表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

第3章 はじめてのクエスト

 街を出て三十分ほど歩くと、森の入り口に着いた。

 鬱蒼(うっそう)とした広葉樹の森。木漏れ日が地面に(まだら)模様を描いている。空気が湿っぽくて、(こけ)と土の匂いがする。


「いいか、兄ちゃん。森に入ったら三つ守れ」


 ゴードンが太い指を三本立てた。


「一、単独行動するな。二、知らない植物に触るな。三、変な音がしたら走るな。走ると逆に狙われる。静かに俺の後ろに来い」


「了解」


『有益な助言ですね。記録しました』


 イオが感心している。お前、寝てる間に23人からリサーチしたんじゃなかったのか。


『文献情報と実践者の経験則は性質が異なります。ゴードンさんのような現場の知見は非常に価値があります』


 正論だ。反論できない。


 森の中を進みながら、ゴードンは次々と教えてくれた。毒のある植物の見分け方。魔物の痕跡の読み方。風向きから天候の変化を予測する方法。


「この赤い実は食うなよ。腹壊すどころじゃすまねぇ。丸一日幻覚(げんかく)見ることになる」


「怖っ」


「逆に、こっちの青い花——蒼星草(そうせいそう)は万能薬に近い。これが今日の採取対象だ」


蒼星草(そうせいそう)。昨夜の情報収集と一致します。解毒効果の他にも、鎮痛・消炎作用があるとのことでした』


 やっぱりリサーチ済みだった。


 ゴードンは教え上手だった。元Cランクの実力に裏打ちされた知識を、()(くだ)いて伝えてくれる。押しつけがましくなく、でも要点は外さない。いい教師だ。


「兄ちゃん、飲み込み早いな。冒険者向いてるかもしれねぇぞ」


「いやぁ、どうですかね」


 飲み込みが早いのは、たぶん俺じゃなくてイオのおかげだ。ゴードンの説明をイオが即座に体系化して、脳内に整理された知識として提示してくれる。俺はそれを読んでいるだけだ。

……若干罪悪感(ざいあくかん)がある。


 蒼星草(そうせいそう)は森の奥、小川の近くに群生していた。青い星形の花弁が水辺に揺れている。確かに綺麗だ。


「よし、ここだ。根ごと抜くんじゃねぇぞ。茎の途中から摘め。そうしないと来年生えてこなくなる」


 持続可能な採取。SDGsは異世界でも大事らしい。


 黙々と蒼星草(そうせいそう)を摘んでいると、ゴードンが急に手を止めた。


「——静かにしろ」


 声が変わった。さっきまでの気のいいおっちゃんではない。歴戦の冒険者の声だ。


「……何かいる」


 風が止まった。鳥の声が消えた。森が静寂(しじま)に沈んでいる。


『警告:周辺の生体反応に異常を検知しました。体温が周囲の生物と異なる個体が複数、接近中です。方角は——東、北東、北。三方向』


 三方向?


「ゴードンさん、東と北と北東から何か来てます」


「——わかってる。囲まれかけてやがる」


 ゴードンが長剣を抜いた。


「兄ちゃん、俺の後ろに来い。絶対に離れるな」


 (しげ)みが揺れた。

 現れたのは——灰色の体毛に覆われた、狼のような魔物。ただし、狼よりも二回りほど大きい。目が赤く光っている。(よだれ)が糸を引いている。

 一匹、二匹——五匹。


灰狼(グレイファング)か。……この辺りに出るのは珍しいんだがな」


 ゴードンの声には焦燥(しょうそう)(にじ)んでいた。


「一匹二匹なら問題ねぇが、五匹の群れは流石にまずい。しかも囲まれてる」


灰狼(グレイファング)。昨夜の情報収集には含まれていない魔物です。視覚情報から推定:体重約120キロ、咬合力(こうごうりょく)は推定500キロ以上。単独でも一般成人には対処困難です』


 怖い情報を淡々と報告するのやめてくれないか。


 ゴードンが構えた。歴戦の冒険者の目をしている。


「兄ちゃん、聞け。俺が二匹引きつける。その隙に走れ。来た道を戻って、街に——」


「逃げちゃ駄目なんじゃなかったんですか」


「状況が変わった。初心者連れてる時の鉄則だ。守れねぇと思ったら逃がす。英雄になろうとすんな」


 ゴードンの判断は正しいのだろう。元Cランクの経験が告げている。五匹は無理だ、と。

 灰狼(グレイファング)が一歩詰めてきた。(うな)り声が低く響く。


「——行け!」


 ゴードンが叫んで、前に飛び出した。長剣が()を描き、先頭の一匹の鼻先を(かす)める。灰狼(グレイファング)(ひる)んだ隙に、もう一匹の注意を引く。

 だが、残りの三匹は——俺を見ていた。


 逃げろ、と頭が言っている。

 足は、動かなかった。


『——提案があります』


 イオの声が、脳内に響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ