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SOAREYE  作者: 新殿 翔
21/25

ARRIVAL



 マザーが落ちるのを確認して、ひとまず裕真は安堵した。



『やったか……』



 ディズィの脇を、数機のガーディアンが通り過ぎる。


 アニルを追撃しているのだろう。


 それを見送り、一旦裕真は身体から力を抜く。


 ここまでディズィは単機で最前線に出て、アニルを少しでも撹乱する為にひたすらに戦闘を行っていた。その疲労が、気の緩んだ今、まとめて押し寄せていた。



『にしても、転位する戦艦なんて……どれだけ反則なんだろうな』



 一人苦笑して、弛緩した思考を叩き起こす。



『さて……あと一息、か?』



 自分で言っておきながら、その言葉に裕真は自信が持てなかった。


 本当にあと一息で済めばいいが。


 忘れてはならないことがある。


 少なくとも、まだ一体は第四形態がいるはずなのだ。


 あの時逃がした第四形態の姿を裕真は探した。


 広大な戦場で、あっさりと目標が見つけられるわけもない。



『翔け回って見つけろ、ってか』



 裕真が呟き、ディズィの機体から銀の粒子を交えた排気熱が放出する。


 ――その一瞬後。


 ディズィの脇を、何かが通り抜けた。



『……な』



 それがガーディアンの機体がひしゃげたものだと気付いて、裕真は咄嗟にライフルを残骸の飛んできた方向に向ける。


 沈黙。


 粘りつくような嫌な無音の中、裕真は周囲に注意を巡らせた。


 そして――、



『そこか!』



 ディズィが銃口を上に向けた。


 影が眼前に迫る。



『っ――!』



 だがディズィは引き鉄を絞らない。


 その影が、ディズィにぶつかる。


 衝撃に揺られながら、ディズィは飛んできた物体を掴んだ。


 さきほどと同じように、滅茶苦茶にされたガーディアンの残骸だった。


 中のパイロットは、生きていないだろう。



『くそ……っ!』



 出来ればこのまま持ち帰ってきちんと弔ってやりたかったが、そんな余裕、今はない。



『悪いな……後で迎えにくるから、それまで待っていてくれ』



 そっとガーディアンの骸を宇宙に放す。


 ほぼ同時、ディズィの背後を巨大な影が覆った。



『っ……!』



 振り向きざまに肩のプレートを駆動させる。


 背後の影――第四形態が振りおろした鋭い爪を、駆動したプレートが受け止める。が、その表面は深く抉られ、中にしまわれていたライフルが破壊される。



『そっちから来てくれて、探す手間が省けたよ』



 ディズィが第四形態を蹴り飛ばす。


 そこから、素早くライフル二丁を構え、交互にトリガーを引いた。


 銀の軌道が次々に第四形態に命中する。しかし、それはその外殻を僅かに溶かしただけ。



『やっぱり、ディズィじゃ火力不足か……』



 決してディズィの火力が低いわけではない。


 第四形態が硬すぎるのだ。



『それでも、やらなくちゃないんだから嫌になるよな』



 普通に撃っても駄目なら、もっと近くで撃てばいい。もっと脆い個所を撃てばいい。


 ディズィが第四形態に肉薄する。


 第四形態が大きく開いた顎を振るわせて甲高い叫びを上げながら、多関節の腕を突き出した。


 それを紙一重で回避し、ディズィは第四形態に直接触れられるほどの距離まで迫った。


 ライフルの銃口が第四形態の足の根元、殻の隙間に差しこまれる。


 粒子光が溢れ、そこ風穴が開かれた。


 第四形態の絶叫。


 咄嗟にディズィが第四形態から離れる。


 次の瞬間、第四形態の爪が、ディズィがいた空間を引き裂いていた。


 ほんの少し離脱が遅ければディズィの装甲はあっさりと引き裂かれていたろう。


 そうならなかったのは、一重に裕真の経験と勘の賜物だ。


 再度、ディズィは第四形態に接近を試みる。


 ……が、その動きはすぐに遮られることになった。


 複数のアニルが、ディズィと第四形態との間に立ちはだかったのである。


 その数はおおよそ五十。


 マザーほどではないにしろ、第四形態も指揮能力はある。この五十体は、いわば第四形態直属の部下のようなものか。



『厄介な……』



 これでは、いくらディズィでも第四形態に近づくことは出来ない。


 例えこの五十体のアニルを始末したところで、この戦場にはまだまだアニルが残っている。倒した端から次が補充されるのは目に見えていた。


 第四形態をどうにかして先に倒すか、それとも邪魔なアニルが尽きるまで戦い続けるか。


 考える時間を、アニルはくれない。


 いくつもの爪や顎がディズィに襲いかかる。


 ディズィはそれらを避け、防ぎながら、反撃を繰り返した。



『くっ……』



 流石のディズィでも五十体のアニルに一斉に襲いかかられ、さらにそこに第四形態まで加わるとなれば、劣勢にならざるを得ない。


 アニルを撃ち落としながらも、徐々にではあるが、確実にディズィは追い詰められていく。



『なにしてるのよ』



 届いた声。


 裕真には、その声がこれまでになく頼もしく聞こえた。


 群がるアニルの一角が切り崩れる。


 そこから、銀色の機体……スペーサーが現れた。



『こんな奴ら相手に苦戦だなんて……情けないわね』

『軽く言ってくれるな……まったく』



 新たに現れた敵に、アニルは即座に反応した。


 無数のアニルがスペーサーに殺到する。



『軽くも言うわ……だって、私なら、このくらいどうにでも出来るもの』



 だが、アニルが殺到した先に既にスペーサーは存在しない。


 次々にそれらのアニルが、背後に転位したスペーサーのブレードで斬り伏せられていく。


 スペーサーに、数の暴力はあまりに無意味だ。


 何故なら、どれほどの数を用意したころで、包囲も拘束も、それどころか行動の制限さえスペーサーに対しては出来ないのだから。


 瞬間転位というのは、それほどに反則的なスキルなのだ。



『全く、羨ましい限りだな……っと!』



 ディズィが背後からの一撃を避ける。


 その攻撃を仕掛けてきた第四形態にライフルを向けて、ディズィが引き金を絞る。


 銀の光弾は、外殻に弾かれる。


 裕真は外殻と外殻の隙間を狙ったのだが、その意図を察して第四形態が身体を逸らしたのだ



『これだから……くそっ』



 裕真が毒づく。


 第四形態とディズィが攻防を繰り広げる横で、スペーサーは第四形態の支配するアニルを次々に切り裂いていた。


 だが、敵は尽きない。



『後から後から沸いてきて……!』



 鬱陶しそうにブレードでアニルを斬り放って、悠希は脇目にディズィを確認した。


 ディズィと第四形態との戦闘は平行線……いや。少しはディズィの方が有利、といったところだろうか。


 それでも、なにかの切っ掛け一つでディズィが押し返される可能性もある。


 出来ることなら手助けをしたかったが、スペーサーの動きが見切られてしまうのは前回の戦闘で思い知っているし、それ以前に下位アニルの対応で手一杯だった。


 応援のひとつもないって、どういうことよ……!


 誰かいないかと味方を探すが、運悪く近くで戦闘しているソアレイは見当たらない。



『誰かこっちに寄こしなさいよ!』



 悠希が通信を開いて、マリーナに怒鳴りつける。



『ん、ああ。安心しろ』



 開いた直後に回線は閉じられた。



『安心しろって……どういうことよ?』



 マリーナの対応のそっけなさに呆然としながら、悠希は首を傾げる。


 しかし、悠希はすぐにその言葉の意味を知ることになる。



『――つまり、こういうことさ!』


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