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処遇が決まる(前編)

 翌日、フロレンティーナは今後どうするかを話し合うために、ルキウスに連れられレンジャーギルドを訪れていた。

 故郷の城塞都市では領主の館から外に出たことはなかったから、こういった場所に来るのは初めてだった。ただ、


(映画やアニメとかで見たことがある感じね)


 好んでファンタジーものを見ていたわけではないが、某有名映画――魔法使いファンタジーものも何度か見たことがあるし、遊園地でも似たような世界観のアトラクションが作られていたから、なんとなく既視感がある。

 入ってすぐが酒場になっていて、その奥にカウンターがあって、そこで何人もの受付嬢が武具を持った荒くれ者たちの相手をしていた。


「なんだルキウス。今日は子連れか?」

「あ? あぁ、まぁ、いろいろあるんだよ」


 入ってすぐに顔見知りらしい男にからかわれたが、慣れているのか大男は適当にいなして三階へと上がっていった。

 彼に手を引かれながら歩く形となっていたフロレンティーナも必死になってあとについていく。

 ただでさえ身体が小さいのに体格差がありすぎて歩くのが大変だった。


「支部長いるか? 俺です。ルキウスです」

「入れ」


 階段を上がってひたすら通路を奥へと突き進んだ突き当たりの左手扉前で立ち止まり、軽くノックした大男に応じる形で中から声がした。


 ガチャッと扉を開けて二人して中に入る。

 比較的広い部屋の真正面の壁には大きな窓があり、その手前にこれまた大きな執務机があった。そこに着座していた男が、入ってきた二人を見つめた。


 金髪碧眼のその男はルキウスとは似ても似つかないぐらいの、いわゆるイケメンという奴だった。歳も二十代後半ぐらいで、いかにも優男風といった感じだ。

 とてもではないが、このギルドの責任者とは思えない風貌だった。


「その子が例の子供か」


 既に話は通っていたようで、すぐ近くまで歩いて立ち止まった二人に声をかけてくる。

 支部長と呼ばれた男はフロレンティーナを見つめた。


「名前は?」

「はい。()()()()()と言います。昔の名前は捨てました」


 単刀直入にそう告げた彼女に、ルキウスが「へ?」という顔をし、支部長は「ほう」と嘆息した。

 昨日のうちに名前を捨てるとは説明しておいたが、今日から別の名前を名乗るとはいっさい打ち合わせしていなかったので、ルキウスは大層面食らっているようだった。


「ですが、私の最終的な名前は、一応、レティーナ・()()()()()()()()()になる予定です」


 そう言って、幼女の特権を最大限に活かそうと、フロレンティーナ改めレティーナはにっこり微笑んでみせた。どうやら支部長は、彼女が何を意図してそのようなことを言ったのか、瞬時に理解したらしい。

 いきなり声に出して大笑いし始めた。


「くく……こいつはいい、傑作だ。話に聞いてはいたが、本当に面白い子供じゃないか」

「笑い事じゃないぞ? この子、本気で俺の養女になろうとしてるんだからな?」

「くっくっ……別にいいじゃないか。養女にしてやりなよ」

「おいおい。そんな簡単な問題じゃないだろう。いつ死ぬかもわからん身の上だし、第一、金もそんなに稼げないだろうが」

「だけど、君に贅沢な暮らしをさせてくれるって、そう言ってくれたって聞いたよ? くくっ……だったら彼女に金稼いでもらったらいいじゃないか」


 そう言って、壺に入ってしまったのか、ひたすら笑い続ける支部長だった。


「――いや。失礼した。久しぶりに愉快なものを見させてもらったから、ついね」


 そう前置きしてから、真顔になった彼が本題に入った。


「実はね、先程の質問は当然、君から直接名前を聞いて、情報が正しいのかどうか確認するという趣旨でもあったんだけど、君の覚悟を試すという意味合いもあったんだよ。今後の身の振り方を自分自身でどのくらいの覚悟を持って挑んでいるのかってね」


 そう言ってにっこり笑う支部長。


「覚悟……ですか?」

「あぁ。まだ年端もいかないこんな子供に言うべきことじゃないんだが、君の扱いをどうするか、今ギルドでは判断に迷っていてね。そんな折り、君の方から本来の身分を捨てるという申し出があった。正直、耳を疑ったね。貴族の権利を放棄するなんて、普通の人間には決してできない選択肢だからね」

「つまり、貴族の立場を捨てると言っておきながら、今もなお、本来の自分の権利を主張しているようでは信用できないと、そういうことでしょうか?」


 レティーナがじ~っと見つめていると、支部長は一瞬驚いたような顔をしつつも、すぐににんまりと頷いた。


「あぁ、その通りだ。君をどうするか迷っているのは、君が例の貴族の子女だったからだしね。だから事件の当事者であるなら、本当なら国に報告しないといけないんだよ。だけど、政治的な思惑が絡んでいる可能性があるから、素直に報告するのはあまりにも危険だ。男爵の領地がなぜ滅ぼされたのか、その理由がまったくわかっていないからね。だから迷っていたんだけど」


 そこまで言って、彼は笑顔を消し、じっと見つめてくる。


「だけど、君が生き残りの子供ではないというのであれば話は別だ」

「私はただの孤児。だからそれをどう扱おうがギルドの自由だし、私個人の自由、ということですね?」


 幼子らしい愛らしい笑みを浮かべる彼女に、


「ま、そういうことだ。だからこそ、今後はいっさい貴族であることを口外してはいけないよ。わかるかい?」

「はい。元からそのつもりでしたから。そうしないと、今後、私はまともな人生を歩んでいけそうにありませんので」


 そう言って笑う彼女に、支部長は「やれやれ」と肩をすくめた。

【次回予告】処遇が決まる(後編)

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