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SOAREYE  作者: 新殿 翔
22/25

FATAL


 銀の雷光が、スペーサーの横を過ぎて、複数のアニルを焼き払う。



『……え?』



 悠希が驚いたのはその攻撃ではなく……聞こえてきた声にだった。



『待たせたな、悠希!』

『綾香!?』



 まさか、と自分の目を疑った。


 穂先の展開した槍型のビームカノンを構えたランサーが――悠希にとって見間違えようもない、綾香のランサーがそこにはいた。


 どうして綾香がこんなところにいるのか。本来ならば病院で安静にしていなければならないというのに。



『な、んで……?』

『この程度の怪我で大切な戦いを休むほど、私は軟じゃないのさ』



 ランサーがビームカノンを再度放つ。


 アニルが焼き払われていくのを見ながら、悠希は小さな疑問を抱いた。


 ビームカノンの一射目から二射目までの間隔があまりにも短く、それにカノンの威力が桁違いになっている気がした。



『ワークマン博士が気を利かせてくれてな。ガーディアンが壊れたからって、ランサーを短い時間で改良しておいてくれたのさ』



 尋ねるよりはやく、綾香は答えた。



『マリーナさんって聞くと、なんでもアリに思えるから不思議だよ』



 裕真がいきなり会話に入ってきて、そう零す。



『……同感』



 悠希が小さく笑んだ。


 そして一転、心配した様子で通信モニター越しに綾香を見る。



『でも綾香。貴方、そんな勝手に動いて――』

『今は勝つことが先決、だろ? 雑魚は私に任せておけ』

『……そうね』



 綾香に自分の言葉が通用しないことを察して、悠希はそれ以上言うのを諦めた。



『なら、早く終わらせましょう』

『おう』



 その言葉と同時、ランサーがビームカノンでアニルを薙ぎ払い、スペーサーが第四形態の背後に転位した。


 第四形態はディズィと攻防を繰り広げながら、突然現れたスペーサーのブレードを受け止めて見せる。


 ブレードにひびが入り――そこでスペーサーは素早くそのブレードを放棄すると、腰から新しいブレードを抜き放つ。


 刃が第四形態の脇腹、甲殻の間に潜り込み……そのまま深く切り裂く。


 第四形態が叫びをあげて、スペーサーとディズィを振り払おうと暴れた。


 だが、ディズィは決して離れなかった。


 痛みに混乱する第四形態の脇腹、スペーサーの付けた傷口にライフルを押しあてて、そのまま引き金を引いた。


 ゼロ距離で打ちだした粒子弾が、傷口から第四形態の体内に潜り込み、その内部を抉る。


 第四形態が激痛に悶えながら、苦し紛れにディズィのライフルを破壊した。


 プレートから新しいライフルを取り出しながら、ディズィは第四形態から距離を取る。


 入れ替わるように、スペーサーがブレードを突きの形で構え、突撃する。


 第四形態がそれを迎え撃とうと腕を振り上げたが、その腕の関節部分にディズィの放った光線が叩き込まれ、抉れられる。


 その隙に、スペーサーが第四形態の片腕の根元にブレードを突き立てる。


 確かな手ごたえ。


 一際強く、第四形態が啼いた。



『これで……!』



 スペーサーはブレードを握る手に更に力を込める。


 ……それが、選択ミスだった。



『馬鹿、退け!』



 突き刺さったブレードを切り上げて腕を切断しようとしたが、スペーサーが握るブレードはびくともしない。


 第四形態の肉体が、その刃を固く締めつけていた。


 第四形態のもう片方の腕が横薙ぎに、スペーサーに振るわれる。


 転位する間もない。


 悠希が来たる衝撃に、思わず硬く目を瞑った。


 ……けれど、衝撃はいつまでたっても訪れない。


 そっと悠希が瞼を開けると、飛び込んできたのはディズィの背部。


 なにが起きたのか。



『――っ!』



 ワンテンポ遅れて、理解した。


 悠希が息を呑む。


 ディズィの左肩に、第四形態の腕が突き刺さっていた。


 一目でディズィの左腕の機能が破壊されたと分かった。


 ディズィは、スペーサーを庇ったのだ。



『直衛!』

『俺なんかより、敵を見ろ!』



 ディズィは右手に持ったライフルで、左腕に突き刺さった第四形態の腕の関節を連射を加えた。


 ディズィの左肩を貫いていた腕が、千切れる。


 その間、スペーサーはもう片方の腕の根元に突き刺したブレードを全力で捻じ込み……それを削ぎ落す。


 第四形態の両腕が失われた。


 絶叫しながら……それでも第四形態の複眼は敗北を認めてなどいない。



『あと少し……畳みかけるぞ』

『畳みかけるぞって言っても、あんたそんな機体で……』

『舐めるな。このくらいどうってことない』



 言うや、ディズィが飛び出す。


 反応した第四形態が、唯一その身に残された武器である牙を剥き、ディズィへ飛び出し、噛みつこうとする。


 だが、それをスペーサーは許さない。


 転位で第四形態の目の前にスペーサーが移動する。


 速度を出していた第四形態が急に止まれる筈もなく、スペーサーと激突。その牙は、銀のブレードに受け止められていた。そのまま、さらにディズィへとぶつかる。



『今よ!』

『言われなくても!』



 絡み合うように宙を飛びながら、一発、二発と甲殻の間を縫うようにディズィの放つ銀色の弾道が第四形態を貫く。


 第四形態もおとなしくはしていないかった。


 軋み……ひびわれ、スペーサーのブレードが第四形態に噛み砕かれた。



『直衛っ……!』

『任せろ!』



 もはや阻むものなどなにもないと。叫び声と共に第四形態が大きく顎を開き、その口内にびっしりと並んだ牙をディズィへと突きたてようとする。


 だが……先にディズィが動いていた。



『終わりだ!』



 大きく開かれた口の中に、ライフルの銃口が突き入れられる。


 叫びが鈍った。


 ライフルの引き鉄が引かれる。


 第四形態の後頭部から銀色の光が抜け、破壊されたその巨体が痙攣した。


 静寂が生まれる。



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