魔界での暮らし
あれから3年が経過した。こちらの生活にもかなり慣れてきて、白狐や宮殿の仲間とも程々に仲良くなってきた。
本来であれば、今年から中学生だ。俺は向こうの世界では今も行方不明で、捜索が続いているらしい。どうやらあの時、俺の家を襲った妖怪以外は、白狐が先に全て倒していたらしいので、被害は俺の家だけで済んでいるそうだ。良かったと言うべきか、良くはないな…
「にしても、色んな妖怪がいるなぁ」
この国では多種多様な種類の人や妖怪を受け入れているらしい。というのも、かつては見た目を理由に人から差別され迫害され、魔界に追いやられた妖怪達ではあるが、そんな魔界の中でも差別というものはあるらしい。まったく、かしこい生き物というのは汚いものである。
白狐の仕事は、そんな汚い生きものを狩る、退治屋、向こう側で言う警察のようなものである。白狐と俺が住む宮殿は大きすぎる警察署のようなもので、退治屋のスペシャリストが勢揃いだ。大妖や天妖クラスの妖怪はそこら中にゴロゴロおり、いずれも白狐の配下らしい。3年過ごして分かったが、おそらくこの国は世界で見てもかなり上位の位置に君臨する力を持っているのだと思う。
「陽菜~!そろそろ鍛錬の時間だよ~」
白狐の声がした。そう、俺は白狐と契約してからはほぼ毎日、白狐から妖術や妖力操作、妖力探知、体術、刀の扱い方などの指導を受けているのである。
中でも1番重要なのは妖力操作だそうだ。妖力操作はとても汎用性が高く、応用することで足に妖力を纏って一気に踏み込んだり、拳に妖力を込めて打撃を打ったりなど、戦闘に活かせることが多い。
妖力自体を守りに転じたり、攻撃に転じることもでき、妖力で斬撃を作って飛ばしたりもできる。後は妖力を一気に放出することで、とてつもない風圧を生み出す単純だが、妖力操作が出来ていないと妖力の消費量が半端じゃない技なんかもある。
「んん…もうちょっと待って、今起きるから…」
―――ベシッ
白狐に叩き起された
「私が付きっきりで誰か教えることなんてまぁ滅多に無いんだから!もうちょっと有難みを感じて欲しいもんだよ」
「朝からうるさいうるさい
今行きますよ」
俺は練習着に着替えて、白狐と一緒に練習場に向かう。
この3年で分かったことは沢山ある。まず初めに魔界と人間界が繋がってしまった理由だ。かつて、まだ魔界が出来て間もない頃、人間に復讐を誓い、その為に様々な悪事を働いていた、神妖クラスの妖怪オロチの復活が近いというのが原因らしい。オロチは各国の神々により討伐されたものの、完全には倒しきれず、封印という形に至ったらしい。その封印が、後百年もすれば解けてしまうらしい。百年もあるでは無いかと思うかもしれないが、妖怪は長命なので時間感覚が人とはかなりズレている。それに、現に魔界と人間界が繋がるなんていう弊害も出てきている。
「ん、あれは??」
「服を見るに阿修羅大国の施設かな?」
どうやらこの国の政治は白狐が行っている訳では無いらしい。この3年で一番の朗報では無いだろうか?
あの狐が政治なんてしてたら、この国はどうなってしまうのやら。宮殿には優秀な白狐の家臣、家来が多く、白狐の姉とその家来で政治は進めているようだ。
白狐の姉、名を葛の葉。口数は多くないが、頭が良く白狐や部下からの信頼も厚い。白狐が神になる前は葛の葉が神をやっていたらしい。
ある戦いで葛の葉は力の大半を失ってしまい、神権を白狐に引き渡してからは、政治を担当しているそうだ。
「今日はなんと!遂に!私との模擬戦です!
いえーい拍手」
この3年、特に実戦や模擬戦をしていた訳ではなく、ただひたすら空に剣をふり、空に術を放っていたのである。
「やっったぁぁ!ついに俺も戦えるんだ!」
「じゃ、さっそくやろっか。はじめ!」
―――ドォォッ
陽菜が自分の足に妖力を込め、思い切り踏み込み白狐に殴り掛かる。
「あれ?」
妖力探知が後ろに反応した。白狐は今の一瞬で後ろに移動したのである。
陽菜はすかさず、後ろに振り返りながら蹴りをいれるが、軽く腕であしらわれ妖力で吹き飛ばされてしまう。
「いっった…初回なのに容赦ないじゃんあいつ」
陽菜は体制を立て直し、考える。正面から突っ込んでも白狐に攻撃は当たるはずがない。ならどうするか。
陽菜は妖力で大量の大きな斬撃を飛ばし白狐が視界を砂埃で被われた瞬間、陽菜は全速力で白狐の背後へと向かい、渾身の一撃を放つ。
が、これも軽く手のひらで受け止められてしまった。
白狐と目が合う。
次の瞬間、白狐の目がいつもよりも赤くひかり、陽菜は一瞬で壁際まで吹っ飛ばされた。痛すぎて起き上がることが出来ない。
「目合わせただけでアウトとか、チートすぎるだろうよ…」
「今日はここまでにしようか!
初めての戦闘、中々悪くなかったんじゃない?」
「へへっ そうか?」
白狐は俺のことを褒めながら、治癒妖術?のようなものを掛けてくれた。体の痛みが一瞬で消える。この狐はほんとうに何でも出来るらしい。
あれから1ヶ月である。今日は俺の昇級試験をするらしい。この世界では、皆初めは小妖から始まり、昇級試験を合格することで、その階級を上げていくのだ。つまり神妖クラスの化け物でも、昇級試験を受けていなければ、神妖クラスの小妖ということになる。非常にややこしい。
俺が受ける昇級試験は、大妖試験である。内容は至ってシンプルであり、試験が始まると広い洞窟のような部屋に閉じ込められ、そこで大妖クラスの妖怪と戦い、勝てば合格である。もちろん、1人でだ。
「陽菜、緊張してるの?」
宮殿の玄関前で白狐に話しかけられた
「まだ実戦すらした事ないんだ。緊張して当然だろ?」
「大丈夫だよ。お前の先生は私なんだから」
白狐は微笑みながらそう言った。白狐はこの世界でも数名しかいない神妖である。そんな白狐が3年間みっちり指導してくれたのだ。なにも緊張することなど無いではないか。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい~!常に冷静でねー!!」
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試験を受ける場所は妖怪討伐ギルドである。討伐ギルドは各国にあり、退治屋は基本ここから自分の階級にあった依頼を探しこなして行くらしい。
昇級試験はどうやって受けるんだ?まぁいいとりあえず受付に話しかけてみよう。
「あのーすいません」
俺は受付をしている人魚のお姉さんに話しかけた。
「はい、なんでしょう?」
「大妖の昇級試験を受けに来たんですけど…どこで受けるんですかね?」
「昇級試験でしたら受け付けからいつでもできます!
こちらの契約書にサインをお願いします!」
そういうと受付の人魚は、1枚の紙とペンを渡してきた。
「ええと…?名前、年齢、現在の階級と…」
同意、同意、同意、同意。契約書の内容は簡単な確認のようなものだ。
「最後だ
『死んでも保証せず、全責任は貴方にある。』同意」
なんだこの怖い文章は。試験なのに死ぬこともあるのか。そう思うと、一気に緊張してきた。
「大丈夫だ。やれる。」
「サインありがとうございます。それでは、検討を祈ります」
人魚は微笑んだ。次の瞬間、俺は広い洞窟のような部屋に飛ばされた。そこには1つの人影のようなものが見える。
―――ブウゥゥン
姿を確認する暇もなく、それは襲ってきた
陽菜は咄嗟に妖力を前方に集中させガードする
「これは…河童??」
人影の招待はおそらく河童である。
身長は150センチほどか、黒く手入れのされていない髪が腰あたりまで伸びており、頭の上には皿がのっている。若干てっぺんハゲにも見えなく無い。
目は大きく、猫のように鋭い。爪や歯は触れただけで、キレそうなほど鋭かった。
「うえぅぅ…うっ!」
大きな声と共に、口の中から凄まじい勢いの水鉄砲が飛んでくる。
「っっ…ありゃ当たれば体に穴でも空くんじゃ…」
妖術だ。妖術には色々な種類のものがあり、火や水、氷、岩なんかの属性妖術や、妖力のみをつかい、どの属性にも属さない、無属性妖術がある。陽菜は白狐から無属性の妖術を幾つか教わっていた。
菜は足に妖力を込めると全力で横に走り、水鉄砲の追跡から逃れる。水鉄砲が終わった隙に
―――シッ シッ シッ
妖力で糸を作り、その糸で部屋中に張りめぐらせ河童を固定した。
いける、後はとどめの一撃を入れ―――
―――ブチッ
「おぁぁぁぁ」
力ずくで糸の拘束から抜け出し、雄叫びと共に陽菜に爪で切りかかる。
―――ドン ドン ジャキン キン ドン
バックステップをしながら、次にくる河童の攻撃を的確に捌き、腹を殴り反撃をいれる。
「よし!入った!」
が決定打にはならない。
河童は頭の上の皿の水を失えば死ぬという。であれば、皿そのものを割ってしまえば良いのでは?
狙うは頭だ
陽菜は右へ左へと河童を錯乱させながら近づく。
「おぅあわぁぁ」
河童は陽菜に向かって水鉄砲を放つ。それをギリギリで避けると、陽菜は隙を冷静に待つ。
水鉄砲の終わり際、こいつは若干の隙が生まれるのだ。陽菜は頃合いをみて、少し上に飛ぶ。と同時に河童の水鉄砲が終わった
「今だ!」
陽菜は真上から皿を殴り砕いた
「ぎぎぁぁぁぁ」
呻き声と共に河童が倒れる。ピクピクしていたが、やがて動かなくなった。やはり死体はまだ慣れない。
だか一先ずは
「お、終わった…」
陽菜から安堵のため息が出ると共に視界が真っ白になり、ギルドへと戻ってきた。
「試験合格、おめでとうございます!今日より、貴方の階級は大妖となります」




