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第1話 半分こしましょう。

 あさとよるのこと


 半分こしましょう。


「私、絵って『死を切りとるもの』だって思っていたんです。ずっと。高校生になるまでは、ずっとです。『絵はキャンパスの枠の中に死を切りとって、その瞬間を閉じ込めること』だってずっと思っていたんです」

 古い木の椅子に座って、大きなキャンパスの上に、ゆっくりと年季の入った古い筆を動かして絵を描きながら、黒川よるは愛野あさに言った。

 二人のいるところはお嬢様たちの通う有名な名門のお嬢様学校の中にある美術室の中だった。

 二人のほかには誰もいない広くて綺麗な美術室。

 二人はいつものようにお嬢様学校の白色と紺色の制服を(規則通りにしっかりと)着ている。

「死を? 絵の中に閉じ込めるんですか?」

 よるの描くとても美しい緑色の不思議な森の絵、題名は『丸い世界樹の種と不思議な森の精霊の子供たち』(その森は実際にはないようなとっても幻想的で不思議な森だった。その森の中には小さな丸っこい形をした森の精霊の子供たちがたくさんいて、みんな楽しそうに歌ったり踊ったりしていた。絵の真ん中には大きな種があってそれがどうやら世界樹の種みたいだった)を見ながら、(思わず)驚いた顔をして、あさは言った。

 よるの描く絵はどれもが美しくて、きらきらと輝いていて、明るくて、命に満ち溢れている絵ばっかりだったからだ。(今描いている森の絵もそうだった。見ていてとっても楽しい気持ちになる絵だった。そんなよるが絵は死を切りとって閉じ込めるものだって、そんなことを思っていたなんて、なんだかすごく意外すぎて、とっても驚いた)

「はい。絵っていうものはそういうものだって思っていたんです」

 驚いた顔をしているあさを見て、(なんだかいたずらが大成功して喜んでいる子供みたいだった)にっこりと楽しそうに笑いながらよるは言った。

「絵は死を切りとって、その瞬間を閉じ込めるもの」

 あさはよるの言葉を小さな声で繰り返した。

「そうです。死を永遠に閉じ込めちゃうんです。それが絵の本当の意味。あるいは正体だって思っていたんです。全然間違ったましたけど。ふふ。きっと今よりもずっと子供だったんですね」

 よるはくすくすと笑いながら言った。

 すると、よるの美しくて長い黒髪のポニーテールが小さくゆらゆらと揺れた。

 そんな風景を見て、あさは自分のふわふわとしたポニーテールの黒髪をちょっとだけ指でさわって揺らしてみた。

 二人は同じポニーテールの髪をしている。それは偶然ではなくて、あさがよるの髪型を真似しているからだった。

「でも、今は違うと思っているんですよね」

 と少し体を前に出して、よるの言葉に興味があるっていうほほを赤くして目をきらきらとさせた興奮した顔をして、あさは言った。

「はい。今は違います。今は絵っていうのは『美しい命を描くもの』だと思っています。それはつまり『人を幸せにできるもの』なんです。絵は私が思っていたこととまったく反対のことだったんだなって、高校生になってようやくわかったんです」

 黄緑色の美しい絵の具を丁寧にキャンパスの上に筆で塗りながら、よるはとっても幸せそうなな顔をして笑いながらそう言った。

「絵は美しい命を描くもの、人を幸せにできるもの、ですか」

 あさはさっきと同じように、よるの言葉を小さな声で繰り返しながら、じっとなにを深く考えるようにして、視線を斜め下に向けた。(それは考えごとをするときにするあさの癖だった)

 時刻は十三時ごろ。

 あさとよるの二人しかいない広い美術室の中はとっても静かで、窓の外ではどこかで小鳥が鳴いている声が聞こえた。

 大きな丸い美術室の窓からは、明るい光が差し込んでいて、床の上にできた丸い形のきらきらと輝いている陽だまりをあさはじっと見つめていた。

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