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SOAREYE  作者: 新殿 翔
18/25

BRIEF

 病室を出たところで、裕真は意外な姿を見つけた。



「優しいね、オマエってやつは」

「マリーナさん」



 裕真が目を丸めた。


 まさかこんなところで会うとは思いもしなかった人物である。



「……お見舞いですか?」

「見ればわかるだろう。それと、立ち聞きだな」

「……趣味悪いですね。いろいろと」

「どういう意味だ?」



 マリーナが片方の眉をあげる。


 裕真はマリーナがダースで抱えている煙草のケースを胡散臭そうに見た。



「それで……いきなり藪から棒にどうしたんです」

「ふん。とぼけることはないさ。悪役御苦労さま、ということさ」

「なんですか、それ」

「だから、とぼけるなって言っているだろう。まったく」



 おかしそうにマリーナは肩を震わせた。



「オマエってやつは、面倒見がいいくせに、どこまでも不器用だな」

「俺は別に、面倒見なんて……」

「はいはい、そうだな、うん、そうだそうだ」



 適当に頷くマリーナに、裕真は訝しむような目を向ける。



「にしても、あの言い方はアタシですらどうかと思うんだがな」

「どうかと、って?」

「あれじゃあ、下手したら二度と立ち直れないぞ?」



 裕真が悠希に言い放った言葉のことだろう。


 悠希にしてみれば、彼の言葉はどこまでも胸を抉る刃だったに違いない。


 裕真自身、言い方が厳しすぎたとは思っている。


 単に突き放したか、あるいは見限ったような色しか悠希は感じなかったかもしれない。


 もしかしたら、これから二度と悠希は戦場に出られなくなる可能性だってある。


 だからといって優しく言ってやればよかった、とは思わない。


 下手な甘さを与えれば、逆に彼女の為にならない。間違いはどれほど厳しくとも間違いと知らしめなければ意味がない。



「この程度で終わるヤツなら、そこまでだったってだけのことでしょう」

「なるほどね」



 いつか聞いたような台詞に、マリーナは小さく頷いて、細めた瞳を病室のドアに向けた。



「これで立ち上がれるなら……確かに彼女は強くなるだろう」

「出来ればそうあって欲しいもんですよ」

「お節介なヤツめ……頭の一つでも撫でてやろうか?」

「遠慮しておきます。それじゃ、俺はお先に……」

「――ああ、そうそう」



 帰ろうとする裕真をマリーナが引き止める。



「天都からエデンに正式な依頼が入った。アタシら第一駆逐艦隊は、次のアニルとの戦闘において最前線に出る。まったく、アニルさまさまというやつだな。お陰で、最初に要求した三倍もの物資を掻っ攫えた」

「……まったく、抜け目がないですね」



 マリーナは、エデンの戦力が天都を支援することの交換条件に、法外な物資を要求したのだろう。


 天都としても存続の危機だけあって、物資の出し惜しみは出来ない。


 命と引き換えに財産の半分をよこせと言っているのとさして変わりなかった。


 なんとも汚い交渉だ、と裕真は苦笑する。



「でも、本当にやれるんですか? やってくるアニルの質量によっちゃ、俺達だけじゃ対応しきれないかもしれませんよ?」

「それでも対応するのがお前の役目だろう」

「無茶言いますね……」

「頼りにしてるよ」

「……はあ」



 軽く言われて、裕真は文句も言わずにただ疲れたような顔を浮かべた。



「ちなみにアルトオブリガードの主砲は前回ので砲身が溶けたから使えないのは覚えておけよ」

「……そういや、使ったんでしたっけね。奥の手だったのに」

「ほんと、あれは一発で砲身が潰れるのはどうにか改良しなくちゃいけないよなあ。今更言っても手遅れだが」



 アルトオブリガードの主砲はかなり広い範囲を殲滅出来る兵器だが、一発撃つと砲身が熱のせいで溶けて使用できなくなるという欠点がある。エデンで使うなら砲身の予備があるのだが、ここは天都。そんなものは当然ない。修理しようにも、到底次のアニルの襲撃には間に合うまい。



「とりあえず、分の悪い状況だが、頑張ってくれ」

「はいはい、分かりましたよ……」



 裕真は重い足取りで病院を出た。


 ……どうしてこう天都には面倒事が一杯なんだ。



「ああ、もう!」



 裕真は頭を掻き毟った。



 その時は、すぐに訪れた。


 裕真がアルトオブリガードのハンガーでディズィの調整をする中。


 アニルの襲撃を伝える警報が、響き渡った。

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