並んだのはどういうことだろう?



「こいつって、まさか……」

「こいつとは随分な呼び方だことで」



 言いながら、裕真は卵焼きを口に放り込む。


 いつの間にか、テーブルの上に置いてあった弁当箱の中身が、綺麗になくなっていた。



「そういえば、言ってなかったか?」



 弁当の中身をほとんど食べられなかったマリーナが、悠希と話をしながら弁当箱の蓋を掴んで、それを裕真に投げつけた。


 咄嗟に裕真がそれを回避すると、蓋はそのまま彼の後方、飾られていた花瓶に命中して、それを思いきり粉砕、水や花を地面に巻き散らかした。


 やってしまった、と裕真はその惨状に額に手をあてる。



「彼はね、ディズィのパイロットだよ」

「な、なんですって……!?」

「まあ、これから何回か一緒に戦う機会もあるだろうから挨拶だけはしておくか」



 驚く悠希をどこか小馬鹿にするような態度で、裕真は片手を軽く挙げて言った。



「よろしく頼むぜ、元最強さん?」



 悠希が鋭い目つきで飛び出していった後の応接室。


 どこか満足げにしているマリーナを見て、裕真は軽い溜息をついた。


 悠希のモニターに物資の要求リストや新型ソアレイの設計図が映っている時彼の手元のモニターには、彼女の経歴が映し出されていた。


 に、裕真はモニターで彼女の経歴を見ていたのだ。



「で、どう思う。彼女」

「俺としては、かなり危ないと思いますよ」



 裕真は改めて悠希の経歴に目を通した。



「両親は子供の頃にアニルの襲撃による事故で死亡……復讐ですか」

「戦う理由は、十中八九それだろう。ま、この時勢じゃありきたりな話だよな、アニルへの復讐は」

「でも復讐で戦えば――いつか死にますよ。復讐は、誰をも傷つけますから。敵だけじゃなく」

「そういう奴が死んで行くところを何人も見て来たオマエが言うと、説得力があるよな。彼女もそれに早く気付ければいいんだが……まあ、それはアタシらには関係のない話だけどさ」



 マリーナの発言に、裕真が意外そうな顔をする。



「興味があったんじゃないですか?」

「それで死ぬようなら、興味を抱くほどの価値がなかった、ということだよ」

「なるほど」



 経歴の欄を読み進めると、少し特殊な立ち位置に彼女がいることが分かった。



「軍隊には所属していないけれど、有事の際は依頼を受けて出撃。しかも、そのことを隠して学校に一応は真面目に通っている……物好きというか、なんというか」

「その辺り、後見人への義理を果たす為らしいな。なんとも孝行者じゃないか。アタシも昔は親に義理を果たしてやったものだよ。ふふ、家を出る時にアタッシュケース五つ分の札束を投げつけてやった時には、見事に目が丸くなっていたからな」

「それ、義理を果たしたっていうか、単なる手切れ金じゃないんですか?」


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