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SOAREYE  作者: 新殿 翔
24/25

NOTMIRACLE


「濃度……九十七、だと……?」



 信じられない数値を目の当たりにして、マリーナは咥えていた煙草を落とした。



「しかも、スキルの同時発動……馬鹿な。そんな前例は……いや」



 落ちた煙草を拾って、マリーナは小さく笑んだ。



「流石の私でも、奇跡の説明までは出来ない、か」



 だが敢えて言うのであれば。



「人の想い、とでも言うかね……」



『いけるんじゃない?』

『ああ……そうだな』



 二人は、顔を見合わせて頷きあった。


 その口元には、揃って笑みが浮かぶ。



『行くぞ』

『ええ』



 そして、スペーサーは飛び出した。


 飛来した第四形態、その脇を一瞬で通り過ぎて、スペーサーはビームカノンを瞬時に展開し、粒子砲を撃ちだした。


 第四形態の背後に付き従っていたアニルの多くが雷光に飲みこまれ、蒸発した。


 だが、そこで終わりではない。


 裕真のスキルは時間の引き延ばし。つまり、外界から見た加速だ。


 それはこの場合、ビーム兵器の冷却時間やチャージが通常空間のおよそ三倍の早さで完了するということでもある。


 ビームカノンは、すぐに次射が放たれた。


 下位のアニルが次々に蒸発する中、第四形態は軽々とビームカノンの放射を回避する。


 九匹の第四形態。その内の一匹の背後に、スペーサーが転位する。


 第四形態がそれに反応するより圧倒的に速く、スペーサーの槍がその体を突き刺した。


 いくら硬い外殻があろうとも、目で見えぬ程の速度で突き出された槍はそれを貫通してみせる。


 スペーサーは、第四形態を貫いたままの槍を背後に向け、槍の先端を展開させると、ビームカノンを放つ。


 スペーサーの背後に迫っていた二匹の第四形態が身体を半分以上吹き飛ばされて絶命した。


 横からの攻撃を察知して、スペーサーは槍を一旦手放すと機体を翻した。銀の装甲を第四形態の腕が掠めていった。


 転位で腕を振るった第四形態の背後に現れ、スペーサーはブレードを抜き放つ。


 銀の閃光が、外殻ごと第四形態の首を切断した。


 普通ならば通用しない斬撃も、三倍に加速された今ならばその勢いを刃にのせることで第四形態を切り裂くことを可能とする。



『まったく、反則よね、このスキル……』

『無駄口を叩いている暇があるのか。後ろだ』



 裕真の指示に、スペーサーはブレードを振り向き様に投擲した。


 神速で撃ち出されたブレードが、背後の第四形態の胸に突き刺さる。が、浅い。致命傷ではない。


 その第四形態の前にスペーサーが転位、ブレードの柄尻に掌を叩き込む。衝撃で、ブレードが根元まで第四形態に埋まった。


 これで五匹始末した。


 スペーサーが肘を引く。


 肘から伸びるブレードが、背後で腕を振り上げていた第四形態の顔面を貫いた。


 六匹目。


 異常な殲滅速度。


 残りの第四形態が僅かに怯むが、しかしすぐにスペーサーに飛びかかって来る。


 左手でブレードを抜いて、スペーサーはそれを掲げて第四形態の攻撃を弾いていく。


 だがブレードは続けざまに与えられる衝撃に強度が足りず、すぐに刀身が真ん中から圧し折れてしまう。そのまま第四形態の爪がスペーサーの左肘を砕いた。



『っ……!』



 スペーサーが右腕を振り上げて、その第四形態の複眼に尖った指を突き入れた。第四形態の叫び声があがる。


 そのまま指を引っかけて、スペーサーは第四形態の頭を引いた。合わせて膝を振り上げる。


 膝のブレードが第四形態の頭部を縦に裂いた。


 その第四形態の死骸を支点にするように、スペーサーが大きく回転した。


 残った二匹の第四形態が挟み打つようにスペーサーに攻撃を仕掛けたものの、それは支点にされた死骸の臓腑を抉るだけ。


 その片方の第四形態の肩口から反対側の足の付け根まで、スペーサーの脚部ブレードが引き裂いた。



『あと一匹……っ!』



 不意に第四形態の腕が振るわれ、左脚がもがれる。


 すぐさまスペーサーは体勢を直す。


 そこに最後の第四形態が猛攻を仕掛けてきた。


 上、下、左、右。縦横無尽に振るわれる腕を、スペーサーは転位を駆使して回避する。



『っ、こいつ……』

『自棄になってるな』



 攻撃する隙がない。


 悠希は一旦第四形態から距離を大きく取る。



『……まったく、面倒だな』

『戦ってるのは私でしょうが。なに言ってるのよ』

『ちゃんと力を貸してやってるだろう?』

『む……』



 確かに、この戦闘はかなりの部分で裕真のスキルに助けられていた。



『まあ、感謝はしてるわよ。天都の為にここまでしてくれて』

『天都とかエデンとか、そういう区切りはいいよ。同じ人間だろうに』

『……そっか』



 ひどくさっぱりした裕真の言葉に、悠希は自分の口元が緩むのを感じた。


 同じ人間だから助ける。


 ――いいなあ、そういうの。


 なんとなく、羨ましくなった。


 自分も、そんな風に出来るだろうか。


 きっとそれは、かっこいいことだ。



『ん……どうかしたか?』

『あ……ううん、なんでもない!』



 慌てて顔を背けた。



『……まあいい。それより――いけるよな?』

『当然!』



 スペーサーが右腕を伸ばす。


 その先には、第四形態の死骸。


 ――そしてその胴に突き刺さる、一本の槍。


 槍が引き抜かれる。


 流れるような動作で、スペーサーは一直線に迫る第四形態に槍を向けた。


 それに気付いた第四形態が咄嗟に動きを止めるものの……手遅れ。


 丁度、槍の先が第四形態の鼻先に添えられる形になる。


 ……どちらも、動かない。


 奇妙な静寂。


 まるで助けを請うような第四形態の複眼を、悠希と裕真は拒絶した。



『先にテメェらが仕掛けてきたんだ』

『文句なら、自分自身に言いなさい』



 槍の先端が展開される。


 もはや助からない。


 そう悟った第四形態は、最後に悲鳴を上げ――。




 銀の奔流が、その叫びごと第四形態を呑みこんだ。



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