8話
夜も深まれど街には光が灯り眠りにつく様相はない。都市国家ミリム。人口10万人を要する都市であり、外の集落とは違い文明が息づいていた。5つの都市国家には戦前のインフラが残っており都市の一部地域では電気やガスが24時間使用可能となっておりミリムもまた例外ではない。都市をぐるりと囲む城壁の外には南には掘立て小屋が立ち並ぶスラム街が広がっており西側から北側にかけて肥沃な大地が広がっている。城壁内部は大まかに5つに区分けされていた。北区は兵舎や訓練場、鍛冶場がずらりと立ち並び、東区には工業地帯が広がっている。南区は平民街となっており西区は小規模な農場や食糧庫が点在している。そして都市の中心部は特権区域となっており政治の中枢を担っている。都市中心部、年季の入ったビルの一室にある執務室にて都市国家ミルムの現総督であるダグラスは難しい表情を浮かべながら眼下に広がる街並みを眺めていた。
「入りたまえ」
コンコンとドアがノックされると同時に入室を促すと、焦った表情の秘書が入ってきた。
「報告いたします。遠征部隊の者が帰還致しまして、すぐに総督に報告をとの事です。その、いかがなさいますか?」
「通しなさい。直接話を聞こう。帰還したのは隊長のドクかね?」
「いえ、、、一般兵です。かなりの重症ですがどうしても本人の口から総督へ報告をとの事でした。」
内心嫌な予感が当たったと重苦しい心境になりながらも無表情でダグラスは兵の入室を促した。
「‥‥‥隊は予定通り中規模の盗賊団の壊滅後、帰還中森の中で別の盗賊団と思しき一団に奇襲を受けました。」
「ふむ、なぜ別の一団だと分かったのかね?」
「奇襲した一団に鹿頭が居ましたので。
応戦しましたが奇襲を受けた際に隊長が弓によって討たれた事もあり分が悪く、副隊長の判断で撤退する事になりました。森の中には様々な罠が仕掛けられており最後は皆散り散りとなり敗走いたしました。報告は以上です。」
「鹿頭‥!少数精鋭の団か。厄介な奴が出てきたな。一応確認だが君は1人で街まで戻って来たという事で良いか?他の仲間や副隊長の安否等知っている事があれば教えてくれ」
「いえ、最終的に4人で敗走したものの罠や戦闘時の傷が原因で2人が動けなくなりその場に残してきました。残る1人も城壁が見えたところで安心したのかそのまま‥‥。ですので1人は私が担いで連れ帰りました。副隊長に関しては殿を務められていた為、おそらくは‥」
「なるほど分かった。貴重な情報だ。怪我と疲労をおして伝えてくれた事を感謝する。君はすぐに医務院へ連れて行ってもらいなさい。歩いてよい怪我ではない。」
そう言いながらダグラスは兵を一瞥する。
揃いの革鎧には大きな太刀傷があり止血こそしているようだが左腕の肘から先が欠損していた。まさに満身創痍といった様相の兵に労いの言葉をかけた後、秘書に命じ医務院へと運ばせた為、再び執務室はダグラス1人となり静寂が訪れる。討伐隊からの定期連絡が途絶え5日あまり。捜索隊をだそうとする最中の報告に重いため息がでた。嫌な予感はしていたが壊滅は想定外であった。常備兵は4000人を要してはいるが自国の防衛や治安維持、他国の牽制等様々な要因が絡み合い自身が自由に動かせる兵は500に満たない。練兵もかねて自身が動かせる兵を討伐隊として出した事が完全に裏目に出たと頭を抱えながらもこれからの事についてダグラスは思案に耽っていく。