1-5.
あぁっ! わかったかもしれない! これはきっとわたしが死ぬ直前まで楽しみに読んでいたWeb小説の世界だわ。
主人公のヒロインは成績優秀だけれどあまり裕福ではない男爵令嬢。ヒーローは王子様。王子様には美人の婚約者がいるけれど、顔と家柄で選んだだけ。いろいろあってヒロインとヒーローは接近していくのだけれど、婚約者の悪役令嬢は面白くなくて意地悪をする。だって、婚約者の悪役令嬢は王子様が好きでお妃教育も頑張ってきたのだから……。
この作品は乙女ゲームをモチーフにした世界らしい。実際の乙女ゲームにはこういった世界は殆どないけどね……。悪役令嬢なんてでてこないし、ライバルキャラはいたりすることもあるけど、友達が殆どだし、そもそも貴族とか殆どの乙女ゲームではでてこない。
乙女ゲームには戦国っぽい世界に飛んだり、妖精が出てきたり、幕末が舞台だったりとかいろいろある。どれも魅力的な攻略対象、きれいなスチル、素敵な声。本当に癒やしだった。
あぁ、まだプレイしていない積みゲーもたくさんあったのに……。もう少しのところでエンディングだったゲームもあるよ。もう結末がわからないなんて無念すぎる。
いろいろプレイしたけど、種類はたくさんあっても悪役令嬢が出てくるのはWeb小説の中の乙女ゲームくらいだと思う。けれど、わたしは気にしない。Web小説も乙女ゲームも大好きで、それぞれそういったものとして楽しんでいるから。
このWeb小説、連載中だったから結末がわからないんだよね……。とりあえずハッピーエンドらしいんだけど。
悪役令嬢は周りに唆されてヒロインをいじめるけれど、ヒロインは王子様とともにその黒幕もあぶり出す。黒幕がいるとはいえ、ヒロインをいじめたことは事実で、簡単に操作されるような人間は王子様の妻にふさわしくない。王子様も元々、顔で選んだ婚約者で特に愛情はないのであっさり婚約破棄。ヒロインと王子様は過去に何かあったっぽいんだけど、自分はふさわしくないと言って身を引こうをする。すでに王子様はヒロインに矢印が出ていて、ヒロインも王子様が好きなのにすれ違っていてなかなかくっつかない。
いつもどきどきしながら更新を待っていたお気に入りの作品の一つ。その作品にでてくる王子様の名前がロベルト、悪役令嬢がレティシア。乙女ゲームでWeb小説の世界かぁ。まさか自分の身に降りかかるなんて……。
……あれ? ということはわたしは悪役令嬢? わたしは人に嫌がらせはされてもするような趣味はない。元アイドルとしては可愛くないことなんてしたくない。
しかも、顔で結婚を決めておきながらほかにいい人ができたから婚約破棄なんてまっぴらごめんだわ。その上、国外追放されて修道院で人生を終えるなんて悲惨すぎる……。
「あ、あの。お母様。わたしと殿下が婚約するような可能性ってあるの?」
「そうねぇ。貴女は最有力候補と言われているわね。この家は派閥的にも問題ないし、家柄も十分。殿下は美人と噂の貴女に興味があるそうだから。とても好みの容姿のようよ」
やっぱり物語通りに王子様の婚約者にされてしまうんだろうか……。気持ちが焦ってくる。
「そんな……。そんなの困る……」
「あら? 殿下に憧れていたのではなかったの?」
「それって顔と家柄だけで選ぶってことで、ほかにもっといい人が現れれば捨てられてしまうわ」
「殿下はそんな方ではないわ」
お母様は少し困ったような笑顔で優しく言うけれど、王子様の何を知っているというのか。私は王子様に運命の相手が現れることを知っている。
「お母様は殿下の何をご存じなのですか? 大きくなり、環境が変わればどうなるかわかりません」
「おやめなさい。そんなことを言っては不敬ですよ」
「いいえ。これは一般論です。……それに、わたしはお母様やお父様のように恋愛結婚が良いんです」
「まぁ、レティシアったら……」
お母様は顔を赤らめる。お父様とお母様は親戚であり、幼なじみで恋愛結婚なのだ。お互いに婚約者が決められそうになっていたけれど、愛を勝ち取って結婚まで漕ぎ着けたらしい。今でもラブラブだ。
わたしも二度目の人生なら前世できなかった恋愛をしたい。貴族の家に生まれた以上、恋愛結婚は無理でも恋愛はしたい。せっかく学校に通えるんだもの。学生生活を満喫して恋愛もしたい。
殿下の婚約者になってしまえば婚約破棄で傷物令嬢になり、恋愛も学生生活も満喫できない。それどころか追放エンド……。なんとしてでも絶対に婚約を回避してバッドエンド回避よ!
あぁ、これなんだか本当にWeb小説っぽい……。