2話
終末戦争。そう呼ばれる未曾有の世界大戦より地上の動植物は激減した。放射線と死の灰が降り続く世界でそれでも生物は適応し歪に形を変えながらも生存競争を繰り広げていった。それは人間もまた同様であった。年数を重ね繁殖を続けていった先に環境に適応する為に様々な異能を持つ人種が現れる。彼らは適応者と呼ばれ生まれた世代にて区分されていった。古い世代には奇形や異常な筋発達等外見にも分かる特徴が多かったものの世代を経るにつれその特徴は内部へと移行されていく。
「お頭〜マクバの野郎が良さげな獲物見つけたらしい!襲っちまおう!」
手下の1人の大声に鹿頭は「人類の週末」と書かれた本を閉じ気怠げに応じる。
「マクバを呼べ。」
仲間からの知らせでボスの部屋へとやって来たマクバはやや興奮気味に捲し立てた。
「お頭!ロンドルの谷付近でいいカモを発見しやした!武装はしっかりしてやすが大した数はいやせんでしたし狙い目ですよ!」
興奮するマクバを嗜め鹿頭が口を開く
「落ち着け、ウチは今だいぶ潤ってるし欲をかく必要はない、それに今は時期が悪い」
マクバは怪訝な表情で鹿頭に問い返す。
「時期?盗賊に季節もへったくれもないでしょうに」
「どうやらギルドに目をつけられたようだ。おそらく先日の一件が原因だろうな。まあ今は様子見しとくに越したことはない。」鹿頭が返す。
「そら、お頭が調子に乗ってタル?なんとかの一家を全滅させちまうからでしょう!しかもあんなバラしかたすりゃ、嫌でもウチだってバレやすよ!全く!」
「タルーフだな。まあとにかく今回は諦めろ。」
鹿頭の返答にマクバは渋々だが頷く。
「まぁ‥今回は仕方ねえ諦めやすよ」
肩を落としその場を後にするマクバを見送りながら鹿頭は再び読みかけの本へと視線を落とした。
「あー、どこかに大金でも落ちてねえかなあ、金が欲しい」
何の肉か分からない肉を齧りながらぼやくアキヒトの背後から「うだうだしてねえで仕事しろ新入り」と耳が痛いお言葉が飛んでくる。
アキヒトが後ろを振り返るとそこには長身の男が立っていた。黒髪に浅黒の肌、何より特筆すべきはその足であろうか。ほっそりとした上半身に比べ下半身は筋肉が隆起し実にアンバランスな風体である。歳の頃はアキヒトよりも少し上20歳前後に見えるその男は人好きのする笑みを浮かべながら口を開く
「なんだかんだで皆お前には期待してんだぜ?
マクバと敵の斥候部隊を釣って潰して回ってたんだろ?お陰で仕事がしやすかった」
浅黒の男に対し満更でもない表情でアキヒトは
「まあ、たまたまだよ。あれはマクバが上手いこと誘導したんだろ?あいつこの仕事長いし。
能力だって索敵向きだしな。
そんなことよりカイトお前こそ仕事はいいのかよ?」と尋ねる。
「さんをつけろよバカ。さっきまでマクバと周辺の調査に行ってたんだがな獲物見つけたんでお頭の指示貰いに戻って来たんだよ。」
ニヤリと笑みを浮かべるカイトの発言にアキヒトも笑みを浮かべ「そりゃ忙しくなりそうだな」と返しアキヒトは急いで肉を食べ切る。
そしてそのまま立ち上がるとアジトの方へと向かっていった。
アキヒトの背中を見送りながら
「張り切ってんなあ、俺も頑張るとするかねえ」
伸びをしながらカイトもまたアジトである穴ぐらへと足を運ぶ。
「はあ!?獲物がいるのに狩っちゃだめって何でだよ!!」アキヒトの怒鳴り声がアジト内に響いたのはそのすぐ後の事だった。