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塩しか知らない村でカレー布教したら国に召し抱えられました ―カレー・イズ・ジャスティス―

作者: ねねこ

チキンカレー作った時に、浮かんだネタ

 人は死ぬ時、走馬灯を見るという。

 私の場合、見えたのは幼いころからの思い出ではなく、カレーだった。

 それも、夕べ作った特製の「グリーンカレー」

 ナンプラーをたっぷり効かせたから一晩おけば良い感じになってるはず。

 カレーの香りを思い出して暗い倉庫で棚卸作業の残業をしながら「帰ったらカレーが私を待っている」って自分を鼓舞した瞬間、倉庫でパレットごと段ボールが倒れてきて――はい、社畜人生終了です。


 そのあと出会った神様はやたら事務的で、「後ろがつかえてるから」と私を急かしてきた。

 たぶん、転生界隈もブラックなんだろうなぁと疲れた顔をした神様に同情したよ。

 神様曰く、「来世では好きなことで生きていいよ」とのことだった。

 だから私は神様と別れる間際、お願いした。ここでお願いしないと文字通りさっさと次の人生に進んでしまうと思ったからだ。

 「穏やかに暮らせるスローライフを!」と。

 もう社畜人生は嫌だ。毎日残業のつらさはもう二度といらない。

 料理のスキルも少しは欲しいなーなんて、軽く願った気もする。


 ――結果。

 私に授かったスキルは『料理(カレー限定)』


 ……うん、限定って何?

 よりによって、なんでカレー“だけ”?


 そんなこんなで私は、とある国の辺境の小さな村に転生した。

 ごくありふれた寒村だ。

 名前はリナ。十六歳。村長の娘。

 うん、特に何もないごく普通の人生だ。

 毎日、畑で野菜の世話をしたり、家畜の世話をしたりする、ごく普通の少女……として育ってきた。


 ただひとつ、どうしても今世で納得いかないことがある。

 ――この世界、食べ物がまずい。

 飽食の日本人の味覚を覚えている私にはあまりにもつらい食生活だった。


 朝は塩ゆで麦、昼は基本的になし、夜は……塩ゆで肉と塩ゆで野菜。

 調味料が塩しかないのだ。そして調理方法はゆでるだけ。

 おかげで村人の味覚は完全に壊滅している。


「リナちゃん、今日のごはん、おいしいねぇ!」

「う、うん……(塩ゆでしたジャガイモだよ?ここにバターくらいほしいよ!)」


 私は泣きそうになりながら、心に誓った。

 この世界にも“味”が必要だ、と。


 そう、私にはカレーがある!

 スキル欄にでっかく刻まれた“料理(カレー限定)”!

 つまり、神様が言いたかったのはこうだ。

 

 ――お前はこの世界に、カレーを広めよ。


「よし、やってやろうじゃない!」


 と意気込んだのはいいものの、問題があった。

 この世界には、スパイスがない。


 コリアンダーも、クミンも、ターメリックも、なにそれ状態。

 台所をひっくり返しても出てくるのは塩と小麦粉と野菜と謎の乾いた草だけ。


 ……けど、諦めない。社畜時代に学んだのは、「やるしかないなら、やるしかない」精神だ!


 私は森へ飛び出した。

 鼻を頼りに、香りのある植物を探し回る。

 その時分かったのは、覚えているカレーの味や香りを明確にイメージすることで、森にあるカレーのスパイスの材料を見分けられるスキルだった。

 私の目には光って見えるそれらを採取していく。

 これが、カレースキルか……。

 甘い匂いの実、鼻にツンとくる葉っぱ、土臭い根っこ。

 全部持ち帰って、すり潰して、煮込んで――。


「……カレー、っぽい……かも?」


 鍋の中でぐつぐつと茶色い液体が泡を立てる。

 見た目は正直、泥。

 でも匂いは確かにスパイシー。

 胸が高鳴る。懐かしい香り。

 これだ、これこそ私の――


「リナちゃーん、その鍋、何の呪いの儀式ー!?」


 隣の家の子どもが叫んだ。


 ……まあ、見た目はそう見えるよね。


 

 最初の一皿を作るまでに、三日かかった。

 鼻で探し、舌で確かめ、失敗を重ね、村人に怪しまれ、最後には父に「森の毒草を煮ているのでは」と心配された。

 だが私は信じた。カレーの神(※たぶん自分)を。


 今日こそ、完成だ。


 鍋の中から立ち上る香りは、確かにスパイシー。

 香ばしくて、ちょっと焦げ臭い。

 でも前世で何百回も作った“カレーの気配”がある。

 最後に小麦粉でとろみをつけて、よし完成!

 私は木の匙を握りしめた。


「……これで、食卓に革命を起こす!」


 村長の家の広間に、近所の村人たちが集まった。

 

「どうしてもみんなに食べてほしいものがあるの」

 

 と、父である村長に頼み、畑仕事が終わった昼前に村の住民たちにこの家に集まってもらったのだ。

 皆、家の中に漂う香りに眉をひそめている。

「おまえ、本当に食べ物を作ったのか?」

 父が鍋を覗き込んで顔をしかめる。

 私は急いで焼いたナンを皿に並べ、水の入ったコップを用意する。

 本当はラッキョウか福神漬けがあればもっと良かったけど、ないから代わりにカブを薄切りにしたものを塩もみにして用意した。

「茶色い……ドロドロだぞ……?」

「匂いが強すぎて、鼻がしびれる!」


 わかる、わかるよ。初見のカレーってそういうもの。

 前世で幼いころ、母が作ったカレー鍋を初めて見た時、そんな風に思った記憶があるよ、私にも。


「大丈夫、美味しいですよ。これは『カレー』という料理です!体が温まって、元気が出ます!」


「カレー……?」


 私の言葉に村人たちは顔を見合わせる。

 沈黙が落ちる中、私は一歩前に出て、匙を差し出した。

 震える手でそれを受け取ったのは、父、村長だった。


 ひと口、ぱくり。


 数秒の静寂。

 次の瞬間――。


「…………っ!?!?!?!?!?!?」


 父の目が見開かれ、口がわなわなと震え出した。

 そして叫ぶ。


「な、なんだこれぇええええ!!舌が燃える!なのに、うまい!!」


 周りの村人たちが一斉に鍋へ殺到した。

「お、おれにも!」「わたしも!」「なんだこれ、涙が出る!」

「熱い!でも止まらん!なんだこれ!!」


 あっという間に鍋は空に。


 ……大成功、でいいのかな?


 気づけば、広間は大混乱。

 泣きながら皿をなめる者、鍋に顔を突っ込む者、スプーンを握りしめ掲げて祈る者。

 誰かが叫んだ。


「神の食べ物だ!!神が我らにくれた奇跡だ!!」


「いや、神じゃなくて私――」


「カレーの巫女様だ!!リナ様ばんざい!!」


「いや、そうじゃなくて――」


「リナねーちゃん、これは!?」


「それ、ナンね!?カレーをつけて食べるの」


「え、それ先に言ってよ!」


 鍋に残るカレーにナンをつけて食べる村人たちがまた「うまい!」「こんなうまいものがこの世界にあったのか!」と阿鼻叫喚だ。


 その日を境に、村は変わった。

 森にある私が採取したスパイスを畑で作り始め、私が作ったカレーのレシピが各家庭に配られ、ほどなくあちこちの家からカレーの香りが漂うようになった。

 そして、私はなぜか“カレー巫女”として祀られるようになったのだった。


 あのカレーの初めての試食会から数週間後、村の中央広場には――。


 木でできた私の像が立っていた。

 しかも、片手に鍋、もう片手にスプーンを持っている。


「……なにこれ?」


「巫女様のお姿を作り、この功績を讃えたいと、村の木工職人たちから頼まれてな!」

 村長、父が胸を張って答える。

「リナ、カレーは我らの村を救うものになりえるぞ!」


「いや、ちょっと待って!あれただのごはんだから!」


 と、私のツッコミなど、村の誰にももう届かない。


 止める間もなく、村中が“カレー教”に染まっていった。

 子どもたちは「カレーの歌」を作り、老人たちは「スパイス瞑想」に励み、若者たちが“激辛派”と“甘口派”に分かれて口論を始めた。


 私はただ、家の片隅でカレーを作りながら頭を抱える。


「……どうしてこうなった……」


 しかし、その混沌にも一筋の光があった。

 カレーを食べると、村人たちの体力や魔力が回復するのだ。

 材料に使った森の香草や根っこには、どうやら諸々の増進効果があったらしい。

 1つ1つは微々たる効能でも、カレーと言ういわばごった煮状態にしたところ、その増進効果がとんでもなく大きくなったらしい。

 どうやらこれが私のスキルの本当の力だったようだ。

 それが分かったのは、カレーを鑑定スキル持ちの父が鑑定してくれたからだ。


「体力回復、増進、魔力全回復、香りには神の祝福がある」


 と、なかなかとんでもない結果が出た。

 それを村に広布すると、ますますカレー教は熱狂していく。


「足腰が軽くなりました!」

「畑仕事がはかどります!」

「おかわりいいですか!」


「おかわりは……どうぞ。もう宗教でも何でもいいや……」


 その数日後。

 村に立派な馬車がやってきた。

 金の紋章をつけた鎧の男が降り立つ。


「我は王都より派遣された調査官、クラウス卿である。この村で“黄色い呪汁”なるものが流行していると聞くが――?」


「呪汁って言い方やめて!?」


 私の抗議の横で、父が誇らしげに作ったばかりの野菜たっぷりのカレーの鍋を差し出す。

 

「呪いではありません、祝福です!これこそ、カレーの巫女リナ様がわが村に授けた“神のカレー”でございます!」


「……か、神の……?」


「はい!どうぞ一口」


 とスプーンを渡す父の姿はとても誇らしげだった。


 クラウス卿は怪訝そうな顔でスプーンを手に取った。

 一口、二口。

 そして、彼の瞳がぐるりと裏返った。


「……な、なんという衝撃だ……!口の中に光が溢れる――!」


「光ってません!それ味覚です!」


「こ、これは急ぎ王都にも伝えねば!」

 クラウス卿は涙目で叫び、皿を抱えて走り去っていった。


 ……そして一週間後。


 王都発――「王宮公式料理、採用」の知らせ。


 えっ、早っ!?


 気づけば私は王都に召喚され「宮廷料理補佐官(カレー担当)」に任命されていた。

 毎日、王や貴族にカレーを作る日々。


「リナ殿、この“中辛”というのはどの程度の修行なのだ?」

「いや修行じゃないです!ただの辛さレベル!」


 貴族が汗を流しながら皿を抱え、騎士が「もう一杯!」と叫ぶ。

 もはや、この国はカレーの虜だった。

 うん、どうしてこうなった……。

 そして私はカレーの始祖の巫女として、崇められるのだった……。


 

 あれから数年。


 世界中に「カレーの聖典レシピ」が広まり、スパイス商人ギルドが生まれ、“カレー修道会”が設立された。

 甘口、中辛、辛口という王道のほか、ごく一部で熱狂的な激辛を敬う修道会までできているらしい。

 通りでは香辛料の香りが風にのって漂い、どの家庭からも「ぐつぐつ」という音が聞こえる。


 そして私は今日もカレーを作る。

 もうレシピもしっかりできたので、私は王宮を辞して生まれ故郷の村へ帰った。

 今ではカレー村、と名を改めた故郷は、私の帰りを歓迎してくれた。

 カレーのおかげで、この村は今では国で最も有名な村になり、観光客や商人も訪れるようになり、寒村であった頃が嘘のように栄えていた。


 遠い昔、塩味しかしなかった村に生まれた奇跡の味。

 たった1つのスキルが、世界を変えた。


 神様、カレーのスキルをありがとう。でもできることならカレー以外も欲しかったです。

 ちなみにカレー以外の料理はいたって普通の腕前です。


 ――そして今日も、私は森へ向かう。

 新しいスパイスを探して。

 次はどんな味に出会えるだろう。

 いや、作りたい味を明確にイメージすることできっと出会えるはず。


 その名も、“カレー布教計画第二弾”……名付けて、グリーンカレー計画!



 終

ノリと勢いだけで書いたけど楽しかった。楽しんでもらえたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
連日の激務に疲れた神様は、下界を覗きながら、カレーを食べるのだった 「下界に必要だったのは、やはりカレーだったな」
まあ~~好きだけど其処まで・・・。←社販で50人分レトルトカレーを買った男。
読んでいたら、とてもカレーが食べたくなりました。
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