その狐との出会い
「ただいま~!」
俺はいつも通り小学校から帰宅し、ドアを開け家族にただいまの挨拶をする。しかし誰からも返事が無い。今日は家族皆いる日だというのにやけに静かではないか。
「陽…菜… 逃げ…て」
母の声だ。何を言っているかは分からなかったが、俺は戸惑いながらも玄関の廊下を抜け、リビングに入ろうとした途端
「うわぁぁっ!!」
いきなり何か大きな物体に、扉の方まで押し戻された。起き上がり、目を擦って確認してみると、そこには血まみれの父親がいた。
「はやく!早く逃げるんだ!!」
何が何だかまるで分からない。ただ家の中で何か良からぬ事が起きたのであろうということは理解した。俺は血まみれの父親を見捨てて扉の方まで走った。家から出る時、グチャッという気色の悪い咀嚼音のような音が微かに聞こえた気がした。俺は走りながら、何が起きているのかをめいいっぱい理解しようとした。
いつも通り、学校を済ませて家に帰ったら血まみれの父親に突き飛ばされて、走って逃げた。
まるで意味の分からない状況ではないか。事の不明さに戸惑い、悲しみの涙すらも出てこない。
あるのはただ、背後から迫り来る緊張感。
その緊張感はやがて謎の足音へと姿を変えた。
―――ドッ ドッ ドッ
まるで、自分の胸を手のひらで殴ったかのような音を立てて迫り来る謎の生物。後ろを振り返る勇気は湧かない。
「とにかく…とにかく人のいるところに…!」
そんな事を言ったのもつかのま、足音は自分のすぐ後ろまで来ており、腕を掴まれてしまった。
「っっひ!! 」
(人…?)
腕を掴まれた俺は、初めてその背後から迫り来る足音の正体を目にした。身長は190cmはあるように見え、ガタイは良い。いや、良すぎる。まだ小学4年生で身長も140cmしかない俺には、到底逃げることの叶わない巨体であった。
「…いやだ…うっ…」
俺は惨めにも泣きそうな顔で必死に抵抗したが、力の差は歴然としている。
―――シャン
鋭い斬撃のような音と共に、その人外じみた巨体が真っ二つになり、血を吹き出しながら地面に倒れていた。
「う、うわぁぁぁっ!」
先程まで俺の腕をがっしりと掴んでいた、その巨体が地面に倒れ伏しているのだ。なにより、烏野死体ですら背筋がゾッとする俺には、とても目に写すことのできない光景だった。僕は咄嗟に後ろをむく。
「もう、大丈夫だからね」
振り返った先から突然、可愛らしくも冷静な声がした
そこには綺麗な赤色の目、白髪で腰の当たりまで髪を伸ばし、少し露出の高い巫女服のような服を着た少女が立っていた。身長は俺とあまり変わらないように思える。顔も同級生の女の子と似て、幼い。
「ありがとう…? 君は一体?今、何が起きたの?」
「私はびゃっこ!白い狐って描いてびゃっこ。」
白い狐…?言われてみると確かに頭に狐のようなミミが生えているでは無いか。それに尻尾まで。
「……人間じゃ無いってこと?」
「そういう事だね。
私もそこの死体も妖怪だよ。厳密にいうと私は神様なんだけどね!」
「……?」
白狐はフッと笑った。
「まあそうなるよね。今少し説明したところで分かる訳が無いと思うしさ!…とりあえず私に着いてきなよ!」




