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最初で最後の子猫のキス  作者: 羽多 奈緒
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第7話 猫獣人の秘密

「ミドリ。おいで」

 クロは、手のひらに豆を乗せ、餌を(ついば)みにやって来た野鳩(のばと)をそうっと手のひらで包み込む。


「猫獣人が魔法を使いこなす時の相方は、鳥だ。理想的なのは野鳩だな」

 クロが相棒を求め始めると、吸い寄せられるように緑色の身体をした雌の野鳩が現れた。保行(やすゆき)が、「アオバト」という種類の野鳩だと教えてくれた。羽毛が美しい緑色なので「ミドリ」と名付けた。彼女は黙々と餌を食べている。


「今日は、儂が知っている中では一番強い猫獣人の魔法を教える。……とは言っても、クロはもう、それがどんなものかは思い出したようだがな」

 保行の静かだが強い眼差しに見つめられ、クロは神妙に頷いた。

「魔法を教える前に、クロがここへ来た時のことを話そう。別に隠していた訳じゃないんだが、どう説明したものか迷って今日になってしもうた」


 保行は遠くを眺め、思い出すかのように噛み締めながら話し始めた。

「この辺にも昔は猫獣人がもっとたくさんいた。だが、猫獣人内で、二手に分かれて激しい派閥争いがあってな。それが元で、どちらの派閥の猫獣人も、殆ど死んでしまったんじゃ。……クロの母さんは敵対する側の雄猫と恋をして、お前が生まれたと言っておった」

「……僕の母さんって、どんな雌猫だったの。やっぱり黒猫だったの?」

「そうだ。毛並みの良い、綺麗な黒猫じゃった。目の色は金色だったな。ちなみに、お前の父親は、キジトラ柄だったが、目は金色と緑の中間だったらしい。……猫は、親と似ても似つかない見た目になることがあるから何とも言えないが、お前の母さんは、『この子の目の緑色は父親に似たんです』と、愛おしそうにお前を見ていた」

 へえ、とクロは思った。今まで自分の親についてぼんやり「どんな猫だったんだろう」と考えることはあったが、黒猫以外の模様だということは全く想像したこともなかったからだ。

「でも、僕は、死にかけてたんでしょう?」

 保行は、苦い煎じ薬を飲まされた後のような渋い表情を浮かべた。

「……そうだな。お前の母さんは、必死に大事にお前を守って背負っておったようだが、背後から大きな木が倒れてきて、避け切れなかったと言っておった。母さんも、背中にかなりの痛手を負っていた。だが、治療できそうではあった。だが、彼女は猫獣人以外には話してはいけない魔法について、特別に儂に教えてくれた」

「それが、死にそうな人や、死んだ直後の人を生き返らせる魔法?」

「いかにも。これは猫獣人の親から子へ口伝えしているから、本当は人間には話してはいけないのだと。だが、そうすると、お前にこの魔法を教える人がいなくなる。だから儂だけになら、と彼女は教えてくれたのだ」

 クロは、背筋を伸ばし、居住まいを正した。きちんと正座に座りなおす。保行は、クロの真剣さを見て取り、満足げに頷いた。


「では、まず呪文を教える」


 帳面に書きつけられた文字を指先でなぞりながら保行は読み上げる。きっと、瀕死のクロの母から教わり、この日のために忘れないようにと書きつけてくれたに違いない。彼について、クロは呪文を繰り返す。何度か練習して、よどみなくクロが呪文を唱えられるようになったところで、保行は頷いた。


「呪文を唱えながら、瀕死あるいは死後直後の人に口づけると、自分の命と引き換えに相手を救うことができるという魔法だ。当たり前だが、この魔法はお前の人生で一度しか使えない。お前の母さんは、お前のために使った。母さんから貰った命だ。もし万一この魔法を使う時は、自分の命よりも大切な相手かどうかをよく考えろ」

 射貫くような厳しい視線を正面から保行は当ててくるが、クロは怯むことなく正面からまっすぐ見つめ返し、神妙な表情で頷いた。


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