第3節:――秩序の女神、偽りへの憤怒――
私はハルの肩に止まりながら、300年間の思索を続けていた。鳥の姿――これが私の常態化した形だ。観察と運命の秤を象徴し、真理の模様を読む機能を持つ。
私の名はマアト。秩序・正義・真理を司る女神として、アトゥム神族の中でも重要な位置にあった。だが今は、ハルと共に封印された罪人。
「この世界は偽りに満ちている」
私が真理宣告でこの世界の本質を暴いたとき、天界は大混乱に陥った。三大神がヌンを封印した偽りの支配者であること、人間に力を与えたのは大義ではなく保身のためであること――すべてを世界に向けて宣言したのだ。
真理宣告は私の核心能力。一つの命題を言葉で定義すると、それが物理的・魔術的法則として強制適用される。絶対的な力だが、生命力と秩序の蓄積を激しく消耗する。
「だが、真実は語らねばならない」
たとえそれが世界を混乱に陥れようとも、偽りよりは遥かに価値がある。私はそう信じている。
ハルとの魂の契約も、その信念の延長だった。彼の不器用な優しさと揺るぎない意志に触れ、私は初めて一人の人間に特別な感情を抱いた。
「わらわとて、心があるのだ」
理知的で冷徹な女神が、一人の男に恋をする――それもまた真実の一つだった。
「そろそろ来るわね」
私は小さく羽ばたいた。足音が近づいている。久方ぶりに、人の気配がこの最奥まで届いていた。