2-26.
騎士様と話をしているとドアをノックする音がした。リネットだろうか。
「リネット殿が来たようですね」
騎士様がドアを開けるとリネットがいた。
リネットはわたしをみるなり慌てて駆け寄ってきた。わたしは頭からマントをかぶっているが全てが覆われているわけではない。だが、明らかにドレスはぐっしょりと濡れている。
そもそもマントを頭からかぶっている状態がおかしい。
「レティシア様、大丈夫ですか? お怪我はありませんか? なんてお姿に……。いったいどうしてこんなことに……」
「リネット殿、レティシア様がこのようになられたのは我々の落ち度です。申し訳ありませんでした」
騎士様はリネットにも深々と頭を下げて謝った。
「騎士様。頭を上げてください。リネット、この方の責任ではないわ。わたしがうかつだったの。怪我もないし、この方にはとても良くしていただいたわ。噴水に落ちてしまったのを助けていただいて、人の目に触れないようにとマントも貸していただいたのよ。お部屋まで用意していただいて……」
「騎士様、レティシア様がお世話になりました。お城の中でこんなことになって少し動揺してしまいました。お見苦しいところをお目にかけて申し訳ありません」
「いえ。レティシア様がどう仰っても我々に責任があることは変わりません。もっと早く駆けつけられれば……」
「本当にお気になさらないでください。騎士様には感謝しかありません。わたしがもっと上手くあしらえれば良かったのですが……」
上手く理由をつけてついて行かなければ良かったし、噴水から距離を取れば良かったのだ。
「レティシア様……。騎士様、レティシア様を助けていただき本当にありがとうございました。レティシア様がお借りになったマントはどうすればよろしいでしょうか? こちらで洗濯、いえ、新しいものを用意……」
「いえ、城で支給されるものなのでお気になさらず。警備の都合上、制服を城から持ち出すのも良くありませんので。この部屋に置いておいていただければ後で回収しますから」
「それでは申し訳が……」
「いいえ、それくらいさせてください。わたしのマントのことより、ずぶ濡れのレティシア様を……」
騎士様はわたしのことを気にかけてくれる。たしかに早く着替えて帰りたい。それにいつまでも拘束してしまうのはよくないだろう。
「リネット、騎士様は忙しいの。時間を奪っては駄目よ。お言葉に甘えてマントはこちらに置かせていただきますね。騎士様、最後までこのような姿で失礼しました。ひどい目には遭いましたが、おかげでお茶会よりも楽しい時間をすごせました」
「そう言っていただけると嬉しいですね。では、わたしは仕事に戻ります」
「またお会いできましたら、ぜひお礼をさせてください」
「いえいえ、お気になさらず。温かくしてくださいね。では失礼します」
そう言って騎士様は部屋から去って行った。本当にいい人だ。
わたしは人の気配がしなくなったのを確認してマントを取る。
「とても紳士な方でしたね」
「えぇ、とてもいい人だったわ。ところで、わたしの顔はどうなっているかしら? ひどいことになっていると思うのだけれど……」
「ひどい顔になっております。ですが、まずは脱ぎましょう」
そう言ってリネットはわたしから濡れたドレスを脱がしてくれた。タオルで体を拭いてくれ、すぐに別のドレスを着せてくれる。
「リネットは濡れていないから暖房器具が暑いよね……」
「そんなことを気にしないでください。風邪を引かれる方が大変です」
髪の毛もタオルで水分を拭き取り、道具を使って乾かしてくれる。この世界にもドライヤーのようなものがあって本当に良かった。
「リネットが替えのドレスを準備してくれていて本当に良かったわ。まさか本当に着替えることになるなんて……」
「えぇ。本当に……。お顔はどうしましょうか? ひどい状態ですがご覧になりますか?」
「鏡をくれる?」
鏡の中にはひどい状態のわたしがいる。
これ、見られてないよね……?
「これは全部落とすしかないわよね……」
「そうですね」
シミやソバカスは滲んでいて、シートも剥がれかかっている。これは一度すっぴんになるしかない。
「元の状態に直せる?」
「少々難しいかと……」
「やっぱり?」
「試作品でシートを肌になじませるのがまだ時間がかかるので今日は持ってきていません。持ち運びにも気を遣うものですし。なので、お化粧で全て再現する必要があります。そうなるとかなり時間が……」
「そうよね……。変身中に誰かが様子を見に来てしまっては困るわ。なるべく早くこの部屋を出たい」
「でしたら、いっそのこときれいになってしまうのはいかがでしょうか?」
リネットはぶさいくをやめることを提案してきた。




