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それからのわたしは情報収集に励んだ。レティシアの記憶があるといっても所詮、七歳の記憶。たいした知識も無ければ世界も狭い。これからどういう風に生きるかを考えるにはいろんな情報が必要だろう。病み上がりということもあって外には出してもらえない。今のわたしには情報収集といっても本を読むくらいしかできないけど。
Web小説であれば異世界に行くときに特別なスキルを持っていたり、二度目の人生で知識や経験を元に有利に生きることができたりすることが多いけれど、わたしは何か特別なスキルをもらった気配はない。
一つ得したことといえばレティシアの容姿が良いことだ。おまけに侯爵令嬢らしい。けど、これはレティシアが元々きれいな顔をしていただけだし、物語にでてくるような人物は大抵美形。異世界転生特典とは言えないと思う。このままでは普通に貴族令嬢として人生を送って終わってしまう。
それにしても両親も美形で、本当にゲームの世界みたいだ。きれいな顔で裕福な家の娘に転成したことが特典だよ、と言われてしまえばそうなんだけど……。
そんなことを考えながら今日もわたしは書庫で本を読み漁っていた。元々読書は好きなのでいろんな本が読めて嬉しい。侯爵家だけあってたくさんの本がある。テレビもネットもゲームもない世界。本が読める環境で良かった。
それにこの世界では十二歳になれば学校に通えるらしい。そこにはさらに珍しい本があるとか……。アイドルになってからは普通の生徒として学校に通えなかったから学校生活も今から楽しみすぎる。……いやいやいや。目的を忘れている。情報収集よ、情報収集。
それにしても、こんなにゆったり過ごすことなんてずっとなかった。こんな生活していていいのかな。
「レティシア、本を読むのも良いけれど、そろそろ休憩しましょう。あなたはまだ病み上がりなのだから……」
「ごめんなさい。本が面白くてつい……」
「楽しめる何かがあるのは良いことね」
お母様は優しく笑いながらそう言って、わたしにお茶を誘ってきた。
「それにしても今年は残念だったわね」
「何がですか?」
「お城でのお茶会よ。ロベルト殿下のお誕生日をお祝いするお茶会。あなたも楽しみにしていたでしょう?」
ロベルト殿下のお茶会かぁ。いまのわたしはあまり興味はないかも。お城とか王子様とかちょっと憧れる気持ちが無いわけではないけど、レティシアとして生きていくのであれば慎重に行動したい。それに王子様を巡って令嬢たちの熾烈なバトルに巻き込まれるのは勘弁だ。物語であれば『王子様と結婚!』というのはハッピーエンドかもしれないけれど、絶対大変だと思う。……それに、わたしはこの家族と一緒にいたい。
「そういえば、そんなものもあったような……」
「そんなものって……」
「わたしは今、普通に目が覚めて、家族と一緒にいられるだけで良いんです。もしあのまま目が覚めなかったら今もこうしていられなかったので……」
「レティシア……。本当にそうね。お茶会に行ってあなたが殿下に見初められでもしたら大変だったわ」
お母様は一瞬涙ぐんだ後、そう言って笑った。
何か引っかかるような……。
「お母様ったら……。わたしが殿下に見初められるなんて……」
「貴女はすでにきれいでかわいいと評判なのよ。すでに婚約したいと申し出もあるくらい。もちろんまだ早いってお断りしているけど……。殿下も世間で評判の貴女に会うのを楽しみにしていて、今回のことは残念がっていたと聞いているわ。貴女も殿下に憧れていたようだし……。もし殿下が貴女を気に入って婚約者にでもなったらお妃教育で大変だったかもしれないわね。王族からの申し出であれば断ることは難しいでしょうから」
お母様は穏やかに笑っている。けれどわたしは何かが繋がりそうで、何か変な感じでモヤモヤしている。なんだろう。この違和感みたいなもの。頭の中がぐるぐるする。
レティシア、侯爵令嬢、美人で評判、ロベルト殿下のお茶会、王子の婚約者、貴族が通う学校……。