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『花の妖精 フェリモ』~一本の草も生えていない町に生まれた花の妖精の自分探しの物語 

作者: 野津敬
掲載日:2026/11/03

挿絵(By みてみん)

<表紙絵>



『花の妖精 フェリモ』

―Fairimo, the Flower Fairy―


鳥が落としたものか、風が運んできたのかはわかりません。

ある町の片すみに、名も知れない花のつぼみが落ちていました。

つぼみは命をふりしぼって花を開き、一匹の妖精を産みました。

花は枯れはてる前に、かすかな声でささやきました。

「フェアリー、モーニング…… 妖精さん、朝だよ」

そうやって、花の妖精 フェリモは、この世界に生まれてきました。



1…ぶらぶらの章 ⚘


花から生まれた花の妖精 フェリモ……

でも、他の花の妖精とはちがって、背中には羽根が生えていませんでした。

だから空は飛べず、生まれた時から持っていた小さな杖をもって、ちょこまかと歩くばかりでした。


「さあ、お仕事 お仕事。お花を咲かせるぞ!」

生まれたばかりの頃は、フェリモは元気に町中を歩き回っていました。

けれど、やがて

「ふぁー……ひまひま」と、

退屈そうにあくびをしながら、ぶらぶらと歩くようになりました。


というのも、

「オイラの生まれたこの町は、アスファルトの道とコンクリートのビルばかり……草のかけらもありゃしない。おまけに人間たちとくりゃ、いつもせかせか働いて、花のことなんて忘れちまってる。いくら探しても、オイラの仕事はありゃしない」

と肩を落とすことばかり…。


時々、他の花の妖精たちが、空高く飛んでいくのが見えました。

「おーい、遊びにおいでよ」

フェリモは顔を真っ赤にして、何度も何度も手を振りました。

でも、妖精たちは少し首をかしげるだけ……フェリモに気づくことはありませんでした。


草も木もない灰色の町は、花の妖精たちには見えなかったのです。


「もう、こんなところ ごめんだ」

フェリモは一度、町を出ていこうとしました。

でも、町境を越えようとすると、体がふにゃりと力をなくしてしまいました。

羽根のない妖精は、生まれた町で過ごすしかなかったのです。


仲間もおらず、いつも、ぶらーり ふーらふら…… ……



2…シャキッ!の章 ⚘


ある日、フェリモは、高いビルの屋上で叫びました。

「どうしてオイラは こんな町に生まれたんだ‼」


すると、空を走っていた風の妖精が、ヒュルンと止まって聞きました。

「なぜ、私は空を走っているの?」

「そりゃ、走って風を起こすのが、あんさんの仕事だからよ」

答えてあげると、風の妖精はうれしそうにお辞儀をして、ピューッと走っていきました。


「フェリモくん、わしにも教えておくれ」

驚いたことに、今度はビルの妖精が聞いてきました。屋上のコンクリートから、硬そうな頭をつきだしています。

「なぜに、わしはここに建っているんだい?」

「そんなの決まってる。この町の人が、あんさんの部屋を使いたいからよ」

「なぁるほど」

ビルの妖精は、お礼も言わずに、コンクリートの中に消えました。


「なんだいなんだい。聞きたいのは、オイラのほうだっていうのに」

フンッ!と ビルを蹴ろうとしたところ、

おっとと・・勢いあまって足をふみはずし、地面にまっさかさま。

ゴチン‼ 頭に大きなコブを作りました。


「痛たたた。おやおや、ほほーう」

コブをそろりとなでたフェリモは、大切なことに気がつきました。


…オイラ、自分にきちんと聞いたことがなかった…

目の前の、レストランの窓ガラスに映る自分を見ながら、フェリモはつぶやきました。

窓ガラスの中の自分は、シャンデリアが後ろで輝いていて、まるで神様の使いのようです。


「ねえ、オイラって、なんでこの町に生まれたんだい?」


さっそく、窓ガラスの中の自分に聞いてみました。でも、その口はむっつりと閉じたまま…。

「えーい、聞きかたが悪かったのかな。えー、コホン。ぼくは花の妖精。なのに、どうして草も木もないこの町に生まれたのかしら?」


すると、窓ガラスの中の自分は にこりと微笑んで答えました。

「みんなと同じです。あんたさんは、この町に生まれてきて…それでいいのです」


「え―っ、それでいいなんて…。そんなの答えになっていないよ」

フェリモはむくれました。

「うーむ。じゃあ、質問を変えるよ。コホン。どうして、ぼくはお花を咲かせる仕事もせずに、いつも、ぶらーり ふーらふら歩いているのかしら」


「答えは同じです。それが、あんたさんのお仕事なのです」

「えっ?」

フェリモは目をぱちくりさせました。

「じゃあ、オイラは今まで、ずっと仕事をしていたっていうの?」

窓ガラスの中の自分は、 にこりと微笑んだまま……。


「ぶらーり ふーらふら歩くのが、オイラの仕事だって……」

フェリモは文句を言いたいのをがまんして、窓ガラスの中の自分をまじまじと見つめました。

「そういや、仲間とちがって、オイラにゃ 羽根が生えていない。代わりにこいつを持っている。足はふらつかないけど、オイラにとって大切なもの」

手に持っている杖をにぎりなおして、いつものようにぶーらぶらと歩きました。


『そうです。その調子……』

振り返ると、窓ガラスの中の自分がうれしそうに笑っていました。


「なあるほど。これでいいってことか。神様のお使いみたいなオイラが言ってるんだからまちがいない。でも、ぶーらぶらはしっくりこない。シャキッと歩かないとしっくりこない」


フェリモはご機嫌になって、生まれてきたばかりのように 元気に歩きはじめました。

「杖はこうやって使うのが、オイラには合っている」

まるで、大きなパレードの指揮者のように、杖を振りながら……。


そうやって、町の端から端、建物の地下から屋上まで歩きました。



3…そんでもっての章 ⚘


「とうとう、こんな所まで来ちまった。けど、オイラ、これでお仕事をしているの?」

町はずれにある鉄塔を登りながら、フェリモはぼそぼそと言いました。


「あらら…」

鉄塔のてっぺんについたフェリモは目を見開きました。

高い所から見おろした町は、何かが変わっていました。

灰色のビルも道路もそのままです。草や木が生えている様子はありません。もちろん、花も咲いてはいません。

目玉がこぼれそうになるくらい じっと見て、やっとわかりました。

町は、温かそうな薄い黄色の光に包まれていたのです。


「教えてもらわなくったってオイラは知っている。

あれは、お花にお日さまが当たった時に出る光だ。

なんだいなんだい、お花なんて咲いていないくせに!この町はオイラをバカにしているのか!」


あんまり腹が立ったので、フェリモは町にむかって杖を投げつけました。


「ヘヘーン、ざまあみろってんだ…おんや」

あっかんべーをして、大きくのばした舌が、べこーんとノドの奥にはじきかえりました。

くるくると回りながら落ちていく杖の先から、黄色の光が流れ出ていたのです。


「なんてこったい。あの光をばらまいたのは、オイラだったってこと…」

あわてて宙にとびだして、杖をつかまえました。

そのまま地面に、ゴチーン!!

またまた、頭に大きなコブを作りました。


「痛ったた。でも、痛いどころじゃない。なんで、オイラはお花の光をバラまいたんだ」

フェリモは、頭をすっきりさせるために、コブをつつきながら歩きはじめました。



「痛ったた、オイラは花の妖精。そんだけど、生まれた町にゃ 草も木も生えちゃいない。

痛ったた、そんでもって、オイラはお花の光をばらまいた。それがオイラの仕事。

そんでそんで、どうなるの?」


答えが見つからないままに歩いていくと、おかしなことにぶつかりました。


人々が、しきりに首をかしげていたのです。

その顔はみんな、にこにこと笑っていました。 まるで、とても大切なことを思い出しかけているみたいに……。

車に乗っている人、ビルの窓から外をのぞいている人も、みんなそうでした。


「おいおい、どうしちまったんだい。いつものせかせかは、どこにいっちまったの?」

フェリモは、姿が見えないことをよいことに、前に立つ男の人の頬をつねりました。


『痛ったた!だれかにつねられてもわからない。これまでは、少しあったけど、すぐに消えてしまっていた。でも、今ははっきりとあるみたい。それはいったい何なんだ?』

男の人は、にこにこしたまま言いました。


耳をすませば、みんな同じことをつぶやいています。


フェリモはピーンときました。

「そりゃ、お花だよ。あんさんたちゃ、半分わかってるんだ。それなのに、はー じれったい」

フェリモは、人々の耳をひっぱって広げ、「それはお花!」と どなりました。


でも、その声が人間たちの耳に届くことはありませんでした。


『まあ、あれは何?!』

フェリモの横で、女の人が空を指さしました。

人々が見上げた先には、黄色、むらさき色、白色、いろんな色のものが、ひらひらと飛びかっていました。


『あれはチョウだ。ということは、ここにあるみたいなものは、えーと、うんと……』

ノドにつかえものをしたようなメガネをかけた男の人の背中を、「それ、もう一声!」

フェリモは杖でコツンとつつきました。


『花だ!それも町いっぱいの花!』

男の人は 前につんのめりそうになりながら うれしそうに叫びました。


「その通り!」

フェリモは思わず飛び上がりました。


『そうよ。花よ』

『チョウたちは、この町が花であふれていると思って、遠くの森からやってきたんだ』

みんな口々に言いました。


「やれやれ、やっと、おわかりですかい」

どなりつかれたフェリモは、地面にへたりこみました。



4…ズウーズウーの章 ⚘


『ずっと前から、この町には、何かが足りないと思っていた。チョウを誘ってくれたものが、それを教えてくれた』

人々は、仕事はそっちのけで、花を咲かせるための花壇を作りはじめました。

なにせ、もともと働き者の人々のすることです。

あれよあれよという間に、町じゅうに花壇のわくができました。そして、となり町からとりよせた土をしき、花の種をまきおえました。


『ああ、ここに 花の妖精というものがいてくれたら』

『そのよび声で、すぐに芽が出て 花が咲くかもしれないのに…』


フェリモはよいしょと立ち上がりました。

「ちっとは休ませておくれよ。また町じゅうを歩かないといけないんかい」

ぶつぶつ言いながら、歩きはじめたフェリモでしたが、よいことを思いつきました。


よたよたと町の放送塔までいくと、マイクにむかって言ったのです。

「オイラの友達、お花さん。お目々ぱっちりかわいいお顔。どうか見せてちょうだいな」

大きなスピーカーから飛びだした声は、町じゅうの花壇をぶるぶるとふるわせました。


ムクッ…ムクムク……

土の中から次々と芽が出てきました。ずんずんと茎と葉がのびていき、たちまちに色とりどりの花が咲きはじめました。


…ほれほれ 咲いた、わいわい 咲いた…

人々の喜びにあふれた声が聞こえてきます。


「へいへい…よかったねー…。

 ふぁー、オイラ、つかれちまった」

大きなあくびをしたフェリモは、ゴロリと横になり、ズウズウといびきをかきはじめました。



「まあ、なんて素敵な町…」

これまで通りすぎていた花の妖精たちが、空から降りてきています。新しく生まれた妖精たちが手を振って迎えています。


フェリモは、そんなことにはおかまいなし。

幸せそうな顔をして、寝言を言いました。

「ムニャムニャ、もう、仕事はかんべんしておくれ。オイラはすんごく眠いんだ」


ズウー…… ズウー……


ゆらり…… ゆらり……


町じゅうの花たちが、フェリモのいびきに合わせるように、やさしく揺れています。

まるで、やさしい子守歌を歌っているみたいに……。



おしまい


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