18. 生活能力皆無の漫画家、告白される
目を覚ます。ベッドに寝かされていた。
どうやら台所でじゃれあっているうちに、寝落ちしてしまったらしい。
隣には誰もいない。身体を起こしてぼんやりしていると、ドアが開く。
佐原さんが立っていた。
「野木先生。大丈夫ですか」
僕はほっとして、身体を起こした。佐原さんはふと表情を緩めて、軽く会釈した。
「あけましておめでとうございます」
律儀に言うから、「あけましておめでとう」とぼそぼそ返す。
佐原さんはにこりと微笑んで、「ご飯できてますよ」と囁いた。
誘われるままにリビングへ向かう。
椅子に座るとお椀が出された。中には汁物が入っている。お雑煮だ。澄んだだし汁に、具はお餅と菜っぱ。
「いただきます」
お雑煮なんていつぶりだろう。ありがたくいただく。もちもちと頬張っていると、正面の席に佐原さんが座った。彼もお椀を置いて、「いただきます」と手を合わせる。
しばらく僕たちは、無言でお雑煮を食べた。
僕が汁を飲んでいると、佐原さんはお箸を置く。
「野木先生。俺の話、聞いてくれますか」
「うん。なぁに?」
僕も箸を置いて、佐原さんと向き合う。
彼は少し息を吐いて、唇を噛んだ。
「……俺、最近、カウンセリングに行ってたんです」
静かに始まった告白に、僕は頷いた。
佐原さんは少しほっとしたように目を細めて、さらに続けた。
「俺は野木先生に依存してました。お世話を焼いて、感謝されるのが嬉しくて……だから、あなたが自分で何かしようとすると、止めました。ごめんなさい」
そして深々と頭をさげる。僕はおろおろと首を横に振った。
「でも、たしかに助かってたし」
「いいえ。俺は……野木先生を、尊重できてなかったから」
訥々と語る佐原さんを、僕はじっと見つめた。それで、と彼は続ける。
「こんなのはおかしいって人に言われて、……カウンセリングに行きました。しばらくそこで、治療を受けました」
すごく柔らかくて、傷つきやすい部分が、僕に委ねられている。僕は撫でさすって、甘やかしてあげたくなった。
立ち上がって、佐原さんの側へ寄る。肩をさすって、じっと目を見つめた。彼は薄く笑って、椅子を後ろへ引く。
「膝、来ます?」
僕は言葉に甘えて、佐原さんの膝に乗った。抱きかかえられて、僕からもぎゅっと抱きしめ返す。
「がんばったね」
そうでもないです、と佐原さんは呟いた。僕は首を横に振って、首筋に懐いた。
「すごいことだよ。自分の面倒を、自分で見れているんだから」
そっか、と佐原さんは呟いた。何かを確かめるように、何度も頷く。
「うん、……うん。そうです。カウンセリングに行って、執着心をどうしたいか相談して、でも分からなくてどうしようもなくて。それで昨日、やっと決めたんです」
佐原さんは僕を見上げた。僕は左巻きのつむじの頭を抱き込んで、撫でてあげる。
「俺は野木先生が……野木遥さんが好きです。付き合ってくれませんか? 順番がめちゃくちゃで、すみません」
僕は佐原さんを抱きしめて、うん、と頷いた。
「こちらこそ、僕でよければよろしくお願いします」
佐原さんは顔をあげて、僕をじっと見つめる。もっと顔を見たくなって、僕はまじまじとその顔を覗き込んだ。
あちらから顔を近づけられて、咄嗟に目を閉じる。ちゅっと唇が触れ合った。
「……一回、家に帰ってもいいですか」
「帰っちゃうの?」
心細くて呟くと、佐原さんは「まさか」と笑った。
「俺の着替えを持ってきます。年末年始は、一緒に過ごしましょう」
その言葉に、僕は舞い上がってしまった。つまり、お泊まりだ。
僕は上機嫌になって、佐原さんへしきりにくっついた。くっつき虫になった僕へ、佐原さんがからかうように言う。
「キスしてくれないんですか?」
その言葉に、少し恥ずかしくなって首を横に振った。もじもじと身体をよじって、なんとか本音を言う。
「……そっちからしてほしい」
「魔性め」
罵るような言葉選びだけど、甘ったるい声だった。
佐原さんは僕を引き寄せて、唇にキスをする。
「遥さんって呼んでいいですか?」
「うん。……僕も、下の名前で呼んでいい?」
「もちろん」
僕は思い切って「圭人くん」と呼んでみた。
彼は満面の笑みを浮かべて、「はい」と頷いた。
こうして、僕らは付き合い始めた。




