表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイン公国記――巨人と神の狭間で  作者: grim
プロローグ:神話の断章
4/6

第4節:――絶望の王子、最後の賭け――


重厚な扉が開かれ、松明の光が差し込んだ。現れたのは一人の青年。20歳ほどだろうか、黒髪に深い青の瞳。整った顔立ちだが、その表情には深い絶望と、それでも折れない意志の強さが刻まれている。


「誰だ?」


ハルの問いかけに、青年は静かに答えた。


「私の名はエリオル・ヴァル=アイン。アイン公国第七王子です」


アイン公国――300年前にはローム帝国の属国だった小国だが、今はどうなっているのか。


「わらわはマアト。秩序と真理を司る女神である」


私は人の姿を取り、エリオルの前に現れた。褐色の肌に青金色の瞳、神々しい美貌に、彼は僅かに息を呑んだ。


「我はハル。ミショル王国の国王にして、黎明の支配者と呼ばれた者なり」


ハルも威厳を込めて名乗る。深紅の瞳がエリオルを見据えた。


「なぜここに? そして、なぜ我らを解放しようとする?」


エリオルは一瞬躊躇した後、苦しげに答えた。


「巨人族の大侵攻が始まりました。ロキ王が全巨人族を率い、人間界の征服を開始したのです」


その言葉に、私たちは驚きを隠せなかった。


「ロキが? あの狡猾な巨人王が、ついに動いたのか」


ハルが低く呟く。


「私の国も攻撃を受け……兄二人と母を失いました。父王も重傷を負い、もはや戦える状態ではありません」


エリオルの声が震える。


「天界三陣営は自分たちの縄張り争いに夢中で、人間界の危機など顧みません。五大勢力も足並みが揃わず、各個撃破されるのは時間の問題です」


「それで、俺たちを?」


「はい。もう他に道が見つからないのです。たとえ危険でも、このまま滅びを待つよりは……」


エリオルの決意は固かった。絶望的な状況で、それでも最後まで諦めない強さを持つ者の決意だった。


「面白いわね」

私は微笑んだ。この青年にはハルと同じ匂いがする。


「だが覚悟しろ」

ハルが警告する。


「俺たちを解放すれば、この世界の均衡は永遠に変わる。天界三陣営の思惑も、巨人界の戦略も、すべてが狂うことになる」


「それでも構いません」

エリオルは即座に答えた。


「私にはもう、守るべきものがほとんど残っていませんから」


その言葉に込められた痛みと覚悟を感じ取り、私たちは静かに頷いた。


「では、始めよう」


ハルの深紅の瞳が、暗闇の中で静かに光った。


エリオルが古い呪文を詠唱し始める。封印の術式が揺らぎ、300年間私たちを縛り続けた鎖が軋みを上げた。


そして――この瞬間こそが、新たな神話の始まりとなることを、まだ誰も知らなかった。


真の神ヌンの封印が緩み始め、偽りの三大神による支配が終わりを迎える、新しい時代の幕開けとして。


さあ、世界よ。真実の時を迎えるがいい」


私の宣言と共に、鎖が砕け散った。光と影が交錯し、秩序と混沌が渦巻く中で――新たな運命が動き始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ