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透目町の日常  作者: 四十九院紙縞
『飛べない翡翠の歩きかた』(失声症だけど鳥の声でだけ喋れる「私」の話)
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『飛べない翡翠の歩きかた』2

 鳥になった私は、どうやらカワセミという種類の鳥らしかった。青い翼に橙の身体をした、とても綺麗な色をした鳥で、私は余計に鳥の自分を好きになった。

 私はいつでも鳥の姿になれるし、人間の姿に戻れもする。こんなに素晴らしいことはないというのに、両親はこちらがげんなりするほどの拒絶反応を示す。だから子どもながらに、これは『普通じゃない』、『おかしい』ことなのだと感覚で理解していた。仲の良い友だちにさえ、鳥になれることは言ったことがなかった。私はいつも放課後に公園で一人こっそりと鳥に姿を変え、その自由を楽しんでいた。

 だが、私の秘密の自由はそう長くは続かなかった。

 私がどれだけ隠れていたつもりでも、都市部でカワセミなんてそうそう見かけるものではなく、六年生の夏には両親にバレてしまった。小学生にしては長く隠れられたほうだとも思うし、逆に言えば、長かったぶん、親の怒りのボルテージを必要以上に上げる要因にもなった。

 リビングで開かれた家族会議は、あまりに怒りに満ちていて、会議というよりかは、有罪が確定している裁判に出席しているような気分だった。

 果たして私に待っているのは、断罪か。

 或いは、死刑か。

 ダイニングテーブルを挟んだ向こう側から、両親が二人揃って私を糾弾する。

「二度と鳥になるなって言っただろう、みどり。おかしいんだよ、お前のそれは。普通の人は、鳥になんかならないんだ。頼むから、まともになってくれ」

「娘が鳥になるだなんて、こっちの頭がおかしくなったかと思われるから、誰にも相談できないの。ねえ、貴女が鳥にならなければ、それだけで良いの。ね、簡単なことでしょ? どうしてそんな簡単なことができないの?」

 否定、否定、否定が続く。

 お父さんもお母さんも、もうひとつの私の姿を否定する。

 ここに居ると、息をすることさえ否定されている気分になって、苦しくなった。

 二人とも私の話を聞こうとすらしてくれない。

 人間が鳥に姿を変えることが異常というのは、嫌というほど理解した。だから、お願いだから、私自身まで否定しないで欲しい。

 そう言いたいのに、声が出ない。

 次第に怖くなって、私は家を飛び出した。

 玄関扉を勢い良く開け、即座に鳥になる。マンションの高層階からの自由落下にも似た飛行は、ほとんど自殺に近かったように思う。けれど今の私はカワセミで、その翼を羽ばたかせれば、空を飛べるのだ。

 慣れた所作で近くの木に止まり、飛び出してきたマンションを見上げる。

 もうあの家には戻れないと思った。家出しよう。いや、いっそこのまま、一生を鳥として過ごすのも良いかもしれない。山まで行けたら、きっと仲間の鳥も居ることだろう。

 我ながら素晴らしい考えだ、と悦に浸りながら羽を広げて飛び立った、その直後。

 かつて経験したことのない威力で、私の身体は弾き飛ばされた。

 都市部の交通量の多い道だ、車にぶつかってしまったのだろう。脳が冷静に状況を分析している間にも、私の身体は衝突した衝撃を流しきれず、何度かアスファルトの地面に叩きつけられる。不思議と、痛みはなかった。それよりも、車に轢かれたことにびっくりしていて心臓が痛いくらいにどきどきしていたし、視界はぐらぐらと揺れていた。

 そうして気がつけば、私の身体は人間に戻っていて、歩道に血溜まりを作っていたのである。

 怖い。誰か、私の手を握って。大丈夫だよって言って、抱き締めて。

 そう言いたいのに、口がぱくぱくと開くだけで、声は出てくれない。

 通行人の悲鳴が遠巻きに聞こえ、救急車のサイレンが近づいてくる。視界の端にはお父さんとお母さんが居た。家を飛び出した私を追ってマンションから降りてきて、事故現場に出くわしたのだろう。あまつさえ被害者が実の娘だというのだから、居た堪れない。他人事のように、そう思った。

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