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生活能力皆無の漫画家、お世話係の遊び人編集者をうっかり沼らせてしまう  作者: 鳥羽ミワ


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17. 生活能力皆無の漫画家、担当編集とキスをする

 佐原さんは、かわいそうなくらい真っ赤になって震えた。

 唇を噛んで涙目になって、僕をにらむように見上げる。


「……酔ってますか?」

「それ、佐原さんが言う? 僕はワイン一本、一人で開けられるけど」


 僕はお酒に強い。だけど佐原さんは、ビール一本でべろべろになるくらい、弱い。

 佐原さんはぶるぶる震えながら呟いた。


「お、俺……そんなつもりじゃ……」

「酔っ払ってた佐原さん、すごかったね」


 僕の何気ない言葉に、佐原さんがぎくりと固まる。

 いけないことに、僕はむくむくと嗜虐心が湧いてしまった。


「僕のこと、かわいいって思ってるんだ」

「あ、いやその、あの」

「かわいいんだね、僕が」


 言葉に詰まる佐原さんは、ますます真っ赤になっていく。うつむくと、つむじが左巻きということが分かった。


「つむじ、左巻きでかわいいね」

「はァ?」


 ドスの効いた声ですごまれても、まるで迫力がない。僕はビールを飲みながら、「かわいいね」と続けた。


「僕のこと、いけすかないって思ってたんだ」

「それ、は」


 佐原さんが言葉に詰まってうつむく。かわいそうになって、慌てて缶を床に置いた。


「怒ってないよ」

「いや、うん。俺が悪かったです……」

「傷ついてもないよ……」


 どうやら本気でしょげてしまっているみたいだ。僕は佐原さんの頭を胸に抱えて、よしよしと撫でてやった。あまりアルコールは回っていないけど、この雰囲気には酔ってしまっている。

 そりゃあそうだろう。

 こんな美形が、こんな風にしどけなく、あられもないことになっているんだから。佐原さんの目元に、じわりと涙がにじむ。


「おれは本当に……あたけて迷惑かけて、情けない……」


 何を言っているのか一切分からないけど、僕の胸はきゅんと高鳴った。


「あたけ……? はよく分からないけど、迷惑じゃないよ」


 頭を抱えると、ずっしりと重くて素敵だ。さらさらの髪の毛に鼻先を埋めると、甘くて爽やかな香りがした。


「せ、せんせい?」


 佐原さんが戸惑った様子で首を振る。僕の喉から、おじさんみたいな「あ~」という声が漏れた。


「かわいいね……」


 僕の世話を焼くと言って、あれこれしている人がこんなに弱って、本音をこぼしている。

 はっきり言ってだらしない。

 そのだらしなさがどうしようもなく、僕の胸を高鳴らせる。


「佐原さんって、ずっとこんな気持ちだったの?」


 囁きながら、耳元を掻いてやる。ひっと喉を鳴らして、大柄な身体が少し震えた。だけど嫌がる素振りを見せない。


「昔飼ってた犬を思い出すなぁ」


 なんだか懐かしい気持ちになって、佐原さんの顎をさすった。夜だからか、少しざらざらしている。大人の男だ。

 佐原さんは「のぎせんせ」と、途方に暮れた顔をして、僕を見つめている。


「やっぱりあなた、魔性だに」

「うん? そうなの?」


 方言混じりの佐原さんは、すごくかわいく見える。顔を寄せると、佐原さんが目を閉じた。チャンスだとばかりに唇を奪う。

 キスをしても、佐原さんは逃げなかった。僕は少しずつ身体を離して、佐原さんを見つめる。


「で、佐原さんは、僕を訴えるの?」


 大きな掌が伸びて、僕の後頭部を覆う。引き寄せられて、目を閉じた。

 また唇が合う。佐原さんはちろりと僕の唇を舐めて、少し離した。


「訴えるわけないに……」


 僕は「そう」と囁いて、佐原さんに抱きついた。

 二人で台所に転がって、お互いの唇へ夢中になってすがりつく。


 うっとりしながら、ずっと抱き合っていた。

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